恋愛だけでは語り切れない二人の奇譚を生暖かく見守っていただけたら嬉しいです。
アンチコメントはノーサンキューです。
❲意訳: お見合いに行ってきなさい。❳
グシャッ!!
当主命令が書かれた紙が手の中でつぶれる。
五条悟 16歳
この度実家から見合いに行ってこいと、当主命令と書かれた紙が速達で高専に届いた。
中身を見た瞬間、額の血管がいくつか切れた気がしたのは気の所為だと思いたい。
更に、付属した釣書に書かれた情報に頬を引き攣らせたのは同情してくれても良いと思う。
藤原銀樹
11歳
その部分を見たとき、絶妙に微妙過ぎる年齢差に色々頭を抱えた。
今は世間的に特に問題ないかもしれないが、自分が年を食えば事案になりそうな差でもある。
だが珍しい事に、この釣書は藤原から送られたものでは無く実家が自分の釣書を送って返答として帰って来たのがこれらしい。
自分は貰う側にある家だが、こちらから送るというのは何かがある訳だ。
行くか行かないかと聞かれれば行きたくないと声を大にして言いたい。
しかし実家が釣書を送ったとなれば、相手は相当な家柄となる。
幾ら最強の名を誇る自分といえど、無理を通す為に色々融通を効かせて貰っている以上、父親の命令には従わなければ後々面倒くさくなってしまう為、非常に不本意ではあるが…
「行くしかねぇか。」
嗚呼、今日はとんだ厄日だ。
京都と大阪の境にそびえたつ小さな山、それが柊山である。
其処は禁足地とされてあり許可証が無い者は立ち入る事が出来なく、山全体が、清浄な気で包まれている。
「ここか。」
五条の目の前にそびえ立つ大きな鳥居で、そこから上へ上へと長い大階段が続いていた。
「これを登れっていうのか。ハーっ、めんど。」
グチグチ、文句を垂れつつも、鳥居の内側へ足を踏み入れた次の瞬間。
『どなたですか!?』
幼児特有の幼い声が後ろから飛んで来た。
驚いて後ろを振り返ると、水干を着た女のガキがいた。
「はあっ!?何でお前俺の後ろにいるんだよ、今、気配無かったよな?」
「そんな事はどうでもよいのです。あなたはどなたですか?ここは禁足地、許可なき者は立ち入りできません。」
天下の五条のツッコミを物ともせず、マシンガントークの如く、ガキは矢継ぎ早に質問してきた。
「藤原銀珠(ふじわらぎんじゅ)ってやつの見合いに呼ばれたんだよ。で、その場所が此処ってわけだ。」
そう言うと、ガキは納得したという顔で口を開いた。
「成程、姫様のお見合い相手の方でしたか。失礼いたしました。それでは、総理大臣、もしくは呪術高専の学長殿の許可証はお持ちでしょうか?」
「これのことか?」
手に持っていた其れは、今朝、藤原銀珠の見合いに行くと、言ったら、慌てた夜蛾が学長から一枚の紙を貰ってきて、絶対に無くすなと念を押されて持たされた物だ。
それを投げて渡すと、ガキはざっと中身に目を通した。
そして、視線を紙から悟に戻すと。
「ようこそいらっしゃいました五条悟様。姫様のもとへご案内いたします。ついてきてください。」
そう言って悟の隣をすり抜けスタスタと階段を登り始めた。
・×・×・
「姫様!起きる時間ですよ!」
「ん…っ。」
私の朝は母代わりの銅(あかがね)の起床を促す大声から始まる。
そこから側仕えの金華が私の身支度を整えて三人で朝食をとる。
これが大体の朝の流れだ。
私は藤原銀珠。
はるか昔の平安の時代の藤原氏流れをくむらしいしがない神社の神主の血筋に生まれた娘だ。
生まれた時、龍神の加護を受けたらしく、常人にはない浄化の力を使う事が出来ると占いを扱う術師に言われた。
なんでも、200年に一度生まれるかの存在の為、私の希少性は高く、これまでも呪詛師や、呪術師、果ては、呪術界から恨みを買われ呪われたくない政治家が私を狙って何度も襲ってきた。
父も母も父に拾われ仕えてくれた人達もみんな必死に私を守ってくれた。
しかし、4歳の時に呪詛師の集団に襲撃され、父は銅に私を託し、母も、仕えてくれたみんなも死んでしまった。
銅は私をつれて各地を転々とすると、京都の郊外にあった柊山を見つけてそこへ移り住み元々、呪具師として生計を立てていた時のお金を使って小さな屋敷を建てた。
柊山は銅が作った様々な呪具によって守られてあり、時折害意があるものが侵入しても、屋敷にたどり着く事はなかった。
7歳の時に、山に捨てられていた金華を拾ったりしてそれなりに静かで穏やかな日々を過ごしていた。
しかし、8歳にの時にその穏やかな平穏は失われてしまった。
銅の張った呪具の結界をすり抜けて数体の呪霊が屋敷を襲撃した。
銅の不在を狙った襲撃だった為、私と金華は逃げるしかなかった。
銅に戦いの手ほどきをうけた金華も必死に応戦したが、屋敷の最奥まで追い詰められてしまう。
私が食い千切られるか金華が引き裂かれるか。
絶対絶命のその土壇場で、私が無意識に封じていた力が戻ったのだ。
金華を守る。その意思が込められた浄化の光は体から溢れ出し、呪霊を強制的に浄化し、結界の要であった呪具を破壊してしまった。
自分の体から溢れ出す力は、隠すに特化した銅の結界を破り、巨大な力の残滓は京都の呪術師に感づかれてしまった。
私に隠し切る事が出来なくなった銅は私に全てを話した。
父と母のこと、呪術の事、そして私の力のことを。
「姫様の力は余りにも強すぎるものです。これからも私は姫様をお守りしますが、全てを守りきれるかは保証できません。」
「どうか、庇護者を見つけてくださいませ。姫様が健やかに暮らすことが銅の望みです。」
銅は苦渋を飲み込んだ表情でそう言った。
呪霊の襲撃後、私は京都の呪術連総監部に呼ばれた。
事情聴取と教えられたけれど、どうやら私が彼らにとって有害か無害かを見極めたかったらしい。
ジロジロと私を眺めながら彼らは口々に言った。
「これが、一族を滅ぼした忌み子か。」
「我らに害をなすかも知れぬぞ。」
「なに。肚としての能力は未知数。子だけ産ませて取り上げれば良いだけだ。」
私に分からない言葉を使っていたけれど、悪意は肌で感じ取った。
チクチクドロドロした視線が絡みつく悪意の視線に思わず目を伏せた。
気づいた時には、私の霊力で周りの人間を威圧して私に悪意を向けていた人間はその場に倒れていた。
後に銅に聞けば、私の霊力は龍神と繋がっているため、使い方しだいで人の呪いを祓う呪術師にとっては薬にも猛毒にもなるそうだ。
特に、呪霊操術を扱う呪術師は私が浄化の力を使うと、飼っている低級の呪霊は消し飛ばされてしまうらしい。
実際に試したことがないため本当かどうかは分からないが。
上層部にとっては危険極まりない力ではあるが、神子の力は貴重で有益。殺すにはデメリットが大きいらしい。
そこで、私と上層部は以下の縛りを結んだ。
一つ呪術師に私の力の提供し協力する事。
一つ危害を加えて来た者は例え呪術師であれ殺してもよいこと。
一つ呪術師は私を守ること。
一つ危害を加えない者を殺さないこと。
一つ危害を加えない限り、依頼にはできる限り応えること。
一つ呪詛師以外の殺しは例え幇助とはいえ手を貸さないこと。
一つ私に関することは私の意思を優先すること。
これらのことを記した紙を持ってはらはらとしながら私を待っていた銅の元へ戻ればとても喜ばれた。
頭をぐしゃぐしゃ撫でられて、
「ざまぁ!!クソジジイ共!」
とか、
「うちの姫様は最強だっつーの!」
とか
「姫様に負けるとかジジイどもとうとう耄碌したか!?」
とか普段の丁寧な言葉が大いに崩れていた。
その晩は普段甘いものを用意してくれない銅には珍しくフルーツの盛り合わせを用意してくれて、私はよく分からずに金華と大興奮して食べた。
それから暫くの日々は、銅から呪術や、呪術師について学び、教養を身に着けた。
華道や茶道に、学校という場所で習うらしい勉強を教えて貰ったり、体術で投げ飛ばされ星になったり。
(ちなみに、姫様の体力はハムスターと銅に評されるほど私に体術の才能は無いらしい。)
たまに銅が制作する呪具を金華や近隣の小さい子たちと一緒に遊んだり、依頼で呪術師のサポートをしたり、時折訪れる嫌味な人間を嫌味で撃退したりとそれなりに穏やかに過ごしていた。
そんな平穏が二度目の現在進行系でぶち壊されたのは、10歳になった時だった。
そう、お見合いフィーバーがやって来たのである。
やれ競りだといわんがばかりに、釣書が山のように届けられるようになり、一時期は一室を占領するほどの釣書の山に掃除をする金華が青筋を浮かべて
「焼き芋ができそうですね。」
と憤怒の表情をしていたが、待ったを掛けて釣書の山から幾つかをより分けた。
昔、庇護者を見つけてくださいと言った銅の言葉を思い出したのだ。
私は弱い。
まあ、物理的に弱いが主だか、人の悪意の攻撃をかわし切れる程の権力ちからを持っていなかった。
特別な神子様と呼ばれようとも私はただの小娘。
銅と金華の命を守るのが精一杯で沢山の悪意の嫌がらせで二人には苦労を掛けてばかりだった。
だから、二人を守る為に沢山の男性とお見合いをした。
しかし、現実はどうにもうまくいかず、私のお見合いは難航した。
まず、私を侮った人は金華と銅によってバイバイキーンになり。
縛りを知らずに殺しに来た人物は問答無用であの世へGO。
術式の相性が合わずせっかくの良縁でも無かった事になったり。
単純に家格が低すぎて論外だったり。
銅と金華に負けるほど弱かったりと中々条件に合う人物が見当たらなかった。
上は二十五歳から下は5歳まで、よりどりみどりといえば聞こえが良いが、実質は過大評価が大半である。
やれ三国一の美男子だの
やれ心ばえが良いだの
やれ文武両道だの
蓋を開けてみればブ男やクズ男にバカ男ばかりである。
そんな見合いがそろそろ二十は越えそうになった11歳のある日、金華が興奮気味に教えてくれた。
「姫様!今度のお見合い相手って、あの五条悟ですよ!」
「あの、五条悟。」
オウム返しに問い返してしまったのは許して欲しい。
金華が言ったのはどういうあの五条悟だろうか?
たまに任務のサポートをする呪術師から聞く六眼と無下限呪術の抱き合わせの神童の事だろうか。
それともたまにご機嫌伺いに行く上層部の愚痴で聞いた煽り散らす男の事だろうか。
はたまた女性の補助監督から聞いた性格以外パーフェクト男の事だろうか?
「それ、全部同一人物です。」
「あ、声に出てた?」
「はい。まるっと全部。」
「ひぇ、どんな人なんだろう五条悟。」
大いに不安はあるが、基準の大半を満たしているため、私と五条悟のお見合いが正式に決定された。
ここまでが朝ごはんをもぐもぐ食べながらの回想だ。
ご飯を食べながら銅が今日は見合い相手が来ると告げた。
成程、何やら東の方が騒がしいと思ったらあれって呪力だったんだ。
………え、、?ちょっと待った。
これだけ呪力の気配が強いってことはもう近くまで来てるってことだよね……
「金華。悪いけど麓まで行ってきて。銅、多分近くまでお見合い相手の方、来てます。桜枝垂れの間にいますので、おつきになられたら案内してください。」
そう言い残すと、大急ぎでお椀に残っていた雑炊をかきこみ、全速力で部屋に戻ると、自分の手持ちの中から一張羅に着替えると、庭にある桜の巨木によじ登った。
東から吹く風が頬をなでて目を細める。
ああ、癒し。この木に登って景色を眺めるのが実は私のストレス解消法の一つだったりする。
サワサワと揺れる風に身を任せながら春風の心地よさにウトウトしていると…
「おい。おまえが藤原銀珠か?」
はりのある聞き慣れない声に驚いて後ろを振り返る。
木の下に立ってこちらを見上げているのは、私よりも何倍も上背のある眉目秀麗な白髪の男だった。
長い石段を登った先にあったのはボロでも綺麗というわけでもないそんな屋敷の客間に通された。
藤原銀珠は何処かに姿をくらましたらしく、青い顔をしながら俺を連れてきた女は藤原銀珠を探しに行った。
俺は人生初、見合い相手に待たされるという経験をした。
謎の脱力感に包まれバックレてしまおうかとも思ったが鳥居を潜ったときから感じる山全体を包む結界の気配が妙に気にかかった為大人しく相手を待った。
すると、フワリと庭の方から何かの残滓が漂ってくる。
残穢というものでは無く白くてフワフワしていて、口に入れたら瑞々しく甘そう。
そんな食欲を掻き立てる残滓を追って庭に庭に出ると、そこには桜の巨木と。
「どなた?」
子供のハズキーな声に意識を向ける。
そこにいたのは真っ白でまるで何者にも染まってない。そんな不思議な力を放つ薄桃色の着物を纏った幼女だった。
「ええそうよ。その呪力の気配、あなたが五条悟ね。」
「は?わかんの?」
「うん。ぼんやりとだけね。量がわかるだけでそれがどんな性質なのかもわからないよ。」
「六眼の下位互換みたいなもんか。」
「そうね。下位互換といえばそうなのだろうけど、でもこんな特別なものを与えられるくらいなら、普通のそれこそ非術師として生まれた方がどれ程良かったことか。」
苦いものを噛みしめたような表情で銀珠は伏し目がちに俯く。
日本人特有の黒目は虚無に濁って何もうつしていなかった。
「お前さ、なんで死んだ目をしてんの?」
「·················え?」
驚いた表情で銀珠が俺を見る。どうやら無意識の図星をついていたらしい。
「なんか昔の俺をみたいですげー気持ちワリイ。腐ったミカンに毒されたじゃなさそうだけど、この世のことを知りませーーーんみたいで、面白くねぇ。究極の箱入りオヒメサマかよ。」
「失礼な!これでも街の食べ物を食べたことはありますよ。」
「んじゃどんなの?」
「わ、わたあめです!昔、まだ町外れで暮らしていた時に、銅が買ってくれたんです。」
それを聞いた途端、俺の腹筋は黒閃をくらった。
「·····ぶっはっっっwえ、もしかしてそれしか食べたことねーの?」
「ええそうですよ。。私、小さい時から色んな人に命を狙われていたからまともに街で買い物…?もしたことがないんです。」
「じゃあさ、今から街いくぞ。」
「え、でもここって結構街から離れてるってきいてますけど。」
「俺の術式の蒼で30分もすれば着く。それに俺、最強だから。お前一人くらい守れるっつーの。さっさとそこから降りて支度してこい。出かけるぞ。」
「!分かった!準備してくる。」
ぴょんと木から飛び降りて銀珠が屋敷の中へ走っていく。
銅ー!と呼ぶその横顔は、先程のらしくない姿とは打って変わり年相応のものだった。
最初に通された客間に戻り手持ち無沙汰に待っていると、ガラッと勢いよく引き戸が空いた。
「誰だね。お前は。」
「あ?おっさんこそ誰だよ。」
成金趣味が服着て歩いているようなセンスのないものばかり纏ったハゲデブ親爺が円座に座る俺を見下ろしている。
こんなやついたっけ?いや、いねーな。ここに来るまでにこんなケバい気配はしなかった。てことは十中八九外から来た人間だろう。
「俺は一応、今日ここのオヒメサマとの見合いに来てんだよ。見たところおっさん、お前アポ無しで来たんだろ?だったら帰れよ。」
挑発するように、おっさんを睨むとビクッと肩を震わせ顔を歪める。
「いいのか?そんな口のきき方で。わしは大臣との繋がりがある。お前を豚箱にぶち込むことなど容易く出来るぞ?」
「ほざけ。誰にもの言ってんだよ。」
お互い睨み合い一触触発の空気の中、ハゲデブ親爺の背後に現れた気配と共に場に横槍が入った。
「これは三浦様。今日はお約束は無かったはずですが、そんなに慌てて如何なされました?」
冷ややかな幼い声が自分とハゲデブの耳に入ってくる。
驚いて飛び退くハゲデブの背後に立っていた銀珠が姿を現した。
薄桃色の着物から着替えたらしく、若草色のワンピースを纏って先程よりも幾分幼く見える。
「お、おお、待っていたぞ神子。結界石がそろそろ切れそうなのでな。お前との面会まではまだ日があるからわざわざこっちから出向いたのだ。」
「きちんと余裕を持ってお渡ししたはずです。それともまた呪詛師に屋敷を攻撃されるような恨みでも買われましたか?」
「なっ!」
「お帰りを。今日はご覧の通りこちらの方とのお約束があります。」
そう言って、銀珠がチラッと俺を見る。
口論の中で、あえて五条の名前を出そうとはしなかった。
「参りましょう。買い物、付き合ってくださるのでしょう?」
差し出された手を取ると、顔をわななかせるハゲデブを尻目に玄関に向かおうと銀珠の手を引いて部屋を出る。
「神子、本当に良いのか?ワシの庇護を失えばお前に伸びる手は見る間にお前を奪っていくぞ。」
ピタリと銀珠の足が止まった。
それを見たハゲデブの顔が満足そうに歪む。
「·················。」
「おおそうだ。ワシがこんな所に来るくらいならば、お前がワシの屋敷で過ごせば良いのだ。知っておるぞ。お前の力を込めた石ころよりもお前自身の方が何倍も効果かまあることを。」
「だからこそ。お前がわしの所へ来い。お前には不自由無い暮らしをさせてやるし、お前に仕える女どもよりも質の良いメイドも用意してやる。なに、お前は時折わしの相手をすればいいだけだ。悪くなかろう?」
言葉では取り繕っていても、その目が欲に塗れていることはすぐに分かった。
このおっさんロリコンかよ。オエッ。
「おい。おっさ_」
俺が何かを言う前に、銀珠がまくし立てる。
「お帰りを。私には他にも多くのパトロンの方々がいらっしゃいますので、私の一存で専属になることはできません。それに…」
「銅と金華を馬鹿にする方の元へは例え手足がもげようとも
参りません。あと、今後の石の取引に関しては少し考えさせていただきます。」
言い込められたハゲデブは、顔を忙しく赤くしたり青くしている。
「この!」
「やめとけよ。クソ野郎。」
手を振り上げて銀珠を叩こうとするハゲデブの腕をすんでで掴んだ。
「今は俺がこいつと話してんだ。あんまりぎゃあぎゃあいってっと、お前、呪われるヨ。」
「まっ、まさかお前、呪術師か!?」
「そ、呪詛師知ってんなら俺のこともちょっとは知ってんだろ?」
サングラスをずらし六眼でハゲデブを睨む。
すると、ハゲデブ青い顔は紙のように白くなった。
「ひっ、ごごご、ご、五条悟!」
「そ、ハジメマシテ。三浦サン?」
「ひいいいいいいィィッ!!!!」
脱兎の如くそのハゲデブはその場から走り出し、途中フラフラと柱に当たりながらも玄関へ逃げていった。
「手を貸して頂かなくても良かったのに。」
「うるせーな。結局助かったからどっちだっていいだろ。それにお前、俺の名前を使えばすぐにおっさんを追い出せたかもしれないのに、あえて出さなかっただろ?」
「名家の子息の方々は、勝手に名前を使われることを不快に思われる人も一定数いらっしゃいますので、それに庇護も何も無い状態では自分のもつ手札のみで相手しなければいけないので。」
「ふーん。オマエも案外考えたりするんだな。」
俺に擦り寄って来る女どもの大半は、大抵が家の権力を使ったゴリ押しだったり、家自慢だったり、媚びてきたり、権力を使って迫ってきたりと大抵碌なものじゃなかった。
でもこいつは、媚びない。
さっきだって、自分の手札を使って場を切り抜けようとした。
親の七光りで得た恩恵ではなく、自分自身を使ってだ。
「ふはっ、お前、おもしれーじゃん。」
「なんですか。急に笑わないでください。」
「お前のやり方が面白かったんだよ。俺が会ってきた中で、多分二番目くらいにはおもしれぇ。」
こいつなら、暫く婚約者としていても退屈しないだろうし、外野を黙らせることもできそうだ。
「いーよ。この縁談受けても。」
俺の言葉に、銀珠がじわりと目を見開いた。
「それは、婚約了承と受け取っても?」
表情を取り繕えているか分からない。
だってバクバクと忙しなく動いているのが顔に出てるかがとても気になって仕方ない。
性格は難ありだが、その他は申し分がない男、五条悟。
そんな大物が婚約を了承したのだ。
正直、ハナホジフェイスで私を馬鹿にして帰るものだろうと思っていたので、内心めちゃくちゃおどろいて転げ回ってる。
「そーだけど?」
「てっきり、ハナホジフェイスで馬鹿にして帰るものだと思ってたので了承するとは思いませんでした。」
「お前、俺のこと馬鹿にしてんの?」
「実際、私がつまらなければ帰っていたのではありませんか?」
そう言うと図星をついたのか五条はそっぽを向いてしまった。
不思議な人だ。
さっきみたいに大人びた一面をみることもあれば、こうして子供みたいなことをする。
うーん…これが世にいう思春期というものなのだろうか。
人通りがある商店街まで銀珠を小脇に挟み蒼を使って飛んだ。
銀珠はひいひいギャァギャァ文句を言っていたが、街に着いたときには少しグロッキーになっていた。
恨みがましい目で睨まれたが、無視してズンズンと先を進む。
銀珠は途中までついてきたが、力尽きて道端で倒れた為、流石にやばいと思い背負って近くの人の少ない甘味処へ運び込んだ。
店の主人は驚いていたが 、 事情を話すとボックス席に案内され 俺はそこに銀珠を寝かせた。
それから15分ほどで銀珠は気がついた。
「…何処ですか?ここ。」
不思議そうに 起き上がって辺りをキョロキョロと見回す。
「 甘味処。 甘いもん食べるとこ。 腹減ってるだろうし何か食うか?」
「良いのですか!」
メニュー表を 滑らせて渡すが、銀珠は それを手にとって首をかしげている。
聞けばメニュー表も知らないと言うから、簡単に説明してやると真剣な顔で 表をにらめっこした後に選んだのは、 ミニピックプリンアラモード。
でかくもなければ小さくもない無難なやつ。 けど、 意外といいチョイスだと思ったのはここだけの話だ。
しばらくメロンソーダを飲みながらふと思ったことを聞いた。
「お前、親は? あそこで見た限りはいなさそうだったけど。」
「五条さんのお察しの通り随分前に二人とも殺されました。」
「殺されたぁ?」
こいつの家系は資料の見た限り親は非術師らしい。呪術師を出すような所じゃなかったはず。銀珠も 呪術師についてはいくらか教わったらしいが、家系に関しては全くだそうだ。
「私の力を狙った呪詛師と呪霊の群れに殺されて、父に仕えてくれた人たちも銅を除いて全員死にました。私を逃がす時間を稼ぐ為に。」
「その仕えてたってやつらはどういった経緯で仕えてたんだ?」
「分かりません。そこは色んな人がいたそうなんで。ただ、銅は元々呪具師として活動していたそうなんですが、迫害されて父に拾われて仕えることになったそうです。」
「なんでお前の父親は呪術師と 関わりがあるんだ? 親って二人とも非術師だよな ?」
「分かりません。祖父や先祖が術師だったのか、はたまた呪術師と関わりがあったのかは家系図の焼けた今となってはもう分かりませんし、平安の藤原氏から分家して出来た数多の家の一つと教わっただけです。」
ドスッと、銀珠はストローをプリンアラモードに突き刺してアイスの部分を吸う。
お嬢様のはずがどこか庶民感のある食べ方をしている。
がっつきはせず、どこか豪快。
相変わらず見た目に合わないチグハグなやつだ。
『…………………』
しばらく無言で 俺と銀珠は食べ続ける。
無言破るように気になっていたことを口にする。
「 お前なんで婚約者探してんだ ?親の命令でもない。お前自身は人を避けて暮らしてるし、お前が見合いする意味が俺にとってはいまいちよく分からねぇ。」
六眼でも分からない変な力を持ってる女。
俺と似ていてどこが違う。
そんな微妙な違いに無意識にイライラしてしまう。
「好き 勝手をするためですよ。」
「…………………は?」
「庇護が欲しいのです。私、やりたいことがあるんです。私は人の世で自由に生きることができません。五条さんもご存知の通り数は少ないですが、人ならざる力を持って生まれた人の大半は呪術師になるのでしょうが、中には非術師の親に捨てられたり、異端の力を持つが故に呪術師に迫害されたり……五条さんも見たでしょう。部屋に案内した女の子。あの子も、術式を持って生まれた結果母親に捨てられて私に拾われました。」
「だからこそ、権力が欲しいのです。人の世で生きづらい子達の力になって悪意から守れるようにして、やがて一人でも歩いていけるようにしたい。私一人の力 では、 せいぜい私の側仕えが関の山です。 でも五条さん、あなたの力があればもっと選択の幅が広がる。」
「呪術高専に入るツテができてそこから呪術師になることもできます。人の世で働くことも可能です。五条さんはそれを可能に出来る権力があるんです。虐げられて呪詛師になるしかないと思うより、殺される心配がなく自由に生きることが出来る。そんな日々を送るための居場所を作りたいんです。数年前、助けを求められて取ることが出来なかった手を今度こそ離さない為にも。」
そっと伏し目がちに銀珠が下を向く。
何かを決意したようなそんな声音だった。
……これなら。
「契約しねぇか?」
「契約、ですか?」
俺の言葉に銀珠が虚を突かれた顔になる。
「唐突ですね。では、内容はどうするのですか?」
「……そうだな、俺からは3つだ。」
一つ 藤原銀珠は 五条悟の依頼に応えること。
一つ藤原銀珠は持ち得る技術を五条悟に提供すること。
一つ藤原銀珠は五条悟に愛を求めないこと。
「……分かりました。では私からも3つ。」
一つ五条悟は藤原銀珠の依頼に応えること。
一つ五条悟は藤原銀珠を守ること。
一つ五条悟は藤原銀珠の自由を縛らない。
「これだけ?」
「これだけです。あえて縛りの基準を決めない方が色々なことに適用されると教わりましたので。」
「ふーん。じゃ、契約成立だな。」
「ですね。」
言葉を交わすとすぐに魂が鎖に繋がった音がした。
静かな午後に結ばれた縛りは後々俺と銀珠の運命を大きく左右することになるのをこのときの俺はまだ知らなかった。
【人物紹介】
藤原銀珠
早くに親を殺されて全国を逃げ回った苦労人1。
ひっそり山暮らしを始めたのは8歳から。
この度、五条悟の婚約者になりました?
特殊な出生のため呪術師には数えられていないが、要請があれば普通に他の呪術師の任務サポートに同行する。断っても害はないがとあるプロヒモを飼っている為、金が欲しい。
非術師には害はないが、呪術師には使い方しだいで猛毒にも薬にもなる正のエネルギーを身体に宿している。反転術式の上位互換で使い方しだいでは攻撃にも転用できる。(ただし、プロヒモには攻撃は無効だって非術師だから(*ノω・*)テヘ)
面白いやつを見つけたGLG
いやいや行ったお見合いで年下ながら腐ったミカンジジイと対等に渡り歩いている銀珠を見て評価を上書きした。
まぁ、人形のように受け答えしかしない女よりかはと思い婚約を了承する。
ただ、恋愛対象かと言われてはそうでもないため、どうしたものかと思っていたが、カフェで銀珠の夢を聞き、応援する代わりに愛を求めないという縛りを結んだ。
多分次は硝子ちゃんを連れてくると思う。
銅
幼い頃から五条とはまた別の異端視をされて来たため、五条以上に苦労人2。銀珠の父親に救われてからは藤原家に仕えて来たが、銀珠以外が殺された後は、若くして銀珠の保護者になる。五条と銀珠が生まれる前のゲスい時代を生き抜いた女傑。この人についてはもう少し掘り下げる予定。多分、30歳。 数多くの呪具を生み出し呪力を使わない呪具を発明した。その性能はプロヒモのお墨付き。
金華
呪力を糧に放つ怨炎呪法の使い手。呪力であれば無制限に吸い取り炎に変えてしまう。周りには非術師しかおらず術式の扱いがわからなかった為、何度も火事騒ぎを起こしとうとう母親にも捨てられ、山で死にかけたところを銀珠に拾われる。拾われた恩を返すため、研鑽を積みつい最近、一級術師になった。結構メンクイ。
愛は呪いよりも強いと思いますか?
-
はい
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いいえ