下町の鶴   作:瀧ヶ花真太郎

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ープロローグー

誰も信じないだろうけど、「毎日笑って生きる」ということには強い効力がある。
それはあまりにも簡単なことで、それ一つで環境を変えられるなんて信じがたいことだから。

でも、私はそこから変えてみようと思ったんだ。
辛いことがあっても、周りに与えつづけて、それを見て笑ってくれる人がいるなら、それを自分の光にすれば良いって。


22.副長、復帰します。

 

下町の鶴

4章-詩鶴のボコボコ戦記-

☆Episode.22「副長、復帰します。」

 

昼休み、私がトイレから教室へ帰ると、この前、柏木君を苛めていた体格のごっつい男子たちが私を見つけ、ニタニタと笑ってきた。

「よお、女ァ。久しぶりだな。」

「あー、うん。そうっすね。」

「お前何ていうんだ。」

「何が?」

「名前だよ、名前。」

私は腰に手を当て、堂々とした態度で答えた。

「名札見ろよ、名札。」

「あん?めんどくせえな。」

そういって男子たちが目線を下におろすと

「な....と―――」

「どこ見てんだよバーカ。」

と、リーダー格の男の頭に平手を落としてやった。

こいつらは自分等の楽しみのために人を傷つけるタイプの人間だ。だとすれば、奴らの歩調に合わせてやったらきっと...。

「こいつッッ、喧嘩売ってんのかコラ。」

「いいや?あんたらと一緒。暇してる高校生の一人だよ。」

それを聞いたリーダー格の男は、その威勢の良さに立ち尽くし、ため息を吐いた。

「お前....前から思ってたが、とんだ度胸の持ち主だな。」

私はニタァっと笑って言い返した。

「誉めても何も出ないぞー。」

「誉めてねえぞ。」

私から敵意を感じなくなったのか、仲間たちは私を視界に入れたまま、仲間同士で雑談を始め出した。

「私は言ったぞ。そっちも名乗れ。」

「いや、お前さっき名札見れば分かるって言っただろうが。見ろよ。」

「あー、はいはい。言いましたね。じゃあ見まー....って叩かれに行ってどうすんじゃい。」

そういって咄嗟にもう一度頭をペチーンと叩いた。

「お前ぇ、さっきから!!」

「ごめんごめん(笑)んで、何て言うのー?」

「勝田だよ。二組の勝田!以後覚えとけこの野郎。」

二組......藤島のクラスね。

「あたし、野郎じゃないけど。」

「うっせえ、素人は黙ってろ。」

「はいはい、勝田"くん"ね。」

手下の一人が微笑みながら言った。

「勝さん、何か仲良いっすね。」

「るせえ、ぶっとばすぞ。」

「すいやせん。」

 

河島が教室へ戻ってくると、彼は扉の前で立ち止まり、困惑した。

ガキ大将という言い方は年齢的におかしいが、そんな学年の不良ボスと、名取が仲良く遊んでいるではないか。

「お前、本当面白い奴だな。」

「面白くなきゃやっていけないよ、本当。」

何が起きてる、一体何が起きてるというんだ。

そう、心の中で繰り返しながら、扉の影で名取たちを見ていた。

「まあ、それで......あ!河島ぁー!こっち来なよ~。」

そうこうしている内に気づかれてしまった。何とか、人違いでした、という(てい)を装って逃げようとしたが

「何逃げようとしてんだよ。」

といって、気づけば河島の肩には、彼女の手のひらがずっしりと乗っかっていた。

「人違いだっっ、手を離せっっ。」

「なあに男のくせしてビビっちゃってんの~。ほら、来なって。」

河島は、名取の手によって教室へ引きずり込まれた。

 

「え、ちょっ.....あの....。」

連れてこられた場所に立ち聳<そび>えていた大男は、河島を目にすると、不敵な笑みを浮かべて言った。

「お前が河島かあ!副長から聞いたぞ、めっちゃ面白いんだってな!」

「......は、は?」

河島は名取に表情で説明を求めた。

「(お前、何の、つもりだ)」

しかし、彼女は何も言わず、ただ彼を宥めるように片目を閉じた。

「ああ、そうだともー!副長の私が言うんだから間違いないっ!」

「ちょっ待て待て待て待て待て。」

河島は名取を引っ張り、数歩ほど彼らから距離をとって問い詰めた。

「お前ーーっ、俺が何かしたか!?副長って呼ばれるのが嫌だったんなら言ってくれよ!!」

「あはは、大丈夫だよ。嫌じゃない。」

「じゃあ何だよ!?」

彼女は一瞬、目を丸くして驚いたが、すぐに胸を撫で下ろすようにして微笑んだ。

「河島、みんなを笑わせて変えてやるの。」

「....は?変えるって、何をだよ?」

「環境をだよ。苛めっ子は苛めでは倒せない。」

「ごめん、何を言ってるんだお前は。」

「聞いて分からないなら見てみてよ。現に、人を苛めて楽しんでいるようなこいつらは、もう私を敵視していない。」

河島は一旦冷静になって名取と彼らの目を見た。

彼女は、まっすぐな目をしていた。ひとつの嘘さえ持ち合わせていない裸の視線を、河島に向けていた。

そして、悪名高き彼らの方を恐る恐る見てみると、彼らはまるで、今か今かとご飯を待つ雛たちのような、無垢の期待を帯びた目を、二人に向けていたのである。

再び名取の方を向くと、彼女が少しばかり勇敢に見えた。そして、彼女は言った。

 

「与え続けるんだ。相手が誰であっても。」

 

河島は、彼女のしていることが藤島からの苛め対策だということを薄々悟った。

「そういうことなら早く言えよ。」

と、小さく呆れ顔を見せる。そして

「俺がリードするから自然体でいろ。」

と名取に言うと、彼女は安心したように笑った。

「ありがとう、河島。」

 

河島はその表情を受け取って、快く彼らの方を向き、心の中で言葉が溢れた。

「(いやいやいやいや、馬鹿じゃねえの。行けるわけねえだろ、こんなにハードル上げておいて。

大体なんだよ「副長が言うんだから間違いない」って。

そもそも論、自然体でいろとか言ってしまったけど、お前いつも自然体じゃねえかコノ野郎。

とにかく、まずこの状況をどうにかしなきゃ。どうにかしなきゃ学校生活終わる。割と深刻な顔して毎日登校しなきゃいけなくなる!!)」

両者は河島のネタ披露を楽しみに待っている。

「(いやいや、だから!何言えば良いの。何言えば正解なのこれ!とりあえずこいつら笑わせれば正解なんだよな?でも俺、今からこいつ面白いこと言いまーす、って振られて笑わせられてるやつ、芸人でも見たことねえぞ!?待ってこれ、じゃあこれ寒いこと言えってフリじゃねえか。名取、何してくれとんじゃお前。これで面白いこと言えってったって無理難題過ぎるだろ。()()()()無理。生理的にもこのプレッシャー、受け付けないって。)」

河島は焦りの中、何とか平静を保ちつつ、言葉を絞り出した。

「名取副長よりご紹介に(あずか)りましたぁ!わたくし、非公認でムードメーカーやっております、ムードメーカー長の河島栄汰と申しまあああす!

まず、お会いできた記念にカロリーメイド、コーヒー味をどうぞ。」

と、制服のポケットから取り出した個包装のバーを跪いて渡した。

「おほっ(笑)、あざーす。」

名取の方を見ると苦笑いで小さく拍手していた。

「あは~、パチパチぃ。」

「お前、何とかせいコラぁぁあああ!!」

河島は混乱して名取に詰め寄った。彼女は胸に手を当て、驚いて目が丸くなった。

「え、なに?」

「「え、なに?」じゃねえよ!お前も副長なら何か言ええええ!」

「副長って(笑)やだなー、私は河島に言われてやって――」

「だーかーら、それで自分で副長名乗るなら全うしろよ!見てるだけじゃなくて!!」

言われに言われた名取は、少し不機嫌になって逆ギレした。

「見てるだけじゃないじゃん!ちゃんと河島が来るまでは頑張ったし!」

「だったら無理やり参加させんなよ俺を!!」

「河島の方が実際、面白いんだから参加した方が絶対良いじゃん!」

河島は一旦、一呼吸置いた。

「分かった。俺が出たら良くなると思って、この状況を作ってくれたんだな?」

「そうだよ。やーっと分かってくれた。」

そしてこの一言で、再び河島の平静が崩れた。

「いや、だったら最初からハードル上げんなよ!!」

「ハードルって何が!?」

「めっちゃ面白いとか言われて、ちゃんと笑わせられる奴がどこに居るんだよって話!!」

「それは.....ごめんって!!」

「謝ってくれてありがとう!!」

二人とも、発言を勢いに任せた結果、訳の分からない展開になった。

 

勝田達は、この二人の口論を楽しそうに笑いながら見ていた。

「お前ら、仲良いな。」

と、勝田が言う。それを聞いた河島は「もう、この状況を使ってしまえ」と考えたので、肩を組むようにして名取の首もとに腕を回し、清々しい顔をして言った。

「新密度パワー言うて。」

勝田達がそれに笑い転げる中で名取は、河島が不意にチョイスした言葉で顔が赤くなり

「離せバカ!!」

といって河島を投げ飛ばした。

「あは、あははー....え"え"ぇぇぇ!?」

河島の目には逆さまの空と天井が映っていたという。

 

―――――――――――――――

【回想】

ー父のアドバイス(1)ー

 

「中学んとき詩鶴、河島君のことずっと嫌いやって言うてたやん。」

「初めて会ったときはね。だってあの頃の河島、今よりもずっとモラル無かったんだよ!?今だってちょっとそういうとこあるけど。」

「でも、そんなあの子と今は仲のええ友達やんか。」

「まあ....仲良いっていうか....、何て言うか。」

「それは何でなんや?」

「うーん、面白いとこあるから....?」

「僕はそこやと思うな。相手が誰にせよ、それは同じ人間やから、面白いものには惹かれると思うんや。」

「で、何が言いたいの。」

「せっかちな奴やなあ、詩鶴は。まあ、要は詩鶴も面白い奴になったれってことや。」

「ほー。」

「仲間ができれば詩鶴を苛めたいって奴も苛めにくくなるねん。」

「あー、なるほど。でも面白くなれって急に言われても。」

「そこは面白いって思う奴を見習って勉強することやな。ってことで河島君の弟子入りでもしてらっしゃい。」

―――――――――――――――

ーつづくー




ーオマケー
珍しく人の多い居残りの教室。ぼーっと時間を無駄にしていると、廊下側に座っている奴が私たちに質問を投げかけた。
「お前らさ、実際のとこどうなんだ?」
「えっ?」
「名取と河島だよ。マジで付き合ってんの?」
私は即答で返した。
「んなわけないじゃん。付き合ってたらもっとイチャイチャしてるでしょ。」
「いや、しねえだろ。そんな露骨に。」
「え?そうなの?」
「え、寧ろすると思ってたの?」
「え、あー、うん。」
河島も、特に焦って弁明しようとする様子はなく、呑気に呟く。
「イチャイチャ希望らしいっすよ。」
「おい馬鹿、もっと言い方ないのか。」
廊下側のそいつは、河島にも聞いた。
「お前はどうなんだ?河島。」
「へ?あー、イチャイチャしてるように見えたらそうなんじゃない?」
「ごめん、とってもじゃないけど、そうは見えないわ。」
「らしいぞ、名取。」
「なんで私に振んの。」
河島はそいつの方に顔を向けて
「残念だとさ。」
と言い放つ。
「言 っ て な い 。」
私は、二人に圧をかけるように言い返した。

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