下町の鶴   作:瀧ヶ花真太郎

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ー今章から第二編、シーズン2になります。ー
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秋はノ木編に火と書く。収穫した穀物を天日干しで乾かすから「火」なんだとか。
よく、秋といえば「○○の秋!」という風に、人によって意識するものが違う。私にとっては何の秋なんだろう。

私にとっての「火」はなんだろう。


7章.ノ木の火
50.詩鶴の受難


 

下町の鶴

7章-ノ木の火-

☆Episode.50「詩鶴の受難」

 

「名取。」

「はい、なんすかー。」

「何すかじゃねえよ、出席だ。元気か。」

「ういー。」

「廊下立つか?」

「ごめんなさい、元気です。」

私は今、すこぶる機嫌が悪い。秋はビッグイベントのオンパレードな季節だというのに、そのどれもを楽しみに楽しみにしてたのに、先生と来たらとんでもないことを言いやがる。それは出席のほんの数分前、ホームルームが始まって早々、先生との今日最初の会話が

「名取、溜まった課題やらなかったらどれも出させないからな。」

「え?」

「体育祭も、文化祭も、あと遠足もぜーーんぶだ。」

「は、はァーー!?」

これだからだ。

ああもう、いい加減にしろっての。だいたい、一日に出される課題の数が多すぎるんだよ。何だよ、全教科プリント一枚ずつにプラス、レポートにアンケートに進路の設計図って。過労ですよ、給料下さいよ本当に。オマケに毎月のスーパー体調不良イベントがこのタイミングで来るし。何なの、私何したの?

そんなイライラを表に出していると、河島が特に心配してる訳でもなさそうな口調で尋ねてきた。

「名取、お前どうした。今日はやけに機嫌悪いな。」

「うるさいな、河島もこのままじゃ遠足行けないんだよ?わかってる?」

「大丈夫大丈夫、体育祭の出番を売れば何とかなる。」

「なってたら苦労しないよ、まったく...。」

河島は相変わらず気楽だ。それでいて本気だせばちゃんと勉強できるんだもの。そんな覚醒機能がついてりゃあそりゃあ無気力星人でいても何とかなるでしょうよ。それに比べ私ったら...。ああもう!イライラが収まんなあああい!!

「ああ...いたたた...。」

ああもう、感情的になったせいでお腹が...。

「花摘んで来ーい、授業もうそろ始まんぞー。」

「うぅ...、そうします...。」

まったく、今日は厄日だ。全てにおいてついていない。朝は起きて早々、タンスの角に指ぶつけてお目目パッチリになるし、私が食べるはずだったパンはお父さんに勝手に食べられるし、登校中は犬のフン踏んじゃうし、信号には全部引っかかるし、挙句の果てに学校着いたタイミングでお腹痛くなるとか何なの本当に!?

 

授業が終わると先ほどよりも痛みがエスカレートし、机上で寝込むしか何も出来なくなった。そんな最中、情報屋の村草が絡んできた。

「名取さぁーん、今日はやけに不機嫌ですねぇ~。なんか嫌なことでもあったのかぁ~い?」

訂正します。情報屋兼、クソ野郎の村草に絡まれました。

「ごめん村草、今は絡んでこないで...。」

「あ、さては遠足お預けで凹んでるんだな~?」

「それだけじゃないよ、今日は不幸続きなの。」

「え、体調悪いの?大丈夫?」

村草は心配そうな表情に変わった。机でうつ伏せ状態の私が、コイツなんかに心配されるなんて。全然嬉しくないけど、紳士らしく関わらないでくれるなら少し見方が変わるかもしれない。

「うん、大丈夫だから。今は話しかけないで。」

「なるほど。」

「....??」

「腸内環境が土砂崩れってか?アハハ!」

...コイツには心底失望した。女子がお腹抱えて苦しんでんのにマジで有り得ない。しょうもないギャグで茶化しやがって。

「ふざけんな...。」

「アハハ!アハハ!あひゃー!」

いつもなら掴みかかってボコボコにしてやるところだが、体力的にそれどころじゃない。こいつ、あとで絶対半殺しにしてやる。そう胸に誓い、村草に殺意の目を向けていたその時。

「おいハエトリ草ぁ。」

「おい誰がハエトリ草だよ。」

河島が村草をからかう。それに噛みついてくれたお陰で、こちらへのちょっかいが治まった。

「いや、まあ聞けよ。お前さ、色恋沙汰のスクープ好きだろ。」

「お、何か良いネタがあるのかい?」

「数学の坂上と一組の田島、お前の読み通りどうも脈ありみたいなんだよ。」

「おう、それでそれで?」

「さっき一目を気にしながら空き教室(カツ丼部屋)の方に向かう田島を見かけたんだよ。」

「マジで!?」

「ああ、これは重要イベント間違いなしだ。」

「おお!!」

「張り込みするなら今しかない。バレずに情報入手できるプロはお前だけだ!」

「よっしゃあああ!行ってくるぜぇえええ!」

そういって村草は全力疾走で教室を出ていった。痛みに悶えながらふと目線を上げると、前の机から河島がこちらに目を向けていた。

「なによ。」

「除草完了。」

「ああ、うん。ありがとう...。」

「あんまり辛いなら保健室行ってこいよ。」

「大丈夫だよ、変に心配されたくないから...。」

「そう言ったってお前、次の次、体育だぞ?」

「無理....、多分見学。」

「珍しいな、お前が体育休むとか。」

陽気に話してくる河島に対し、笑顔を作るのですら限界レベルな現状。私は渋々、河島との会話を拒否した。

「河島、お願いだから、今あまり話しかけないで...。」

「ああ、悪い。」

ズキズキと鈍い痛みと、頭が重くてイライラする。軽い吐き気もあって本当にしんどい。ああ、起きた時に症状が出てれば今日休めたのに...。河島が心配してくれるのは嬉しいけど、今は強く当たってしまいそうで怖い。

「名取。」

「なに...?」

「先生にはうまく言っといてやるから、保健室行ってこい。」

「気持ちだけ受けとっとくよ、ありがとう。」

「いや、ありがとうじゃなくて。」

「良いから。」

「本当か...?」

「いいって言ってんじゃん...!いい加減にしてよ!!」

「.....。」

「あ....ごめん...。」

やってしまった。怒鳴るつもりじゃなかったのに。

ビックリした河島に私は、目線を反らして黙り込んだ。申し訳ない気持ちを言葉に出来なくて、でも冷静に話し合えるような体力も無くて。ああ、今日はマジの厄日だ。

「なんかあったら言いなよ?まじで。」

河島の気遣いに私は、コクッ、と小さく頷いた。

 

 

「名取、どうした見学かあ!」

体育の先生のアツい心配が飛ぶ。来たる体育の授業は結局見学で、クラス合同の授業では何人ものクラスメイトが私のことを珍しがって見てきた。「いつも元気なアイツが珍しい」とでも言いたいのか、やたらと向けられる視線が痛い。

ピーーーッ!!

「オラぁーー、パス!」

「お前そっち回れ!」

ああ、楽しそう...。折角のサッカーの授業を木陰で見てるだけなんて。ほんと私ったら災難。さっきよりは少し症状が治まったとはいえ、激しい運動ができるほどじゃない。どうせまた暫くしたらぶり返してくるだろうし。

「ゴーール!」

「うっしゃああああ!!」

「河島あああ、さっきのお返しじゃあああ。」

あーあ、河島んチーム、また点入れられた。見学じゃなかったら絶対あそこでボール奪えるのに。てか村草、お返しって何があったんだよ。

暑い日差しと、少し冷たい風が吹き付ける秋の朝。一つ大きなため息をついて「暇だなあ」と呟く。やることがない、と空を見上げたら、ポツリと飛行機が飛んでいた。あれは今から成田に降りていくやつだろう。それともどこか遠い国まで飛んでいくのかな。そんなどうでもいいことを頭の中で落書きしていると、先ほどした深呼吸が今度は大きな欠伸になって出てきた。

「ふあああ......、ねむ。しんど...。」

ボーッとしてると、私のもとに誰かやってきた。

「つるりーーん。」

瑞希だ。

「おーつかれ~。」

「おつかれー。」

「良いの?みっちゃん、こっち来て。」

「うん、大丈夫。つるりん今日は見学?」

「うん、まあ。」

「どうしたの?珍しいね。」

そういう瑞希に私は、お(へそ)の辺りをフンフンと指差して言う。

「今月号。」

「あ~....。」

言葉の意味を理解した瑞希は、私の横にポン、と腰をおろした。

「お腹大丈夫?」

「うん、今は。さっきまで死にかけてたけど。」

「何か手伝えることあったら言ってね。」

「ありがと、ほんと助かる。」

瑞希が何気ない表情で私を気遣ってくれる。大袈裟にでもなく、からかったりする訳でもなく。でも私にとってはこれが一番有難い。心配してくれた河島には申し訳ないけど、こういう事情で周りの目を引くのは精神的にもエネルギーが要るから。

「先生にさ、」

「うん?」

「課題やらなきゃ遠足も、文化祭も出させないとか言われてさ。」

瑞希に愚痴を溢す。

「え...、さすがに冗談なんじゃない?」

「だと良いんだけどね...。今日は本当に厄日でさ。」

「まあ、そんな日もあるよ。頑張ろ。」

「...うわー。みっちゃん、そんなことゆー?」 

「え、なになに??」

「頑張ってる人に頑張ってるとかー。」

「あー....あはは、ごめんね。つるりん色々と大変だもんね。」

瑞希は苦笑いで、それでも諦めずに元気付けようとしてくれている。それなのに....。ああ....私、今すっっごく面倒臭い女になってる...。

「いやごめん...、そんなつもりじゃ....。はあああ、私って最低....。」

「気にしない気にしない。来たら誰でもそうなっちゃうから。」

彼女はそういって微笑む。天使だ。何でこの状況でそんな温かい言葉をかけられるんだ。瑞希は背中を優しくさすりながら続けた。

「私もそれでよく弟と喧嘩になったよ。」

「そっか、弟いるんだ。」

「うん。学校休めるとかズルーい、なんて言われたりしてさ。その日は口聞いてやんないの。」

「うわ、好きで休んでんじゃないっつーの。」

「ほんとだよ。」

瑞希は、フッと笑みを浮かべ、指で銃を作ると、決め台詞のように格好をつけて言った。

「仕返しに冷蔵庫にあった弟のプリン、食べてやった。」

それを聞いた私も、同じポーズで返す。

「最高。」

 

つづく。




【オマケ】

空き教室に全力で駆けつけた村草は、先生と田島さんが一対一で話をしているのを目撃した。
「河島の話、本当だったんだ。よし、良いぞう。」
二人は話す。
「それで?そいつがコソコソと後をつけてくるんだな?」
「はい。名前は知らないんですが、その人に付きまとわれた後には何時も変な噂が立つんです。」
「変な噂?」
「はい。最近だと、先生と私が付き合ってる、みたいな噂が...。」
「何だって....?」
村草は思った。これは三角関係の匂いがするぞ、と。
「どんな奴なんだ、そいつは。」
「少し髪は長めで、いつもヘラヘラと変な笑みを浮かべていて、見つかると異様に逃げ足が速いんです。」
「なんだそいつは。なんか全体的に最悪だな。」
「ええ。ですから早く捕まえて欲しいんです。」
「分かった、協力しよう。」
「ありがとうございます。」
村草は、良い情報を手に入れたと思い、その場から立ち去ろうとした。しかし
ガタン.....!
「誰だ。」
バランスを崩し、ふらついたせいで、その音が二人の耳に入った。
「っべ....。」
村草は額に汗を垂らして焦った。しかしそれと同時に、この機会はチャンスなんじゃないか?とも思ったらしい。あえてここで事情を聞くことでもっと深い情報を得られるかもしれない、と。村草は潔く彼らの前に姿を現し、高らかに名乗り出た。
「か弱き乙女がお困りの様子とお見受けしまして。この村草、お力になりたく、その話をもっと深ぁくお聞かせ....――」
「先生!あいつです!!」
「へ??」
「あの男が私にストーカーしてくるんです!」
「すと....???」
先生が鬼の形相で立ち上がる。
「村草、お前ちょっと来い。」
「え、ええええええええええ!?」
「待てこらああああ!!」
「何でぇええーー!?誤解だああああああ!!」
ドスン!ドスン!と物凄い勢いで先生に追われる村草。その後の体育で河島に対する執念が驚くほどに彼の戦力を上げ、"蹴りの村草"とクラスから評されたことを、名取は知らない。
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