「ねえ、聞いてよ明希...。」
体育祭準備のため各委員に区分けされ、私は二年青組の教室にて小道具制作に勤しんでいる。本来、参加したい委員というのは希望制で出せるのだが、課題未提出者という理由で不足のところに強制配属という形になった。何だか腑に落ちない感じもするが...
「そ、そっか。それは残念だね。」
「そうなの。酷くない?ま、でも二人と一緒な場所で良かった。」
青組には私のクラスと、明希、瑞希のクラスも一緒になっていて、友達と張り合わなくて済んだことが唯一の救いだった。
「そういえば、みっちゃんも明希も小道具部なんだね。」
そう聞いてみると
「あー、まあね。応援団と実行委員以外ならどこでもって言ったらここになってさ。」
と、瑞希は気楽そうに笑う。明希も
「わ、私もみっちゃんと一緒ならどこでも良いかなあって...。」
そう自信なさげに話した。
「そっかそっか。ま、気楽にやってこ。」
私もそう笑って作業に取り掛かる。何事も楽しくやって、楽しく幕を閉じられるならそれでいい、そんな風に考えていた。大好きな友達とこうして何となくやっていけたらそれで。
下町の鶴
7章-ノ木の火-
☆Episode.53「勝負事はつまらない?」
「オラぁあああ!!もっと気合い入れろやあああ!!」
「こんなんじゃ負けちまうぞおおおお!!!」
体育祭が近づくと、学校の授業が一日一回は体育になる。体育会系な奴らが燃え盛る中では、文化系な人にとっては純粋に熱すぎて辛いはず。軍隊のようなノリで統制しにかかる者共の熱は、誰もが運動を嫌いにさせる一番の原因なのだ。動くことの好きな私にとってはどうってことのない空気だが、如何せん私の友達は"そちら側"じゃない人達が多い。河島は
「演技力が重要だ。」
と語る。
「演技力?」
「頑張ってるように見せて、いかに手を抜くかにかかってる。だって汗かきたくねーじゃん。」
「はあ...。」
「勝ち負けなんか本気になるから馬鹿みるんだよ、ははは。」
気楽を超えて完全に開き直ってる河島に、私は苦笑いを見せた。一方の瑞希たちに声をかけると
「どうしよっかなあ...、体力持つかな...。」
と、不安げに語る。河島の助言を受け売りで伝えてみると瑞希は
「ははは、何それ傑作~。」
と、とりあえず肯定。明希は
「それじゃあ頑張ってる人達に失礼だよ...。」
と、相変わらず律儀なところを見せる。
「ま、そうだけど無茶しないでね?それで倒れちゃったら身も蓋もないから。」
「うん、そこは...身体と相談してみる。」
「そうね、ちゃんとお水飲みなよ?」
「うん、ありがとう。」
風が吹けば涼しいものの、太陽の日差しはまだ暑い。全力疾走しようものなら思いっきり汗をかいてしまう程だ。そんな中、男女混合リレーの練習が始まる。さも当然のごとく私がアンカーを務めることとなり、この組の命運が打ち合わせもなく私にかけられた。まあ、それだけ期待されているのなら良い方にとってやるか。そう思い、軽く鼻で呆れ笑いをした。
バン!!と銃声が鳴り響くと、やかましい声援に包まれながらランナーが疾走しだした。そして走者が一周するたび、二つ後の走者が毎回私に期待の目を向けるか、不安の内を明かしてくる。
「名取ちゃん、最後頼むよ!」
「あいよー、はいはーい。」
とか、
「足遅いから迷惑かけたらごめんね。」
「気にしないでー。自分の出せる全力でいいから。」
とか。なんかカウンセラーみたいなことも任されてるみたい。でも中には意地悪なことを放ってくるやつもいて
「女アンカーとか大丈夫かよ...。」
「悪かったな女で。」
「ふん、足引っ張んなよ?」
「うるせえな、さっさと行けよ。口ばっか動かしてないで。」
好き放題に文句を言ってくる。しかも、よりにもよってそんな奴が同じ組だから無性に腹が立つ。敵ならコテンパンにしてやるのに。
で、そんな嫌味バカが一周し終えると、今度は明希が走る番。速い人、遅い人という組み合わせで構成された順番だが、その中でも明希は特に運動に弱い。バトンの受け取りすら覚束ない彼女に、周りの奴らはコソコソと陰口を叩く。
「ちっ、あいつ遅すぎだろ。負けるじゃねえかよ。」
「いらねえんだよなあ、ああいうのはリレーにはさ。」
さて、私の出番がくればゴール目掛けて走るだけ。運動にしろ勉強にしろ、デキるとかデキないとか人に優劣つけてコメンテーターぶらなくたって、どうせ私がアンカーやるんだから結果は見えている。そうやって人の価値を推し量ってるような人間はそこで指咥えてよぉーく見てろ。
「明希...!あともうちょっと。頑張れ!」
「つるちゃん...、ごめんなさい。」
「いいからいいから。最後まで走る!」
ヘトヘトになった明希が私にバトンを渡す。それを受け取ると
「お疲れ、よく頑張った。」
明希の背中をポンポン、と軽く叩き、私は地面を力いっぱいに蹴り飛ばした。前の走者とはグラウンドの四分の一ほど差があるが、こんなくらいで焦ったりはしない。足を前に前にと踏み出して、相手の背中に向かって着実に突き進む。後ろとの差に安堵して手を抜いていた奴も、突然の急接近に冷や汗を流し始めて急に足を速く動かすが、事態に気付く頃には既に遅い。相手を思いっ切りぶち抜き、ゴールした。勿論、さすがに一位の座は奪えなかったが、それでも六チームの中の最下位から三位まで追い上げた。私はちょっと悪戯がしたくなって、さっき嫌味を投げつけてきた奴に半笑いで皮肉ってやった。
「女アンカーで悪かったなあ。」
「調子のんなよ。」
「そういうあんたこそ、足引っ張んなよ?」
「...クソが。」
「ふっ。」
言い返せないことに悔しがる姿に、小さいながら良い仕返しが出来たことを喜んだ。青組のみんなも、このリレーの勝敗について大きく心配する必要がないと見たのか、安堵している様子。しかし、一位じゃなかったことに不満を溢す人らもいて
「あの四倉って奴がいなかったらもっといい順位勝ち取れたのに。」
などとネチネチ言っているのが聞こえた。
放課後がやってくると私たちは制作の活動へ。部活動も一時的に休止し、体育祭に向けての準備に全員の時間が注がれている。それでもどこかから喧しい声が聞こえてくるのは、きっと応援団のスパルタ訓練によるものだろう。
明希は瑞希のそばに、河島はドテーンと壁にもたれかかり、山岸は、そんな河島の隣で黙々と作業している。そして私は瑞希たちと小さな円になって地べたに座り、みんな互いに言われたことをやりながら駄弁っていた。
「あたし勉強苦手だからさ、体育多いと助かるんだよねー。」
そういうと、瑞希は
「座学ほどは頭使わなくていいしね。」
と、ノってくれる。すると河島がこちらに視線を向けて言った。
「おれ、団体戦のヤツだと嫌い。」
「団体戦?」
「サッカーとか、バスケとか。」
「えー、楽しいじゃん。」
「普通にやればな。負ければどいつも揃って「あいつのせい」とか言って袋叩きにするじゃん。」
「ああ...まあ確かに。」
「勝つ勝つってうるせえ奴がいると面倒くさいんだよ、楽しむことを本質に置いてないから。」
「楽しむ、ねえ...。」
瑞希はちょっぴり苦笑いで河島に
「まあ、難しいとこだよね。勝つことが楽しいって思う人も多いと思うし。」
と言った。そんな彼女に続けて私は聞いてみる。
「河島は何を楽しいことって見てるの?」
「チーム戦ならやっぱり、チームワークじゃないかな。ほら、こういうのって授業でやると上手いやつらだけが先行して、そいつらだけでやってるじゃん。」
「ああ、確かに。」
瑞希も横から
「あはは、戦力外は隅でお喋りするくらいしかやることないもんね。」
と言って笑う。
「だろ?それで勝っても何も面白くないんだよ。」
河島の発言に、山岸もひとこと言う。
「今日のリレーだって、みんな目ぇ血走ってたしね。」
「同じ仲間の組同士なのに、遅かったら好き勝手罵声浴びせたりとかな。競馬やりに来てるんじゃないんだから。」
「ま、名取なら賭けても安心だろうけど。」
私は山岸にジト目でツッコんだ。
「褒めてんのか馬鹿にしてんのか。」
私が山岸と変な言い合いをしている中、瑞希と明希が話していた。
「明希はどう思う?」
「え?何が...?」
「競技でさ、勝ち負けかとか、楽しくやろう~みたいな考え方について。」
「うーん...、みんなに迷惑かけなかったら取り敢えず良いんじゃないかなって。」
「確かに。それも大事だよね。」
「...うん。私、運動音痴だし、ただでさえ戦力外って思われてるだろうから。」
それを聞いていた河島が、明希にそっと質問を投げかける。
「四倉さん自身はどうなの?」
「え?」
つづく。