下町の鶴   作:瀧ヶ花真太郎

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「ねえ、みっちゃん。」
「なに。」
「私ともう...、友達でいたくなくなった...?」
瑞希はしばらく口を紡いだ。
「...明希は友達だよ、これからもずっと。でも、」
「でも.....?」
「今はちょっと....お願い。少しだけ距離を置かせて。」
「....そっか。」
俯いて涙ぐむ明希、瞳の光の無い瑞希。
詩鶴は彼女の背中に弱い声で言った。
「....ごめん、さっきはキツいこと言って。」
「良いの。私が全部悪いんだから。」
瑞希は冷静さを取り戻してからというもの、ずっと自分を責めるような言葉を吐いている。詩鶴も、明希も、かける言葉を失くした。
「学校、もう遅刻だね。」
そう瑞希は言う。
「...そうだね。」
と、詩鶴は返した。
「明希は、行くの?学校。」
「..........。」
「...そう。」
「....待って。」
「....?」
「もう逃げたくない。だから、.......いく。」
「......分かった。」
そして、明希は瑞希の裾を掴んで言った。
「....みっちゃん。」
「......?」
「悪いのは....私もだから。」
「........。」


41.雛-詩鶴編-

 

下町の鶴

6章-初秋-

☆Episode.41「雛-詩鶴編-」

 

あの日から私は奮闘した。瑞希が一人で俯いている時は話しかけてあげたり、保健室で仮登校している明希に会いに行ったり。それはあまり大忙しで、汗ばむほどに大変だった。だけど、あのままでは本当に二人が離れ離れになってしまうと思ったから。

 

「みっちゃーーん♪元気してる?一緒にお昼食べよ。」

一人ぼっちでいる彼女の肩に、ポンと両手を置く。

「あ....うん。おはよう。」

「みっちゃん、もう昼だよー?」

「え....?」

「あはは。ま、それは良いんだけどさ、今日お弁当にタコさんウインナー入れすぎちゃったから少し食べてよ、美味しいよ~。」

瑞希は箸も、弁当も机の上に置いていない。俯いたままの瑞希の心の扉を何度も叩くように、私は彼女の前に笑顔でいた。

「ほらほら、あーんして、あーん。」

何一つ表情を変えない瑞希だが、口元に近づけると彼女は困りながらも食べてくれた。ゆっくりと噛みながら喉を通るまでの遅さからも、その落ち込み具合は伝わる。

「ど?」

「....美味しい。」

「でしょでしょ!えっへへ~。」

「うん。つるりんは本当、お料理上手だね。」

「まあね、いつも何かしら作らされてるし。ところでみっちゃん、お弁当は?」

「ごめん...私、食欲無くて...。」

「そう.....でも何か口には入れとかなきゃ。食べれる分だけでいいから、良かったら私のから取って食べてよ。」

「ありがとう。でも一応、少しパンは買って来てるから。」

「そっか。」

私はあの日のことを少し話すことにした。

「....あのさ、みっちゃん。」

「.....?」

「みっちゃんは良く頑張ったよ。だからさ、あとは私に任せて。まあ...バーッて怒って滅茶苦茶にした私が言っていい台詞じゃないけどさ。」

「その話は...。」

「私がもっと早くに気づいて、普段からもっと悩みを聞いてあげられてたら、こんなことにはならなかったんだ。」

「つるりんのせいじゃない。」

「かもね。」

「....?」

「でも、みっちゃんだけのせいだって言うなら、それは違う。」

「.....え。」

「みんな間違えたんだよ、正しいことをしようとして。」

瑞希は下へ視線を反らした。

「みっちゃんは明希の"好きに"応えてあげたかったんだよね。」

「.......いや、騙せなかっただけだよ。」

瑞希はあの日のことで未だ気に病んでいる。知らずに加害者になっていたことに対する罪悪感や、自分を見失いそうになる不安、沢山の悩みを前以上に抱え込んでいるんだろう。彼女の心の傷を癒すにはきっと、今までよりもずっと側で寄り添っている必要がある。私は、二人の為にどうにかしてやらなきゃと、叫びたい程に思っていた。

 

明希に会いに行ったとき、彼女は机の上で勉強をしていた。私が声をかけると、優しい笑みをこちらに向けた。

「明希、元気?」

「鶴ちゃん。うん、私は大丈夫。気にかけてくれてありがとね。」

私は、明希の机上のノートに目を向けた。

「勉強?」

「あ、ううん。ちょっと真面目に詩を再開しようかなって。」

「へえ~、良いね。ちょっとみても良い?」

「完成したらね。」

「えー。」

「書きかけの詩なんて痛いことしか書いてないよ。」

「別にいいよー。明希がどんなの書いてるのか、見てみたい。」

「....じゃあ、完成したのなら。」

「やった。」

「それ以外のページは見ないでね。」

「おっけ~。」

明希が指定して開いたノートのページには、綺麗な文字で彼女の世界が描かれていた。その表現は私には分からないものも多かったが、並べられた言葉の一つ一つに人間味が出ていた。

「明希、よくこんなの書けるね。」

私が誉めると、彼女は照れくさそうに微笑んだ。

「だいぶ昔に書いたやつなんだけどね。何気に気に入ってる。」

「ええ...、昔にこんなのが思い付くのか。」

「えへへ。」

「今書いてる新作は完成しそう?」

「うーん、分かんないけど、今書かないともう二度とこの気持ちを詩に出来ない気がしてさ。」

「わあ、プロだ。」

「ちょっとやめてよ....、恥ずかしいから。」

「あはは、ごめんごめん。」

明希は鉛筆を机に置くと、窓の外を見つめて言う。

「鶴ちゃん、親離れってどういうものを言うんだろうね。」

「え?うーん....お金稼いで、一人で生活出来るようになる~みたいな?」

「いや、心の方だよ。」

「心....かあ。」

「例えばの話だよ。鳥の雛が一匹だけでどうやって飛べるまでの心を持てるのかな。」

「......難しいなあ。それ答えあるの?」

「きっとね。」

明希の哲学的な問いに、私は想像以上に考えさせられた。明希が今向きあっている課題はきっと、とても大きいものなんだろう。

「私は、飛ぼうとしていた小鳥を引き留めてしまったんだ。これから冒険に出掛けようとしている同じ鳥をね。」

明希は詩的な言葉を呟くと、こちらに顔を向けて尋ねた。

「ねえ、鶴ちゃん、みっちゃんは今元気?」

と、明希は私に顔を向けて尋ねる。

「え?あー....うん、まあね。」

目線をそらして答えてしまった。

「ああ....。」

しょんぼりしたような声になる明希。もうちょっと嘘つくの上手くなりたいって、今ので割と本気で思った。

「いや....、あの、その....。はい、相当参っております...。」

「....だよね。」

「はい.......。」

明希は少し黙って、指を遊ばせた。私は正直に全部話すことにした。

「お昼一緒に食べたんだけど、なんか食欲ないみたいで。」

「え?」

「少しお弁当分けたら食べてくれたんだけど、前みたいに暗い顔のままでさ。」

「そう....なんだ。」

「まあでも....すぐ元通りになるよ、みっちゃんなら。」

明希を励まそうと笑顔を見せたら、彼女は机に視線を落とした。

「....私が悪いの。」

「......。」

私がそれに言葉を探せずにいると、明希はその顔色を(うかが)ってか一生懸命に元気な顔に戻し、結論を目の前に並び替えた。

「...だからさ!一緒に協力させて欲しいんだ。」

「え、何を?」

「元気なみっちゃんに戻すのをさ。」

多分、明希は沢山の自責を聞いてほしかったんだろうけど、でも嬉しい言葉だった。

「明希...、ありがとね。」

「ううん、本当は私一人でやらなきゃいけないことなの。ああさせた責任は私にあるから。」

彼女の放った勇気に水を差すわけにもいかない。まだ"誰かのせい"という考え方をしていることに反論したい気ではいたが、ここはようやく歩きだそうと決意した彼女の背中を押すことが一番だと思った。

「分かった。一緒に頑張ろ。」

「ありがとう。悩みが出来たら迷わず言ってね。私、鶴ちゃんに思いっきり怒鳴られたら多分立ち直れない。」

明希は、からかいを交えて微笑む。

「ちょっと何それー、ひどーい。」

「ふふ。暫くの間みっちゃんのこと、宜しくね。」

「あ、うん。任せて!」

そうして明希は、会えない瑞希のことを気にかけた。私は別れ際に一言、彼女に伝えたいことを見つけてふり返る。

 

「明希。」

「?」

「空は一人じゃ飛べないと思うよ。」

「え....?」

 

つづく。





【明希の作詩帳...その1】

「雛鳥」
春風へ 恋歌を乗せる小鳥たち
私は今も雛鳥の 懐かしい歌を歌ってる

空を飛べてもいつまでも 空は高いまま
誰を待って鳴いてても  声は儚いだけなのに

風に壊れた古巣に ただいまを言いたくて
白い雲のどこかに 会える昨日を信じて

今も飛べない日の胸で
絵空事を夢見ては
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