下町の鶴   作:瀧ヶ花真太郎

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「え...?」
思わず声が漏れた。苛めの現場にしか思えない光景が、しかもその被害を受けているのが私の友達だということに衝撃を隠せない。気づけば私の足は男らの元へと動いていて、それに気づいた奴らが口を開いた。
「...?あ、お前!!」
名前を言わせる前に私は一人の胸ぐらを掴んだ。
「うぐっ。」
「お前ら何してんの。」
「てめぇ、いきなり来て何だ!?」
「何 し た っ て 聞 い て ん だ よ 。日本語分かんねえのか。」
男らに問い詰めると、教室の外壁に背中をくっつけた明希が声を震わせて言った。
「鶴ちゃん...やめて。」
「やめない!明希が苛められてるのに黙って見てられるか。」
「お願いだから。私が悪いの。」
「仮にそうでも、女子一人に男が四人も五人も集って責めたてるなんて頭おかしいわ!」
激昂する私に男たちも黙ったままでいるはずもなく、すぐに私を取り囲んできた。
「お前、何のつもりだよ。あん?」
私はすぐさま反論する。
「お前らこそ何のつもりだよ、私の友達にこんなことして。」
「お前には関係ねえよ。」
「関係大有りだよ。何でこんなことしたか説明しろ。」
そして暫く言い争っていると、この集団のリーダーと思われる奴が私の前に立ちはばかって言った。
「この女はな、俺らの体育祭をぶち壊しにしようとしたんだよ。」
私は一瞬、身体が固まった。耳を疑うような話を聞かされていきなり「ああそうでしたか、すみませんでした。」となるはずもなく、私の怒りはさっきよりも拍車がかかった。
「でたらめ言うな!明希がそんなことするもんか!!」
「やったからこういう目に合ってるんだよ。」
「こういう目に...?お前っ!!」
もう我慢の限界だった。どんな理屈でねじ伏せようと、今起きてることが正当化されるなんておかしいに決まってる。そう思った私は奴らに手を上げようとした。しかし
「聞き分けの悪い女だな。」
そう言われ、後ろの壁へと突き飛ばされた。
「うがっ、痛っ....。 」
すぐに起き上がろうとしたが、そのリーダー格の男に足で肩を押さえられ、身動きが出来なくなる。そいつは私の胸元の名札に目線を通すと
「お前、あの名取か。」
と問う。私は抵抗しつつも、その男の質問に答えた。
「どの名取か知らないけど、だったら何だよ。」
「お前は十分使える人間だ。怪我はさせたくねえ。」
「....は?」
「これ以上、変な気は起こすんじゃねえぞ。」
男はそういうと、集団を引き連れてその場を去っていった。
「鶴ちゃん、大丈夫!?」
明希が急いで私に駆け寄る。
「痛たたた...。あいつら、ふざけんなよ。」
「ごめんね、私のためにこんな...。」
「明希が何したって言うんだよ、あのキチガイ共...。」
「怪我はない?大丈夫?」
「うん、大丈夫。ありがとう。」
「先生に言いに行こ。立てる?」
「うん。ねえ、あいつらって...。」
「同じ青組の人らしいけど、勝つことに執着してるみたい。」
それを聞いた私は、立ち上がりながら声を唸らせて言った。
「あいつらか...。」


57.開戦前夜

 

下町の鶴

7章-ノ木の火-

☆Episode.57「開戦前夜」

 

教室に戻ると、私たち二人の暗い表情を見て河島がツッコむ。

「どした。先生にボロクソ説教されたのか。」

私は河島達に事情を説明した。

 

「まーた面倒くせー事になったな。」

河島が呆れ顔で言う。瑞希は眉をひそめて

「...酷い。先生には言ったの?」

と同情し、尋ねた。

「言ったよ。でもあいつら逃げたみたいで。もう帰ってた。」

そう答えると

「さっきの呼び出しの放送はじゃあ、名取のやつだったってことか。」

と河島。

「うん。だから明日取り合うって。」

「言いつけたのを逆恨みして、よりエスカレートしなきゃいいけど。」

「やめてよ、縁起でもない。」

頭を抱えていると、山岸が言った。

「ねえ四倉さん。」

「え?は...はい。」

「奴らは何て言ってきてたの?」

「...何て??」

「うん。例えば何か奴らに反論したり、間違いを指摘した、とかさ。」

山岸の質問に、答えようか戸惑う明希、山岸は続けて言う。

「どんな小さなことでも、きっかけがなきゃ人って行動しないだろうからさ。」

明希は暫くじっと考えた。それは少し思い詰めている様子にもうかがえる。何にせよ、平常な精神状態とは言い難いものだった。

「つるりんは大丈夫だったの?」

「それがあいつらさ、こーーーんなことしてきて。本当ムカつく!!」

そんな風に瑞希と話していると、明希は言った。

「体育祭当日は欠席しろって言われて。」

「え...?」

「一人ずつに言ってまわってるらしくて。今度はみっちゃん達が標的になるかもしれなくて...、だから、その...。」

明希は自分の発言が、して良いものだったのかと戸惑う。私は尋ねた。

「ねえ、それ本当?」

明希は声には出さず、小さくコクリと頷いた。

「じゃあ、あいつらが言ってた「体育祭を壊そうとした」ってのは...?」

「多分、あの人たちの要求に反論したから。」

「は!?思い通りにならなかったら反逆者扱い?」

これにはさすがの瑞希も黙ってなく

「自分らが偉いって思い込んでるんだよ。」

と嫌味を溢す。山岸も

「苛めで追い込んで来させなくするつもりか。だったら辞めてやる!って言いたいとこだけど、そいつらに従って休むって思うと腑に落ちないな。」

と呆れ顔。私も同じ表情でぼやいた。

「休んだら今度は先生が黙ってないよ...。」

逃げ場のない路地に追い詰められたような気分だ。青組過激派からの集中砲火を受けてでも体育祭に出るか、先生に叱られ、みんなにサボりだとレッテルを貼られて学校生活を送るか、どのみち課せられている状況は理不尽そのものだった。

そんな中、河島はニヤリと不敵な笑みを浮かべる。私は眉をひそめて言った。

「何よ、人が困ってるって時に笑う奴がいるかよ。」

河島は答えた。

「いや、冷静に考えてそんなの守る必要がないじゃんか。」

「でも、そしたら―――」

「苛められる?そもそも当日に来てしまえば責められないし、先生とそいつらがグルじゃない限りは体育祭の後も大したことがない。」

「なんでそう言い切れるのさ。」

「先生の監視がある中で堂々と苛めなんか出来ないし、体育祭が終わればそのあとの脅迫はただの苛めでしかないからだよ。」

河島はそう言うと、ペットボトルのジュースに口をつける。そして一口飲んでキャップを閉めると、私たちを見て再びニヤリと笑った。

「でもさ、当日までアイツら、きっと精神的に追い詰めようとしてくるはずだよ。」

山岸が心配そうに言うが、それでも河島は余裕そうな表情をしている。私は奴らの傲慢さに腹が立って、思わず感情が喉から飛び出た。

「ああもう何なの!?どいつもこいつも、どうしてそんなに独裁したがるわけ?」

愚痴を溢す私に、瑞希も

「そういう人たちなんだよ。」

と言いながら、呆れ笑いを浮かべた。

「河島も笑ってないで何か言ってやれよ!」

と、私は言った。それに河島が答える。

「聞こえないところで悪口言ってどうするんだよ...。」

「良いもん!私が聞きたい!」

「ふ、それならもっと面白いことしようぜ。」

「面白いこと??」

「ああ。これはみんなの体育祭だ。そうだろ?」

「え?うん。」

「アイツらがシナリオ通りに置いたはずの捨て駒が、一瞬にしてバラバラに散らばる様を見せつけてやろうじゃないか。」

河島は悪そうな笑みを見せる。あまりにも堂々とした態度に私たちは、構えるかのような緊張が背中に走った。そして河島はその表情のまま、私たちに向かって言った。

()()()()()体育祭、ぶっ壊してやろうぜ。」

 

つづく。





【オマケ】
ある夜、探偵入崎が町のとある喫煙所にやってきた。煙草の箱を取り出し、その一本を咥えると、マッチでそれに火をつけた。
「ふう...。」
と吐き、燻らせた煙と、吐いた煙が空に消えていくのを見つめる。そうしていると、横から男の声が一筋に、その耳に向かって飛んできた。
「今時マッチ棒か?いつの時代生きてんだよお前は。」
交番勤務の土浦だ。彼は入崎の横にやって来ると、そんな風に挨拶した。
「何でも便利に染めりゃあ良いって風潮は嫌いでね。それに、マッチだとたばこ葉本来の味を邪魔しない。」
と入崎は言う。
「ほーん、なるほどね。そりゃあ一本味見してみたいものだ。」
「...こいつは葉巻(リトルシガー)だ。あんたの口には合わんと思うぞ。」
「構わんさ。最近ご無沙汰でね、百円でどうだ。」
ポケットに手を入れようとする土浦に、彼は箱を突き出した。
「金は取らんよ。」
「お、すまんな。」
土浦にマッチの火を近づける。煙草の先が赤く燃えだすと、暫くして彼はむせ返った。
「ウエッホっ!!お前、こんなキツいの吸ってんのか!」
「葉巻だって言ったろ。肺に入れるな。」
「やっぱ変わってんなあ、お前...。」

暫くふかしていると、入崎が言った。
「そういやお前、今日非番なのか?」
「非番じゃなきゃここに居ねえよ。」
「そっか。」
「おん。」
二人の間に小さな沈黙の時間が流れる。
「...。」
「....。」
今度は土浦から話し始めた。
「お前、最近どうしてるんだ?」
「ん?ああ、名取家の娘さんが今度体育祭なんだってよ。」
「お前の話を聞いてんだよ。まあいいけど。」
「まあ順調だよ。最近は素行調査とか増えたかな。」
「素行調査?」
「ああ。子供が外で何してるかとか調査するんだよ。」
「へえ。監視の厳しい親もいるんだな。」
「いや、あまり悪くも言えないよ。中には内緒で学校辞めてたりとか、その交通費でパチンコだとか、そういう奴も居たからな。」
「...なるほど。」
「どっちが悪かなんて分からなくなる。これは職業柄仕方のないことなんだなって、つくづく思うよ。」
「ああ、言えてるな。」
煙草に火を付けはじめて3分が過ぎたくらいの頃、お巡りさんの土浦が達成感に満ちた態度で言う。
「ちょっと慣れてきたかな。へへ、葉巻デビューだ。」
「ふっ。」
土浦は煙を吐くと、話題をヒョイっと切り替えた。
「で、どっかの娘さんが体育祭なんだって?」
「お前も一度会ってるはずだぞ。」
「え?そうだっけか?」
「あの時は小学生の従兄弟を連れてきてた。」
「...?あー!あの女の子か。」
「そ。しかも四倉の娘さんとは同級生&友達。」
「まじかよ。なんて偶然だよ。なんつーか。」
土浦はにんまりと微笑んだ。 
「ま、体育祭当日は休ませてやれって上官に伝えといてやれよ。」
「俺、四倉と管轄違うんだが...。」

―――――――――――――――
【修正報告】
2023.6.18
つづく。を入れ忘れました。
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