ピンポーン。
朝の8時にインターフォンが鳴った。誰だか知らないがもう少し時間を空けてこれなかったのか?
私は玄関へ向かい、鍵を外してドアを開けた。そこには、予想外の来客がいた。
「すみません、朝早く」
「神裂火織・・・。本当、お前らはどうやってこの学園都市に侵入するんだ?」
「伝手がありまして、あの、先日はとてもお世話になりました。どうお礼をしたらよいか・・・」
「気にするな、私は私のできることをしただけだ。立ち話もなんだ、入ってくれ」
「失礼します」
神裂を招き入れ、リビングへと連れていく。
「広いですね、これも魔術ですか?」
「ああ、そうだ。魔術はとても応用力が高いんでね」
お茶を錬金術で入れ、トレイにのせる。さらに、机と椅子を二つ呼び寄せ、向かい合うように置き、お茶を並べる。
「さぁ、座ってくれ」
「ご丁寧にどうも、失礼します」
さて、今回は何で私のところへ来たのだろうか。外の世界で厄介事でもあったか?
「それで、今回はなぜ私のところに?また私に助けてほしいのか?」
「いえ、違います。今回は休みをとってあなたのところへ来ました。聞きたいことがあったのです」
「聞きたいこと?」
「はい、あなたは先日、我々が使う魔術を魔法、と称しました。それがとても興味深かったので・・・」
「その事か・・・なら、場所を変えよう」
すると、突如周辺の景色が変わる。神裂はよろめき、お茶をこぼしてしまう。
「い、今のは?」
「場所を変えた、ここは、私の修行場だ」
周囲にはさまざまな書物が浮かび、天井にはオレンジ色の光が走る巨大な地球儀がある。
「また魔術ですか、本当に、一体どの宗派に属しているのかわかりませんね」
「私の魔術に宗派などない。あるのは、知識と技術、そして、信念のみだ」
浮かぶ本達を本棚に戻し、地球儀を消すと、神裂と向き合う。
「さて、では、君たちが使う魔法と私が使う魔術、これの違いを教えるとしよう」
ある書物を取り出し、それに記された魔術を行使する。すると、複数のオレンジ色に枝のような光で繋がれた玉が無数に現れる。
「これは?」
「これは、マルチバースだ。さまざまな可能性の世界、全く別の法則で動く世界。それを可視化した」
「異世界、のようなものですか?」
「いや、君たちの知る異世界は位相というものだろう?この世界に属している、単なる別空間に過ぎない。このマルチバースは、完全なる別世界、そこから私はエネルギーを取り出し、魔術を行使している」
「そうだったのですか。我々は生命力を魔力へと変換し、魔術を行使しますが、あなたのものは外の世界からエネルギーを呼び寄せているのですね」
「ああ、さらに言うと、この魔術はインデックスでも使用することが出きる。今度、教える予定だ。彼女の絶対記憶能力があれば、簡単にマスターできるだろう」
「あの子でもですか。なぜこんな力が隠されていたのでしょうか?」
「さぁな、だが、私が魔術を学んだときには、この世界に魔術は存在していなかった」
神裂は可視化されたマルチバースの一つを覗き込むと、疑問の声をあげた。
「これは?」
見ると、そこには、先日の事件の光景が広がっていた。しかし、そこには私がいなかった。
「それは、平行世界の一つだろう。その世界にはどうやら、私はいないようだ」
「では、この世界のあなたはどこに?」
「たぶん居ないだろう。文字通り、存在していないんだろう。この世界には、私が扱う魔術は存在しておらず、私自身も存在していない。この世界の当麻は苦労するだろうな」
「何も、感じないのですか?」
「ああ、こういう世界があっても不思議ではないだろう。マルチバースには無限の可能性が存在しているからな」
魔術を消し、先ほどリビングに置いてきたお茶を呼び寄せ、一飲みし、空となった湯呑みをキッチンへと飛ばす。
「あの、もう一つ気になっていたのですが」
神裂は、私の首にかけてある一つのレリックを指差した。
「この圧倒的な力を放っているこれは一体?」
「これか?これはだな」
私はアガモットの目を開くと、タイムストーンを取り出した。
「これは、インフィニティストーン。宇宙が作り出される原因となった、六つの特異点の残骸」
「宇宙を作り出した特異点の残骸!?」
「あぁ、誰かは知らないが、これを作成していたようだ」
「なぜそんなアイテムが、いままで見つからなかったのでしょうか?」
「さぁな、だが、魔術的な痕跡を見るに、今の私では到底解除できない隠蔽魔術が施されていたようだ。だが、私はある人からもらってね。ある人については、詳しくは話せないが、簡単に言えば、上位存在だ」
「そんな人にあなたは接触できるのですか・・・」
「いや、私からはできん、だが、彼等からは出来るだろう」
アガモットの目からインフィニティストーンを外し、宙に浮かばせながら説明する。
「この石にはどのような力が?」
「紫色のストーン。こいつは、パワー。計り知れないエネルギーを保有し、これ一つで文明を星まるごと破壊できる。
赤色のストーン。これはリアリティストーン。現実を歪め、物質の変換ができる。
水色のストーン。これはスペースストーン。空間を歪め、別の場所に繋いだり、他のストーンのパワーを遠い場所に行使するときに使う。
黄色いストーン、これはマインドストーン。精神を操り、洗脳などができる。
オレンジのストーン、これはソウルストーン、魂を操れると聞いたことがある。しかし、私もこいつについては謎が多く、完全には扱いきれてはいない。
最後に、緑色のストーン。これはタイムストーン、時間を操ることができ、時間逆行、時間加速、時間のループの作成、未来に起こるすべての可能性の体験、などができる」
「バカみたいな力ですね」
「それだけ危険なんだ。これをあるガントレットに納め、指を鳴らすだけで宇宙全体にいる生命の半分が消滅する」
「宇宙全体にいる生命の半分が!?」
目を閉じながら、そう言うと、神裂は頭を抱えながら驚いた。
「そんな力が世界に知れ渡れば、あなたは全魔術結社から狙われますよ」
「国からも狙われるだろうな」
「怖くないのですか?」
「怖いさ。だが、インフィニティストーンは一つの時間軸を作り出す。誰かが管理しなければいけないからな」
それが普通かのように言う私に驚きながら、彼女は私が呼び寄せた椅子に座る。そして、顎に手をやりながら、何かを考え始めた。
「どうした?」
「私は、あなたのことを口外しないことを、至高の魔術師に誓います」
「いきなりどうしたんだ?」
胸に手を当て、真っ直ぐとこちらを見ながら言ってくる。
「あなたの力は、他の魔術師や魔術結社が知ってはいけない力です。ですので、至高の魔術師の名に、口外しないことを誓ったのです」
立ち上がりながらそう言う神裂。
「そういうことか。まぁ、確かに、そう簡単に教えてはいけないものではあるな。帰るのか?」
「ええ、もう行かないと」
「そうか、では送っていこう」
「送っていくって、ここ日本ですよ?」
「ああ、それがどうした?」
私は、スリングリングを使用し、フランスのエッフェル塔の前に繋げる。
「なっ・・・いえ、驚くほどのものでもないですよね」
「ああ、基礎中の基礎の魔術だ。どうぞ?」
「ありがとうございます。では、今日はありがとうございました」
「ああ、気を付けてな」
リングを閉じ、茶器などを仕舞うと、時計を見る。
「完全に遅刻だな」
ため息を吐きながら、魔術にて制服に着替えると、学校の真ん前にスリングリングを開き、校門をくぐった。