天使のみに祈りを捧げよ   作:yuzu

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文才が欲しい……


仲の悪さはお墨付き

 

 

 

綺麗だった。

透き通りながらも自身も光を放たんとする奥に隠された熱意。慈愛に満ちた優しさに包まれた温かい色。その『希望』はこの暗闇の中では一層映える。

 

思わず手を伸ばすと、光は決して捕まるまいと遠くへと逃げていく。

 

追いかけたいとは思わなかった。追いかけてしまってはダメな気がしたのだ。

 

掴むにはまだ早いと誰かが言う。

あの光にふさわしいものになれと。

決して光でなければならない___なんてことは無い。

光があるからこそ闇は生まれるが、闇は光を光たらしめるのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

暖かな日差しの注ぐ爽やかな早朝。彼は重たい瞼を一瞬だけ開け、またすぐに閉じる。流れるようなプロの二度寝に隣でボソボソとした声が耳に入った。

 

「おはよう……ございます……ディーノ様」

 

声は小さいはずなのだが、不思議とその声は耳に入る。低くもなく、高くもなく凪いだ湖のように安定した声は寝起きにも頭に響かず、ディーノは気に入っていた。

 

やはりまだ寝ていたいと訴える瞼を無理矢理こじ開け、「……ん」と短い返事をすれば、声の主は長年過ごしていないとわからないほどの『歓喜』で周りの空気を緩めた。

その者は黒みがかった美しい六対の翼が生えていることから天使族に近しいものだとわかる。

 

その天使の名は『レヴィア』。

黒装束に身を包み、長年ディーノに仕え続ける忠実な部下である。煌めく灰色の長髪に、光のない銀色の瞳。目鼻立ちは整っているが、男が女か判断に困る中性的なものだ。

 

レヴィアは囁くように自身の主へ、恒例の質問を投げかける。

 

「今日の朝食は……どうなさいますか……?」

「んや、いい…………」

 

「ディーノ様……頑張ってください……」

 

再び寝そうになるディーノに、天使は(これもまた長年の経験が必要なほど僅かに)焦ったように彼を励ます。

 

「ふあああ……」

 

気の抜けるような欠伸をしながらも、何とか持ち直したディーノを見るレヴィアの表情はピクリとも動いていないが、本人的には慈愛に満ちている……らしい。

 

 

 

 

 

 

廊下を眠気のせいでおぼつかない足取りで歩くディーノと、(これもまた…以下略)倒れまいかと不安そうに斜め後ろを歩くレヴィア。

 

 

主の願いに忠実なこの生真面目は、余程のことがない限りディーノを起こさないし、起こさせようともしない。彼の睡眠時間をダグリュールから守っているのは紛れもないレヴィアである。

 

そんな優秀な執事であるレヴィアはディーノの睡眠時間や予定の管理を任されている。……といっても、ディーノは部下をあまり作らない主義なので、それをするのがレヴィアただ一人だとからという理由もある。どちらにしろ、あらゆる人材の中でも飛び抜けて優秀であることに変わりは無い。

ディーノを第一に考えすぎたり、少し感情の読みづらいところが怖いが、それを抜きにすればかなりの逸材であるのがこの天使なのである。

 

 

「んで、今日ってなんかあったっけ?なんか誰かと会う約束をしたような……?」

 

「……ギィ…様とのご歓談のお約束が……」

 

「ああ……そんなのもあったな」

 

「歓談など……建前にすぎませんから」

 

「だよなあ……」

 

段々といつもの調子を取り戻し始めたディーノに、レヴィアはボソリと返す。他の者だったならば、その聞き取りずらさに「ハッキリ言え!」とでも文句をつけてしまうだろうが、ディーノは長年の付き合いのせいか気にすることも無く、中身のない返事と大きなあくびをする。

 

「やっぱキャンセルとか無理かなあ……眠くなってきたし」

 

「……では……今すぐにギィ…様にご連絡を……」

 

「冗談だから本気にすんなって!そんなくだらない理由で断ったら何されるかわかんねえよ!お願いだからやめて!」

 

結構本気で断ろうとしていたところを慌てて止めるディーノに、レヴィアは(これも以下略)驚いたように彼を見ると、

 

「ディーノ様の御判断は……絶対でございます……それにあのような者に……ディーノ様の時間を奪う価値などありません……断じてありえない……」

 

「お前、ギィのこと嫌いすぎじゃない?」

 

ギィに対して様付けに激しい拒否反応を示すレヴィアは、時々こうして彼をディーノから距離をとらせたがる。

 

原因は不明だが、レヴィアはギィ(オマケにレイン)ら悪魔のことを酷く嫌っているのだ。ついでに言えば(ノワール)(ヴィオレ)(ジョーヌ)…………原初の悪魔達を片っ端から目の敵にしている気がする。というか、レヴィアが好意を持っているのはディーノの他にはほんのひと握りしかいない。いわゆる社会不適合者に近い。

 

レヴィアもそれを自覚しているのか、控えめな態度でそれを否定する。

 

「……いえ。ディーノ様のご友人に……そのような不敬な感情など………な……」

 

「くないんだな。いいよ、無理しなくて」

 

「そんな…ことは……な……」

 

くないらしい。

 

本心を見透かされて(これ…以下略)項垂れるレヴィアの肩に、ディーノはそっと手を添えた。

 

 

 

 

 

 

レヴィアはディーノの狂信的な信者である。これはディーノとレヴィアを知るもの達からすると、周知の事実である。

 

 

曰く、ディーノに何かあれば、すぐさま何万倍もの仕返しが待っている。

 

曰く、ディーノが関われば、レヴィアには躊躇も慈悲もない。

 

曰く、レヴィアはディーノという存在がある限り不滅である。 この噂は眉唾物だが。

 

 

詳細は省くが、第一にディーノ、第二にディーノ、第三にディーノ、その後ろも全てディーノで埋め尽くされている。そこに他人の配慮など一切ない。レヴィアの行動は全てディーノのためであり、レヴィアの存在意義もまたディーノのみだった。

 

『何にも興味はない』オーラと常に無表情をしているため、近寄り難い雰囲気であるが、本人曰く『これでも寄り添っている』らしい。『昔はもっとピリピリしていたが、ディーノ様のおかげで他人への思いやりを覚えた』とも。彼を知っている者がそれを聞いていたら「どこがだ!」とツッコミたくなるだろうが、レヴィア的には天と地、月とスッポンほどの差があるらしい。

 

「まあ、いいけどさ」

「…………」

 

心の隅では意識が持っていかれつつも、ディーノは決してギィとレヴィアの壊滅的な仲の悪さは直すことは不可能だなと諦めの境地に達する。

そう、それよりも自分たちにはやるべきことが残されているのだ。

 

「今日は半日は寝る……といいたいところだが、お土産持ってかないとギィが拗ねるからな……久しぶりに街でも行くか……」

「……?……街になら私一人で……」

「ダメだよ。お前、前々回にシャンパンに見せかけた超濃度聖水持ってきたじゃん。アレでつまみ飲みしたレインが大変なことになったって、ギィから苦情が来たんだよ」

「……それは……自業自得では……?……それは……さらに高位の悪魔が飲めば……ただの刺激的なアルコールになる……はずのものです」

「ギィ曰く『舌が焼けるかと思った。アレ絶対お前んとこの天使の自作だろ』って。いや、俺が飲んだらめちゃくちゃ美味しかったけどさ!悪魔に出すもんじゃないって!」

「……では……聖水ゼリーに……?」

「だからどっかの街のお菓子でも買おうかって言ってんだよ」

 

何故ここまで敵意を持つのか。ディーノは頭を抱える。レヴィアともギィともそこそこ長い付き合いだ。

しかし、彼らの仲違いの原因をディーノは全く知らない。最初は興味も持っていなかったような気がするし、そもそも二人が喋っているところなど喧嘩以外では見たこともない。レヴィアの出生やヴェルザードの関係などで拗れることはあっても、ここまで仲が悪くなるのはディーノも予想していなかった。

なんとなく聞いてみても「アレは邪魔しかしない、悪なるものです。ディーノ様と同じ世界線にいるのが許せません」とレヴィアにしては本当にほんとうに珍しく、ハッキリと早口で言われた。それ以来怖くて深入りはしていないので、真相は闇の中だが……。

 

「やはり……直接殺すべき……でしょうか……?」

 

「ダメに決まってんだろ、バカあ!」

 

そろそろ仲直りして欲しいものだと、ディーノは大きなため息をついた。

 

 

 

 

 

 

 

_______場所は変わり、白氷宮にて。

 

妙に張り詰めた空気が部屋を包む。敵意でも好意でもない複雑な感情が辺りの気温をさらに下げていき、紅と灰の視線が交じり合う。冷や汗をかく一人を挟んで絶対零度の火花が散った。

 

「……なあ、会うたびにこの雰囲気になるのやめない?」

 

ディーノがボソリとつぶやくと、睨みあっていた二人は彼に視線を移す。しかしどちらも冷徹なオーラが漏れ出たまま抑えきれていない。

その迫力にディーノは「やっぱり何でもないです」と言いかけたが、これは紛れもない本音なのだ。ギィの後ろに佇んでいるレインとミザリーも少しだけ顔色が悪い。それほどまでにここは居心地が悪くなる。謝れられる権利はあれど、引く理由などない。そんなディーノにギィは舌打ちをし、レヴィアはそっと目を閉じて引き下がった。

 

 

ということで、もう一度やり直しである。

 

「よく来たな、ディーノ………と、ついでにお前もな」

 

「……ギィ…様も、お元気そうで何より………まあ…それしか取り柄がないともいいますけど……」

 

「ハハハハハ。金魚のフンが言うようになったじゃねえか」

 

「………黙れ。汚らわしい悪魔め。ディーノ様の視界に入るな。視界に入れるな。このお方はお前如きでは認識すらしてはいけない尊き存在なのだ」

 

「お前ら仲良くしようよ……」

 

ダメだった。ディーノはいつまでも大人げない二人に大きなため息をついた。

ここにヴェルザードがいなくてよかった。彼女がいたらここは戦場に変わっていたかもしれない。不幸中の幸いというヤツだ、とディーノは(ヴェルダナーヴァ)に感謝をし……。

 

 

 

「ねえ、レヴィア?仮にもあなたの主と同じ『魔王』に向かって失礼じゃない?」

 

 

 

聞こえてきた声に思考が停止した。

声の主は冷気を漏らす白銀の少女。ディーノがいてほしくないと願ったヴェルザード本人だった。

その姿にレヴィアの顔は少しの付き合いの人でもわかるほどに険しくなる。付き合いの長いディーノからしたら、超絶にヤバい怒りのサインである。

 

「おい、レヴ___」

 

「死ね」

 

ディーノがストップをかける二足ほど前に、レヴィアは魔法を放っていた。

ヴェルザードはそれを優雅に避けると、不敵に笑う。

 

横では当然のように城に穴を空けられ頭を抱えたギィと、彼から苦情を受ける未来を予感したディーノが顔を真っ青にしているのだが、彼女達の知るところでは無い。

 

 

「___っ」

 

レヴィアが漆黒の宝石のような美しさを放つ苦無を投擲する。ヴェルザードはそれをまたもや躱し、壁が大規模に崩れた。ギィは呆れて魂が抜けかけているようだ。

 

「ねえ……いい加減、退屈じゃない?そういうの」

 

ヴェルザードが踊るように氷の鞭を放つ。ずっと攻撃を避けるだけだった彼女の初めての攻撃だった。

 

いや、彼女にとっては『牽制』の方が近い。

 

しなやかに伸びる鞭は生き物のようにレヴィアに絡みつこうとし___レヴィアの身体に触れる前に一瞬で消えた。

 

「本当にソレは厄介ね。大嫌い」

 

「お褒めに預かり………至極光栄」

 

「褒めてないわ」

 

これがヴェルザードが攻撃という攻撃をせず、レヴィアからの『攻撃』を[[rb:避ける > ・・・]]理由だ。彼女はレヴィアが“異次元の存在”であることを知っている。比喩ではなく、そのままの意味だ。

 

レヴィアの『攻撃』は防御は不可能であり、こちらからの『攻撃』はレヴィアに決して届かない。

 

理不尽の塊だ。理屈や原理がわかっても、倒すことの出来ない障害。だからこそ、ヴェルザードはこれを『喧嘩』の範囲内としている。もしも、もしもレヴィアと本気で戦った場合__どんな手を使っても敗北は必須なのだから。

 

いつの間にか手にしていたレヴィアの剣をヴェルザードは[[rb:躱す > ・・]]。決して受け止めてはいけない。レヴィアに触れたもの、触れたものがあるもの、周りに存在するもの、それらは全てレヴィアの支配下にある。それが剣であっても例外はない。

どんなガラクタでもレヴィアが触れた瞬間にそれは『神器』に変わる。どんな生物でも滅ぼすことが可能な殺戮の剣となる。

 

だから_____

 

「親子喧嘩は子供の成長と共に少なくなるって聞いたことがあるけど、今は思春期ってヤツなのかしら」

 

「___死ね」

 

減らず口だけで彼女は対抗する。それが口下手なレヴィアに唯一勝てる所。

 

さあ、親子喧嘩はまだ始まったばかりだ。

 

 

 

ミザリーとレインは「また始まってしまった」とばかりに、城の修繕と簡易的な結界の設置に取り掛かる。簡易的、というのはどれほど硬い結界を張ったとて彼女達の前には薄氷も同然なので、『これくらいで勘弁してください』という懇願である。決して被害を止められるわけではない。

 

 

それを見たギィは虚ろな瞳のまま、ディーノの肩に手を置く。

 

「……まあ、問題なさそうだし、今日のところは帰ってくれ」

 

「現実逃避すんな!止めろよ!」

 

ディーノのツッコミとともに、レヴィアの超高密度魔素弾がギィに炸裂した。

 

 

 

 

 

 

 

___________

 

 

 

個体名:レヴィア

種族:堕天使族(フォールン)

主:ディーノ

加護:唯一神の加護

称号:???

スキル:???

究極能力:???

耐性:不要

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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