対魔忍世界へ転移したが、私は一般人枠で人生を謳歌したい+ 作:槍刀拳
Episode_Null+ 『Dead or Alive.』
喉を焼かれ呼吸するのが辛い。
関節の可動域を無視するように捩られた指が機械に握り潰されたように痛い。
体中に空いた新しい穴から生暖かい赤い汁が首筋を伝って、頬を撫で頭から滴るのを感じる。
片目に映る重度の飛蚊症のような視界には、4、5、6体の口にするにも悍ましい白くてブヨブヨのヒキガエルのような物体がギンピーギンピーの葉を巻き付けた槍を持って吐き気を催すような笑い声を上げながら、歓喜の絶叫を上げていた。
周囲にはおもちゃのような、首を捩じ切られバスケットゴールに入った頭部や、上半身と下半身が辛うじて腸だけで繋がった醜悪なパーティの垂れ幕、鼻と耳と顔と全身の皮を毟られた仲間達の死体が部屋を赤黒くリフォームしている。
明らかに準備が足りなかった。情報も、武装も、覚悟も。激痛に意識を失いそうになりながら、悔やむがもう何もかもが遅すぎたのだ。
やがて、細かく震える私に奴らも気が付いたのであろう。手のような器官で、あの致死には至らない猛毒の植物を持ち、にじり寄ってくる。これから、私は蹂躙され、凌辱され、仲間達と同様に醜悪なオブジェクトにされるのだろう。
眼球からプスプスとサーモンが炙られるような胸糞悪い臭いを嗅ぎながら、半分の視界を真っ黒に塗りつぶされつつも私が辛うじて思ったことは、自分は長くないことと、『はやくこのくるしみから、かいほうされたい』
……ただそれだけだった。
………
……
…
次に目が覚めたときは、親の顔より見た布団の中に居た。
周囲を見渡しても、それは私の部屋であって、
『先ほどまで体験した拷問は“ただの悪夢”だったんだ』と思うことが出来た。
だが、胸を撫でおろし、視線を上げたのちにそれは居た。葬式業者のような、神父の格好をした、やけに浅黒い肌の男とも女とも似つかわしくない——おそらく“男”が卑しい笑顔を浮かべ私の部屋で正座する形で座っている。
「これは、これは
「……いろいろと聞きたいことはあるけど、無事に……と、いうことは、あれは……」
「えぇ。夢ではございません。あの時、『釘貫 神葬』様はムーンビースト……あぁ、月棲獣と言った方があなた様にはよろしいでしょうか? 彼等によってそれは、それは無様で凄惨な最期を遂げました」
実感のない言葉を正面の人型実体は、まるで友人がくだらない冗句を言うように笑いながら言い放つ。……脳の整理が追いつかない。
つまり、私は死んで死後の世界にいて、この私の家に見える空間も、私には そう見えているだけで死後の世界とかそういう場所なのだろうか? そもそもこいつは誰なんだろう? 天使か? それとも、生前に犯罪を起こした私を地獄に引きずり込みに来た鬼なのだろうか?
「さすが腐っても探索者ですね。まさにあなた様が推測されている内容で間違いありません。あなた様の部屋を再現したのも、突発的な白い部屋や宇宙空間で対面してパニックを引き起こされても面倒でしたから、このような形にさせて頂きました」
この人型実体は私の考えていることなど、お見通しだと言わんばかりに嘲笑を浮かべる。
気味の悪いやつ……。
「気味の悪いやつとは何と酷い。私は地獄の鬼などあなた様方人間が妄想される存在ではありません。わたくしは、あなた様の
「……」
まるで宇宙空間に放り出されたときのように、スゥ……と音もなく奴から左手を差し出された。
それに釣られ、こちらも握手を交わしそうになるが……言葉なんかにしなくても、とてつもなく嫌な感じがこの男からはプンプンと漂っていて、差し出したその手を即座に引っ込める。
「はは、怪しまれていますね? でも、私はこれでも神ですから、あなた達人間の考えるようなことはすべてお見通しなのですよ。本題に入りましょうか、釘貫様。あなた様は実にダイスの
「はぁ……? ……ッ!?」
『何もめでたくはない』……そう、あまりにも私が死んだことが素晴らしいと称賛する人型実体に思わず、たてを突いた瞬間に背筋が凍り付くのを感じた。それは私に向き直った彼の光彩の中心にある黒目が、例えるならば、そう。流動するみそ汁のように水流などあるはずもないのにドロドロと濁り出したからだ。
「ほう? では、あのまま月棲獣に嬲られ、復活の呪文で甦り……永久的に玩具にされる人生の方が良かったと?」
「……そうは言ってない……です、が?」
「そうでしょう? そうでしょう? ま、あなたが望めば今すぐにでも、拷問愛好家のファッションショーに戻して差し上げても私は一向にかまわないのですが……どうされますか? 希望ある来世の話より永久なる地獄に参りますか?」
明らかに彼は、人間が抵抗のできない子犬を虐待するかのように私を弄びからかっているようだった。だが、その瞳の奥で鈍く光る闇は、どこかきまぐれで……気分を害せば、彼の思うがままにされるという妙な信ぴょう性を裏付けている。
私は何も考えず黙って、首を横に振るほかなかった。
途端に彼は口元に加え目元まで垂れた笑顔を見せ、話を始める。
「それでは釘貫様のご要望に従い、輝かしい悦びの性活あふれる来世のお話に移りましょう。釘貫様は異世界転生、異世界転移なるものをご存知でしょうか?」
「……多少ではありますが……小説や漫画で……読んだことはあります」
「では、話はお早いですね! 釘貫様はその異世界転生に近い状態での転移ができるわけです。ま、よくある異世界転移ものとの相違点としましては、私から補助出来ることとして、ご自身に関する説明書を2冊、同送することぐらいですね。その他、釘貫様は私から与えられる・特筆できるチート能力はございませんし、来世の世界観をお伝えすることもございません、来世では自力で生き延びて頂きます、次の人生は1度きりです」
人型実体は、愉快そうに嘲笑う。
まるで、“次”失敗したら後はないぞと言われているようだ。でも、こればかりは本来、私があの白くてブヨブヨしたムーンビーストとかいう獣に拷問される前に、踏まえて置かなければならなかった覚悟に他ならない。自分の行いを戒めるように力強く頷く。
「良き覚悟です。以上の点につきましてご質問は?」
「……記憶の引継ぎはどうなるのでしょうか?」
「異世界転移。ですからねぇ……もちろん引き継がれますよ。それが役に立つとは限りませんが。他には?」
「……なら、この転移に際して何か……。……最終目標のようなものはありますか? 例えば……よくあるファンタジー作品でおける異世界転生ものとして、魔王を倒さなければならないとか」
「目標……ですか? ぷっ……。……ぷくくくくっ」
変なことを言っただろうか? だいたいこういう美味しい話には裏がつきものだと思ったのだが。彼は顔を背けて吹き出すと左手で顔面を覆いながらも、小ばかにしたような、珍獣をみるような目つきで眺めてくる。正直、不快だ。
「この転移には、目標のようなものはございません。転移後は、あなたの物語ですよ? 今まであなたが生きてきたように自由に生きてください。負け組のあなたが必死に生き足掻くその様子こそが、私にとってのちょっとした暇つぶしになるのですから」
「……」
「これはゲームですが、“人生ゲーム”です。あなた様の好きなように物語を楽しんで下さい。他に質問は?」
彼の言い回しに腹が煮えくり返るような思いではあったが、わざわざ私を転生させてくれる代償として暇つぶしの駒になるのであれば、妥当であるとも思えるようになってきた。
それに他に質問と言われても、これ以上ふと思いつくことはなかった。恐らく、異世界転生に近い転移ということは、精神だけが来世に行くことになるのだろう。肉体は現に人に見せられるような状態ではない。結果的に、その場合。私が大切にしていた持ち物などは所持できないと考えるのが妥当だ。幸い知識は持っていくことが出来る。どうしても必要なものがあるならば作るほかないだろう。……材料があれば。の話ではあるが。
……待てよ?
「他に質問はないようですね。それでは……」
「待ってください。私の想定では、元の私の肉体はズタボロ……の筈です。異世界転生では 精神だけ転移すると思っているのですがいかがでしょうか? またその場合、転移する肉体はどのようなものですか?」
「えぇ、えぇ。想定してらっしゃる通りでお間違いないですよ。あなた様が受肉される肉体ですが、14歳の少女を予定しておりました。優しく、時に厳しく。あなたを大学まで送り出せるほどの財力を持つご両親の娘様である。そう、ただの人間の14歳の少女です。もちろん、彼女にも特筆できるような特殊能力は一切ございません。ただ、あなたの介入でいくらか
なるほど、肉体については大体 把握することが出来た。
……しかし、この質問をきっかけに、私の尽きることのない好奇心が溢れ出し、気になり質問したいことも増える。
「……私の元の肉体と、その転移先の少女の精神はどうなるのでしょうか?」
「……チッ。どうして探索者というのは、こうも次から次へと質問ばかり…………用心深いのは結構ですが、物語のテンポも考えて質問をしてくださいねぇ? その質問はあなた様には関係のないことでしょう? あなた様は新しい身体を手に入れて、新しい人生を歩めるのですから、それでいいじゃないですか。元の持ち主がどうなろうが、元の身体がどうなろうが関係ないことじゃないですか。ねぇ? 」
「……。ありがとうございます。もう十分です」
「はぁー……。では、気を取り直して……『《
男は正面に座る私の額に向けて掌を向ける。それから日本語交じりの、少なくとも私の知識上では聞いたこともない言語でブツブツと
……しかし、はっきりとした声色で何かを唱え始める。
「
視界が、めまいのように、渦を巻くように歪んでいき……そして——
~あとがきとお知らせ~
リメイク(文章増量)+特殊タグ減少版。展開します。
今は【特殊タグ減量版】だの【改訂版】だのタグ付きですが
最終的には『対魔忍世界へ転移したが、私は一般人枠で人生を謳歌したい+(ぷらす)』というタイトルで落ち着くと思います。
前の版の相違点は、リメイクという事で文章量が一部増量、描写の変更があります。