下町の鶴   作:瀧ヶ花真太郎

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52.居残り部員の刑務作業

 

下町の鶴

7章-ノ木の火-

☆Episode.52「居残り部員の刑務作業」

 

「つんつん。」

河島を鉛筆の反対側でつつく。河島からの反応はない。

「つんつん。」

「...。」

「つんつん、つんつん。」

「なんだよ、しつこいな。」

「ぶー。」

「なに。」

「河島ぁー。」

「だからなんだよ。」

「ひま。」

「知らねえよ。働け。」

居残りの教室。遠足が天秤にかけられているせいか、河島が構ってくれない。

「は~あ、つまんない。」

「名取、お前さ。」

「なに。」

「遠足行きたくないのか?」

「それは行きたいけど、ちょっとくらいノッてくれたっていいじゃん。」

「それでちょっとだけだったことあったかー?」

「ちぇっ、けちー。」

机の上に乗っているのは課題ではなく、真っ白なノート。課題を全部終わらせることが不可能だと見越した先生は、課題ができないなら代わりに体育祭の準備に貢献しろ、という代案を出してきた。それで悩んでいる訳だが...。

「大体さ、河島。雑用任されるのならまだしも、「面白い種目の案を考えろ」だよ?普通のよくあるヤツじゃダメとか...。」

「ま、そこが居残り部の力の見せ所って思われてんでしょ。見込まれているって思って気分上げようや。」

「そんな天才的なポジティブシンキング、どうやったらできるんだか。」

「簡単だよ。」

「...?」

「真面目に考えなきゃ良い。」

「あのなー...。」

ふうううっと鼻から溜息を吐くと、教室の扉が開いた。誰かと思い、音のほうへ視線を向けると

「山ちゃん!」

「...久しぶり。」

居残り部の一員、山岸だった。

「どした、お前、勤勉社畜野郎に戻ったんじゃなかったのか。」

河島が小突く。

「バイトから帰って、即寝落ちしたの。」

「それは、ご愁傷様だな...。」

「どうも。ついでにお線香も焚いて下さい。」

「姉ちゃんの煙草で良ければ取りに帰るぞ。」

「おいおい、冗談だってば。」

千春お姉ちゃん、煙草やってるんだ。意外だなあ...。

「ところで二人とも、何の課題やってるの?」

山岸の問いに私は答えた。

「課題は全部じゃなくて良いから、代わりに体育祭の実行委員に貢献しろ、と。」

続けて河島も説明する。

「そんでこのノートに種目の案とかビッシリ詰めてこい、と。」

「刑務所みたいだな...。囚われの身で雑務とか。」

皮肉にしか聞こえない山岸の一言に私は文句をぶつける。

「うるせえよ。山ちゃんも元々ここの常連だった癖に。」

そして私たちは、悪ノリで山岸をからかった。

「そうだぞー裏切り者~。名取の言う通りだー。」

「そうだそうだー。成金~、商業アーティスト~。」

「やーい貴族もどき~、マリーアントワネットにしてやる~。」

ぼろくそに言われて折れたのか、山岸は焦り気味で私たちを止める。

「分かったって!僕もやるから許してくれ。」

「へへ、そう来なくっちゃ。」

そうして山岸が着席して集まると

「で、何をすれば良いの?」

と尋ねる。河島は頭の後ろで手を組み

「それを考えるんだよ。」

と、溜息に乗せて言った。

「なんか、ビデオゲームみたいな感じのものとか出来たら面白そうだよね。」

「ビデオゲームっつったって色々あるだろうよ。」

「例えば?」

「アクションとか、シミュレーションとか。」

「あ~。」

「こういうのは山岸が一番詳しいんじゃねえの?」

山岸は答える。

「まあ、物理的に可能な範疇で、団体戦としても出来るものが良いよね。そりゃあ空飛んだり、魔法使ったりとかできるなら面白いだろうけどさ?」

「私MP持ってないです。」

「スポーツカー体質だもんな、名取は。」

「どういう意味だよ、河島。」

「足は速いが燃費も悪い。」

「はああああ!?お前、女子に向かって―――」

「あ!パン食い競争をアレンジしてみるのとかどうだ?」

食い気味に河島が案をだす。

「もうそれビデオゲーム関係ないじゃん。」

「お役目終了みたいっすね、僕。」

話があっちこっちに飛び回って、頭がヘトヘトになってはあくびをする。私は机に倒れこんで文句をぶつくさとぼやいた。

「もーやだああ!疲れた、私疲れたああ!」

「俺もちょっと一眠り。」

「二人とも、まだ二十分くらいしか経ってないよ。」

「山ちゃんが来てから、ね。」

「いや、そうだとしても放課後から三十分も経ってないって。」

山岸の説得も届かないほどの疲労に、私は背中を伸ばして

「あーもう、休憩休憩!ねえ、河島か山ちゃん、なんか食べるの持ってない?」

と尋ねる。すると河島がカバンから何かを取り出し、見せびらかした。

「カロリーメイド、チーズ味。」

「わあ、チーズかあ。まあいいや、一本ちょーだい。」

河島はフッと上に持ち上げ

「だーめ、非常食だ。」

と言って悪戯に笑う。

「...じゃあ、100円で買う。」

「売らな~い。」

「サイっテー!!」

山岸は「あはは」と笑い

「働かざる者食うべからず、だな。」

と、私をからかった。

「お腹空いてちゃ働けるわけないでしょ。」

そう言い返すと、

「分かったよ、パシられてやるから食べたいもの言いな。」

と微笑む。嬉しくなって飛び跳ねていると

「あ、じゃあカロリーメイド頼むわ。」

と、食い気味に河島が先陣を切る。

「はああああ!?私が先に...ん、むむぐぐ...!」

反抗しようと開いた口に、河島がカロリーメイドを突っ込んだ。私はそれをひと噛みして切り離し、モゴモゴと口を動かしながら睨んだ。

「わたひにもちゅうもんするへんりあるんああらね(私にも注文する権利あるんだからね)。」

「カフェオレ?レモンティー?」

山岸が二択出して私に問う。口がパサパサするからという気遣いなのか、これだけで我慢しとけという皮肉なのか。中のブロックを飲み込んで五百円を手渡す。

「レモンティー。あとサンドイッチと、お釣りはあげる。」

「手間賃二百円くらいか。結構くれるんだな。」

「それで好きなの買いなよ。」

「ありがとう。河島はカロリーメイドだけでいいのか?」

「おう、その間寝てる。」

そう言って河島は硬貨を手渡し、机にうつ伏せになった。

「そっか。じゃ、ちょっと行ってくるわ。」

「いってらっしゃーい。」「いってらー。」

 

山岸が買い物に出かけ、教室は再び二人の静寂が訪れる。気持ちよさそうに休憩する河島に私は一言声を掛けた。

「サンドイッチ、あげないからね。」

「おう、構わんよ。」

すると河島のお腹からぐうううぅ、と音が鳴る。教室が静かなせいで誤魔化しようのない響き方になっている。

「....。」

ところが河島は端から誤魔化す気もなく、スヤスヤとうつ伏せ状態。いたたまれなくなって私は、河島に怒鳴るような口調で

「ああもう、分かったよ!あげるから。サンドイッチ分けてあげるから!それでいいでしょ!?カロリーメイドのお返し!」

と言って折れた。

「ふああああ....。え...?おれ何も言ってないぞ。」

「うるさい。黙って貰うの!私がいたたまれないから!!」

眠たそうな河島にギャアギャアと言葉をぶつけると、彼はこちらに振り向て小さく微笑んだ。

「...ふ、ありがとな。」

睨む以外、何もできなくなった。

 

 

山岸が帰ってきてからは小さなお茶会が始まった。彼は手間賃分のお金で、皆で食べられるようなプチクッキーの袋を買ってきてくれたので私は大はしゃぎした。

「ほんと山ちゃん、気が利くなあ~!ありがとうね。」

「いいよいいよ、このほうが楽しめるって思って。」

仮眠を終えて体力を取り戻した河島も、お茶会にテンションが上がっているご様子。

「よーし、気楽に議論じゃーい。」

そう言って結局、世間話に恋バナ、他愛のない話ばかりをしてサボっていた。

山岸:「実のところ寂しかったんだよね。放課後って言ったって淡々と部活で練習するか、帰ったところで遊び相手がいなかったからさ。」

名取:「うはは、山ちゃんもここが居場所になってやがんの~。」

河島:「寂しくなったらまた戻って来いよ。課題ほっぽらかすだけでショーシャンク入りだぜ。」

山岸:「そうさせてもらうよ。そういえば二人とも、何部に入ってるんだっけ?」

名取:「陸上部。」

河島:「顧問に認められるほどの人材でありながら、釈放が認められないっていう。」

山岸:「名取、走ると圧倒的だもんな。」

名取:「大会がある日は顧問、先生に頭下げてまで参加の許可貰いに行くんだよ?」

河島:「まるで闘技場の隠し玉だな。」

名取:「へへ~。」

河島:「やーい、ベヒーモス。」

名取:「やかましい。そういう河島は何部なんだよ。」

山岸:「あ、僕も知りたい。聞いたことないから。」

河島:「...ぶん....部。」

山岸:「え...?何て?」

河島:「文芸学部。」

私は腹を抱えて笑ってやった。

「ぷっ、あははははは!!河島が、文芸部!?似合わなあああああ!!あはははは!!」

河島:「悪かったな。」

山岸:「え、マジで?何やるの?あの部活。」

河島:「ほとんど顔出せてないから知らねえよ。」

名取:「ポエム書くんじゃないの?ふふ、河島のポエム見てみた~い。」

河島:「今度四倉さんに言ってやろ。名取が文芸馬鹿にしてたって。」

...そういえば明希、作詩してたんだよね。そっか、そりゃああの部にいて当然だ。しまった、口がスベった。

名取:「え、あ...ごめん撤回撤回...!何でもするから許して。」

河島:「なーんーでーもー?」

わざとらしい反応の彼にジト目で答える。

名取:「現ナマとエロいこと以外な。」

河島:「分かってるよ。何妄想してんだお前は。」

名取:「...あとでぶっ叩く。」

馬鹿馬鹿しくて楽しいお喋りの中で一瞬静かになると、私は呟くようにして言った。

「案、浮かばないね。」

「だな。」

と、河島も一言。山岸も

「何か面白そうなもの、落ちてないかなあ。」

と、ぼやく。

三人揃って考えていると、廊下の方から何やら聞き覚えのある忌まわしき声が鼓膜にべたっと付いた。

「おやおや~?居残り組が課題もせずにティータイムをしている?」

人間性を中川の川底に置いてきた男、村草だ。三人はこの雄ウジ虫に視線をむける。

「スキャンダルですねぇ~、これは職員室に持っていけば高く売れるぞ~。」

どこまでも嫌味で腹の立つ男だ。私が奴を睨みつけていると、河島が

「これだ!」

と声を上げる。河島以外、皆きょとんとした。

「これ、って何が?」

「マスコミゲームだ。」

「ますこみ...げーむ?」

河島が考え付いたのはマスメディアゲームという、噓つきを交えた伝言ゲームだそう。役柄は「メディア」と、「噂人」。憶測や、適当なことばかりを喋る噂人から情報をまとめ、タイムリミット後、設定されたキーワードを適切に伝えられると勝ち、失敗すると炎上して負けるというルール。なんかそんなゲーム、どっかになかったっけ?まあいいや、正式名称思い出せないし。

「それ校庭でやるとしたら観客席側の人ら、全然面白くなくない?」

「まあ、それでも提出してみる価値はあるだろ。」

「そっか、それもそうだな。」

三人で、仕事が終わったような溜息を吐くと、村草が言ってきた。

「なんかよく分からないけど、ボクのお陰で思い付いた案ならタダでやるわけにはいかないな~。」

「はあ!?」

私が声を上げると、河島が前に出て村草に言い寄った。

「お前天才かよ!さすが村草、お前は何でもできるんだな。」

「へっ、褒めたくらいで―――」

「お前はいつか世界的に有名なキャスターになれるよ。」

「せ、世界的?」

「そうさ。もうこれからお前のこと、"デュシェーヌ親父”って呼ぶわ。」

「デュ...しぇ?誰だそれ。」

「マスコミの教祖様だよ。歴史的人物だぞ?」

「え、マジで?」

「そうだ。お前はこの青校の体育祭に新たな歴史を刻むんだ。」

「おお!!」

「期待しているぞ、親父。いや、わざわざ俺がしなくても時期に世界がお前に振り向いてくれる。」

「河島ああ!お前、ボクのことをそんな風に...!」

「良いから、分かったら早く帰ってお母さんに報告してこい。世界への第一歩を踏み出したってよ。」

「っしゃあああ、行ってくるぜ河島!また明日な!!」

村草は大はしゃぎで校門へと走り去っていった。河島はフッと笑ってこちらに顔を向けると

「名取、山岸、先生に提出しに行くぞ。上手くいけば帰れる。」

「おお...!」

私たちは目をキラキラと輝かせた。

 

 

つづく。

 

 




【オマケ】

「河島、さっきのデュ..何とかってだれ?」
「デュシェーヌ親父のこと?」
「あー、うん。それそれ。」
「マリーアントワネットをデマで死刑に追いやった新聞屋のあだ名だよ。」
「え...。」
「確かエベールって名前でやってたはず。最後は死に追いやった彼女と同じ死に方をした。」
「うわ、酷いジョーク。」
「村草にピッタリの呼び名だろ?」
「ふふ、笑っていいのやら。」


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