昔の洋画や少女漫画で時々見かけた萌えシチュです。すみません、私の趣味です…。とても紳士な驍宗様がお好きな方向けです。
↓なお、「十二国記の戴国メンバーの物語を、日本の平安時代でやってみたらどうなるだろう?」と思ってオリジナル小説を書きました。カクヨムで連載中です。是非お読みいただければ幸いです!!!
「錦濤宮物語 女武人ノ宮仕ヘ或ハ近衛大将ノ大詐術」
https://kakuyomu.jp/works/16816927860647624393
しまった──。
李斎は己の迂闊さを呪った。
驍宗と腕を組んで歩くのは、あまりに心地よかった。温もりが嬉しかった。雲の上を歩くような、そんな幸せな気持ちについ酔いしれてしまった。
宿屋について、部屋に通されて気づく。
ずっと腕を組んだ男女二人連れならば当然、夫婦者用の寝室を用意されてしまうということに。
この部屋には、臥牀はただ一つ。二人で使うことが前提の大きさの立派な作りのものだった。
隣に立つ男の忍び笑いが聞こえた。
「李斎、安心していい。私は何も無体なことはしないから」
李斎は赤面した顔を驍宗に向けた。彼は苦笑して言う。
「部屋に入るなり臥牀を凝視したまま棒でも飲んだかのように立ち尽くす、そんな相手に何かしようとは思わない」
ほら、と彼は組んでいた腕をほどき、李斎の肩を軽くたたいた。
「体中がこわばっている。少しは緊張を解くといい。私は、ようやく腕を組んでくれたその日に臥牀まで共にしようと、そんながっついた男ではないつもりだ。そう、私の意地をかけて李斎に何もしないと誓おう」
そのまま、彼は榻に歩み寄った。
「臥牀は李斎が使えばいい。私は榻で眠る」
そのような、と李斎は声を上げた。
「主上を榻に寝かせて、私が臥牀などと畏れ多い!」
「ここで王と臣下の関係は持ち出さないでいてくれると嬉しい。今日という日はそういったことを忘れていたい」
「しかし……」
驍宗は彼女の聞きなれない言葉を発した。
「それから。一度、蒿里のいう『セイヨウのキシ』を気取ってみたかった」
「は?」
驍宗は榻に腰をかけて、語った。
「蒿里のいた世界にもいくつか国があり、蒿里の住んでいた蓬莱は東の方にあるのだという。そして西には蓬莱と異なる文化があり、そこの武人を騎士というそうだ」
「騎士は、こちらの武人と異なるのですか?」
「より上品な振る舞いを心がけるものらしい。蒿里は、霜元の品のある落ち着いた物腰を見て、物語で見知った西洋の騎士のようだと思ったと言っていた。さて、私も霜元に負けぬよう、行儀よくしておこう」
「主上も普段から品格のあるお方だと思いますが……」
「西洋の騎士というのは、女性に対して独特の考え方をするのだそうだ。想いを寄せる女性を貴婦人として遇し、仕え、体ではなく心で愛されることで報われようとする。興味深い礼法だ」
「しかし、主上を榻に寝かせるなどと……。せめて臥牀でお休みください」
驍宗は榻から動かなかった。
「臥牀で休むとなると、私の理性も持たない気がする。榻で少々不自由に休む方が、軍陣にある心地がして気持ちが引き締まり、身を律することができる」
「ですが……」
驍宗は少し困った顔をした。
「李斎、私の意地を粗末に扱ってくれるな。私は『騎士』として過ごしてみたい」
「……」
驍宗は腰をずらし、両足を榻に載せて仰向けに寝そべった。そして李斎に、からかう口調で言い置いた。
「貴婦人は貴婦人らしく。男を誘うようなはしたない真似はせぬことだ」
李斎はあんまりな言いようにも思え、「誘うなどと……」と言いかけた。だが、確かにこれ以上臥牀を勧めない方がいいと理解した。彼が冗談めかして言うように、誘うことになりかねない。
暗闇から掠れた男の声がした。
「李斎、眠れないか?」
李斎は恨みがましい声を出した。
「主上を従者のように扱って、どうして落ち着いて臥牀で眠れましょう?」
それは困った、と榻の方から驍宗の笑い含みの声が返ってきた。
「貴婦人にお休みいただかねば、騎士も安んじて眠れない」
そうだな、少し話をしようかと彼は続けた。
「蒿里のいた蓬莱にも昔は武人がいたそうだ。こちらも名誉を重んじる。たとえ食事にこと欠くような貧しさにあっても、さも満腹であるかのように悠々と楊枝を使って見せるそうだ。どこの武人も恥を厭うものらしい……」
「今の蓬莱に武人はいないのですか?」
「刀を振り回して争うことはないのだそうだ。蒿里はそのような者を実際に目にしたことは無いという──にもかかわらず、蒿里には酷なことをさせてしまった……」
驍宗の語尾には、深い悔恨の響きがあった。李斎は思わず臥牀を降りた。掛布を羽織って榻の驍宗に近づく。
驍宗もその気配に気づいたようだった。李斎は榻に横たわる男の腰のあたりの床にうずくまった。男が何気なく腰元に置いていた手の上に、自分の左手を重ね、その上に頭を載せる。
「主上のお声は臥牀では聞き取りづらいので……」
「では、私がもう少し大きな声で話そう、臥牀に戻るがいい」
「いえ、私は主上の掠れ声が好きなのです……だからここで……」
驍宗は、李斎に見えないがゆえに素直に驚いた顔をした。随分と艶っぽいことを口にするものだ、と。
男の片手を、赤茶の髪で上から覆いながら、李斎も小声でささやく。
「主上がご自分をお責めになると台輔もお悲しみになるでしょう。それに、台輔を罪に踏み込ませたのは、私ども臣が至らぬせいもございます」
罪と言えば、と李斎は続けた。
「主上は昼に私を誇りに思うと評価して下さいました。嬉しく存じます。ただ、これまでも打ち明けてきたように、私は景王に罪をそそのかそうとしました。また、味方を得ておきながら常に自分の判断が正しかったとも言えません。私がもう少し賢明であれば、犯さなくても済んだ罪を犯してきたような気がします」
「ここで、全ての責は王にある、と私の話をしても、心優しい李斎は聞き入れてはくれないのだろうな」
「私が心優しいかどうか、というより……。実際、主上のいらっしゃらない間の振る舞いですので……」
驍宗が深く息を吐いた。暗闇の中、部屋の空気が震えた。
「李斎が自分を愚かで罪深いというなら、そうなのだろう。李斎は民にも蒿里にも愛情深い。思いつめて視野が狭まることもあっただろうし、そもそもどんな人間も完璧ではありえない。李斎は蒿里に罪に踏み込んででも救ってくれる存在が必要だと言った。同じことを私が李斎に言おう」
少し間を置いて、驍宗は続けた。
「間違いを犯さない人間は、在り得るといえば在り得るかもしれない。だが、正しい在り方だと思わない」
その声には怒りが含まれており、李斎は頸を上げた。
「……?」
「間違いを起こすのは行動するからだ。行動しないものは間違いすら犯さない。私が阿選を許せないのは、政を放棄したところだ。何もしないで無為に民を放置する卑怯さを私は憎む。民も麾下も切り捨てていれば、誰に対しても切り捨てた以上の罪を負わずに済むだろう。だが、罪以上に私はそのような態度を嫌悪する」
驍宗は問うた。
「李斎は、景王の言葉として、こう言っていなかったか? 天は存在する、実在するのなら過ちを犯すのだ──と。地にある存在ならなおのことだ。人として何かのために行動するなら、間違ってしまうのだろう。ただ、過ちの犯し方というものがある。それをわきまえて、少しでもましな人間でありたいと私は思っている。昔はそのために阿選の目を意識していた」
「あの男の目、をですか?」
「軽蔑されたくない、と。そのように、私は彼の眼を私の人としてのありようを測るものとしていた。けれども、あの男は、私を見なくなった。彼は彼にしか見えない幻影を見つめるようになったのではないかと思う」
ここまで喋ってから、驍宗は怒気を緩めた。
「愚かでも罪深くても行動する者こそが人として正しいと思う。李斎も蒿里も……行動するに果敢な、戴の人間らしい人間が私の下にいて支えてくれた。私は幸いな者だと思う」
李斎、と驍宗は深い響きを込めてその名を呼んだ。
「私が玉座を空けてしまった間の、李斎の行動には驚いた。この驚きをなんと形容していいか分からない。私も道義のためだと思えば、他人を驚かせる行動も辞さない性質だが……。それでも、李斎のような行動は取り得なかっただろう。私は李斎を尊敬する。……それから、その陰にある涙をふきとってやりたいと、愛おしくも想う」
李斎は頬を彼の手にこすりつけることで応えた。ほう、と驍宗はうずくまる彼女の姿を見つめた。眠くなってきたせいなのか、可愛らしい姿を見せるものだと胸の温まる思いがする。
「……そうだな、李斎相手に、こうして『西洋の騎士』を気取ってみて思いついたことがある」
思いつきで脈絡のない話を、普段の彼は好まない。ただ、今は、寝物語を楽しんでいたかった。
「蓬山で李斎が女王として天啓を受けていたら、私は戴に留まって重臣として仕えていたのではないだろうか、と想像する」
「静之の話では、主上は蓬山で戴を去るつもりだと仰ったとか。自分より劣る相手が王なら、いつか位を盗んでしまうのではないか……と」
「その相手如何による。確かに、李斎に天啓がないことを、あの時の私は特段不思議に思わなかった。李斎を侮るわけではないが、王として立つより優秀な臣下として働く方が輝く人物と見ていた。ただ、仮定の話だが、李斎が王なら、私は全力で支えようとしたのではないかと思う」
「……仮定の話でも畏れ多い……。主上を臣下に持つなど想像すらできません。主上の器の大きさにはとうてい及ばぬ身です」
くつくつと喉を鳴らす音が聞こえた。
「李斎を女王として仰ぐのは意外に楽しいことかもしれぬ。私が自分の方が勝っていると思う部分を惜しみなく女王に捧げ奉り、劣っているかと思われた女王をお育て申し上げる……うむ、面白そうだ。西洋の騎士が貴婦人を敬愛するのも、このような悦びがあるからかもしれぬ」
李斎はため息をついた。
「笑えない軽口など聞きたくありません」
いや、と驍宗は真面目な声音に戻った。
「軽口で済まない面もある。完璧だとも、自分より何もかも優れていると思えなくても、李斎のような為人なら高みに押し上げたいと、そう思わせるものが李斎にあるから。つまり人望がある」
「主上、主上ご自身にも……」
「分かっている。もう私は自分に人望がないとは言わない。ただ、登極直後に李斎に対して『自分に人望がない』と零したのは、李斎には人望があるからだ。人望がない相手にこのような話題を持ち出すのは、痛烈な皮肉となってしまうだろう?」
「それは、そうですが……」
「李斎は愚かで罪深かったかもしれないが、人を巻き込む才がある。蒿里に罪を負わせたことより、蒿里が罪を負ってでも今生きてあることを考えよ。李斎が取り戻してきたのだ」
「私一人では……」
「先ほど、行動する人間なら過ちを犯すのだ、と言った。ただ、人は一人ではない。李斎が罪をそそのかそうとしても、花影の言が李斎を止め、景王と周りが罪をはねのけた。行動しあう者が真摯に触れ合えば、犯さなくて良い罪を減らせる。あるいは、よりましな過ち方を選べるかもしれない」
私も……と口にした驍宗の声が重かった。
「私も、もう少し周りを信じていれば良かったと思う。阿選をあからさまに疑うことはできなかったにせよ、信の置ける相手に仄めかすくらいのことはしておいた方が良かった。私は自分一人で何もかもしおおせると思っていた。驕りであり、慢心だった」
「主上……」
「周りと何かを分け持つことを、もっと大事にすればよかった。蒿里にも、李斎をはじめとする麾下たちとも」
「ですが……」
驍宗は、この話題になれば李斎が懸命に否定するだろうと予想できた。寝物語にする話ではない。だから、話を別にする。
「西洋の騎士の礼法というのは本当に興味深い。貴婦人の心を得るのに、言葉と態度を尽くす。自分一人で突っ走りがちな私には、必要な作法だな」
女性に限らず、他の誰に対しても。自分は言葉が足りなかったのだと驍宗は思う。ただ、今は床にうずくまる李斎を眠らせたい。
「さあ、貴婦人は臥牀に戻ってしっかりお休みになられよ」
李斎は眠たげな声を出した。
「……ここで、もう少し……」
驍宗は迷う。目を覚まさせて臥牀に向かわせようか。いや、それとも自然な眠気のままの方が李斎には心地よいなら、そのままにしておこうか。
「主上のお声を聞いていたい……と……」
「そうか……」
李斎の声はさらに眠りに近づいていく。
「主上のお声が……李斎は好きです……」
それを聞くのは二回目だった。
「主上は先ほど、私が天啓を受けていれば、戴に留まって王の補佐をするのではないかと仰いました……」
李斎の思考も、眠たさのために行きつ戻りつしているようだった。
「巌趙や臥信であっても、主上は戴に留まって援けていたのではありませんか……?」
「そうだな。誼のある麾下を捨て置くことはしなかったかもしれない。子離れできぬ親のようだが」
「主上はお優しくていらっしゃる……」
「あまりそのように言われたことはないな」
「不器用でいらっしゃいますから……。でも……本当はお優しい。その声で……言葉を尽くして下されば……心打たれるものがあります……」
李斎の声は途切れがちとなった。半ば寝入っている相手に聞いても詮無いことだと思いつつ、驍宗は尋ねてみた。
「では、私が望んで李斎は応えてくれようか?」
「もちろんでございますとも」
寝言にしては歯切れよく聞こえたその返事が驍宗には嬉しかったが、その一声を発した李斎の首が一段と重く驍宗の手の上に落ちた。
……貴婦人はこちらでお休みか。
さて、この状況は西洋の騎士を気取りおおせたと言えるのだろうか。蒿里に話してみようか、いや話せる内容ではないのか。
そのようなことをつらつら考えながら、彼の方もゆるゆると眠りの中に入っていった。
くどくて申し訳ございませんw
2022年現在、十二国記の戴国メンバーをモデルにした、平安ファンタジー小説を投稿中です。
驍宗様はあまりに完璧すぎてキャラとして動かしづらかったので、英章と合体して別キャラになっております。
しかし、李斎や臥信、霜元的なキャラはわりとそのまま登場してます。
後半は、双璧の阿選をモデルとしたキャラのクソデカ感情が炸裂するんですよw
是非お読みいただければ幸いです。
「錦濤宮物語 女武人ノ宮仕ヘ或ハ近衛大将ノ大詐術」
https://kakuyomu.jp/works/16816927860647624393