↓なお、「十二国記の戴国メンバーの物語を、日本の平安時代でやってみたらどうなるだろう?」と思ってオリジナル小説を書きました。カクヨムで連載中です。是非お読みいただければ幸いです!!!
「錦濤宮物語 女武人ノ宮仕ヘ或ハ近衛大将ノ大詐術」
https://kakuyomu.jp/works/16816927860647624393
シリーズを通じて、「驍宗様は李斎から飛燕を失わせてしまったことを済まなく思っており、李斎が飛燕に翼で抱かれて慰められていた代わりを務めようと度々している」という設定があります。
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執務中の驍宗はふと、脇に控えていた彼の麒麟の視線に気づいた。
「どうした? 蒿里?」
泰麒はしげしげと主の顔を見つめるが、その理由は口に出しづらそうにしていた。
「ええと……。あの……。その……」
驍宗は穏やかに笑んだ。
「なんでも忌憚なく言えばいい。きちんと聞くから」
「ええっと……上手く言えないのですが……主上が思ったより若く見えて……」
「今?」
「ええ。子どもの頃から思っていた年齢より、主上の年齢が下に見えることに気づいたんです、今」
驍宗は、よくあることだ、と口にした。
「知り合ってだいぶ長い時が経ってから『思っていたより若く見える』と指摘されることはしばしばあった。私は老けて見られるようだから。別に蒿里だけが特に変わったことを言っているわけではない」
泰麒はふうと息を吐いた。
「僕が子どもの頃、主上のことを『お父さん』に近い感じで見上げていました。蓬山では李斎より年上だと思ったのですが……。あのう? 李斎の方が年上なんですか?」
驍宗は当然だという風に頷いた。
「李斎の方が見た目の年齢は上だろう。私は初対面からそう思っていたが?」
「そうなんですか?」
泰麒にとっては意外なことだった。
「蒿里同様、私の方が年上だと思う人間も多いだろう。私は見た目年齢より年上に見られがちだ。反対に、李斎は落ち着いた大人の女性でありつつも柔らかな雰囲気の持ち主で、威圧感がない。だから実際以上に年上に見られることは少ないだろうな」
「……あの……」
「どうした?」
「男性には、自分の想い人は年下が良いという好みの人も多いかと思いますが……」
「さて……私にはそのような好みは特にない。李斎はあのような人柄だから好ましいと思う」
驍宗がここで泰麒に向き直った。
「蓬莱には仙人はいないのだったな。そのような世界で育つと実感はわかないかもしれない」
「ええ、頭では分かっているつもりなんですが」
「見た目の年齢は仙になるまでの時間を反映しているだけだ。仙の実年齢は見た目から分からない。また、仮に分かったところで、生きてきた年数と内面が成熟しているかどうかは別の問題だし、後者は一つの尺度で測れない。ある面では大人でも、別の面では子どもっぽいのが普通だろう。正頼や英章を例に出すと分かりやすいか?」
笑い含みに問われて、泰麒も微笑んで頷いた。
「好みと言えば、私としては、何か一つの個性で突き抜けている人物を望ましいと思う。私が面白みや可愛げがない故、個性的な人間に傍にいてもらい、私に欠けたところを補って欲しいから」
「李斎は温厚で、特に偏りはない性質だと思いますが」
驍宗は軽く声をたてて笑った。
「そう、温厚だ。私が蓬山公を怯えさせている一方で、李斎はすぐに懐かれた。私には無い資質の持ち主だろう?」
泰麒は苦笑いするよりない。
「ええ……」
それから、と驍宗は深紅の瞳を細めた。
「穏やかな女性だが、もちろん大人しいだけの人間ではない。騶虞狩りに行きたいと言うし、饕餮の巣穴でも臆せずに入ろうとする。もっとも、これは同じ将軍職である私への意地もあったのだろうが」
驍宗は彼女の情の濃さにも触れた。
「鴻基へ招いてみたら、友人の花影のために、王である私にも食って掛かってきたものだ。他者への愛情が深く、その情のためなら驚くほど勇敢になれる。臆病者では決してない」
「そうですね」
「まさか他国の軍を奪おうとしたリ、西王母を言い負かしたりするなど、そこまで想像していなかったが……。蒿里は偏りがないと表現したが、その不偏を突きぬけるほど極めれば、天をも動かすということだ」
「……ええ、李斎は内に秘めた力が凄い……」
「李斎には大人としての優しい感情と、果敢に正義を貫く強さがある。だから人望があるのだろう、と昔から思っていた」
泰麒は、驍宗が李斎に「自分には人望がない」と零した話を思い出す。驍宗が苦く、けれどもどこか嬉しそうに笑った。
「彼女は年上の落ち着いた女性だ。だから、私も『人望がない』と言って見せることで甘えていたのかもしれない」
過去の私は苛烈過ぎて到底そうは受け取ってもらえなかったかもしれないが。彼はそう付け加えた。
泰麒は驍宗を改めて見つめ直した。父とも思えた彼は、こうしてよく見れば二十代後半の青年だった。一方、李斎は三十の台にのった大人の女性であるという印象は昔も今も変わらない。
「……甘えてらしたんですか……」
年下の男性が年上の女性に……。確かに見た目の年齢はそうだ。また、実際に何にどの程度成熟していたかという点でも、驍宗は自分に無いものを持つ相手に甘えていたというのも確かに事実の一面なのかもしれない。
驍宗は遠くを見やった。
「彼女は優しく強い。隻腕となっても飛燕を失っても、それが辛くないはずがないのに、気丈に振る舞う。いや、自分が何かを失っても、それでも何かを守る為に己を奮い立たせて生きようとする。だから、私が彼女に守られる者となり、そうすることで彼女を支えて守ってやりたい。──分かるか?」
「ええと……李斎の庇護欲を満たすことで、李斎を支える……こういうことでしょうか」
「蒿里は語彙が豊かになり、賢くなったな」
驍宗は泰麒の頭をくしゃりと撫でた。
「李斎から守られるに値する存在であり続けたいものだ。そうだな、二人でいる私的な時間に、また少し李斎に甘えてみようか」
彼は和やかな笑みを浮かべた。
ああ、そうか。主上はこのような笑顔をなさるようになった。だから、年相応の見かけが分かるようになったのだ。
泰麒は心の何かに区切りをつけるような気持ちで頷いた。
泰麒と茶を飲む機会に恵まれた折、李斎は、彼女からするとやや唐突な質問を受けた。
「あの、李斎。女性には自分の想い人は年上の方が良いという人も多いと思うのですが」
「は?」
「李斎より驍宗様の方が、見た目が年下なのだと先日気が付いたのです。李斎はどう思っていますか?」
「どう……と言われましても……」
「ああ、それ以前に、主上の方が年下だと分かっていましたか?」
李斎にはこちらの質問の方が答えやすかった。
「いえ、私も最初は主上の方が年上だと何とはなしに思っていました。尋常ではない覇気で、私などより何事にも成熟していらっしゃるのだろうという迫力がおありでしたから」
「今はどうですか?」
「復位後は、青年らしいとふと感じることが増えたように思います。改めて主上の経歴を知って、昇仙時のご年齢が分かったからかもしれませんが」
「それで……?」
「ああ、最初の、想い人が年上の方がいいかどうかというご質問ですか? それなら李斎に好みはございません。主上は主上で素晴らしい男性でいらっしゃる」
「その……李斎にとって素晴らしいとは……?」
「李斎は武人としての第一線は退いた形となりますが、主上のような方でしたら李斎のできることでお守り申し上げたいと思います。それだけの器量は今でも……いえ、以前とは異なった形でおありです」
その答えは驍宗の願いとある面で一致しているが、堅苦しすぎて想い人どうしの甘い雰囲気が欠けているような気がした。蓬莱でしばしば「尊敬する男性は年上であるべき」とされがちな点に、李斎が拘泥していないことは分かったが……。
「李斎は、主上が年下の風貌をされていようと尊崇の念は変わらないのですね……」
李斎は一瞬表情を止め、それから首を傾げた。
「それは……どうでしょう……?」
「……」
「確かに主上の見た目のご年齢は私よりお若い。以前は気づかなかったが、今はそう思います。しかし、主上は以前より老成されたと思います。登極直後を振り返り、ご自身の何が過剰で何が不足だったのか静かに振り返っていらっしゃる……」
李斎は考えながら言葉を継いだ。
「……さようでございますね。そのようにお見受けするので、お若いと思うのかもしれません」
今度は泰麒の方が首を傾げた。
「ええと……、老成したのに若く見えるのですか?」
「そう……。以前の覇気を手放し、虚心で自己を見つめて、生き直そうとされていらっしゃる……。主上には以前のような覇気が無くなりましたが、それは奪われたのだとも失ったのだとも李斎は思いません。主上ご自身が何かを悟ってお捨てになったのだと思います」
李斎は自分の言葉に頷きながら続けた。
「主上は今、改めて生き直していらっしゃる。そのように人生の始まりを生きている初々しさがうかがえるのです。そのような主上に対するのに、かつてのような盲目的な尊崇は捨てようと李斎は思っています。それが主上に対する礼節ではないか、と」
「……生き直す……」
李斎は笑んだ。
「普通の者にはできません。既にかなりの年月を生きていらっしゃるのに、新しく生き直す。言葉にできても実行に移すことは難しい。でも、主上は取り組んでいらっしゃる。そして、私もその姿に応じたい」
それは泰麒にとっても好ましいことに思えた。彼は李斎の手を取る。
「ふふ、驍宗様は赤子のようなものなのかもしれません。可愛がってあげて下さいね」
李斎も微笑んだ。
「畏れ多いことですが……。ただ、主上は昔からもある意味では純粋でいらしたかと思います」
「ああ、純粋というか……。健全というか……」
双璧と言われた阿選の拗らせぶりを考えると、驍宗の思考や行動の真っ当さは際立っている。自分が仕えるべき王がこのような為人で良かったと、泰麒はしみじみ感じ入る。そうか、これも驍宗の一面ではあったのだ。
泰麒は笑み、それでも少し困惑した様子を見せた。
「台輔、李斎は何か変なことを申しましたか?」
「いえ、そうじゃないんです。李斎の言うことは納得いくんです。ただ、うーん……」
泰麒は首をひねる。
「お若いと分かっても、それでも未だに僕にとっては父のようにお見上げする気持ちも強くあります。だから、主上と李斎の間柄で、主上が年下で李斎が年上として振る舞っている場面が想像できなくて……。僕が蓬莱の偏見に染まってしまっているせいだと思いますが……」
李斎は泰麒を睨んで見せた。
「どうか、そのような場面なぞ想像なさらないでくださいまし」
そうだった。男女の二人きりの様子など、他人が思い描くものではないだろう。泰麒は軽く握っていた李斎の手にもう一度強く力を込め、そして何かを区切るように手を放した。
この二人には、二人きりだからこそ互いに見せる姿があるはずなのだ。
「何を……なさって……おいでです?」
李斎は動揺のあまり、とぎれとぎれに驍宗に問いかけた。夜の臥室、彼は、臥牀に腰かける李斎の足元に跪き、彼の上半身を彼女の膝にうつぶせに乗せたのだ。
彼は李斎の膝の上で身をひねると、悪戯めいた目で彼女を見あげた。李斎は一国の王を膝の上から見下ろすことになり落ち着かない。だが、男の顔を振り落とすことも出来ない。
「蒿里から妙なことを聞かれた。蓬莱の感覚では、見た目が年下の男性と年上の女性との組み合わせは、どちらかと言えば少数派であるらしい」
「ああ、李斎も同じようなことを伺いました」
「どのように答えた?」
「年上年下に関わらず、主上は主上でいらっしゃるから慕わしいと思うのだと申し上げました」
「嬉しいことを言ってくれる。私も李斎が李斎だから好ましいと答えた。ただ……」
「ただ……?」
「私は李斎の傍にあるのに、飛燕の代わりを務めてやりたいと願っていたつもりだったが、不足があったことに気が付いた。これまで翼で覆う仕草の真似事はたびたびしてきたが……」
「ええ、主上の腕は力強く温かい。その腕で抱きしめて頂くと、飛燕の翼で抱かれるのと同じ……いえそれ以上に心安らぎます」
「いや、飛燕の代わりにすべきことが他にもあった」
「……?」
「私の騎獣、計都も羅睺もこのように主の膝に乗る」
「ああ、甘えているのですね……」
「飛燕も?」
「ええ、飛燕もよくこうして膝に乗って……」
李斎はここで息をのんだ。
「!!! 主上、まさか騎獣が甘える仕草まで真似ようと……」
驍宗は笑む。
「そうだ。飛燕のすることなら何でも代わってしてやりたい」
ですが……と李斎は遠慮しようとした。しかし、口を開けたものの、彼女の動きは再び驚きの余り固まってしまう。
「……!」
驍宗は膝に頭を載せたまま、右手を彼女の胸に伸ばした。その拳は軽くにぎられ、手首が少しだけ曲げられていた……そう、猫に似た獣の脚先のように。稚い子供がするなら、随分可愛らしいと微笑みたくなるような仕草だが……。しかし……。
あの、禁軍左将軍にして常世第二の剣客だった男が。玉座につくことが当然視された、あれほど苛烈な覇気の持ち主だった男が。かつてそれほどまでに強面だった男が、騎獣の真似をして彼女にじゃれついてくる。
いや、今だって端正で怜悧な風貌に変わりはない。現に、李斎を見上げるまなざしの半分くらいは真面目なのだ。半分程度はからかいの色が混じっているにしても。
「このような児戯のような真似も面白かろう」
「……」
李斎は一つ息を吐いた。赤子から生き直す彼なら、少しは子供らしさがあってもそれもそうなのかもしれないと思うことにした。
彼女は指先を、膝の上の彼の顔のこめかみのあたりに伸ばし、銀髪を少し梳いてみる。上から見下ろす相手を王だと思うと身が竦むが、腿に伝わる体温は確かに飛燕を思い出させもした。
彼女の手の動きに合わせ、紅い瞳の、彼女の新しい飛燕は心地よさげに目を細めて見せた。李斎が耳の後ろを掻き、喉のあたりをなでてやると、その獣はより一層嬉しそうな顔をする。
「くるるぅ」
驍宗の口からそんな声音が発せられ、李斎は軽く耳を疑った。無骨で堅苦しい為人は、こうも柔らかくなったのか。
いや、真面目に真似をしているから、戯れではなく本気で出しているのかもしれない。もっとも、彼の騶虞の猫のような鳴き声を出されても、犬に近かった飛燕の声とはあまり似ていないのはご愛敬ではあるのだが。
彼は李斎の笑みを別の意味にとったようだった。
「随分と楽し気に撫でてくれる。李斎は乗騎を大事にするのだな」
そう言うと、李斎の新しい飛燕は、しなやかに身を跳ねさせた。そして、両手で彼女の肩にのしかかる。
その大型の獣の重みに、彼女はそのまま臥牀にあおむけに倒れ込んだ。飛燕を世話しているときも、しばしばあったことだった。のしかかられて後ろに倒れる。大きな獣に組み敷かれ甘噛みされる。そう、たった今、驍宗にそうされているように。
「生き物に抱き付かれるのは愛おしいものです」
李斎の新しい飛燕は人間の声で問うた。
「愛おしいか?」
「ええ、とても」
その獣の腕は、翼と違って手のひらがあった。その掌で、李斎の額に零れ落ちた髪をかき上げ、額から後ろへ撫でつける。そして、李斎の首筋に顔を埋めて囁いた。
「飛燕の真似を終わりにしても、それでも李斎は私を可愛がってくれるかな?」
李斎は左の腕を彼の首に回した。
「もちろんでございますとも」
「私が人間になっても……。いや、別の獣になったとしても……」
「愛おしいことに変わりはありません」
男は上から覆いかぶさるようにして唇を寄せた。二度三度、いやそれ以上に、上から彼女を抱きしめあちこちに口づけを落としていく。女が吐息を漏らした。そして、男もまた。
そのまま二人の息遣いが、高く低く激しさを増しながら臥室の中を満たしていった。
その高鳴りが終わった後。女はいつも通りに気怠く横たわっていた。
しかし、この夜は、それだけでは終わらなかった。
男は女の腰を掬い取り、自分の身体の上に乗るように促す。
「私を乗りこなしてみるといい。良き乗騎になろう」
彼女は少しだけ当惑気な顔をしたが、こくりと頷いた。彼の腰の上に自分の腰を据え、赤茶の髪を垂らしながらむくりと起き上がる。成熟した女性の、柔らかな曲線を描く身体が月明かりに浮かび上がり、湿り気のある鳴き声がした。
「ああ……」
やがて再び、生き物の荒々しい息遣いが臥室の空気を震わせる。
彼女はその夜、彼にまたがり空を駆けた。誰の目もない二人きりの夜空の中を。飛燕と戦場にあったときと似て非なる昂りと、全く反対の甘い悦びとともに。
彼女の意識が遠ざかる一瞬、銀色の風切り羽が何かの光を切り裂くような幻が彼女には見えた気がした。
くどくて申し訳ございませんw
2022年現在、十二国記の戴国メンバーをモデルにした、平安ファンタジー小説を投稿中です。
驍宗様はあまりに完璧すぎてキャラとして動かしづらかったので、英章と合体して別キャラになっております。
しかし、李斎や臥信、霜元的なキャラはわりとそのまま登場してます。
後半は、双璧の阿選をモデルとしたキャラのクソデカ感情が炸裂するんですよw
是非お読みいただければ幸いです。
「錦濤宮物語 女武人ノ宮仕ヘ或ハ近衛大将ノ大詐術」
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