※明晰夢とは、夢を見ながら自分で「これは夢だ」と思っているような状態だそうです。
↓なお、「十二国記の戴国メンバーの物語を、日本の平安時代でやってみたらどうなるだろう?」と思ってオリジナル小説を書きました。カクヨムで連載中です。是非お読みいただければ幸いです!!!
「錦濤宮物語 女武人ノ宮仕ヘ或ハ近衛大将ノ大詐術」
https://kakuyomu.jp/works/16816927860647624393
※作中に出てくる「月が綺麗ですね」について。
明治期に、欧米の文学などでの”I love you”を訳するにあたり「愛しています」では日本文化においては直接に過ぎる、「月が綺麗ですね」と訳すべきだと夏目漱石が言ったという挿話が伝わっています(真偽のほどは疑わしいようですが)。女性の愛の告白も「死んでもいいわ」とすべきだという二葉亭四迷の挿話もあるようです。
↑スミマセン、単に私がこのエピソードが好きなだけなんです。
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驍宗は夢を見ていた。一方で、夢を見ている自分自身が、心のどこかで「これは夢だ」と分かってもいた。
彼が彼の眠りの中で見つめていたのは、大裘を纏う李斎の姿だった。朝堂よりさらに奥深く、壇上の玉座に腰かける彼女に対し、彼は床の上に跪いている。この夢の中では、彼女が王で彼は臣下であるらしい。
どんな李斎であっても、驍宗は彼女を美しいと思う。ただ、李斎の大裘姿は、美しくもあったが痛々しくもあった。豪奢に過ぎるその装いは、彼女の美しさを活かすより上からのしかかっているかのようだ。あまりに華美で仰々しい。
にもかかわらず、些かも簡略化せずに、伝統と格式を踏まえた装いに律儀に徹するところに、この女王の玉座への誠実さがうかがえた。
驍宗は内心で息を吐く。彼女にそれは重すぎないだろうか。そう驍宗が思うのに呼応するように、玉座に座る女王がため息をついた。
「驍宗殿、今は二人きりです。どうか傍へ」
女王が臣下を呼ぶなら、驍宗、と呼び捨てでいいはずだ。「殿」などつける必要はない。だが、自分がこの夢で見ている世界では、李斎は彼をそう呼ぶのだろう。驍宗自身が、夢の中を生きると同時に外から眺めてもいるこの世界では。
驍宗は一度立ち上がり、姿勢よく玉座に歩み寄ると、再び彼女の足元に膝をついた。そして、軽く見上げながら、彼女の表情を読む。
「主上、お疲れでいらっしゃるのでは?」
李斎に主上と呼びかけるのは、夢の中でも奇妙な気がしたが、だから夢なのだと彼は思う。
「案じてくれてありがとうございます、驍宗殿。貴方はいつも私のことを思いやってくれます。なれど、私は先日のお話に『否』と言わなければなりません」
李斎は心底済まなそうな顔をする。驍宗は首を振った。何の話を否定するのか分からないが、王は王の決断をすべきだろう、と彼は思った。
「冬狩の件です、驍宗殿。貴方の言う通り、先王の下で政を私し、専横を極めた狡吏は処断しなければならない。──しかし、私はこれを、泰麒を国外に出して秘密裏に行いはしません」
いえ、と彼女は苦し気に小さく首を振った。
「正直に言いましょう。私にはできません。驍宗殿、貴方の大胆で抜本的な提案を受け入れる器量は私にはないのです。私は、弱く愚かな王に過ぎない…」
驍宗は静かにそれを聞いた。
驕王の治世はあからさまに大きく崩れたという体ではなかった。外からは穏やかに見えて、その裏の内部で長い時間をかけてゆるゆると腐敗が蓄積されていた。地方の州師将軍に過ぎなかった李斎の立場から、王宮の奥深くで複雑に絡む陰険な人間模様まですぐには掌握するのは困難だ。彼女自身が冬狩を指揮することは無理がある。
けれど、彼は彼女の朝を守りたい。彼女は清廉さという優れた資質を持っているが、それを王としての治世に活かすまで、その道筋をつけるのは決して容易ではあるまい。
だから、李斎の言葉に彼はこう返した。
「では、狡吏を取り除く件は、私にお任せいただきましょう。先王の元でも禁軍左将軍であった私が、狡吏たちの罪状を告発してまいります。一人一人について、誰にも伏せることなく公に罪を暴く。そして、通常の手続きと同じく秋官の花影が裁けばいい」
すらすらと言葉が出てくるのは少し不思議であったが、口に出している間も自分で納得はしていた。そうか、それでいい。玉座を汚さずに道を正すことができる。
李斎は憂い顔で驍宗の顔をひたと見つめた。
「驍宗殿。それではこの王朝への不平や不満が貴方に集中してしまうことになる…」
彼は笑う。
「なんの。人から指さされて罵られることくらいのこと。真に戴と泰女王の御為なら恥でもなんでもございますまい。私は先王の頃から国政を知悉しておりましたゆえ、私のすべきことかと存じます」
この思いは夢でも現実でも変わらない。悪吏をのさばらせておくにはいかない。現実には驍宗自身が王として取り組み、秘密裏に性急に進めた。この夢の中では、先王の旧臣の立場から公に事を進める。無駄に急ぐこともない。
夢の外の自分が自嘲する。現実より夢の方が望ましいくらいだ。
夢の中の泰女王は、彼の胸中を知ってか知らずか気遣わしげな顔をする。
「不甲斐ない王で済まないと詫びます、驍宗殿。臣下として貴方に泥を被らせ、自分が負うべき責めを受けられない。なれど──私はこのようにしか在れません」
ごめんなさい、と小声で続けた。彼女は王の責務を理解している。
「いいえ、主上。臣下に器量に合わせた仕事を任せていくのが王というもの。ご自身で何もかもなさらない方がいい」
驍宗は再び思う。この夢の中の自分もまた、人から怖れられ、憎まれもするのかもしれない。だが、それでいい。心優しい女王を守り、この戴のためとなるのなら。奥ゆかしい女王は国を乱れさせかねないが、それを防ぐ役割を果たせるのなら。
この気持ちは夢の中の自分だけのものではない。夢を外から眺める自分もまた、それでいいと思っている。
一方で、夢の中の自分は過去の自分とはずいぶんと異なる台詞を吐くものだとも思う。驍宗はそんな自分を不思議に思った。
かつての自分は、自分以外の王が立てば引き比べて己が優れているとして玉座を掠め取りかねなかったのではなかったか。だから、王に選ばれなければ戴を出ようとしたのだ。それは相手が李斎であっても、だ。そして、王が全てにおいて決断と実行をすべきだと思っていたはずだ。半身である麒麟の目を欺いてまで。
今の──この夢の中の自分は、何故、李斎が玉座につくことを受け入れて戴に残り、王がなしえないことを臣下として代わってなしとげ、支えようと思うのだろう。
大裘の袖が彼の頬に伸びた。驍宗は驚く。夢の中で血肉を持つ彼もまた、目を見開いた。女王はもう一方の腕も驍宗に延ばす。ああ、この夢の中では李斎は両の腕を持っているのだ…と夢を眺めながら驍宗は思う。その間に、彼女は椅子から滑るようにして、膝をつく彼の目の前にうずくまった。
「…⁈」
李斎は驍宗の真正面から、両手の指で彼の頬を軽く挟む。
「貴方には類まれなる能力があるのに……。私よりも玉座に相応しいと今でも私は思うほどです。だから私は貴方を重んじている。しかしながら、それを女性である私の個人的な寵だと、何も分からぬ者たちが無礼を言います」
李斎は夢を見る驍宗には意外なことを言った。
「私が貴方を愛してしまったから、貴方も私に応えようとして戴に残ってくれた。その好意に甘えるばかりの至らぬ女王を許して欲しい、貴方が私を許してくれるものならば……」
驍宗は温かく微笑む。夢の中の彼の身体もそのような表情をしているはずだ。
「主上は私を愛していらっしゃる?」
「ええ」
答える言葉は歯切れがよく、李斎の視線はまっすぐだった。少し申し訳なさそうにしているが、それは彼を中傷する輩が居ることに対してであって、彼女から彼への愛情自体はまっすぐに伝わってくる視線だった。
「光栄です」
これは夢だ。現実ではない。けれど、天命を受けた李斎に愛されるのは光栄であり、そして──。
「幸せなことです」
彼女は哀し気に俯いた。
「私の恋情に応えてくれて礼を言います、驍宗殿。それなのに…貴方に心を捧げてもらっているのに、私は何も差し出せない。私が貴方に触れることがあっても、貴方が私に触れることを許すことはできない。ただの女であれば、私は貴方の胸に飛び込みましょう。真実そう思います。なれど、王である私と貴方とが本当に結ばれてしまっては、それは王朝の乱れとなる」
驍宗は、そうか、と思う。この世界では、彼女と自分は想い合っても結ばれぬ道を選んだらしい。女王は今、他人の目がない二人きりだからこそ、彼に玉座の側近くに寄ることを許し、そして彼に触れることを自分に許したのだ。
誰にも見せられぬ秘密の仲。それは、生真面目な彼女らしく、そして彼らしい話だった。なるほど、夢は登場人物の個性から離れた全くの荒唐無稽な内容にはならないものらしい。
彼は頷いて見せた。
「王が特定の寵臣を持たぬこと、そう外に示すこと。賢明なご判断と思います」
彼女は眉根を寄せ、苦しそうな顔をしている。
そんな彼女にどのような声を掛けたらよいものか。驍宗は思案する。夢の中だからといっても、彼が女性に不器用なのは変わりようがない。
李斎の沈んだ気持ちは「気にすることはない」と笑い飛ばせることではない。彼女に辛いと思って欲しくはないが、自分も彼女との仲を軽んじているわけでは決してない。ここで伝えるべきは、公にできずとも、彼も彼女を愛しているということだ。ただ、想いを伝えるのにあからさまな言葉は選べない。
普段の彼ならここで手詰まりとなる。なにしろ彼は女性に甘い言葉を囁くことが不得手な朴念仁だから。だけど、たまたま彼は想いを載せる言葉を手にしたばかりだ。蒿里の話してくれた蓬莱の挿話が彼の記憶にあった。
彼は顔を横に向ける。玉座は堂の奥深くにあるため、外が見えることはない。だが、柱の向こうに夜空を見上げる仕草を彼はしてみせた。
「月が綺麗ですね」
李斎は怪訝そうな顔をした。驍宗は笑んで見せた。
「台輔が蓬莱の話をしませんでしたか? 蓬莱の古風な男は女性への愛を直接告げないものらしい」
だから、「愛している」という言葉の代わりに「月が綺麗ですね」と口にするのだ、と。
李斎も苦笑した。
「蓬莱の古風な女性の返事は『死んでもいいわ』とすることもあるとか。でも、私にその言葉は口にできない」
彼は首を振った。
「何もおっしゃらずとも…ええ、私は何の言葉もいりません。ところで、主上におかれては、禁軍将軍を護衛に夜の園林を散策なさいませんか。貴女と共に月を眺める時間を頂ければ、私の心は十分報われる」
李斎が彼を見つめる。その視線に少し驍宗はたじろいだ。今の自分は人を威圧しないはずだと思うが、念のため出来るだけ柔らかな表情を浮かべてみた。
彼女もまた和やかな顔を取り戻した。
「そうですね。我々武人は風雅を解せぬと天官などから言われがちです。人から咎められれば、二人で雅を理解する練習をしているのだと答えましょう」
李斎は立ち上がって歩き出した。彼は一歩さがって付き従う。李斎が外へ続く扉の手前に近づくと、彼は足早に彼女を追い抜き、彼女に代わって扉を開けた。そのいかにも従僕らしい彼の行動に、李斎はどこか寂し気に会釈した。
彼は自分の前を通り過ぎる彼女にふと気づいて、声をかけた。
「そのご衣裳は重くていらっしゃるでしょう。私が冠と髪飾りだけでも持ちましょうか」
彼女は少し驚いた顔をしたが、頷いた。
「お願いします。この頭では重たくて…」
そうして彼女が軽く頭を下げた。驍宗は丁寧に女王の小ぶりな冠を受け取り、懐に納めた。そして、李斎の結い上げられてまとめられた髪に挿された髪飾りを一つ一つ外していく。飾りが髪を留めていたところでは、そのために髪が一房、二房と零れ落ちる。女性の髪の結われ方など気にしたことがない驍宗は驚いて動きを止めた。
「驍宗殿、そのまま続けて…。髪は下ろしてしまいますから髪型のことは気にせず…」
実際、彼が全ての髪飾りを外してしまうと、彼女は開放感に満ちた晴れ晴れとした様子で首を軽く振った。さらさらと赤茶の髪が波打ちながら振り落とされる。彼女は手櫛で下ろした髪を後ろに流し、彼を見た。無防備で自然な、彼女らしい顔をしていた。
驍宗は、手中の髪飾りを握りしめた。ただ結われた髪をほどいただけなのに、彼女の何かをこの手で剥いたのだという心の昂ぶりがある。
李斎がいざなった。
「さあ、外へ出ましょう」
扉の外は月明かりに満ちていた。冬を迎えようとする木々の梢には月影を遮る葉はほとんどなく、園林を散策するための道が淡く白く光っている。
彼女の身体が、建物の基壇から続く階を踏む重みを全く感じさせることなく、宙を舞うかのようにして地に降り立った。赤茶の髪が風をはらんでふわりと広がり、ゆっくりと彼女の体に続く。その柔らかく軽やかな動きは、現実の重さがないかのようだ。
このどこか幻想的に見える光景に、彼は「そうだ、これは夢なのだ」と思い出す。
夢ならば、誰も彼女を見とがめるものはいない。驍宗は自分も地面に下りた。浮遊感を覚えて改めて夢の中であることを実感する。
彼は背後から彼女の肩を抱きしめる。禁軍将軍には許されない無礼だが、女王は咎めることなく彼の腕の中で彼を振り向く。
怒りも怖れもないその彼女の顔。その額に彼は口づけを落とす。ふふっと快さそうに息を吐く彼女に安心して、そのまま彼は唇で彼女の目元、頬をなぞり、そして彼女自身の唇に重ねた。
熱と湿り気、どこか甘さのある彼女の香り。いつも現実で抱き合う彼女と同じだった。少し遠慮がちに、そうっと腕を彼の背に回す仕草も。ただ、夢の中の彼女には右腕がある。両腕で抱きしめられる感触に彼は戸惑い、そして切なく思った。
──李斎に会いたい。
あの、隻腕の女将軍に。右手はないが、残された左手で彼を抱きしめてくれる現実の彼女に。天啓を受けずとも腐ることなく、愚直なほど王師将軍の任に忠実だったあの彼女に。
──その李斎を引き受ける男でありたい。
艱難辛苦を味あわせ、彼女から腕も故郷も飛燕も麾下も失わせた自分。だが、その自分の過去から逃げたくはない。今があるのはその過去があってのことだから。過去が今を作る、とは李斎がよく口にする。彼は、今の現実の、片腕のない李斎を抱きしめたいと願った。
夢の中で、彼はそっと腕の中の李斎と顔を離した。夢の外の自分から、夢の中の彼女に、ややからかいを含んだ口調で言う。
「泰女王の尊顔を拝することができて、良かった」
彼女は戸惑うでもなく、彼の言葉の続きを待っていた。
「かつての私は自分より王に相応しいものはいないと奢っていた。他の者に天啓が下れば、その者から玉座を掠め取ろうとしかねないほど」
彼女は落ち着いた声で返す。
「今の貴方はそうではいらっしゃらない」
夢の終わりが近づきつつある気配がする。
「私は戴を混乱に陥れ、一度は死を覚悟した。そう、本当にそれでいいと思った。私は、自分が王だと思うのなら、民を守るために処刑されても仕方がないと思った。──思えるようになった」
あの七年の間に、自分から覇気が失われたと人は言う。彼も自分の中の何かが変わったと思う。かつての自分は、己の正しさを、狡吏を狩ることで押し通そうとしていた。七年の後、自分は阿選に狩られようとする民の命を助けることに、己の命を捧げようと思うようになった。そうなることができたのだ。
「だからこんな夢も見ることができる」
あの七年の後、自分は和やかになったと言われる、その変化があればこそ、彼は李斎に恋をしたのだと思う。恋を知り、そしてその相手が戴を治めるのなら、自分の役割は白圭宮で彼女の朝を支えることにある。
「今、貴女が女王となり、それが戴のためであるのなら、貴女に跪き、貴女のためにどんな汚名でも着ましょう。貴女が求めるのなら、私は公私にわたって貴女の支えになりましょう」
だからこんな夢も夢見る分には悪くない、と彼は内心で独り言ちた。
李斎は何かを慈しむような柔らかな微笑みを浮かべた。
「驍宗殿が、心穏やかで安らいだ顔をなさっている…」
「この私の笑みは貴女がつくったものだ」
今、この笑顔を彼女に向けているから、というだけではない。七年の時を経て生き抜くことが叶い、そして再び玉座にあることができているのは、李斎が虚海を渡ったことによる。
今の自分は、劣るかに思える相手から何かを掠め取ろうという邪な考えからは逃れられている。そして、生かされている立場で誰かを助けようとしている。このように生き直していられるのも、李斎がその道を開いてくれたからだと感謝している。
「貴女には恩がある。貴女に重い荷を背負わせようと思わない」
驍宗の瞳が優しい光を帯びる。炎に例えられたその深紅の双眸を、ときおり「灯火のように温かい」と表現してくれるようになったのは成長した蒿里だっただろうか。
「貴女に代わって、王の重責、お引き受けいたそう」
彼は彼女の帯を解き大裘の袞を剥いだ。
次に驍宗が見た李斎は、彼の牀榻の中にいた。被衫一枚で彼の側に身を横たえている。驍宗は彼女の右袖を確かめた。衣だけのその腕の不在に今は少し安堵する。
「ん……」
驍宗が起きたことで、李斎も目を覚ましたようだった。とはいえ、すこし眠たげな様子で彼を見る。
「どうかなさいましたか?」
彼は彼女をそっと抱きかかえた。
「李斎が女王だったという夢を見ていた」
その言葉に彼女は目を見開き、「畏れ多いことを」と言う。李斎は何もしていないのに、と彼は笑った。
「主上をさしおいて李斎が王…。さぞ頼りない女王だったことでしょう」
「弱く愚かと自分を評していたが、李斎は李斎だった。強さと正しさを求め、女王のあるべき姿を誠実に探していた」
臣下に泥を被らせる自分を不甲斐ないと思い、そして恋情に溺れない。惑いながら、それでも良き女王であることを真摯に追い求める人柄はやはり李斎だったと思う。
「主上を臣下として従えるなど、そのようなこと思いもよりません」
「李斎の器量を見下げているわけではないが、私も李斎から王を代わろうと思い、そこで夢を終えた」
「当然でございます、私などに王は務まりません」
驍宗はくつくつと喉を鳴らした。
「私は李斎を夢の中でまで苦労させたくはなかったのだ」
李斎、と彼は彼女の頬を撫でた。夢の中で唇を這わせたその頬を。
「私は、自分が王に相応しいから玉座につくのだとはもう思っていない。私は七年の間、戴を荒らしてしまった。李斎から右腕を奪い、蒿里にあのようなこともさせてしまった。他の誰ではなくこの私の責であり、私がそれを贖わなければならないから玉座にいる」
私がこうしているのは、と彼は続けた。
「生きてあるのではなく、責を果たせと生かされているからその任にある」
戴に住むどの者も、王が守るべき民だ。王は民の過去から未来に至るまでの運命を背負う。苦しいことだ。失敗を犯した己であればなおのこと。だから、自分が背負っていかなくてはならない。
驍宗は自分を思案気に見つめる視線に気づいた。自分が真剣に考え事をしている顔は今でも峻厳に過ぎるらしい。彼は意識して軽やかに口にした。
「延帝がおっしゃっていた。王など民の小間使いだ、と。李斎に玉座に座ってもらわずとも、私が李斎の小間使いとして仕えてやろう。李斎は気楽にしていればいい」
李斎は少し複雑な顔でじっと彼を見つめた。その後、彼の胸に顔を埋めると、彼女にとって一本しかない左の腕を彼の背にそうっと回した。その仕草は遠慮がちではあったが、手の指を大きく広げて力を込めて抱きしめようとしているのだと、彼は背中で感じる。
そんな彼女の片手の感触を覚えながら、彼は思った。過去においても彼女の手に生かされ、そしてこれからも背後から支えられて生かされるのだ──と。
くどくて申し訳ございませんw
2022年現在、十二国記の戴国メンバーをモデルにした、平安ファンタジー小説を投稿中です。
驍宗様はあまりに完璧すぎてキャラとして動かしづらかったので、英章と合体して別キャラになっております。
しかし、李斎や臥信、霜元的なキャラはわりとそのまま登場してます。
後半は、双璧の阿選をモデルとしたキャラのクソデカ感情が炸裂するんですよw
是非お読みいただければ幸いです。
「錦濤宮物語 女武人ノ宮仕ヘ或ハ近衛大将ノ大詐術」
https://kakuyomu.jp/works/16816927860647624393