アマガミミュージアム行ってきましたよ、えぇ。最初秋葉原でしかやらないと思ってお年玉全部使って一人で突っ込んだのになんばでやるとはこれいかに。
なんばとか…30分でいけるじゃねえかよ…東京への交通費使ったらガラポン何回引けたよ…?
ま、まぁ、向こうでしかラジオは聞けませんでしたし?絢辻さんのスリーブも買えましたし?
べ、別に後悔なんてしてないんだからねっ!
冬。木々は枯れ行き、池は凍てつき、冷たい風が容赦なく体を打ちつける、そんな季節。
僕らはこの不倶戴天の敵を前に、全く為すすべもないまま、ただ耐えることしかできないのだった。
「にぃに…」
「なんだ、美也」
「うぅん、呼んだだけ…」
そういって美也は、こたつの上でだらっと伸びるのであった。
元気が無さ過ぎて自分でも何をしているのかわかってないらしく、さっきからこんな意味のないやりとりばかりが続いている。
「お腹すいたね…」
「そうだなぁ…」
現在の時刻は13時過ぎ。僕らはまだお昼にありつけていない。
僕らの両親は現在二人で旅行中。僕も美也も、タイミングが悪いことにテスト前だということで、置いてかれてしまったのだった。僕らに料理は出来ないので、冷蔵庫の中身はすっからかん。
もちろん、お金は置いていってくれたし、時間だってある。あるのだが…
「おこたって凄いよおこた。もうみゃーは絶対に動けない」
「僕だって動けないよ…というかそれ言うのもう4回目だぞ美也…」
そう、冬である。冬真っただ中というあまりに厳しい環境に、僕らは動くことを諦めて暖まる事しか考えられなくなってしまったのだ。
「紗江ちゃんのまんま肉まんをまふまふしたいなぁ…」
「いいなぁ…梨穂子だったら…シュークリームかぁ」
空腹のあまりだんだん頭が回らなくなってきた。
「そうだ、出前とろう」
途端に美也の瞳に生気が戻った。
「さすがにぃに!動かなくてもご飯が食べられるなんて素敵だよ!」
「そうだろうそうだろう。じゃ、美也」
「ん?」
「電話は僕がかけるから、チラシ持ってきてくれないか」
「…」
「…美也?」
美也は俯いたっきり顔を上げようとしない。そんなに動きたくないか!こいつ!
「おい美也、頼むよ。ちょっとでも早くご飯にありつきたいだろ?そしたら効率よくいかなくちゃ。これは、美也の為なんだ!」
「みゃー、の…?」
「そうだ、美也の為だ!だから、な?」
「…うん、うん!わかった!みゃーチラシとってくる!」
「よし、その意気だぞ美也!さぁ、急ぐんだ!」
「うん!」
よし!なんとか美也を説得できたぞ!正直自分でも何言ってるのかよく分からないけど、美也には伝わったみたいだ!兄妹っていいなぁ!ははっ!
「にぃにー…」
しばらく待っていると、死んだ目をした美也が帰って来た。嫌な予感しかしない。
「どうした、美也…」
「チラシ、見つかんない…」
最悪だった。終わり。ジ・エンド。フィナーレ。ラ・ファン。どうあがいても絶望とはまさにこのことだった。正に手詰まり。正に袋小路。
この時の僕と美也の目を見れば、きっとこれ以上なく濁った灰色をしていたことだろう。
「…はぁぁ、どうしよぉ…」
またしおしおとこたつにもぐりこんでしまう美也。そんな妹の弱弱しい姿を前にしつつも、何もできない自分に少しだけ情けなくなる。
(ホント、どうしようか…)
思考が堂々巡りに入ったところで、不意に、玄関のインターホンが僕らの耳に来客を知らせる音を届けたのだった。
***
「…おい美也、チャイムが鳴ったぞ」
「そうだねぇ。早く出ないとだめだよ…」
「…じゃんけんで決めないか?」
「いやー。さっき美也動いたもーん。次はにぃにの番だもーん」
くそっ!美也はあくまで僕に出迎えを押し付けるつもりだ!
でも美也の言い分も分かる。それでもこのままいくのは癪だけれど。
「そうだ美也、一緒にいこう。正直今の僕はもう限界なんだ。美也が居ないと何をしでかすか分からないぞ」
「みゃーだってもうにぃにが肉まんに見えてるよ…」
結局、僕は美也を道連れにすることを選んだのだった。
「大丈夫だ!この寒さだって、二人で行けば何てことない!僕らならきっとやりすごせるさ!美也、僕にはお前が必要なんだ…!」
いよいよもって空腹で意識が朦朧としてきた。僕はさっきから何を言っているんだろう。
「にぃに…そんなにみゃーのこと…うん、分かった!」
美也がなんだか熱に浮かされたような顔をしているが、きっとこいつも頭が回ってないだろう。目が変だった。具体的にいうと、目の中に渦が巻いている、そんな感じに。
「よし、行こう美也!二人で!この寒さを乗り切るぞ!」
「うん!」
寒い外気にその身をさらす決心をした僕たちは、いそいそと玄関へ向かうのだった。すべては食事にありつくために。おいしいご飯を食べに行くために。何か忘れてる気もするけど、そんなものよりも今は空腹を満たす方が大事だった。
「こんにちは、せんp、えっ、ちょっ、先輩?あれ?美也ちゃんも…2人とも大丈夫ですか?…えっと、こっちににじり寄らないで頂けますか?あれ?ちょっと、目がおかしいですよ?二人とも?」
ドアを開けると、そこには醤油ラーメンが立っていた。
「美也…ラーメンがあるぞ…」
「ほんとだぁ…おいしそうだね…」
「はい!?ラーメン!?」
ラーメンから香るほのかな塩素の香りに、僕たちは我慢できずに飛びついて…
「ちょっ!なに…して…ひゃあぁ…」
「あむあむ、この弾力…これは逸品だぞ!」
「このスープ変な感じするね!」
「目を覚ましてくださいっ!」
「あうっ!」
「にゃっ!」
きれいなローキックを入れられたのだった。
***
「…で、空腹のあまり私をラーメンと間違えた、と。…頭、大丈夫ですか?」
「…返す言葉もございません…」
どうやら訪ねてきたのは七咲だったみたいだ。何で僕はラーメンなんかと間違えたんだろうか…。あ、そう言えば去年の遊園地の時の…もう考えるのはやめよう。
「そうだよ!この変態ばかにぃに!」
「お前は人のこと言えないじゃないか!」
「そうだよ美也ちゃん。まさか美也ちゃんまで来るとは思わなかったんだから」
「あ、あははは…ごめんなさい」
「え?もしかして僕が飛びつくのは予想してたの?」
「誰もそんなことは言ってません!」
あうっ!またローキックを…!さっきから僕に当たってばかりで、美也にはちょっと注意するだけじゃないか!
「先輩が変なことを言うからです!」
と思ってたら何故か僕の思考まで読まれてしまった。何故。
「それはいいけどさ…逢ちゃんは何でまた急にウチに来たの?」
全然良くない気がするけど、このままでは話が進まないことを悟ったのか、美也が話を切り出した。
「そ、それは…」
…ん?何か七咲の様子がおかしいぞ?顔が心なしか赤いような…。
「えっと、ですね。…やっぱり迷惑でしたか?今日は部活が昼までで…特にすることもなくて…先輩の家に、ちょっと、お邪魔してみようかなって…」
七咲が僕の家に?
「美也に会いに来たんじゃなくて?」
「え!?え、ええと…そう!どちらでも良かったんです!どちらでも!いればいいかなーって思ってたくらいですから!」
「へぇ~、逢ちゃんにしては珍しいねぇ、そんなテキトーなことするって。まぁいいや!何もないけど、ゆっくりしていってよ!」
それでいいのか妹よ、って思ったけど、まぁせっかく来てくれたんだし、邪険に扱うことないよな。
「七咲ならいつだって大歓迎だよ!…まぁ、事前に連絡した方がいいとは思うけど」
「で、ですよね…何で私こんなことしたんだろ…」
「そうだよ!下手するとまたにぃにが逢ちゃん襲っちゃうかもよぉ…?」
「おい!人聞きの悪い事言うな!僕はそんな変態じゃないぞ!」
「えっ?」
「えっ」
「えっ?」
…あれ、僕何かおかしい事言った?
ほんの数秒、沈黙が場を支配した。けれど、それもすぐに終わりを迎えることになってしまう。
――――ぐぅ
…そういえば、まだお昼食べて無かった。なんだかとても恥ずかしいぞ!七咲の視線が…痛いような…悪くないような…
結局、その後は美也と七咲と買い物に行って、何と七咲の手料理を三人で食べることができた。七咲はもうお昼は済ませてたみたいで、少ししか食べなかったけど。
何でこんな時間までご飯を食べてなかったのか聞かれて、兄妹揃って「寒かったからだよ」って答えたら、なんか凄い目で見られた。あぁっ!何だろうこの気持ち…!
七咲が「美也ちゃん、やっぱり先輩に悪い影響与えられてるよ…」なんて言うと、美也は
「どっちかと言うと今回はみゃーがうつしたのかも…」なんて苦笑いで答えるもんだから、七咲は目を白黒させていた。なんでだろう、と考えていたら、「にぃに、最近みゃーがこたつ占領してたせいであんまりこたつ使って無かったもんね。仕方ないよね…」
なんて。
そういえば、こたつに入るのっていつぶりだったっけ…結構入ってなかったな…そうか、だから僕はあんなにも簡単にこたつの魔力に魅せられてしまったんだな!
「普通はそれでもご飯優先すると思います」
納得してたら七咲につっこまれた。こたつの魔力はなめちゃいけないんだぞ!