遠い遠い、宇宙の彼方で。
ウルトラマンとウルトラセブンが再会した。
二人の長い長い会話が始まる…
ウルトラマンネタです。思いついたタイトルからの一発ネタを短編にできました。
『シン・ウルトラマン』は全然関係ありません。
また、宇宙を股に掛けて戦うウルトラ戦士の大活劇や、地球人と宇宙人の間で苦悩するハヤタ隊員…みたいな話でもありません。
独自設定、独自解釈、科学考証も適当です。
あと、自分で書いておいてなんですが…けっこうキモい話、のような気もします。グロではないですが。
以上を踏まえて一読いただければ幸いです。
その日も、ウルトラマンは静かに宇宙を漂っていた。
今、ウルトラマンは銀河の中の星と星の絶大な隔たり…何もない空間にいる。
彼がその身体を動かすことは星々に甚大な被害を与えかねないからだ。
ウルトラマンは静かに、宇宙の果てのとある星を見つめていた。
そこには、彼の人生においては人が瞬きするよりも短いわずかな時間だったが、最も充実した時を過ごした星があった。そして、その後の彼の生き方を決めることとなったあの星は今もある。
今は大きく姿を変えたその星を、ただ懐かしく愛おしく、ウルトラマンは静かに見つめていた。
「やあ。ウルトラマン」
ウルトラマンが声の主に意識を向けると、そこには旧友の姿があった。
メカニカルな容貌と、基調とした赤にシンプルな白いラインが入った身体。
胸部は銀色のプロテクターになっていて、身長は…かつての自分と同じだっただろうか。だが、ウルトラマンに比べると短躯な印象をうけるのは、その体色や等身のせいだろう。
「やあ、ウルトラセブン。よく来てくれたね」
「君が僕を呼び出すなんて珍しいことだ。何をおいても駆けつけるさ」
「ありがとう。…君と会うのは何年ぶりくらいだろう」
「さて…もう忘れてしまったな」
二人はしばし、無限の宇宙を眺めた。
星や銀河はいつもと…今までと変わらず、ただ静かに輝いている。
核融合反応により猛々しく燃えさかる星々は、近づけば彼らウルトラ族でさえ畏怖する圧倒的な力を絶えず解き放っている。
だが、こうして離れていれば、優しく美しい小さな光だ。
その星々が無数に集まった銀河。
そのすべてに、ウルトラマンは愛おしさを感じる。
それが、彼がこの宇宙を股に掛けて活躍したあの頃とは違う星々であっても、だ。
「で、何の用だい、ウルトラマン」
ウルトラセブンがウルトラマンを振り返り尋ねた。
ウルトラマンは少し言いよどむ。
「実は…お別れを言いたいと思ってね」
「お別れ?」
「ああ。私も…そろそろ寿命を受け入れることにしたんだ」
ウルトラマンが想像していた以上に、ウルトラセブンはその一言に驚いていた。
「そうか…君は随分長く生きたものな…」
ウルトラセブンがそう答えるまでどれほどの時が流れたろうか。
「どうして…君はこんなに長生きしようと思うようになったんだい」
ウルトラセブンがそう尋ねると、ウルトラマンは曖昧な笑みを浮かべて目をそらした。
ウルトラセブンは心の中で小さなため息をついた。
ウルトラマンとは長い付き合いだ。
互いに親友と認める自分に対しても、なかなか心の内を正直に打ち明けない男であることはよく承知している。
だが、彼は自身の寿命を受け入れると言った。
ならば、これが最後の機会かもしれない。
何としても彼の秘密を聞き出してやろう。
そんな悪戯じみた思いをウルトラセブンは抱いた。
「じゃあ…別のことから尋ねるよ。いいかい、ウルトラマン」
ウルトラマンは静かにうなずいた。
「僕たちがウルトラ兄弟と呼ばれていた頃の話だ」
「それは…ずいぶん昔の話だね」
「あの頃君は…宇宙警備隊銀河系支部長を務めながら宇宙大学教授の仕事もしていたね」
「ああ。そうだったね」
「君はどちらかと言えば戦士というより…デスクワークが向いている感じだったから違和感はなかったな」
「そうだろうね。ウルトラ兄弟の弟たちに比べれば、私は運動音痴と言ってよかったからね」
「そんな君が、どうして…大学教授の仕事を投げ打ってまで宇宙科学技術局の研究員になったりしたんだい?」
ウルトラマンはまた少し、ウルトラセブンから視線を外した。
それは、ウルトラマンとしては尋ねられたくない質問なのだろう。
この誠実で堅物な男はごまかし方も下手だ。
さらに問い詰めるのが申し訳ない気持ちになるほどに。
だが、これは最後の機会かもしれないのだ。
ウルトラセブンは自らの好奇心を抑えられなかった…いや、あえて抑えることなくさらにウルトラマンに問いを投げかけた。
「君がブラザーズマントを返上したい…いや、宇宙警備隊を退職すると言い出した時はみんな驚いたよ。退職して何をしたいんだと尋ねれば科学技術局の研究員になりたいと言う。宇宙大学の教授を務めていたと言っても君の専門は宇宙歴史学だったろう? 宇宙警備隊に入隊する前…学生時代に専攻していたのはウルトラ文学だったはずだ。いわゆる文系の君が、どうして理数系の極みのような科学技術局の研究員なんかになりたかったんだ? …君はその後何百年もウルトラ科学の受験勉強をして、何度も不合格になって…それでもあきらめることなく努力を重ねて、ようやく科学技術局の研究員になった。…それもヒラのいち研究員にね。そしてまた長い長い時が過ぎて、ウルトラ兄弟の次兄が宇宙科学技術局員になったことを誰もが忘れてしまった頃、君は姿を消した」
ウルトラマンはどこか懐かしそうに、宇宙の果てを見つめながらウルトラセブンの言葉を聞いていた。
「…尋ねておいてなんだが、理由はわかっているよ」
ウルトラセブンは小さいため息の後にそう言った。
「『命を固形化する技術』だろう?」
ウルトラセブンの言葉に、ウルトラマンは何処か恥ずかしそうにうつむいた。
「その技術を発明した科学者…確かウルトラ兄弟の末弟になった男でもあったな…そう、ヒカリ。ウルトラマンヒカリだ。君は彼に師事したかったのだろう? そして、命の固形化の技術を理解したかった」
ウルトラマンは照れ臭そうに、右手の人差し指で額を掻いた。
「おいおい、ウルトラマン。今さら隠すも何もないだろう。君は『命を固形化する技術』を手に入れて、その技術を独自に発展させて、とてつもない長命を手に入れた。…不老不死と言ってもいいような長命をね。そうして今、君はここにいる」
ウルトラマンは真顔になって、表情を変えなかった。
ウルトラセブンの話が少しずつ核心へ近づいていることに、ウルトラマンは動揺している。話を逸らすかのように、ウルトラマンは言葉を紡いだ。
「なぁ、ウルトラセブン。君の息子…名前はなんて言ったかな。…ウルトラマンゼロ、だったかな?」
「ああ。そうだが?」
「彼は元気かい」
「元気も何も…」
ウルトラセブンは苦笑した。
「ウルトラ族は長命だが、無限に生きられるわけじゃない。だから君は、さらなる長命を得るための技術をひそかに開発したんだろう?」
「…君の息子ももう…この世にはいないんだな」
「ああ。ぼくの孫の孫の孫の孫…そのまた孫ももうとっくにいない。ウルトラの父やゾフィー、新マンやエース、タロウにレオにアストラ…ウルトラマンキングさえいなくなった。いや、ウルトラ族そのものが…そう、種の限界っていうヤツかな、もうこの宇宙にいない。ウルトラの星すらなくなって久しいよ。君だって知っているだろう?」
「ああ。知っているよ」
「寂しくはないのかい?」
ウルトラセブンは静かに尋ねた。
「この宇宙に君の同胞はもう一人もいない。孤独を感じてはいないのかい、ウルトラマン」
「ああ。私は大丈夫だよ」
ウルトラマンは答えた。
「ウルトラ族はいなくなり、ウルトラの星も消えた。でも、宇宙には新しい生命が生まれて、今もこうして輝きに溢れてる。もちろん、私たちが戦っていたあの頃のように邪まな生命体もいる。理不尽に刈り取られていく無力な生命がいる。でも、そんな力なき生命のために…宇宙の秩序を守ると信じて戦う者たちもいる。種族は違えど、私たちの志は引き継がれているんだ。だから私は寂しくなんかないのさ」
そしてウルトラマンはウルトラセブンを正面から見据えた。
「なにより…私にはこうしてわがままに付き合ってくれている親友がいる。これで寂しいなんて言ったら私は罰が当たるさ」
「…よせやい。君に付き合ったのはほんの気まぐれだよ」
まったく、この真面目すぎる男は恥ずかしげもなくこんなことを言う。
「なあ、ウルトラマン。一番聞きたかったことをまっすぐに尋ねるよ」
「ああ」
「君は…どうして長生きをしたいと思ったんだい?」
長い沈黙の時が流れた。
ウルトラセブンは、ウルトラマンが語り始めるその時を待ち続けた。
ややうつむいて考えこんでいたウルトラマンが静かに顔を上げて、ウルトラセブンの目を見据えた。
「その質問に答える前に一つ尋ねたいんだが…いいかな、ウルトラセブン」
「ああ。なんだい」
「…家族、というのはどういうものかな?」
「家族?」
「ああ。息子のウルトラマンゼロや…えーと、その、君が君の細君と暮らすというのはどういうものだったのだろうということだよ」
「ああ、ゼロは…私はあいつがいっぱしのウルトラ戦士になるまでは親子だって秘密にしていたからなあ…一緒に暮らしていたわけでもないし、何とも言えないな…」
「ええっと…その、ゼロとの親子関係は置いておいて…その、あれだよ。君と、君の細君との話を聞きたいんだ」
ウルトラセブンの顔色が変わった。
「それは…ちょっと待ってくれウルトラマン。いくら君と僕の仲でもそれは…」
予想はしていたものの、ウルトラセブンの態度が変わったことにウルトラマンは慌てた。
「いや、わかっている。それはわかっているよ。私たちウルトラ族の中では伴侶との話はぺらぺらと喋って公にするものではない…それは最も大切な二人だけの秘め事だからね。すまなかった。ウルトラセブン。君に少し甘えすぎたようだ」
頭を下げて謝罪するウルトラマンにウルトラセブンは戸惑いつつ答えた。
「伴侶との話を大っぴらにしていたのはタロウのところ…ウルトラの父とウルトラの母くらいのものだからな。あの人たちはおおらかというかリベラルというか…普通は新マンの奴みたいに誰にも内緒で気がついたら結婚していたくらいが普通なのにな…。とにかく、ウルトラの父と母並みのカミングアウトを僕に求められてもそれは困る。…でもまあ、この話はもういい。脇へ置いておいてだな…しかし本当に珍しいな。君がその…そういう話を自分から口にするなんて」
ウルトラセブンははっと何事かに気づいた。
彼が何事かを察したことに気づいたウルトラマンは今までになく動揺していた。
「ウルトラマン。もしかして君が長命を求めた理由というのは…」
真顔で問い詰めるウルトラセブンに、ウルトラマンは数光年先からでも判別できそうなほどに顔を赤らめた。
そして、覚悟を決めたのか、静かにウルトラセブンに向き直った。
「…そうなんだ。私は恋をしたんだ」
* * *
「そうか。まさか君が…」
今度はウルトラセブンが甚だしく動揺した。
ウルトラ族の文化では暗黙の了解でタブーになっている恋の話を、あのウルトラマンが口にしたのだ。何度も言うが真面目で堅物を絵に描いたようなこの男が、恋と言ったのだ。
あまりの衝撃に、ウルトラセブンは茶化す気にすらならなかった。
「やはり…おかしいかな。私がこんなことを口にするのは」
年甲斐もなく、おずおずとウルトラマンが言う。
「いや、そんなことはない。そんなことはないよ。ただ、すまない…少し驚いてしまったんだ。許してくれ、ウルトラマン」
「大丈夫だ…気にしていないよ」
ウルトラマンとウルトラセブンはしばし黙り込んで、互いに落ち着きを取り戻すことに努めた。
「で、ウルトラマン…君の想い人というのは…ウルトラ族ではないのだな?」
「ああ、そのとおりだ。ウルトラ族の者ではないよ。私はやはりおかしいね」
「そんなことはない。僕にだって異星人との淡い思い出くらいあるさ…妻やゼロの奴には内緒だがね。だが…やはり驚きだな」
「そんなにまじまじと見つめないでくれ」
ウルトラマンは心底恥ずかしそうにそう言った。
「そして状況から考えて…君の恋は片思い、と言うやつだな」
ウルトラセブンの言葉に、ウルトラマンはまだ赤らんだ頬でこくりと頷いた。
「その片思いの姫君は、いったいいつ見染めたんだい」
「…初めて地球に行った時だよ」
ウルトラマンは遠くを見つめる目つきで呟くようにそう言った。
「あの時私は宇宙の墓場へ怪獣を護送していたんだが、一瞬の隙を突かれて地球へ逃亡されてしまったんだ」
「地球か…懐かしい星だな。君は慌てて怪獣の後を追いかけて…確か、地球人の飛行機と衝突してしまったんだったな」
「自分の不徳に恥じ入るよ」
ウルトラマンの答えにウルトラセブンは少し考えこんだ。
「そうだ、ウルトラマン。僕は昔からそのことが不思議だったんだ。君はその…多少天然ボケなところはあるが、本当に真面目な男だ。不注意やうっかりミスなんてものとは縁遠い奴だ。…そんな君が、どうして地球人と接触事故なんか起こしてしまったんだ?」
「…実はそれなんだ。ウルトラセブン」
ここまで話して覚悟も固まってきたのだろうか。ウルトラマンの口調が熱を帯びた。
「こんなことがゾフィーに知られていたら…彼は二つ持ってきた命の一つを私にくれることなくそのまま光の国へ帰ってしまったかも知れないんだが…実はあの時、私はよそ見をしていたんだよ」
「なんだって?」
「あの時、私は宇宙怪獣を追いかけながら…たまたま目に留まった彼女に気を取られて…見とれてしまったんだ」
「…へえええ…」
我ながら間抜けな声を出していると思いながらウルトラセブンは感嘆していた。
それはまさに一目惚れ、と言うやつではないか。
「君が見染めた姫君は一体どんな人なんだい」
「どんなって…それは美しい姿をしていたさ」
ウルトラマンは遠い目をして過去を思い出しているようだった。甘い出会いの思い出を反芻しているのだろう。
「大きくて優しくて、まさに母のような…プラズマスパークのそれよりもはるかに柔らかな光、ウルトラベルの奏でる音色より美しい声音、それでいて近づけば情熱的な熱い炎を迸らせていて…そんな彼女に、私は一目で恋に落ちてしまったんだ。事故で死なせてしまったハヤタを助けるためというのももちろんあったが…正直、私は彼女のそばにいたいがために、地球に残り戦っていたんだ」
「そうか…そんなに素晴らしい人だったんだな」
「ちょっと待ってくれ、ウルトラセブン。だった、なんてまるで彼女がもういないような言い方はやめてくれ」
「え? その彼女は…まさか、まだ生きているのか?」
「もちろんだ」
目を丸くして驚くウルトラセブンに、ウルトラマンは答えた。
「私は彼女を見つめ続けるために長命の技術を開発して、こんな姿になるまで長く生きたんだ。…だが、彼女もさすがにもうかなりの高齢でね。正直なところ、あとはもう永遠の眠りにつくのを待つばかり、というところだよ」
「…だから君も…自分の寿命を受け入れることにしたと言うことかい」
ウルトラマンは頷いた。
「ところで…今、君のこの身体はどのくらいあるんだい?」
「全長10光年を少し超えたというところだよ。下手に動くと近くの恒星系を破壊してしまいかねない」
「そうか…」
ウルトラセブンは腕組みをして考えこみながらウルトラマンに問うた。
「君の身体がここまで大きくなったのは、君が開発した長命の技術が関係しているのかい」
「ああ」
ウルトラマンは自分の発明と自身の身体に起こったことをどのように話せばよいか、少しの間知恵を巡らせた。
「…ウルトラマンヒカリが発明した生命を固定化する技術については割愛しよう。とにかく私は長い年月を研究に捧げて、彼から学んだ生命を固定化する技術を永遠と言っていいほど長く維持することに成功した。そしてそれを我が身に施した。だがね、一つ問題があった」
「…なんだい、それは?」
「記憶だよ」
ウルトラマンは少しだけ顔を歪めて、そう口にした。
「長く生きればそれだけ記憶の量も増えてくる。記憶を保持するためには脳を大きくしていかざるを得ない。脳が大きくなっていけば、それを維持するために他の身体器官も大きくなっていく…だから私の身体はこんなにも大きくなってしまった…まぁ別の見方をすれば、私は光年単位のサイズの身体でも生命維持を可能とする技術を発明してしまったということでもあるんだがね」
謙虚でもあるウルトラマンにしては珍しい自画自賛を聞きながら、ウルトラセブンは頭に浮かんだ素朴な疑問を口にした。
「そこがわからないな、ウルトラマン。記憶するために脳と身体を大きくしていかなくてはならないと言うなら、記憶を必要なものとそうでないものに分別していけばいいんじゃないのか? というより普通はそうだろう。私たちウルトラ族は何万年もの寿命を持つ生命体だが、生きていた時間全ての記憶があるわけじゃない。有体に言えば、生物は不要な記憶は忘れて生きているんだよ」
「…普通に考えればそうだろうなあ」
ウルトラマンは答えた。
「だがねえ、ウルトラセブン。私はね、恋をした相手のことを一つたりとも忘れたくなかったんだよ」
「…え」
ウルトラセブンは思わず固まった。
「彼女の何気ない一挙手一投足、身体から放たれる柔らかな温もり、時に優しく時に荒ぶるその美しさ…そしてそんな彼女に対して想い抱いた私の感情…私は彼女についてありとあらゆることを覚えておきたかったんだ」
沈黙したウルトラセブンに向けて、知らずウルトラマンは熱弁した。
「私はね…いついかなる時も彼女のことを考えていたんだよ。だから全ての記憶が彼女と結びついている。彼女とは関係ないからと忘れてしまっていい記憶は私には一つもないんだ。だから私は、私の永い人生のすべての記憶を持っているんだ」
ウルトラセブンは、あらためてもう一度固まった。
「つまり君は…本当に四六時中、君の姫君のことを考えていたということかい?」
「まぁ…そういうことになる」
ウルトラマンは流石にきまり悪そうに答えた。
ウルトラセブンは呆れ返っている。
「じゃあ君は…宇宙警備隊の重要会議の最中にも…」
「それはもちろん会議のことを一生懸命考えていたよ。でも、それと同じくらい彼女のことを想っていたことも否定しない」
「…君は基本的に無口な奴だったが…もしかして、それは彼女のことをずっと考えていたからだったのか?」
ウルトラマンはこくりと頷いた。
「ウルトラの国の危機に強敵の宇宙人や怪獣と戦っている時も…」
「彼女のために死ぬわけにはいかないとその一心で戦っていた」
ウルトラセブンはしみじみと、深い深いため息をついた。
「その挙句…全長10光年まで巨大化してしまったのか」
「ああ」
ウルトラセブンは、ウルトラマンのその愛の姿勢に、さすがに引いた。
冷静になれ、と両手で自分の頬を叩く。
「なぁ、ウルトラマン」
「なんだい、ウルトラセブン」
「もうはっきり聞くよ。君の恋の相手は誰なんだい?」
ウルトラセブンは怒気を隠さずウルトラマンに尋ねた。
「君が恋焦がれる姫君に地球で出会ったのはもう50億年以上昔の話だ。地球は膨張する太陽に巻き込まれてとっくの昔になくなってしまった。だから君の姫君が地球人なら生きている筈はないし、そもそも僕が知る限り、億年を超えて生きる生命体なんて存在しない…ただ一人の例外である君を除いてね。なのに君は君の恋人が瀕死とはいえまだ生きていると言う。いったいどういうことなんだ? 君の恋のお相手というのはいったい何者なんだ?」
「ウルトラセブン。今、君は彼女の名前を口にしたじゃないか」
「え?」
「私たちのもう一つの故郷と言っていい星、地球。その地球をいつも優しく暖かく見守りながらともにあった母なる星。太陽だよ。太陽こそ…私の天使なんだ」
* * *
二人の間に、数万年の時が固まって流れた。
「ああ…ウルトラセブン。そんな引きつった笑顔で私を見るのはやめてくれ」
ウルトラマンは懇願するように言った。
「落ち着いて聞いてくれ、ウルトラセブン…なんて言うのかな。そう、地球にいた時だ。君は素晴らしい絵画を見て心を囚われたことはなかったかい。美しい景色でも、音楽でもいい。感動して立ちすくんで一歩も動けなくなる…そして永遠にこの感動とともに過ごしたい…そんな風に思ったことがなかったかい? 私が言う恋とはそういうことなんだよ。私はそれを実現しただけなんだよ」
ウルトラマンの必死の眼差しに、ウルトラセブンは努めて冷静さを取り戻そうとした。
「…わかった。君がロマンチストだと言うことがとてもよくわかった。想像を絶するスケールの大きいロマンチストだと言うことが、自分のことのようによくわかったよ。僕はもう何も言わない。ただ黙って君の壮大な愛を理解し受け入れることにする」
ウルトラセブンはまだ動揺を抑え切れないながらもそう言った。
「ありがとう、ウルトラセブン」
ウルトラマンは安堵のため息をついた。
「ところでその、君の愛しの姫君だが…確かにもう瀕死と言っていい状態だな」
「ああ。僕たちがこうして話していた間にも彼女はどんどん弱っていった…」
ウルトラマンはかつて太陽と呼ばれていた星のある方向を寂し気に見つめた。
全長10光年を超えるウルトラマンの思考速度はとてつもなく遅い。
脳内を複雑に流れて思考を形作る電気信号が光速を超えることはないからだ。
ウルトラマンとウルトラセブンが言葉を交わし始めた時からどのくらいの時が流れたのか、計ることができる者はいない。
ウルトラマンが愛する太陽は、二人が会話を始めた時点ですでに水星と金星、地球を飲み込むほど巨大化して久しかった。
いつしか収縮を始めた太陽がその姿を白色矮星へと変え始めたのは何千万年、いや何億年前のことだろうか。
そして今、太陽はわずかに残った熱をその身体から少しずつ放出し、燃え尽きた小さな黒色矮星へと変わろうとしている。それは、天使の死と言っていい。
「…で、どうするんだい。ウルトラマン」
ウルトラセブンが静かに尋ねると、ウルトラマンは穏やかに呟いた。
「…彼女が燃え尽きた時に、一緒に宇宙に還ろうと思うんだ」
言葉はきれいだが何かとんでもないことをするつもりだな、とウルトラセブンは思った。
そんな彼の心中を察したのか、ウルトラマンはウルトラセブンに笑いかける。
「大丈夫だよ。心ここにあらずだったとはいえ私もウルトラ兄弟…宇宙警備隊員だった男だ。誰にも迷惑をかけずに彼女と一つになる方法くらい考えてあるよ」
「…そうか。では、いつ行くんだい」
「もうそろそろだね。彼女の最後の命が放出される時にそばにいるためにはそろそろ行かなくてはならない」
「では、お別れだね。ウルトラマン」
「ああ。君には世話になった。ありがとう」
二人はしばし見つめ合った。
「ところでウルトラセブン。最後に私も君に聞きたいことがある」
ウルトラマンが尋ねた。
「なんだい、ウルトラマン」
「君はいったい誰なんだ? さっき君自身が言ったことだが…億年を超えて生きる生命体なんて私の他にはいない。なら君は…何故こうして私と話をしているんだ?」
ウルトラセブンはやれやれ…と頭を振って答えた。
「自分の人生のすべてを覚えていると言いながら僕の正体は忘れてしまっているなんてなあ。…僕はウルトラセブンではあるけれど…突き詰めれば君だよ。僕は、君が自分の記憶の中の僕の性格から創り出したウルトラセブンなんだよ。つまるところ君の別人格だな。50億年前に死んだ本当の僕は多分こんなに穏やかじゃない。もう少し厳しく…ともすれば猛々しい性格だったんじゃないかな」
ウルトラマンはまたしばらく…と言ってもそれは数十万年の時の長さだが、考え込んだ。
「そうか。さっき私が君に家族のことを尋ねたりしたのは…私は何十億年も彼女を見つめ続けて幸せだったけれど、意外と寂しかったのかもしれないな」
そんなことを呟いたウルトラマンに、ウルトラセブンは微笑んだ。
「さあ、ウルトラマン。そろそろ行った方がいい。彼女の今際の際に間に合うように」
「ああ。ありがとう、ウルトラセブン。さようなら」
ウルトラマンは内を向いていた意識を宇宙へ向けた。
5光年ほど先…ウルトラマンからすれば目と鼻の先にあるかつての太陽系に、彼はそっと手を伸ばした。
ウルトラマンの瞳に、ちっぽけな黒色矮星となりつつある太陽が映った。
かろうじて彼女に付き従っているいくつかの外惑星ごと、ウルトラマンは両の掌で優しく太陽を包み込んだ。
そして、ウルトラマンは10億年ほど前にアンドロメダ銀河と合体して新たな星の渦となった銀河系から、旅立った。
銀河と銀河の間の本当に何もない宇宙空間まで、ウルトラマンは飛んだ。
掌に包み込んでいた太陽系を愛おし気にもう一度見つめてから、ウルトラマンは祈りを捧げるように両掌を胸の前で組む。
太陽から放出されているか弱い熱エネルギーがさらに弱まっていくのを感じる。
ウルトラマンは静かに、左右の手にプラスとマイナスのスペシウムエネルギーを限界まで蓄えていった。
そして、その時が来るのを、50億年の思い出とともに待ち続けた。
組んだ掌の中で、太陽が放出する熱エネルギーがほんの一瞬だけわずかに強まり、そして止まった。
それを感じ取ったウルトラマンは、両手のスペシウムエネルギーを、放出することなくスパークさせた。
広大な宇宙に閃光の花が咲いた。
太陽と、ウルトラマンを形作っていた物質が無の空間に放出された。
* * *
宇宙に、太陽とウルトラマンが1つになって創り出した新しい銀河が誕生するのは、これから約100億年ほど後のことである。
了
お読みいただきましてありがとうございました。
とりあえず、約一万文字の中で、スケールだけは壮大な小さい話をかけたので、作者的には満足。