高評価とか感想とかくれると滅茶苦茶喜びますわ~~~!!!!!!
──日本国首都、京都。
時計も天辺を過ぎ、良い子の皆ならもう寝静まっているような夜更け。喧騒から切り離され、暗闇が支配する東京の路地裏を俺……
こんなに暗い場所があるから犯罪は無くならないんだぞ、と思うも表の繁華街のようなギラギラとした光に比べれば遥かに落ち着くのは事実。
天に悠然と佇む月を見上げる。今夜は明けの三日月で、ここを照らすにはあまりに頼りない光源だ。だからこそ周囲の星々にも目が向いて……。
「良い夜だな」
『──無駄に詩的ね、リョーマくん。痛々しくて目も当てられないわ』
「そこまで言うか」
耳に装着していた超小型イヤホンから響いてきた罵倒に肩が跳ねる。通話を繋ぎっぱなしにしていたのをすっかり忘れていた。
銀の鈴にも例えられるその美声で放たれるいつもの罵倒に俺は苦笑する。それは一部の界隈に所属している者達にとっては『ご褒美』になりえるに違いない。容姿もそこらのアイドルが霞むくらいには優れている辺りも受けが良さそうだ。しかし悲しいかな、自分はそんな高尚な趣味は持ってない。
『軽口を叩く暇があったら早々に準備を終わらせて。こっちは早く布団の中に入りたいのよ』
「それは俺も同じだっての。……よし、《人払い》*1も《認識阻害結界》*2も張り終わった」
俺は手で遊ばせていたサイコロのような黒い箱をポケットにしまい込む。
これが無ければ今から自分達がやる事のせいで警察が大量に出張ってくるような大事になりかねない。そこまではいかなくても、現役高校生にして《異能犯罪》を取り締まる《
『えぇ。いつも通り行くわよ』
「俺が気を引いてお嬢が全員ぶちのめす。オッケー」
『……確かに間違ってはいないけど、年頃の乙女に対する発言としては赤点も良いところね。首洗って待ってなさい』
「せめて命だけは助けてくれませんかね?」
通話の先でくすり、と笑みが溢れた気配した。それにつられて俺も笑いが込み上げる。
一見すれば険悪にも見えるこんなやりとりが、俺達にとっての──篠原颯真と白銀遙華の日常であり、心を落ち着かせるルーティーンでもあった。
さて、と。さっさと家に帰るためにも仕事をしますかね。
そうして辿り着いたのは廃れた雑居ビル。確かなんとかという企業(事前に聞きは舌が忘れた。どのみち対して重要ではない)がここを借り、拠点としているそうだがこの外観を見れば百人中百人が『うわぁ、いかにも犯罪者の拠点っぽい』と思う事だろう。
事実、その企業は存在せず非合法な行いの巣窟となっているのだが。でなければ自分達がここに来たりしない。
「うわ、インターフォンねぇじゃん」
声を張り上げるのは得意じゃないんだけどな。ましてやこんな深夜だと近所迷惑になるんじゃないかと思ってしまう。……とはいえ、仕事は仕事。真面目にやらなければウチの幼馴染にして主人の叱責を買ってしまう。
それは勘弁願いたい。先ほどのような軽口の叩き合いは日常茶飯事だが、彼女が本気で怒るとそれはもう怖いのだ。
ドンドン、と激しく扉をノックし、大声で中の人達に呼びかける。
「すみませーん! ドレミピザですけどー! ご注文の品──ッ!」
それに対する返答は鉛玉の雨だった。
扉の老朽化が進んでいたのだろう。それは銃弾の威力を少しも減衰してくれることもなくハチの巣になり、俺の身体を貫かんとした。
が、俺もなんの備えもなくこんな大胆な真似をしたわけじゃない。
「《
俺の首から下げてあったペンダント。それが蠢き、不自然なほどに白い液体へと変化。即座にすっぽりと俺の身体を包み込む。そして読んで字のごとく、盾となって鉛玉を受け止め、そして弾き飛ばした。
ウチのお嬢様の《
普段こそお洒落な盾を象ったシルバーペンダントの形をとっているが、先程俺がやってみせたように名を呼ぶことで本来の姿である巨大な盾の形へと変形する。無論その性能はオリジナルである彼女が使用するそれとは雲泥の差だが、拳銃の弾を防ぐくらいは造作もない。
銃弾の雨が収まる。銃声が収まれば微かに痛みに悶える声が聞こえてきた。跳弾した弾が命中したのだろう。
ひとまず会話が出来る状態にはなったか、と俺は盾をいつでも展開できるような状態にした上で引っ込め、目の前の男達に怒鳴る。
「おいテメェら! マジでピザ屋だったらどうしてたんだボケェ!!」
「こんなところにピザ屋が来るわけねェだろうが頭沸いてんのかッ!!」
それはそうだわ。ぐうの音も出なかった。
俺は足のホルスターに装備していた暴徒鎮圧用電撃銃の銃口を男達に向ける。
「《異能犯罪対策局》だ! 痛い思いしたくなかったら大人しくお縄に着け!」
これで終わってくれれば楽でいい。けれどそんな思いを裏切るように銃弾が俺に向かって放たれる。
しかしそれを銀の盾いとも容易く弾き飛ばす。先程の弾雨すら傷ひとつなく防ぎきったこれを、たった一発の弾が貫ける道理はない。
「おい、人の話聞けよ! 大人しく投降しろって言ってんのが聞こえねぇのか!」
「──するわけねぇだろ! ガキがイキってんじゃねぇ! ……おい、テメェら。アイツの《
あらら……好き勝手言ってくれちゃってまぁ。けど間違ってはいないんだよなぁ。
確かに俺の《異能者》としての格は最弱級。《異能者》の資質や本人の戦闘力を加味し、十段階で評価する《異能階位》ではⅡ……それもⅠに限りなく近いと評価されている。
これは『非異能者に毛が生えた程度』くらいの弱さである。
おまけに奴さんは身体能力を強化する違法薬物を摂取していると見られている。これで《異能者》と非異能者の間にある身体能力差は埋められた……否、上を行かれたとみていいだろう。ほら見てあれ、ゴリラかよってレベルで筋肉が隆起してる。
「殺せェ!!」
この集団のリーダーらしき男が吠える。
それを合図に男達が一斉にこちらに向かって来た。その勢いは踏み込みだけで床に罅が入る程。あんなものを受けてしまえば壁のシミになること請け合いだ。とはいえ、簡単にやられてやるほど命は捨ててない。
俺は一番近くまで迫って来ていた、この中では一番マッチョになっていない男に電撃銃を発射する。青白く輝く電撃の弾丸は呆気なく命中し……それで終わった。
「おいおい……!」
殺傷力こそないとはいえ、暴徒化した異能者との戦闘を想定し設計された銃だ。そこらの違法改造されたスタンガンが可愛く見えるほどの威力はあるはずなのに、筋肉に阻まれ貫くことも叶わない。それどころか勢いが衰える事もない。
一番通じるだろう、と思って撃った相手にすらこれだ。他の四人には通じないと思った方が良い。
他に俺が持っているのは《白銀大盾》と近接戦闘用の《異能纏装警棒》くらいだが、こんな筋肉モリモリマッチョマン五人に近接戦を挑む馬鹿ではない。すぐに捕まって胴体と胴体が泣き別れする絵面が見える。
なら俺がやることは一つだ。
「お嬢―――――――!!!!!」
「──《
全力で助けを求める。それに尽きる。
俺達の上。天井が轟音を立ててぶち抜かれる。
「「な──!!」」
何が起きた、と男達が上を向くがそれはあまりにも遅かった。
自然界にはまず存在しないだろう、比喩表現無しに真っ白な金属──《白銀》によって構成された槍が今度は男達を刺し貫こうと迫っているのだから。
「《形状変化:
しかしそれが男達の命を奪う事はない。
白銀の槍は彼らの前まで迫ると、一気にほどけた。それは無数の糸になると、蜘蛛の糸の名に相応しく身体を拘束。俺の攻撃が一切通用しなかった彼らを、五秒とかからずに無力化してみせた。
「《
土煙の先にいる彼女がそう呟くと、再び糸が形を変える。糸が集約し、ひとつの塊となって男達を簀巻きにした。男達の体格にピッタリと合わせられた最硬の拘束は彼らがどれだけ身を捩ろうと抜け出すことは叶わない。
俺は大立ち回りを演じた彼女に向かって話しかけた。
「……さっすがお嬢。相変わらず見事なお手前で」
「貴方のみっともない命乞いには負けるわ」
「みっともないって言っちゃったよコイツ」
「『お嬢~助けて~』って。男の子の矜持は無いの?」
「無茶言うなよ。人間一人がゴリラ五頭と真正面から喧嘩して勝てるとでも? あと助けてとまでは言ってない」
「ゴリラは非常に穏やかで繊細な生き物よ。人間と喧嘩なんてまずしないわ」
漫才をしているうちに土煙が晴れ、彼女の姿が露になる。
大和撫子然とした濡れ羽色の長髪。袴をモチーフにデザインされ、その上からマントを羽織る特注の《BoDS》の白い制服は、彼女の美しさに拍車をかける。
彼女の背後にある、浮遊する純白の液体……《白銀》の力を凝縮した流体金属で瓦礫を払い除け、道を進む様は一見して野蛮にも思えるが、彼女の精錬された一挙手一投足がそれらの野次を黙らせるには十分すぎた。
彼女こそが次代白銀家当主にして、ランクⅩ──即ち最強と評された《異能者》。白銀遙華である。
「そっちはどうだった? 怪我とかしてねぇか?」
「誰に向かって物を言ってるのかしら。数が多かったからそれなりに時間がかかったけど、全員これと同じように簀巻きにしてきたわ。体内外も検めたけど薬物の類は見つけられなかったし、リョーマくんがアタリを引いたんでしょう」
「ある意味じゃハズレだけどな。海老で鯛を釣ったって事か」
「『雑魚で海老を釣る』の間違いでしょ。烏滸がましい」
「お前本当に辛辣!!」
俺じゃなかったらメンタルブレイクしててもおかしくないからな? お前は例え事実だったとしても受け入れがたいものもあるって知るべきだと思う。
「て、テメェら……ふざけてんじゃ……」
「ふざけているのはそちらでしょう? 貴方達、組織の末端の末端ですね? 大人しく貴方達の首魁の名前と所在を吐けば、多少は便宜が図られるかもしれませんよ?」
「誰が吐くか──あぁぁあああああああああッ!!!」
ぎちり、ぎちりと彼らを拘束している《白銀》が少しずつ締まる。僅かな間隙も存在しなかったそれがどんどんと締まっていけば、肉が、骨が徐々に軋む。骨が木っ端みじんになり、臓器が潰れるのは時間の問題と言えた。
「吐きなさい」
「さ、サイトウさん! 俺思い出しました! そのアマ《
「あ」
まずい、と思うも後の祭り。
目の前の男達から、ばきぃごしゃぐしゃごりぃッ!! と、およそ人体から発生してはいけない音が聞こえたかと思いきや、一人残らず泡を吹いて気絶した。
「……お嬢。コレ、生きてるか?」
「加減はしたわよ。……本当なら殺してやりたかったけど! 私を《
大体なんでドイツ語なのよ、こっちは純日本人よ……と呪詛めいた言葉を吐き出す彼女に、俺は溜め息を吐く。こうなった彼女はしばらく放っておくのが一番なのだが、今はそう言っていられない状況だ。
俺は彼女に呼びかける。
「あの~、お嬢? そろそろ向かわないと残ってる敵さん、逃げるんじゃないかな~と思うんですけど?」
「……問題ないわよ。ここにいる奴は全員制圧してきたわ。あと少し想定外の事が……」
お嬢の言葉を遮るようにして超高速で飛来してきた黄金色の雷撃を、お嬢が《白銀大盾》が阻む。
しかしそれは霧散化するようなことなく盾に沿うように二つに分かたれ、俺達の背後にある壁をいとも容易く貫いた。
「……話は後にした方が良さそうだな」
「そうね」
「──おいおい、こりゃ想定外だな。まさか《白銀》の一族が出張ってくるとは」
《白銀大盾》が解除され、向き合う事になったのはまさに山のよう、と表現するに相応しい筋骨隆々の巨漢。
右手に黄金を帯電させるこの髭面の男こそ、今回の標的である男だった。
「茂武太郎で間違いないですね」
「如何にも。そろそろ追手が来るもんじゃねぇかと思ってたが……俺も随分と大物になったもんだ。嬉しいもんだなぁ」
「貴方を拘束します。即刻抵抗をやめなさい」
「そうつれない事言うなよ。俺と遊ぼうぜ、《白銀》ェ!!」
そう吠えると男は右手に雷を収束させていく。
それは夜の闇を塗りつぶすほどの光を帯び、やがてそれは巨大な籠手を模した。その出力は事前に聞いていたものとは桁外れに強くなっており、人を二人殺すにはあまりに過ぎた力だ。
「《異能強化薬》ね。それでもたかが知れているけど……リョーマくん、後ろに」
はぁ、と溜息を吐く彼女に俺は頷く。
言われなくてもあんな化け物の前に身体を曝すほど死にたいと思っていない。だから化け物狩りはその道のプロフェッショナルに任せる事にする。
「《雷神鉄拳》ッ!」
男が猛々しく叫ぶ。その様はなるほど、《雷虎》と呼ばれるに相応しい姿だ。
練り上げられ、収束した雷の手は男の身長を遥かに超えビルを丸ごと砕いてしまいそうだ。俺一人だけだったのなら対処など出来るはずもなく、消し炭になっていただろう。
「さっきとは比べ物になんねぇぞ! これが受け止められるか白銀──!!」
だが……その拳は放たれる事はなかった。
「《
《白銀》の力によって形作られた一振りの刀。それが比喩表現抜きで目にも留まらないほどの速さで振り抜かれ、逆袈裟に男の身体を切り裂く。
そしてその一撃は男の意識を砕くには十分だった。男の身体が地に伏した。
あまりにも呆気ない決着だと思うかもしれないが、前述した通り彼女の《異能者》としての格は世界最強。加えてお嬢の異能は彼の《異能》にとって天敵と呼ばれるほどに相性が悪い。故にこれは起こるべきことが当たり前に起こっただけの事なのだ。
彼女は意識を砕かれ倒れた男を見下ろし「無駄な事をするわね……」と吐き捨てる。その様はまさに絶対強者と呼ぶに相応しい佇まいだった。
そして俺はそんな彼女の横で、《異能》の行使を不可能にする手錠を男の両手首と両足に嵌めながらお嬢に話しかけた。
「で、お嬢。さっき言ってた『想定外の事』って何なんだ? このオッサンがどっか行ってたことか?」
「それもあるけど、オマケみたいなものね。……説明するよりも見た方が早いわ。ついてきて」
「わかった」
お嬢の後をついていきながら、俺は後処理のを進める。
主にお嬢が制圧した奴らを豚箱にぶち込む準備だったり、派手にぶっ壊した建物の補修だったりだ。といっても俺がすることと言えば「全部終わったんで、後はよろしくお願いします」と言うくらいのもの。詳しい事は全部大人達に丸投げだ。
あまりに無責任かもしれないが、餅は餅屋。素人がいらないことに首を突っ込んで足を引っ張るよりはマシだ。
俎上の魚のように床をのたうち回る犯罪者たちの間を抜け、階段を上り、そして辿り着いたのは最上階近くのとある一室。強引にドアをぶち破ったのか、拉げた扉の先にいたのは──。
一人の少女だった。
処女雪のような白髪に、神が定義した『美』という言葉の通りに作ったと言われても違和感のない美貌に体つき。美術品めいた容姿を持つ少女が、椅子にロープや手錠、足枷といった様々な拘束具によって身動きを封じられている。
どうやら今は眠っているだけのようで、規則正しい呼吸音が聞こえてきていた。
しかし……これが想定外の事だろうか?
確かに彼女の容姿は美しいが、犯罪者がその辺りで見かけた女を攫い、自身の欲望を発散する事は……非常に胸糞悪いがよくある事。幸いな事に彼女にそういった形跡は見られないが、だからといってわざわざ言うような事では……。
「耳、見てみなさい」
そんな俺の疑問に答えるようにお嬢が彼女に近寄り、そっと髪を上げる。
そこにあったのは……人間とは絶対的に異なる、鋭利に尖った耳。それは創作物に語られるような、人型の異種族のようで。
「まさか……《異世界人》か?」
「そのまさかよ。それも《
「…………」
二人揃って、大きく溜め息を吐いた。
──いつもと変わらない日常の延長線上だと思っていた。_
いつも通りお嬢が暴れ、俺がそのサポートをし。呆気なく仕事を終えた後は家に帰り、一緒にココアの飲んで、おやすみと言った後は各々の部屋のベッドで眠る。
そんな当たり前の一日を過ごしていけるのだと。
けれど今日、俺達は……。
《異世界人》を、拾った。