呪術奇譚 柊姫   作:秋野萌葱

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暇なゴリラが、はよ姫様迎えに行ってこいとケツ叩かれて、迎えに来るの巻。


神子とゴリラのドキドキな出会い

 

プリンアラモードの残りを食べていた銀珠はふとなじみの気配を感じ取る。

 

「迎えにきてくれたのね。甚爾。」

 

「ああ。金華が迎えに行ってこいと、煩かったからな。流石に晩飯抜きは腹に堪える。」

 

気配に気づいた五条も顔を上げると驚いた顔で目を見開く。

 

「おまえ、こいつって…」

 

「久しぶりだな五条の坊。ここで会うとは不思議なもんだ。」

 

五条と銀珠二人の前に立っていたのはニヒルな笑みを浮かべた壮麗な男、伏黒甚爾。

五条が驚くのも無理がなかった。なぜなら男の異名は呪術師殺し。

そんな男が何故ここにいるのかと、呪術師なら…

 

「俺が何故ここにいるのかって誰でも思うだろ?」

 

思考を読んだかのように甚爾が口角を少し上げて笑う。

全身が総毛立った途端に思わず五条は構えを作り、甚爾に飛びかかろうとした次の瞬間。

 

「うわっ!?」

 

甚爾と五条をを遮るように、銀珠が出した錫杖が伸びていた。

 

「やめてください悟。甚爾も無闇に煽るのはやめなさい。」

 

「ふざけんなよ。こいつが誘ったんだよ。なら答えんのが筋だろ?」

 

「おいおい。姫さんこいつが勝手にきただけだだぞ。俺の与えられた仕事は姫さんのお迎えだ。余計なことしてまた金華から飯抜きにされちゃあ溜まったもんじゃねぇ。」

 

二者二様に文句を言い、五条は渋々座り直し、甚爾は銀珠の隣に腰掛ける。

 

「姫さんなんか頼んでいいか?」

 

「悟が支払ってくれるから一つだけよ。」

 

「おい。俺はこいつの分まで払う気はないけど?」

 

不機嫌そうな目で五条は甚爾を睨む。

 

「ははっ。大丈夫さ。姫さんはそこのところはしっかりしているからな、姫さん。」

 

「ええ、甚爾の為の資金はちゃんとありますから後で甚爾の分の料金はお支払いします。」

 

五条は思いっきり嫌そうに顔を歪めてメロンソーダの残りを飲み切ると、席から通路に身を乗り出して奥の厨房に向かって声をかけた。

 

「すみません!メガビックプリンアラモード一つと、コーヒーを一つとジェラート一つお願いしまーす。」

 

「おいおい。まだ食う気か坊。糖尿病になるぞ。」

 

「うるせぇ。奢りだ。その代わりお前らの出会いを話せ、金よりそっちの方が断然良い。」

 

「お、んじゃぁ坊、これも良いk…」

 

「ふざけんな。一つだけだ。さっさと話しやがれ。」

 

「はいよ。んじゃ何処から話しますかね姫さん。」

 

甚爾の問いかけに銀珠は少し考え込むと、ポンと両手を叩く。

 

「あれにしよう。一番最初のあれ。」

 

「良いのかぁ?あれ、坊には刺激が強いんじゃねぇか?」

 

「でもあれしかないでしょう。出会いを話すとしたら…」

 

ひそひそと相談する二人に痺れを切らした五条がパシパシと机を叩く。

 

「ほら言え言え!さっさと話しやがれ。」

 

「ええぇ…もう、分かりましたよ…それじゃ話しますね。」

 

 

数年前、ちょうど上層部に初めて呼ばれて数日が経った日の出来事を。

 

 

 

 

 

 

・・・・・

 

 

バリンッ!


昼食の席で響いた不協和音。

手からお膳の上に滑り落ちる茶碗。

即座に立ち上がると短刀を抜き放つ侍女2人。

 

「割れた。」

 

コロコロと転がる茶碗をぼんやりと見つめながらある一点に意識を集中させる。いくつもある結界の中で自分が霊力を流している要の一つが壊れて着物の裾に穴が空いたかのように妙に落ち着かない。

 

「割れましたね。」

 

何かを考え込み嫌な表情になる銅。二人は縁側から庭に飛び降りると。

 

「ちょっと見てきます。」

 

そう言って、割れた地点へ向かって禪院家の投射呪法も顔負けの速度で走り出した。

 

割れると言う言葉は古今東西さまざまな意味を指すが、ここでは最悪な意味を指している。

すなわち結界の破壊だ。

 

用心の為に私も懐から金剛杵を取り出すと、起動して錫杖に変える。

淡い光と共に、黄金色に輝く細身の武器がまだまだ小さい自分の手に収まった。

 

「ふーっ。」

 

思わずぺたんと腰が抜けてしまう。

昔から襲撃された時の誰もいない部屋は、どうにもニガテだ。

 

過去に一度、自分たちを頼ってきた呪術師の子供が屋敷を見つけるために故意に結界の要をずらしたこともあったがそれと今のこれとは別ベクトルの話だった。

 

多分、結界を破壊したと言うことは、十中八九敵だ。

 

トン。

 

「!?。」

 

「おい。お前が藤原銀樹か?」

 

ひたりと、背後から首筋に冷たい鉄の感触がする。

敵だ。敵がいる。

敵が私の名前を聞いている。

多分答えたら死だ。

 

どうする、どうすればいい。

 

ぐるぐると沢山考える。

 

「答えろ。答えなかったらまず四肢を裂いてはらわたを引き摺り出して殺す。」

 

ヒヤリと男の声に凄みが増す。

内心ビクビクしながら私は息を整える。

 

「そうよ。私が藤原銀樹です。あなたは何が目的なの?」

 

ふと、背後の男は黙り込んで逡巡すると、あることを私に聞いてくる。

 

「・・・お前、病を癒すことが出来るのか?」

 

病を癒すそれは龍神の神子が成せる究極の技。

生きている限り、どんな者も癒し、病を取り除くことができる神がかりな術。

それをこの男は求めるほど切羽詰まっているのだろうと分かる。

 

「出来ます。けれど、それを成すには多くの体力。そして、生き永らえたいという強い願いが患者さんに必要です。」

 

「・・・これらが出来ますか?」

 

これらが揃わないと例え、いくら私が患者の体に力を送ろうとしても患者が受け付けなければ何も始まらないのだ。

男の気配が少し逡巡すると、何かを決意したように私に答える。

 

「わかった。あいつにはなんとか体力をつけさせる。元々、生存率が低いと言われている末期癌で諦めていたんだ。なんとか説得してみせるさ。」

 

男の声はさっきとは打って変わって生きる気力に満ち溢れた力強さを持っていた。

多分この人は相当な手だれだ。なら、こちらに今後専属でつけていた方が何かと襲撃者対策で楽になるはず。

 

 

「取引しませんか?今回、あなたに来た依頼は十中八九私の死体をもってこいという依頼でしょう?最近、何を思ったのか私の力を過大解釈して私を呪具で殺してその死肉を食べれば不老不死になれるとかいう噂が多く出回っていて襲撃者を処理するのが大変だったんです。」

 

「・・・・・。」

 

私の急な質問に気配は何も答えなかったが、何かを迷っているようだった。

 

「あなたに依頼した方の報酬の倍をお支払いしましょう。そして、貴方が望む方の病も治しますし、そんなに額はありませんが、毎月一定のお給料を支払います。その代わり、屋敷の警備、情報収集、あと、私の命を現在進行形で狙っている人の首を獲ってきていただけたら別途で報酬も支払います。いかがでしょう?」

 

「よし乗った。」

 

首元から鉄が離れるとカチンッと気配が刀を鞘に収める音がした。

ふっと急速に殺気で包まれた部屋の空気がほぐれていく。

 

「・・殺さないの?」

 

殺気はもう無い。

ただ少し、まだ私の中には緊張感が残っていた。

 

 

けれど、一度刃物を向けられた以上私は警戒を解かなかった。

すると、男がはぁとため息をつく。

 

 

「やめだやめ。デメリットしかねぇ殺しよりも、実のある仕事の方をとるぞ。俺は価値があるものを選びたい主義なんでな。藤原の神子姫さんよ。」

 

 

ゆっくりと両手を下ろして後ろを向く。

そこに立っていた、猫目で癖のないサラサラした髪を持つ長身の男と目が合う。

 

 

「あなたのお名前は?」

 

名前を聞くと男は何かを考え込むように視線を泳がせて。

 

「・・・伏黒甚爾。」

 

ニヒルな笑みを浮かべてまたヘナヘナと床にへたりこんだ私を見て笑った。

 

 

 

 

 

伏黒甚爾

この度、銀珠の専属自宅警備員になったプロヒモ。

ハイと、刀掛けにあった短刀を頭金として渡され、あとで鑑定にかけたら約一億円、呪術的価値だと三億円で軽く目を剥いてしまった。

侍女二人と顔を合わせた時、実家の相伝顔負けの速度で、首を狙われた。

ちょっとビビったがそれでも、防いだ。

のちに妻の病気を治すために、昼は足繁く奥さんのもとへ通い夜は銀珠の命を狙う呪詛師、呪術師の首を狩る首狩りマシーンとなった。

銅から貰った呪力なしで使えるブーヒートラップが面白すぎて、時折実家にしかけては引っかかった人間を見て爆笑している。

金華の作るご飯が美味しかったので、よくおにぎりを包んで貰って奥さんのところへ持って行くようになった。風の噂では奥さんがよく笑うようになったとか。

すぐに殺そうとしなかったのは、奥さんの病を治せそうな噂の真偽を知りたかったから。

ちなみに、依頼者は甚爾がしっかりと害がないようにナイナイした。

時おり、暇潰しに体術の先生してる。

そのせいか、銀珠が星になる回数が増えた。

 

 




今後に色々影響が出そうなお方が出て来ました。

次回は五条から手紙で知る事となるオトナなおねーさんとの出会いか、銀樹の保護者の銅の回想録。

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