どこにでもある日常、二人の高校生の男女による賑やかな一日

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初執筆、初投稿作品になります。
読者様にお楽しみいただければ幸いです。


純恋

朝。

うるさい目覚まし時計を止めて最初に見たのは誰かの頭だった。

ツインテールの黒髪に猫の飾りのついたヘアゴム、それが見えた瞬間、俺の顔面を衝撃が襲った。

 

「起ーきーろっ!」

 

声と共に頭突きが炸裂して、俺は声も出せずに顔面を手で覆って悶絶する羽目になった。

俺、松本 小春(まつもと こはる)。

容姿はまぁまぁ、文武両道でゲームマニアだ。

髪は切るのが面倒で肩まで伸び放題で垂れ目で、名前も相まってよく女子と間違われる。

俺を痛めつけた張本人は特に悪びれた様子も無く、やっと起きたかと言わんばかりに薄い胸を張って呆れた様な視線をこっちに向けている。

俺は痛みと噴き出た鼻血を抑えながら、布団の傍らに立つかなり小さい女子を睨みつけて口を開いた。

 

「佳澄…もう少し優しく起こすとかできないのかよ…」

「小春がいつまで経っても起きてこないから悪いんだよ。優しく起こしてほしいならちゃんと起きて」

「それでも起きてないのを確かめてから頭突きしろ…まったく…」

 

小さすぎる少女…幼馴染の橘 佳澄(たちばな かすみ)は、眉間に皺を寄せて俺を睨みつけたままだ。

俺の幼馴染で昔から勝気ですぐに手が出るタイプの熱血少女、なのに見た目は高校生になっても小学生と間違われるから、どうしても強がっている子供にしか見えない。

いつも腰までの黒髪を二つに縛っていて遺伝らしく母親に似た猫目が可愛らしいが、それを言うと初対面の相手だろうとすぐに蹴ると噂が広まって誰も褒めたくても褒められないのだ。

でも痛みを覚悟で褒めると顔が真っ赤になるからそれがまた何とも可愛くて仕方ない。

ちなみに学校では一番と噂されるほどの美女…いや、美少女…美幼女?

 

「何見てるのよ。早くしないと遅刻するよ」

 

そう言われて枕元の時計を見るとすでに七時。

しかも学校へ行くのに電車に乗らなければならない上に、駅からとてつもなく遠いからのんびりと仕度している暇もない。

顔から血の気が引いていき、佳澄を部屋から追い出して五分で仕度を終わらせると朝食も手を付けずに家を飛び出した。

そのまま駅へ向かおうと自転車に飛び乗り走り出した途端後ろから怒声が聞こえてきた。

 

「おい小春! 松本小春! 置いてくな!」

 

佳澄が家の前で両手を振って叫んでいる。

いつも佳澄が起こしに来て自転車に二人乗りで駅まで向かっているが、今日はさすがに二人乗りだと間に合わない可能性がある。

無視して行こうかとも思ったが、そうすると後々とてつもなく酷い目に遭うことが容易に予想できた。

仕方なく来た道を戻り叫んでいる佳澄を乗せて、今まで出したこともないような速度で駅へと走っていった。

途中に通る商店街で野次やら何やらが聞こえてくるが普段なら笑って答えているそれも無視して走り、やっとの思いで駅に着いて時間を見るために開いた携帯に驚愕の表示があった。

07:31 (sun)…日曜日だ。

 

「佳澄…今日って何曜日だっけ…」

「今日は月曜でしょ? カレンダー見てきたから合ってる筈だよ」

「そうか…じゃあお前だけ行ってこい」

 

携帯を閉じて、溜息ひとつ吐くと、佳澄を降ろして自転車を引いて来た道を戻っていった。

不思議そうに俺を見ていた佳澄も携帯を見て気付き、小走りで追い付いてくると申し訳なさそうな顔で見上げてきた。

俺の身長は173センチ、佳澄は146センチのため謀らずとも見上げる結果になる。

 

「あの…ごめんね? 私も寝惚けてたっていうか…ちゃんと確認してなかったから…」

 

何を隠そう、佳澄は抜けている…いや、馬鹿なのだ。

 

「昔から色々とやらかしていたけど流石に曜日を間違うって…。それに昨日の夜に日曜は一緒に買い物に行こうって電話で話したよな? 俺も人のことは言えないけど、言い出した本人が間違えるって…」

「だからごめんって…帰ったら添い寝でもなんでもするから許して? ね?」

 

思わずため息が出そうになるが、ふと佳澄を見ると固まることしかできなかった。

学内一の美女と言われている佳澄が涙目で、しかも上目遣いでこっちを見上げているのだ。

未だに彼女の一人もできたことのない純情な青年なら固まってもおかしくないだろう。

何やら自分が悪者のような気がしてきて、少し頬を赤らめて口を開いた。

 

「まぁ…弁当の中身をぶっかけられるよりはマシだから、いいよ…。というか、女子高生が簡単に添い寝とか何でもするとか言うな。いつか勘違いされるぞ」

 

それを聞いた佳澄はまるで小学生のように喜び、腕にしがみついて笑っている。

つられて俺も笑いながら来た道を引き返し、商店街で注目の的となった。

そうしていつもより長いと感じた道を歩いてやっとの思いで家に着くと、佳澄は荷物を取ってくると言い隣にある自宅へ、俺は冬場なのにかいた大量の汗を拭いながらに中へと入っていった。

 

「お、馬鹿者が帰って来たか」

「佳澄ちゃんもそうだけど、小春も相当おバカよねぇ…」

 

入った途端に父親と母親の声がしてきた。

本当に自分の親かと思うほどに俺に対しても毒舌で遠慮も何もない。

 

「二人とも、わかってたなら佳澄が来た時に止めてくれよ…」

「「だって面白そうだったから」」

 

声を揃えて言うあたり、夫婦としてはいい相性なんだろう。

でもこの二人は子供に対する愛情を持ち合わせていないだろうとつくづく思う。

未だに聞こえてくる声を無視して部屋に戻り、寝間着を手に浴室へと向かい制服を脱ぎ終わったと同時に佳澄が家に入ってきた。

しばらくは親が相手をしてくれるだろうと思い気にせずシャワーを浴びることにする。

 

「何と言うか…疲れたな…」

 

熱いシャワーを浴びながらそう独り言を言っていると、何やらドアの向こうで物音がした。

湯気でよく見えないが、恐らく母親が洗濯でもしているんだろう。

浴槽の縁に腰掛けて天井を眺めているとすぐ近くで物音が聞こえ、何か嫌な予感がしてそっちを見ると…

 

「……なんで?」

「それはこっちが言いたいんだけど…なんでお前がここにいる?」

 

全裸の佳澄が両手に抱えていた石鹸やら何やらを落として、茫然としてこっちを見ている。

なんでと聞いたが、また親が面白そうだからと連れて来たんだろうと簡単に予想ができてしまった。

そして茫然としているということは何も隠そうとしていない訳で…開いたままの浴室のドアから湯気が出ていき視界が明瞭になると見えるものがある訳で。

 

「…せめて隠すとかしような」

 

俺の不用意な発言がいけなかったのか、佳澄は近くにあった桶を俺の顔面に投げつけてからこの場を走り去っていった。

桶が落ちてしばらくしてから微かに佳澄が親に文句を言っている声が聞こえ、両親は大笑いしている。

また出てきた鼻血を止まるまでお湯で洗い流し、風呂から出てからの面倒事を想像して溜息をつくしかなかった。

ちなみに、俺が居間に出てくるまで佳澄の怒声は響き続けていた。

 

 

 

風呂から出て居間に入ると顔を赤くしてふてくされたような表情で座る佳澄と、笑いすぎで涙目になった両親がいた。

 

「父さんも母さんも、悪ふざけは大概にしてくれよ」

 

台所にある冷蔵庫に向かいながら声をかけると笑いながら謝る声が聞こえてきたが反省した様子は微塵も無い。

やっぱりこの二人は性質が悪いと思い苦笑いしながら麦茶を取り出し、俺と佳澄の分だけ入れて佳澄の隣に座る。

ふと佳澄を見ると、一瞬だけこっちを見てすぐ怒ったように睨みつけてそっぽを向いてしまった。

ひとつ溜息をついて、事の経緯を両親に聞くことにした。

 

「で、なんで佳澄が風呂に来たのか説明して」

 

なんとか笑いが収まった母親が答える。

 

「いやね、あんたを起こすのに走ってきたから汗かいて気持ち悪いって言うもんで、風呂に入っといでって言ったんだよ。でも、まさかあんたが入ってるとは思わなくてねぇ」

「せめて確認してから言うとかしようよ…」

 

何と言うか、溜息しか出てこない。

俺は麦茶を飲み干し、佳澄を連れて自室へと向かった。

部屋に入ってからもしばらく口を利いてくれなかったが、30分くらいしてからやっと話しかけてくれた。

 

「小春…」

「どうした?」

「買い物、行こう…」

「行くのはいいけど、なんでそんなに元気ないんだ?」

「見られたから…」

「だからって、そんなに落ち込むことじゃないだろ。お前がいつも通りじゃないとなんか物足りないと言うか…地味に寂しくなる」

 

その言葉に驚いたように顔をあげて、珍しいものでも見るかのように俺を見ている。

俺としては特に珍しいことを言った覚えはないんだがな…。

いずれにせよ佳澄が来たらすぐに出掛けるつもりだったから佳澄には居間で待ってもらって、ズボンにシャツ、上着と全て黒いものを着て財布と携帯、家の鍵と念のために手袋を持って部屋を出た。

待たせていた佳澄に声をかけて玄関に向かいそこから両親に出掛ける旨を伝えて外へ出ると、寒い空気が僅かに火照った体を冷やしてくれた。

 

「さてと…どこ行くんだ?」

 

俺が口を開くと、まさに小学生のように口を尖らせて怒ったようにこっちを見ている。

なんか可愛いけどそれは言えない。

 

「昨日話したばかりなのにもう忘れたの?」

「すまんな。というか、それは人のこと言えないだろ」

「まぁね…。えっと、本屋と服屋とゲーム屋と雑貨屋だよ」

「……多いな。まぁいいか…ならさっさと行くか」

 

そう言って歩き出すと、身長差のせいでどうしても俺の方が早く歩くことになってしまう。

後ろを見るとブラウスにミニスカートを着てその上にコートを羽織った佳澄が小走りで追い付いてくるが、やっぱり小学生にしか見えない。

それを可愛いと思う俺は平常だろう…いや、平常に決まってる。

同い年とはいえ、見た目小学生の女子が小走りで近寄ってくるのだ。

これを可愛いと言わずに何と言う。

 

「? 何見てるの?」

 

近付いて俺の視線に気づいて、首をかしげて尋ねる仕草も可愛すぎる。

 

「いや、この年になってもまだ佳澄の好きな物とかあまり知らないなと思って」

「それは小春が聞かないからでしょ? 私は小春の好物なら何でも知ってるよ!」

「じゃあ俺が一番好きなゲームのジャンルは?」

「エロゲー」

 

何の躊躇いも無く即答しやがった…。

確かに間違ってはいないが、こんな道のど真ん中でエロゲーとか言わないでほしい…いや、聞いた俺が悪いんだけどな。

そんなくだらない話をしていると最初の目的地、本屋に着いた。

最初と言っても、家から一番近いからこうなったんだけど。

 

「で、本屋で何を買うんだ?」

「それは秘密。でも小春も喜ぶと思うよ?」

 

俺の喜ぶ物…攻略本、小説、漫画…心当たりが多すぎて見当もつかない。

考えることを放棄して先に入った佳澄に続いて中に入ると暖かい空気が迎えてくれた。

学校の図書室より広いんじゃないかと思うほどの空間が広がり、大量の本がそこかしこに並んでいる。

佳澄は買い物ではさっさと目的の物を買って終わらせるタイプなのでまずは佳澄を探すことにした。

いる可能性の低い所から探し始めたのが悪かったのか見つけたのは本屋を一周してからで、その時にはすでに買い物を済ませた後だったから何を買ったのかはわからなかった。

 

「もう買ったのかよ…」

「小春が来ないから悪いんだよ?」

 

悪戯っぽく笑うところもやっぱり可愛いと思うあたり、俺はロリコンだと思う。

 

「やれやれ…次はどこに行くんだ?」

「えっと…本買いすぎちゃったから服屋はまた今度にして…」

「なんだ、それなら俺が出すぞ?」

 

高校生でもバイトがある。

これでも大金と言われるくらいの額は持っているのだ。

 

「え…それはさすがに…」

「気にすんな。使い道がないから余ってるし」

「でも、本当にいいの? 何買うかも言ってないのに…」

「そう言えば聞いてなかったな。何買うんだ?」

「…下着」

 

俺は、自分の不用意な発言を今までにないくらいに後悔した。

買ってやるとは言ったものの、商品を持って行くのも金を払って受け取るのも俺がやる…というのは周囲の目が気になる。

佳澄が商品を持っていっても同じだろう。

佳澄に金を渡して買わせるというのもありかもしれないが、金を渡す現場を見られたら危ない関係だと思われかねない。

 

「…よし、服屋はまた今度にするか」

「何て言うか…ごめんね?」

「謝る必要ないだろ。で、ゲーム屋と雑貨屋、先にどっちに行く?」

「ゲーム屋! 小春はここなら絶対に時間かからないから先にこっちから」

 

確かに時間はかからないが、俺は行く気はなかった。

欲しいゲームも特にないと佳澄に言ったのに出掛けると言うことは、佳澄が欲しがってるゲームでもあるのだろうか?

だが考えていても仕方ないと結論付けて外に出ると、やはり暖まった体がすぐに冷えていく。

そして予想通り、佳澄が寒そうにしていた。

 

「寒いのか?」

「…足が寒い」

「こんな時期にスカートなんか穿くからだ…服屋でズボンでも買うか?」

「いい…ゲーム屋と雑貨屋、ここから近いから…」

「ならコート脱いで俺の上着でも着てろ」

 

佳澄のコートは腰までだが俺の上着は自分でも膝上までというサイズだから、佳澄に着せると足首あたりまで隠れてしまう。

こういう時にいつも思うんだが、身長差があってよかった。

買い物に行くと言い出したのがどっちかは分からないがそれでも一緒にいて風邪でも引かれたら罪悪感がある。

全力で遠慮する佳澄からコートを脱がせて俺の上着を羽織らせ、脱いだ佳澄のコートは俺が持つことにしたというか、強制的にそうした。

ゲーム屋に向かいながら俺が風邪を引くだの何だのと佳澄が文句を言っていたが、俺は生まれてこの方風邪なんか引いたことがないのが唯一の自慢で寒さには滅法強い。

真冬の寒空の下でも半袖で生きていられるほどだ。

 

「小春のばか…かっこつけて…」

「何か言ったか?」

「な、何でもない!」

「じゃあ空耳か。ほら、ちゃんと前閉めないと寒いだろ」

 

立ち止まらせて上着のファスナーを上げると、まるでサッカーでベンチの人が着ている上着みたいになってしまった。

しかし可愛いから良しとする。

それから少し歩くと、今度は手が寒いらしく擦り合わせている。

 

「…お前は忙しい奴だな」

「し、仕方ないじゃん…寒いんだもん。こんな寒くても平然としてる小春がおかしいの!」

「まったく…」

 

俺は念のためズボンの後ろのポケットに入れてた黒い手袋を出して佳澄に渡すと、何事もなかったかのように歩いて行く。

またも小走りで隣に並んだ佳澄の顔を見ると、寒さのせいかはわからないが頬が赤くなっていた。

 

「…またじっと見て…顔に何かついてる?」

「何もついてないけど、顔が赤い」

「ぅ…それは寒さのせい! ほら、もう見えてるんだから早く行くよ!」

 

何かを誤魔化すように小走りで前を行く佳澄に思わず笑みが零れて、そのまま普段の足取りで後を追う。

そうしてゲーム屋に入ると、本屋と同じ空気と、本屋の倍くらいの空間が出迎えてくれる。

佳澄は本屋と同じように目的らしい最新の携帯ゲーム機のカセットが売っている場所へ行き、こちらに手を振っている。

それに気付いて隣に並ぶと、これでもかと並べられた大量のゲームが並んでいた。

 

「ねぇねぇ、お勧めのゲームってどれ?」

「んー…これだな」

 

そう言いながら、ちょうど目の前にあったRPGのゲームを手に取り佳澄に渡す。

それのパッケージを見ると、何やら満足したように頷きレジへ走っていった。

やっぱり、どうしても小学生にしか見えない…我ながらこの感想もくどいと思う。

そして、やっぱり自分はロリコンだと認識してしまった。

会計を済ませた佳澄が戻ってきたときに笑っている俺に何やら怪訝そうな眼差しを向けていたが、何かを聞かれる前に雑貨屋へ向かうと言い、手を取って歩き出して口を封じた。

 

「ねぇ、小春…」

「ん、どうした?」

「雑貨屋なんだけど…買う物決めてないんだ。一緒に選んでくれない?」

「お前にしては珍しいな。じゃあ佳澄に似合いそうなアクセサリーでも買ってやるか」

 

笑いながら冗談を言ったが、佳澄はさっきから赤かった顔を更に赤くして視線を彷徨わせていた。

その様子を少し珍しく思いからかいながら歩くと、十分程で目的地の雑貨屋が見えてくる。

そこまで大きな店ではないが商品の数や種類はここらで一番多く、女子高生から年寄りまでが買い物に来るほどの盛況ぶりだ。

佳澄の後から中に入ると、まずどこに行こうかと思う前に佳澄が一人で歩き始めた。

何か気になる物でもあったのかとついて行くと、止まったのはぬいぐるみの前だった。

 

「何か欲しいものでもあったか?」

「うん、これ!」

 

そう言って指さしたのは、とても巨大な熊だった。

熊なのに毛は黄色く何故か赤い服を着ている。

そして下は穿いていないという変態ぶりだ。

 

「あ、こっちも欲しい!」

 

次に手に取ったのはこれまた巨大なうさぎ。

明らかに俺の身長よりでかいし、ふと見えた値段はとんでもなかった。

俺としては佳澄に何かプレゼントするつもりでここに来た訳で、それで軽く万を超える出費は痛すぎる。

 

「欲しがるのはいいけど、金あるのか?」

 

なんとか他の物に興味を移そうと声をかけてみるが、佳澄は当然のように頷いた。

 

「バイトもしてるし、あまり使うこともないからたっぷりあるよ」

 

それだけ言うと、またぬいぐるみを物色し始めた。

これは、俺の懐が寒くなるだけで済むのか?

しばらくはここから動かないだろうと思い佳澄に他を見てくると声をかけると、頷くだけでぬいぐるみを物色するのに集中している。

半ば呆れながらアクセサリーのある場所へ足を運ぶと、そこには多種多様、老若男女全ての年代に対応した商品が所狭しと並んでいた。

子供用の腕時計、中高生が身につけそうなネックレスや指輪、他にも香水やら何やらと大量だ。

 

「いくらなんでも、多すぎだろ…」

 

思わず独りごちてしまうが、それも仕方ないだろう。

横幅約6メートル程の棚に数百の商品が並んでいるのだ。

それを多いと言わずに何と言う。

こんなごちゃごちゃした店でも繁盛するのは品がいいからだろう。

 

「あいつ、確かクロス好きだったよな…」

 

香澄は、昔から十字架の形や柄のアクセサリーや服をよく身に着けていた。

もうすぐ佳澄の誕生日ということもあり、俺はプレゼントとしてアクセサリーを送ろうと思っている。

だが困ったことに俺にはセンスの欠片も無いし女子が喜ぶような物も何もわからない。

誰かは本人と一緒に選べと言うことだろう…でもそんなの恥ずかしいじゃないか。

それに、プレゼントを渡すことを悟られたくないという男としての自尊心というか、サプライズとして渡した方が喜ばれるんじゃないかという考えがある訳だ。

そして当の本人はぬいぐるみを見るのに夢中になっている。

こんなチャンスは滅多にないだろう。

 

「これだけあると悩むな…ん?」

 

どこから物色しようかと悩んでいたとき、ふと目に入ったものがあった。

近付いてよく見てみるとプレゼントとしては申し分ないと思ったが、ペアのネックレスだった。

十字架が半分ずつ付いていてそれを合わせると真ん中にハートの装飾がついた十字架になるという、なんとも恋人向けなアクセサリーだ。

正直これはやめようと思い他の物を物色していたが、どうしてもそのネックレスを忘れることができなかった。

それから五分ほどして、後ろから誰かの足音が聞こえてくる。

 

「あ、小春やっと見つけた」

「ん…っ!?」

 

その声に振り返ると、間近にさっきの巨大なうさぎがいた。

それに驚いて身を引くと棚の縁に腕をぶつけてしまった。

客観的に見れば滑稽かもしれないが、考えてほしい。

声をかけられて振り返ると目の前で巨大なうさぎがこっちをガン見、驚かない人はいないと思う。

 

「何してるの?」

「お前の声がしたから振り向いたらうさぎが間近でガン見してたから驚いた…」

「だからって逃げなくても…。で、小春は買う物見つけたの?」

 

そう言われて差し出したのは、文字が刻まれている小さな十字架のついた指輪だ。

しばらく見ていた佳澄が頬を染めたが、これは俺が使う用に買うつもりだった。

 

「それ、私に?」

「いや、俺のだ。ほら、そのうさぎこっちに渡せ」

 

何を言ってるのかわからないという感じの佳澄からうさぎを取り、そのまま会計を済ませて店を出るぞと佳澄に合図すると、駆け寄ってきたかと思ったらそのままタックルされた。

なんとか踏みとどまり佳澄を見ると、何故か涙を流していた。

 

「…なんで泣いてんだ?」

「小春がバカだから」

「そう言うな…とりあえず家帰ろう」

 

店の目の前でケンカされたんじゃ店も迷惑だろうと思い家へと向かうが、無言の間が辛い。

 

「なぁ、佳澄…」

 

…返事がない、ただの屍のようだ。

これは冗談ではなく、無表情で前だけを見て歩く佳澄は屍のようだと言ってもおかしくはないだろう。

何度声をかけても返事がなく何故か寂しくなった。

そうこうしている内に家に着いたが佳澄は少しも表情を変えない。

玄関を抜けそのまま俺の部屋に入ると、俺からぬいぐるみを奪い取り抱きしめたまま背を向けてしまった。

 

「なぁ佳澄…」

 

声をかけても反応がないため、俺はそのまま話を続けることにした。

 

「お前、明日って確か誕生日だよな?」

「……小春のくせに、覚えてたんだ」

「酷い言われようだな…。でさ、お前に渡したい物があるんだけど…」

 

瞬間、佳澄が残像すら残しそうな速さでこっちを見た。

が、もちろんそんな動きをすれば体に影響は出る訳で、首を押さえて悶絶している。

それを苦笑して見ながら、先程の雑貨屋の買い物袋を漁る。

 

「渡したい物って、何…」

 

余程痛かったのか、涙目でこっちを見ながら問うてくる。

その様子にもう一度だけ苦笑すると、ひとつの包を差し出した。

 

「開けてみろ」

 

それだけ言うと、俺はそのまま黙りこむ。

佳澄はその包を不審に思っているのか、振ったり耳を近づけたりして考えている。

…こいつは俺からのプレゼントをなんだと考えているんだろうか。

しばらくして開けるしかないと思ったのか、慎重に包装紙を開けていく。

そして包装紙の中の箱を開けた時に、佳澄は息を呑んだ。

 

「小春…これ…?」

 

その中から出てきたのは、俺が買おうかどうか悩んでいたペアのネックレスだった。

帰り道、何故か買ってしまったこれをどうしようかと悩んでいたとき、数日前に佳澄がふと零した独り言を思い出した。

何があったのかはわからない、それでもこれを渡すには十分な理由になった。

 

「佳澄、前に言ってたろ? こんな好きなのになんで気付かないんだって」

「聞いてたんだ…小春が人の言葉を覚えてるなんて珍しい…」

「それは言うなよ…お前が誰を好きなのかは知らん。でも、これは渡したくなった。それだけだ」

 

それだけ言って俺は佳澄に背を向けて黙り込んだ。

後ろから何か物音がして何をしてるのか見たくなっても無視を決め込んでいたら、いきなり何かを首にかけられて、思わず後ろに振り向いてしまった。

目の前には俺の渡したネックレスをつけた佳澄がいて、俺の首のあたりを指さしている。

その指を辿って自分の首を見ると、ネックレスの片割れが俺の首に掛かっていた。

 

「お前…これ、どういうことだ?」

「小春ってやっぱり鈍いよね。これが私の気持ち」

「気持ちって言われても…わからんからはっきり言ってくれ」

 

そう言うと、佳澄は何故か溜息をついて残念な物を見るような目で見てきた。

俺としては何故そんな目で見られなければならないのか分からないためどうしようもない。

 

「私は、小春が好き」

 

…こいつは何を言っている?

突然の告白に言葉の意味が理解できず、俺は呆然とすることしかできなかった。

いつまでも返事がないから心配になったのか、佳澄が俺の顔を覗き込んできたが、それでも俺は呆然としていた。

 

「小春、聞いてた?」

「ん、あぁ…聞いてたけど…」

「返事は?」

「え?」

「だから、小春は私のことをどう思ってるの?」

 

佳澄の言葉で、俺は考え込むことになってしまった。

今までずっと乱暴でガサツな幼馴染くらいにしか見ていなかったが、最近は少し女としての佳澄を見るようになっていたことに気付く。

こいつを見ると胸が高鳴ったり、他の男と話してるのを見るとざわついたり、家に着いて別れる時に苦しくなったり…。

よくわからないけど、もしかしたらこれが恋なのかもしれない。

俺はいつの間にか佳澄を好きになっていた…なんて、信じられないけど真実なんだろう。

現に今も、佳澄の少し潤んだ目を見ると顔が熱くなるし、詰め寄られて顔が近付けば胸が高鳴っている。

そのまま考え込んでいると、痺れを切らした佳澄が口を開いた。

 

「…生きてる?」

「あぁ、生きてるぞ」

「何も言わないから死んだかと思った…」

「勝手に人を殺すな。で、聞きたいのはさっきの告白の返事…だったか?」

 

俺の言葉にビクッっと体を震わすと、小さく頷いた。

どう切りだそうか迷ったが、ひとつ深呼吸してから俺は佳澄に向き直り口を開いた。

 

「俺は正直、お前のことを女としては見てなかった。乱暴だし部屋は汚いし、たまに口調も荒いしな。でも、最近は違った。お前と話せないってだけで寂しくなって、彼氏でもないのに他の男と話してるのを見て嫉妬したり。自分でもこれが何なのかわからなかったけど、お前のおかげで分かった」

 

ここで一度口を閉ざすと、佳澄に何かを期待するような視線を向けられた。

俺はもう、自分の気持ちに嘘をつくのはやめた。

格好悪いかもしれない、情けないことも言うかもしれない。

 

でも、大切なことまで言えないのはもっと格好悪いじゃないか。

自分の言いたいことも言えないのは情けなさすぎるじゃないか。

惨めでも弱くても、その言葉がくだらなくても、正直に言う人間の方が俺は格好いいと思う。

 

佳澄の視線を正面から見据え大きく息を吸い込んで、俺は正直に、大事なことを口にした。

 

「俺も、佳澄が好きだ」

 

あぁ…なんて恥ずかしいんだろう。

ただ「好き」と、一言言うだけなのに、こんなに恥ずかしいものなのか。

顔は真っ赤でとても熱く、自分の心臓の音がうるさくて、羞恥か何かのせいで手は震えて、声は裏返りそうになる。

でも、気持ちを伝えるのはすっきりする。

その先がどんな結末でも、自分の気持ちをはっきりと言うのは…正直に伝えるのは気分がいい。

俺の言葉を聞いた佳澄は嬉しそうに笑っているが、その目からは涙が流れている。

こいつの涙は見たくないけど、嬉し涙ならいいかもしれない。

そんなことを考えながら俺は佳澄を抱きしめていた。

ただ無意識に抱きしめ、離したらどこかに行ってしまいそうだと怖くなって、更に強く抱きしめる。

佳澄はそれに嫌がる様子も見せずに、ただ優しく抱きしめ返してくれた。

 

「小春…」

「…どうした」

「ありがとう…」

 

その言葉に思わず笑みが零れる。

そして、笑みと同時に涙も溢れてくる。

 

「それはこっちの台詞だ…」

「何か言った?」

「ああ、言った」

「聞こえなかったから、もう一回」

「…大好きだ」

「ッ…バカ!!」

 

…拳骨が飛んできた。

正直に言った結果だとしても、これは酷い。

でも、佳澄の照れ隠しだと思うと、これもいいかと思ってしまう。

現に佳澄は、顔を真っ赤にしてこっちを睨んでいる。

それがなんとも可愛くて思わず吹き出しそうになるが、さすがに拳骨2回目は辛い。

日が暮れ、夕焼けが部屋に差しこんでくる中で、耳まで真っ赤にした二人が見つめ合っている。

少年少女は理想を求めて指輪を送ってもらうだの、どこかロマンチックな所での告白などを夢見るんだろう。

でも現実はこんなもの。

それでも、幸せは感じるだろう…俺たちがそうなんだから。

 

「これから、どうなるんだか…」

 

ふと小声で呟いてみるとこれからの色んな俺たちが頭に浮かんでくる。

しかし佳澄には聞こえていなかったのか、何も言わずに飛びついてきた。

情けなくも俺はその勢いに耐えられず、そのまま二人とも倒れこんでしまった。

 

「二人ともー、ご飯、だょ…」

 

そして倒れると同時に部屋の戸が開き、母親が姿を見せた。

尻すぼみに消えていった声から察するにまた変なことを考えているんだろう。

これからの事態が想像できて、思わず苦笑いしてしまった。

 

「お父さんっ!! 佳澄ちゃんが小春のこと襲ってるー!!」

 

あぁ、やっぱり…。

母親の声を聞くまで気付いていなかったのか、佳澄が飛びあがり俺から離れて座る。

叫んだ本人は走り去っていき、そして二人分の足音が戻ってくる。

それからは両親の冗談と佳澄の反論が飛び交い、俺は静かに笑いながらそれを見ていた。

もしかすると、これからもこんな生活が続くのかもしれない。

でも、幸せで楽しいから、それもいいか…。

 

「小春も何とか言ってよ!!」

 

この佳澄の叫び声も、おかしいかもしれないが心地いい。

これからのことを想像しても仕方ないと思い、俺は両親を止めるために腰を上げる。

だが口を開く前に、ふとひとつ思ったことがあった。

 

 

どうか、この幸せが一生続きますように…

 




如何でしたでしょうか?
勢いだけで書き上げた作品なので、違和感を覚える文章や展開等、多々あったものと思います。
指摘、アドバイス等あれば是非お願い致します。
ここまでお読みいただき有難う御座いました。

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