「ただいまー」
さて、と。
家に帰ったはいいが、いつも聞こえるはずの返事がない。
もしかして、美也の奴、追求されるのが嫌で部屋にこもったりしてるんじゃないだろうな…
どうやったらうまく聞きだせるのだろうか。
そんなことを考えながら、リビングの戸をあける。すると。
「…おかえりなさい」
部屋の隅に、座布団を抱えて丸まった妹がいた。
「……え、えぇっと」
さすがにこれは困る。いったいどうしろというのだ。
と、しばらくの間答えに窮していると、意外なことに美也から声があがった。
「…今朝のこと…ごめん」
「え?あ、あぁ、気にしてないよ。…話してくれる気になったのか?」
「…うん」
「そうか。…一応聞くけど、相談ごとだよな?」
「うん」
「よし!さぁ、どんとこい!」
「あ、ちょっと待ってて!」
そう言って座布団をほっぽり出した美也は2階へと駆けて行った。
なんで?
少しすると、美也が階段から下りてきた。
「いったい何だったんだ?」
「え、えっとね…これ。」
にゃーお。
鳴き声。
猫っぽい鳴き声だ。というか猫だ。
そして、美也が差し出した両手の先には。
どこか見覚えのある子猫がこちらを見つめていた。
「この子って…」
「うん、たぶん、去年の子だと思う。」
去年のクリスマスのことだ。
美也が子猫を拾って来た。
その猫は親の元へ返したのだが…なぜまた家に来たんだ?
「学校の帰りにね?偶然見つけたの。それで、ちょっとだけ相手して、親の元へお帰り、って放したんだけど…」
なるほど。読めてきた。
「ついてきちゃって…放しても帰ってくるの…」
「もしかして…夜中に外出したのは…」
「うん。なんとか元の場所に返そうと思って。」
「父さんや母さんにばれるとまずいしな…猫苦手だし…」
「うん。でも、結局またついてきちゃったんだ」
「うーむ…」
「ほ、ほんとはちゃんと相談するつもりだったんだよ?…でも、あのときにぃにちょっと怒ってる感じだったから、言っても協力してもらえない気がして…」
驚いた。中多さん、思いっきり的中してるじゃないか。
あれは僕が悪かったのか…反省しないと。
「ねぇ、どうしたらいいかな…もう私わかんないよ…」
「よし!」
「?何か考えがあるの?」
「もう一回!探しにいこう!親猫を!」
「え?えぇぇぇぇぇぇぇ!?」
珍しく、美也が悲鳴を上げた瞬間だった。
*
「に、にぃに、ほんとに見つかるの?」
「あぁ!」
「根拠は?」
「無い!」
「えぇー…なんか今日のにぃにおかしいよ…」
「そんなことはないぞ?」
「でも…」
「ただ、去年も見つかったんだから、また見つかる。そう思っただけさ」
「にぃに…」
とりあえず、近場から探しているが、まだ親猫は見つからない。まぁ、この輝日東の中で猫一匹探すわけだから、そう簡単に見つかるはずもない。
ただ、
絶対に見つかる。
なぜかそれだけは確信できた。
理屈じゃない、何かが僕にそう訴えかけているのだ。
そして、足は自然とある場所に向かっていた。これにも、確信めいたものがあった。
きっとここにいる。
「あ…ここって…」
「うん。去年、母猫を見つけた場所だな」
「…いる、のかな。お母さん猫」
「探せばわかるさ」
そうして探すことものの数分。
「あっ!」
「見つけたか?美也」
「いや、猫ちゃんが降りて…」
美也から離れなかった子猫が、ふいに美也から離れた。
ということは…
「…いたか」
「うん」
そこには、去年と同じように寄り添う猫の親子の姿があった。
「よかったな」
「…うん」
そういえば、去年は子猫が母猫に甘噛みしてるのを見た美也が騒いでいたっけ。
美也は、普段はめったに見せないような穏やかな表情で猫たちを見つめていた。
…美也も、成長してるんだな。
*
猫を見つけて、僕たちは帰路についていた。
去年は、ここで美也に甘噛みされたっけな。
「ねぇ、にぃに」
「ん?どうした?」
「ありがとね」
「ははっ、急にどうしたんだ?」
「なんとなく、今回もだけど…うーん…とにかく、ありがと!」
「そっか…どういたしまして」
「にしししし!今年もまた甘噛みしてあげよっか?」
「ははっ!勘弁してくれ…」
きっと、本当に「ありがとう」と言わなければならないのは、僕の方なんだろうな。
いつも帰ってくると当たり前のように出迎えてくれて。
毎日懲りずに「日々の積み重ねが大事なんだ!ってお父さんが言ってたよ」「がんばってね にぃに」
なんて言って
いつも僕の一日を結んでくれる。
そんな安心感があって。
僕はきっと美也に甘えていたんだろう。
彼女を作る!なんて言って、最大限の努力をしたつもりになってはいたけど。
きっと、そんなことは全然なかったのだ。
美也はどんどん成長している。
大人になっていく。
美也だけじゃない。
僕の周りの人たち皆が成長している。
僕は、どうだろうか。
3年前のあのクリスマスの時よりは、前進できているのかな。
置いてきぼりをくらったような気持ちになって、少しだけ気分が沈む。
でも。
それでも。
こんな兄でも、きっと手を差し伸べてくれるのだろう妹を想って、
「ありがとう」と。
心の中で、呟いた。
口には、出せなかった。
読了感謝です。
一応これで「美也の様子がおかしい」は終了です。
文字数は少ないのに3話にもなってしまったのはご愛敬。
3話分で1話にするとちょうどいい具合ですかね。
橘さんのキャラが難しすぎて泣ける。
読み返すと正直別人に見えます。
自分の技量の無さが恨めしいです…
あと、地の文と会話文のバランスもよくわからず、かなり歪な感じになってしまいました。
次からはまた別の話を書いていきます。
もしリクエスト等ございましたら、気軽に教えてください。
出来る範囲で頑張りますので。