白い墟からのびる道   作:鷲生

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驍李を見守る大人泰麒のお話です。冒頭の一行は「風の海 迷宮の岸」の引用です(講談社文庫313頁)。シリーズものなので、前のお話を読んでいただいた方がいいかとも思いますが、読まなくても大丈夫かなとも思います。分かりにくければ、過去作もご覧いただければと思います。済みません。

↓なお、「十二国記の戴国メンバーの物語を、日本の平安時代でやってみたらどうなるだろう?」と思ってオリジナル小説を書きました。カクヨムで連載中です。是非お読みいただければ幸いです!!!
「錦濤宮物語 女武人ノ宮仕ヘ或ハ近衛大将ノ大詐術」
https://kakuyomu.jp/works/16816927860647624393


泰麒、李斎に提案する。

 驍宗は自室の長椅子に横になって書類を眺めている。泰麒はそばの床に座っていた。

 

 泰麒が子どもの頃にもよくあった場面だった。

 成獣となって幾年目かの冬の終わり。日脚が伸びつつあるがそろそろ部屋が陰り始めるころ、居宮の一室で泰麒は驍宗に切り出した。

「主上、李斎の邸でもそのように長椅子で寛がれていらっしゃいますか?」

 

 驍宗が李斎の邸で夜を過ごすことは朝の皆に知られていた。泰麒は十余年を蓬莱で過ごして帰還して以来、麒麟以外の生の在り方を知らず、男女の仲もよく分からない。それでも、泰麒はこの二人が好きであったから、二人が過ごす時間が和やかであって欲しいと願っていた。

 

「私は李斎に幸せであって欲しいと思います。でも、李斎は主上の前で畏まってしまう性分でしょう。主上の方から寛いだ姿を見せてあげた方が良いのでは、と思います」

 

 驍宗は思案気な顔をしてしばらく泰麒を見つめ、それから長椅子の上で居住まいをただした。

「宰相の前で、だらしない恰好を見せていたようだ」

 予想外の返答で泰麒は慌てた。生真面目で堅苦しい主に、もっと寛ぐ場面を増やして欲しくて声をかけたはずだった。自分だけでなく李斎に対しても。それなのに、主は泰麒の願いと反対の行動をとろうとし、泰麒は戸惑いが隠せない。

 

「蒿里が稚い頃、私が長椅子に横になる姿など見せていたのは、蒿里が緊張をしていたからだ。そもそも私が蒿里に字を付けたのも『台輔と皆から呼ばれるのは、大役を念押しされているようで息が詰まろう』と思ったからだ。覚えているか?」

「ええ、覚えています」

「蒿里の前で寛いで見せることで、蒿里の怯えた風を取り除きたいと思っていた。だが、今はもう蒿里は大人だ。立派な宰相なのに、子どもの時と同じ気遣いは無礼にあたろう」

 

 泰麒は笑んだ。主から大人扱いされるのは少し寂しく、だけど嬉しく、そしてどこかくすぐったい。

「有難うございます。でも、今度は李斎です。李斎の前でも、主上の方からそのような気遣いをされた方がいいのではありませんか? 李斎も真面目な女性です。李斎の方から寵に馴れるなどということは決してないでしょう」

 これを正頼あたりに言おうものなら「子どもが大人の間柄に口を出すもんじゃあありませんよ」とからかわれるところだ、と彼は思う。けれども驍宗は泰麒に対して子ども扱いはしない。

 

「宰相の言うとおりだ。李斎は人に甘えるような気質ではない。蒿里は李斎とも縁が深いが……蒿里はどうすれば彼女を幸せにできると思う?」

 問われても泰麒はすぐには返事ができなかった。

「……とても難しいご質問です。そう、僕もずっと頭の片隅で考え続けていても答えが見つからないのです」

 驍宗は泰麒が一人称を「僕」を変えたことを心に留めながら、続きを促した。

「李斎は本当に僕に、そして驍宗様に、それから戴に尽くしてくれました。特に僕を本当に愛おしんでくれた……僕を蓬莱から取り戻すためにすべてを擲ってくれました」

 

 それなのに、と泰麒は心から悲しげに言った。

「いつも僕は李斎を何かの次にしてしまう……」

 蓬山で李斎を大好きだと思ったのも「怖いはずの驍宗ほど重要に思えない」と比較してのことだった。金波宮では、疲労困憊していたはずの李斎を、叱咤するようにして戴へ旅立させたてしまった。戴に帰還後は、失敗できないからとはいえ、あれほど純粋な忠誠をささげてくれた李斎を疑い、置き去りにし、悲しませてしまった。

 泰麒は驍宗に素直に語った。自分が麒麟であるために、いつも踏み台にしてしまう罪悪感を。

 

 一通り聞き終えた驍宗は静かに言った。

「あまり自分を責めるな。踏み台というが、李斎はそれを是とするだろう。蒿里の中に李斎を思いやる気持ちがあれば、それを喜んでくれるだろう」

「でも、僕は気持ちだけで……何もしてあげられません」

「麒麟の慈悲に、形を与えるのが王の仕事だ」

 驍宗はここで腕を組んで苦笑いをした。──してくれた、と泰麒は感じる。自分への気遣いをさせてしまった、と。だが、本当に王にとってもこれは難題であるようだった。

「李斎のような、私心なく愛情深い人間にどう報いればいいのかは難しい……。甘えてくれるなら何でもしてやりたいと思うが、本人から口に出すことがない」

 

 王と麒麟とで共に考えるべきなのだ、と泰麒は解した。

「寛いだ雰囲気があれば……いかがですか?」

 驍宗は苦笑を深くする。

「麾下にとっては主公が寛いでいて自分が畏まっているのが当たり前だから。あまり、私の寝姿は有難味がない」

 李斎が気安く接する相手と言えば、彼には心当たりは一つしかない。

「もしも李斎が甘えることがあるとすれば相手は飛燕だろうと思う。失わせてしまって済まぬことをした。私は飛燕の代わりになってやりたいと思うが……。主公と乗騎とでは立場が違う。毛並みだけは似ているようだが……」

「毛並み? 御髪のことですか?」

「そうだ、私の髪を見ると飛燕の毛並みを連想するそうだ」

 泰麒も飛燕を思い出す。

「僕も飛燕が好きでした。李斎が手入れをしてやるときに、いっしょに撫でて……」

 

 飛燕の世話を李斎と一緒にするのは楽しかった。いや、李斎本人にとっても心強い相棒と過ごす時間は心休まるひとときだったのだろう。そう、彼女は相手と過ごす喜びを飛燕と分け持つことができたのだ。

「……飛燕との違いは、李斎が望んで出向くかどうかではないでしょうか?」

 驍宗が怪訝そうな顔をした。

「今は、李斎のお家に驍宗様が行きたいときに行くのですよね? 李斎は驍宗様のお越しを待つだけです」

 蓬莱には身分というものがなかった。泰麒には、男が通ってくるのを女性が待つといえば、歴史でならった平安時代の王朝絵巻くらいしか思いつかない。

「驍宗様が望んだ時に会うばかりで、李斎が望んだ時に自由に会えないというのは、僕の育った現代の蓬莱では少しおかしいと感じます。そう、慕わしい相手とは会いたいときに会えるのが幸せで……」

 そこで泰麒は言葉に詰まった。

「どうした? 蒿里」

「いえ、僕が小さい頃を思い出しました。驍宗様の傍にいられることが、そのまま喜びだった頃を」

「それは過去形か?」

「もちろん今でも驍宗様と一緒に居られることが嬉しいです。ただ、もう纏わりついていることが必要なわけでは……。僕はもう稚い子供ではありません。驍宗様が僕を大人扱いして下さるのを嬉しく感じます。そう、さきほど寝ていた姿から居住まいを正して下さったときなどです。ちょっとだけ寂しくもあるのですが、喜びや誇らしさの方を大きく感じます」

 

 泰麒はここで思い出した。大きな喜びを感じたあの瞬間を。

「阿選に処刑されそうになった時、処刑台の驍宗様はこう声をかけて下さいました、『大きくなったな』と。他の皆は、僕が子どもでなくなったことを惜しみます。だけど、僕は何もできない子どもだった自分より、何かができるようになりつつある自分の方がましだと思っています。だから、驍宗様が僕の成長を認めて下さった言葉が嬉しかった」

 驍宗は目を細めた。

「それはそうだろう。そうでなくては子どもが大人になる甲斐がない」

 笑えない軽口に似たその言葉を、泰麒は微笑んで聞いた。

「僕はもう子供ではありません。だから……」

 

 泰麒は一つの提案をし、驍宗も納得して頷いた。

 

 [newpage]

 

 泰麒は子どもの頃を過ごした部屋の窓から外を見ていた。

 背伸びして覗き込んでいた窓の枠は、もう自分の腰ほどの高さしかない。

 庭の梅の木を見上げた記憶があるが、今はその枝ぶりと自分の背丈とがあまり変わらない。だから、その建物を立ち去る際、庭で白い花を咲かせたその枝を、彼はそっと自分で手折ることができた。

 

 李斎が自邸を訪れた泰麒を出迎えると、彼は梅の枝を手にしていた。

「僕が子どもの頃に使っていた住まいの庭に咲いていました。李斎の部屋に飾って下さい」

 李斎は受け取り、礼を述べた。

「ありがとう存じます。昔、李斎が初めて白圭宮に邸を賜ったときに、お小さかった台輔に花束をいただいたことを思い出しました」

「花束の方が良かったですか?」

「いいえ。昔は、花束に隠れるような子どもでいらしたのに……。梅を一枝、贈り物にして下さるとは、振る舞いも大人っぽくなられたと感じます。本当に大きくなられました」

「では、大人の僕からの提案を聞いてくれますか? 驍宗様から聞いていると思いますが……」

 

 確かに、李斎は昨夜驍宗から話を聞いていた。牀榻の中、気怠い身体を彼の傍に寄せていたとき、掠れ声で彼は囁いた。

「住まいを移してみないか……」

 李斎はすぐには返事をしなかった。驍宗には、自分の瑕疵ゆえに華々しく后を立てられないことを残念に思っている節がある。彼女は全くその気がなく、今回の住まいを移す話も後宮へとのものなら賛成できかねると当惑していた。

「蒿里が幼い頃、仁重殿ではなく、私の正寝の隣の建物に住まわせたことがある。蒿里も私も互いに傍にいて欲しいと思っていたから。七年の後、蒿里は大人になって今は使っていない。蒿里がその建物に李斎を住まわせてみてはどうか、と提案してくれた」

「さようでございますか……」

 李斎はそれもいいかもしれない、と思った。

「主上が李斎の邸まで歩いてお越しくださるのも畏れ多いことです。近い方がご負担ではないでしょう」

 驍宗は一つ息を吐いた。

「そう受け取ってもらってもいいが……。私の負担を軽くというのが直接の目的ではない」

 

 彼は並んで身を横たえる彼女の顔を覗き込んだ。彼女の顔の傍の髪を梳いてやりながら囁く。

「私も蒿里も李斎に幸せになって欲しいと願っている。ただ、李斎は他人に甘える気質ではない。李斎はきちんとした大人の強い女で、誰かに甘えるということをもう忘れてしまっているようだ」

「李斎は……。台輔が無事で、主上と戴が救われるのが願いでございました。これ以上望むことも特にありません」

 李斎らしい、と彼は笑んだ。

「李斎は悲しいときや寂しいときのことを、他人に語ることがない。例外は飛燕だけだろう。飛燕と李斎には隔てがなかった。私も計都や羅睺と無心で接する。そして、いつの間か愚痴らしいことを零していたり、相手の温かさに慰められていたりする」

「将にとって乗騎は特別なものですから……」

「同じ白い毛並みでも、私はなかなか飛燕の代わりになれないようだ」

「主上と乗騎とは異なります」

「李斎には甘えて欲しいと思うが……。甘えるというのは、今から甘えようと構えてするものではない。日常を共にしている中で、辛さや寂しさをつい垣間見せるようなものだろう。李斎に甘えて欲しければ、日常を共にするのがいいと思った」

「それで私の住まいを……」

「私が望む時しか李斎と会っていないのは、蓬莱の感覚ではおかしいようだ。奄奚に頭を下げさせなかった蒿里は正しかっただろう? 蒿里の蓬莱の考え方には、私も最初は慣れないこともあるが、次第になるほどと思うようになる。蒿里に言われてみれば、確かに私が訪れるばかりでは、李斎が私を望んでいる機会に接することが乏しくなる」

 彼は彼女の頬を撫でた。

「それでは結局、私が寂しい」

 

 その言葉に李斎が目を見開くと同時に、彼は念を押すように言葉を重ねた。

「蒿里の気持ちも汲んで欲しい。蒿里が子どもの頃の住まいを李斎に譲るというのは、蒿里なりに自分の成長に区切りをつけたいのだと思う」

「確かに、台輔はもう大人になられました。今は瑞州侯として職務を果たしていらっしゃいます。仁重殿に当然のように住んでいらして、子どもの頃に特別に正寝近くに移っていらしたことも忘れておりました」

「もう私に纏わりつく必要はない、のだそうだ。ただ、蒿里は大きくなっても、李斎に恩を返し得ない自分を悲しんでいた」

 李斎は首を振った。

「そんな……。台輔には心安らかに幸せにお暮しであってくだされば、それだけで李斎は嬉しいと思いますのに……」

「李斎は相手も同じ気持ちだということも考えるべきだろう。蒿里も、そして私も、李斎に幸せでいて欲しいと願っている。ただ、李斎は何も望んでくれないから、何をすれば李斎の幸せとなるのか分からない。王と宰相が揃って頭を抱えている」

 最後は笑いを含ませたので、李斎も困った顔で黙るしかない。

「蒿里は大人になった。だから、正寝の隣の住まいを巣立つ。そして、自分を守ってくれた母のようにも姉のようにも思う李斎にその住まいを譲る。李斎に巣立てるほど大きくなった自分を認めて欲しいと思い、私の傍にあることが李斎の幸せであるなら李斎の幸せを私に託したのだと言えよう。確認しておくが、李斎は私といて幸福を感じるだろうか?」

 李斎は大きく息を吸ったが、すぐに顔を赤らめ、吸い込んだ息の割には控えめな声で答えた。

「……もちろんです」

 

 どんな些細なことでも良いのだ、と彼は言った。例えば……と牀榻から目についた卓の上の水差しを指さす。

「李斎が水を飲みたいと思った時、私の方が水差しに近ければ私が水を汲んでやるような、そんなことでいい」

「それでは、名もなき民と同然です……」

「それの何がいけない? 王も麒麟も民の幸せのためにあるのだから、民と同じように振る舞いたい。世の亭主というものが家で女房の世話を焼くような、そのような振る舞いをしたいものだ。辛い思い出があれば聞き、寂しいと思った時には相手をする。人の営みはそのようなものだろう。李斎のためだけではなく、私もまた時間を分け持つことで満ち足りる思いがする。蒿里も、私と李斎が夫婦者らしく過ごしていれば安心するだろう」

 

 結局、その夜は、「李斎はあまり考えずとも、単に私が足を運びやすいからという理由だと思って、気安く越して来ればいい」という彼の言葉で終わった。

 

 [newpage]

 梅の香りが、部屋の中に立ち上る。

「その花が戴で咲くこと自体、僕が持ってきたのだそうですよ」と泰麒は微笑む。

 

 漣からの長旅の後のこと。彼が驍宗と話し終えた時、目にしたその年初めて咲く梅の花を見て驍宗は「蒿里が漣から持ち帰ってきた」と言ったという。

 

 泰麒はくすくす笑った。

「その漣の旅ではね、李斎。僕は正頼に苦情を言われたんですよ、『台輔は辛抱強くていらっしゃるので、じいやは大助かりで、つまらない』って。僕の悪戯をどう叱り飛ばすのかが『じいや』の楽しみだと言っていました」

 ですからね、と泰麒は面白そうに言う。

「僕も『李斎は辛抱強すぎてつまらない』と言いましょうか? 李斎は、戴が平和になった後、ああして欲しいともこうして欲しいとも言わなくなって、慈悲の獣としては大助かりでつまらない──」

 台輔……と李斎はしばし絶句した後に息を吐いた。

「……正頼が聞けば喜ぶでしょう。傅相を上手に真似るようになってしまわれて……」

 

「昔は僕が見守られる側でした。もう僕は成獣した麒麟ですから、李斎たちを見守る側なんですよ。こうして立場を違えてみると、正頼の気持ちも分かります。李斎はもっとわがままになって周りに甘えてください」

「主上は『甘えるとは構えてするものではない』と……」

「驍宗様は『李斎はずっと大人でいたから甘えることも忘れてしまったようだ』とも仰っていました。李斎は仙人だから大人になってからが長いのですよね」

「そうでございますね……実年齢は忘れてしまいましたが」

「大人になってからずっと武人で、人の命を預かる将軍という立場で、そして蓬山で僕と出会ってからは王の重臣として民と国を担う役目も増えました。ずっと人のために生きるのが習い性になってしまって……。でも、それだけ忠義に厚い李斎を、驍宗様ならなんとかできるかなと思ったんです」

 泰麒は悪戯めいた、それでいて少し寂しそうな顔で言った。

「だって王様の命令なら、李斎だって聞くでしょう?」

 

「僕は蓬山で李斎に懐いてしまいました。それが、李斎に苦難を強いてしまったのではないかと、僕は心苦しく思っています。李斎が望んだことを、かなえてあげられなかったこともありました。今まで苦労させて済みませんでした」

 李斎はその言葉を少しの寂寥感と共に聞く。子供だった泰麒は大人に詫びるようにまでなった。その区切りを改めて知るのが少し寂しい。けれども、そのような心のうちを見せるべきではないとも彼女は分かっていた。だから軽く笑んで首を振るにとどめる。

 

 泰麒は両手で李斎の左手を包むように握った。

「李斎、王としての天啓もないのに纏わりついて李斎の運命を大きく変えてしまった僕からのお願いです。また、慈悲の獣であり戴の国を思う宰相としてもお願いします。主上の命をよく聞いて下さいね。自分に甘えて欲しいと、苦しいことや寂しいときに頼って欲しいという主上の願いを聞いてあげてください」

 それは、李斎だけのためではありません、と泰麒は続けた。

「人は誰だって、苦しかったり寂しかったりするはずです。白圭宮の中も、凌雲山の下でも。互いにそれを分かち持つような、そんなあたたかな国であって欲しい。主上の周りがまずそうであって欲しいのです」

 

 泰麒は部屋に飾られた梅の枝に顔を向けた。

「戴は冬の寒さの厳しい国です。でも、人の心はいつも暖かで、春の花が咲いているような、そのような国であって欲しい」

 戦乱の記憶が古びていく。麒麟が姦計を使わなければならかった緊迫感は笑い話にすらなりつつある。戴は傷ついた状態から健やかに回復をしようとしている。そして目指すべき姿は台輔の言う通りだ、と李斎は思う。

 

 李斎は答えるために息を吸った。吸い込んだ息は梅の香りがした。いや、もっと以前に目にした、あの色とりどりの花束の香りなのかもしれない。

 

 あれから七年の間。凍てつく冬の中、肺腑にまで突き刺すような冷気を吸う日々が続いた。息を吐いても吐いてもその寒さは消えてくれなかった。

 いつまでもこの辛さが続くのではないかと怖れていた。

 だが、冬は去り、今は春──。

 

 李斎は泰麒の手を握り返した。

 本当は一春ごとにだんだんと大きくなるはずだった少年。何年かを見逃しただけで、すっかり大人になってしまったかつての愛らしい子ども。この存在の役目はただ一つ。

 

「本当に台輔は春を運んで来てくださるのですね」

 

 泰麒の白皙の頬に赤みがさした。それを見た李斎は、そこに紅梅の蕾があるかのような錯覚を感じた。




くどくて申し訳ございませんw

2022年現在、十二国記の戴国メンバーをモデルにした、平安ファンタジー小説を投稿中です。
驍宗様はあまりに完璧すぎてキャラとして動かしづらかったので、英章と合体して別キャラになっております。
しかし、李斎や臥信、霜元的なキャラはわりとそのまま登場してます。
後半は、双璧の阿選をモデルとしたキャラのクソデカ感情が炸裂するんですよw
是非お読みいただければ幸いです。

「錦濤宮物語 女武人ノ宮仕ヘ或ハ近衛大将ノ大詐術」
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