天使のみに祈りを捧げよ   作:yuzu

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その罪の名を

 

 

 

ふわふわとした感覚だった。

ただ宙に浮いてるだけで、腕も脚も目も口もない。

 

けれど、なぜか自分がそこに存在しているということだけはわかる。

だが、自分という存在が、今にも泡のごとく消え去ってしまいそうなのもわかった。

 

死にたくない。

 

こんな状態でも、私は生きたいと願ってしまうほどには生に執着していたらしい。

 

 

《……い……は?》

 

掠れた声がした。

 

《貴方の……願いは?》

 

合成音のような無感情で冷たい声だった。

そこによりそうような温かみはない。

だが、会話は成立しそうだ。

 

『_____』

 

声が出ない。

当然だ。口がないのだから。

だとしたら、質問にはどう答えればいいのか。

 

《貴方の願い。それを心に浮べるだけでいい》

 

合成音声が、少しだけ人間味のあるものになる。ついでに説明も具体的に。

 

 

_____死にたく、ない

 

 

《どんな姿になっても?どんな未来が待ち受けていても?それでも……》

 

____しつこい。生きたいんだ

 

《本当に?本当に、生きたい?》

 

……………。

 

《何かに振り回されたりするのはもうごめんじゃないの?》

 

____そうだ。疲れるし、面倒だ。

 

《じゃあ………》

 

____でも、死にたくはない。生きたい

 

《………そうですか》

 

 

悲しそうな声が私を包む。そちらが願えと言ったから意思を表したというのに、それを落胆したかのように受け止める声が不思議だった。

 

 

《生き汚いくらいが、ちょうどいい…………》

 

 

瞬間、ぼやけて見えていた視界が明るいものになる。目の前のものがぼやけているのは変わらないが、少なくとも光は見える。

 

《君は……何だ?》

 

声は先程のものよりも、流暢に問いかける。

 

《君の罪は何だ?》

 

突然、辺りが燃え盛る。

不思議なことに熱さも恐怖もない。

 

 

《激情に身を任せ、己を守る偽善者か?》

 

 

《肉欲を貪り尽くす理性なき獣か?》

 

 

《全てを平等に喰らう大食か?》

 

 

《高慢な考えを持つだけの猿か?》

 

 

《塵ですらも手に入れんとする貪欲な愚者か?》

 

 

《羨望だけの、努力すら忘れた天才か?》

 

 

《堕落し、ただ時間を貪るだけの廃人か?》

 

 

 

声が一瞬途切れる。

 

 

《判決だ》

 

《君は憂鬱。何にもなりきれない半端者___罪たる資格なし》

 

罪が魂に刻まれる。

 

 

 

瞬間、視界が弾ける。

 

《確認しました。個体名____は、憂鬱者(カタスリプス)を獲得。付与効果として各耐性を獲得しました》

 

また声が聞こえる。

今まで聞いた中で、一番機械的な声だ。意味のわからない言葉を誰に向けるでもなく発している。

 

そしてまた、声がする。平坦な声だ。感情の振れ幅が大きいあの声たちよりかは安心出来る。

 

《忠誠を捧げよ。ただ一人に》

 

やはり、何を言っているんだ。お前らは_____

 

そんな言葉はやはり、音にならなかった。

 

 

 

 

 

 

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