「ついに今年もこの日がやってきたか…」
ハロウィンである。トリックオアトリートである。
子供たちは家々を回り、お菓子をねだる日である。もっとも、このご時世に実際に日本でそんなことをしている子供を、僕は見たことが無い。
「さすがに高2にもなって――
「にぃにー!トリックオアトリートなのだ!」
―――――少なくとも、何故か魔女っ子コスチュームを着けて僕に迫ってくる妹以外は見たことが無かった。
「で、なんだその服装は?」
「すごいでしょ!さえちゃんがつくったんだよ!」
「なんでお前が威張ってるんだ!いや、確かにすごいけれども!」
「細かいことはいいの!それより、はい!」
そう言って、笑顔でこちらに右手を差し出す美也。
「…なんだよ」
「トリックオアトリート」
「…去年、もうこれっきりだって言ったよな?」
「トリックオアトリート」
美也は笑顔を崩さない。どうにかして話題を逸らさねば…!
「そ、そういえば、その衣装って、タダで作ってもらったのか?」
「トリックオアトリート」
どうやら無限ループに突入してしまったようだ。こうなった以上もうどうしようもない。
でも美也、材料費とかは、ちゃんと払ってるんだよな?
…今度中多さんに聞いておこう。
「…あぁもう、わかったよ…降参だ」
「さっすがにぃにだね!妹として鼻が高いよ!」
とりあえず一発げんこつをかましそうになったが、鋼の精神力でなんとか持ちこたえる。
この妹は、僕相手だと本当に遠慮をしない。ステーキを奢らされたことまであるんだからかなりひどい方だと思う。…いや、そうなるような弱みを作ってしまう僕も悪いんだけど。
「でも家に僕専用のお菓子が置いてある訳じゃないしなぁ……そうだ!」
「なになに?ステーキでも」
「そう何度も奢ってたまるか!でもこれは名案だぞ…」
「ちぇー。まぁいいや。で、その名案って?」
「梨穂子だよ」
「おぉー!なるほど!りほちゃんなら!」
「あぁ!きっと何か作ってくれるし、ついでに僕もあやかれる!まさに一石二鳥!」
「うわぁ…にぃに、図々しいね」
「お前にだけは言われたくなかった」
とりあえず、そうと決まれば早速電話だ!待ってろ梨穂子!
*
「少し寒いな…」
何が寒いかって?言わせんな恥ずかしい。
「うん…そうだね…」
「まさか、もう既に外出中とは思わなかったよ」
「普通にありえたことなのに、浮かれちゃってたね」
舞い上がって期待した分、それが実現不可能だと知った時の喪失感も大きい。
とりあえず、今からどうするか…
「はぁ…」
けんもほろろといった様子で溜息をつく美也。さっきと比べるとテンションの下降具合がひどい。こういう姿を見ていると、どうもやり辛くなるのが常なわけで…
「なんか、まぁ…買いに行くか?ちょっとくらいなら、奢ってやるから」
結局こうやってなにかせずにはいられなくなる僕は、やっぱり甘いのだろう。
「ホント!?」
「あぁ、ホントだホントだ。とりあえず外行くか」
「うん!にししし!にぃにもちょっとは分かってきたじゃん!」
妹の餌付けの方法を?と聞き返して、そのまま僕は引っかき傷だらけになった。
今のなんかおかしかったか!?
*
「さて、とりあえず外に来たのはいいけど…」
「どうする?やっぱり駅前?」
「うーん、せっかくのハロウィンだし、なんか普段しないことがいいよな」
「あれ、にぃにけっこう乗り気だね」
「やるからにはな」
「ふーん、でもどうするの?」
結局また袋小路である。このままでは無駄に時間を浪費するだけだ。
何か、何かこの状況を打開する物は…!?
「…ん?」
「?どうしたの?にぃに」
「何か聞こえないか?」
「え?…言われてみれば…なんだろ」
「笛の音、かな?」
「あー、そんな感じだね」
「…軽快なリズムに歌うようなメロディ、聴いているだけでワクワクしてくるぞ」
「…にぃに?」
まるで…僕の体が勝手に動き出してしまうような…
誰が何の目的でこれを吹いているんだ…?
こうしちゃいられない!すぐにこの笛の音を追いかけてみよう!
「あ!ち、ちょ、にぃに!待ってよー!」
*
「はぁ…はぁ…」
「はぁ…、もうにぃにどうしたの!?いきなり走り出さないでよ!もうへとへとだよ!」
「美也…アレを見ろ…」
「へ?あれって…………ピエ…ロ?…あ、妖しい…」
とんがり帽子にハートの装飾、全体的には青っぽい紫色。手には風船。
妖しい。どこからどう見ても変質者だ。
「笛を吹いてたのはあいつっぽいね」
「え?…あぁ、そういうことだったの」
「あ!気づかれたぞ!」
「ちょっと!近づいて来るよ!?にぃに、どうしよう…」
妖しげなピエロ?はこっちに近づいてきて、おもむろに手を差し出した。
「ボーク、コノチケット、アゲール。ミ~ン~ナ~デ、キテネ~」
「サ、サンキュー」
チケットを渡すと、ピエロはサッサとその場を去ってしまった
思わず英語で答えちゃったけど…あの人普通に喋ってたじゃないか…
「にぃに、何もらったの?」
「え?えーっと…遊園地の割引チケットか…しかもペアチケット…」
「遊園地!?いいじゃん!行こーよ!遊園地!」
「いや…いくら割引されてもけっこう高いんじゃ…」
「せっかくのハロウィンなんだし無礼講だよ!」
「…僕はいいけど、美也。お前お金あるのか?」
「え?にぃにが奢ってくれるんじゃないの?」
今度こそ美也の頭にげんこつをかまして、いったんお金を取りに家に戻る僕らだった。
美也と遊園地か…久しぶりだな…
美也みたいな妹が存在したら、どんなことになるだろうか。
というか、兄妹で遊園地ってあり得んのか?
自分で書いてて疑問が尽きない第4話でした。