対魔忍世界へ転移したが、私は一般人枠で人生を謳歌したい+ 作:槍刀拳
「……ありがとうございます……」
終始、彼女は私達に怯えた様子で、目を閉じたまま部屋を後にした。
……校長室の扉の方を振り返えり、うっすらと目を開けて出口までの障害物を確認しているが、話す間……一度たりとも“こちら”を見ようとはしなかった。
………
……
…
『青空 日葵』が退室した後 この部屋に残されたのは、私の妹であり教師……今は忍法で影の内部に身を潜め待機している『
まずは変装を解き、私は一般人の女性の姿から本来の姿へと戻る。さくらは影の中から姿を現わした。……『青空 日葵』は終始目を閉じたまま、私の顔を見ることに怯えており、この変装をせずとも対応は可能そうであった。しかし、念には念を入れておくことに越したことはない。彼女はあのビルで私とさくら、2人の顔を見ている。私達の顔を見るや否や、状況に気が付いて取り乱す可能性もあった。
「さくら。あの子を見ていて何か思うことはあった?」
「ん~にゃ? 私の見る限りでは、あの子……。お姉ちゃんが考えているよりも……普通の女の子じゃない? 確かにビルでのテロリストと対峙していた時は、同一人物とは思えないぐらいに勇ましかったけどさ……。今はもう、あんなにがっちがっちに震えちゃって……見ているこっちが寄ってたかって虐めているみたいで、ちーとばかり、いやーな感じだったなぁー……」
「ん、そう思ったのね。協力してくれて、ありがとう」
机上に置かれたお茶の入ったマグカップを手に取り、一口飲む。この妙に緊迫した部屋で朗らかな気分になるような香りが鼻孔を包んだ。
「でも、さ。……彼女、むっちゃん*1の事を『不死身の鬼』に見えたって言ってたよね? あれってさ、どういうことなんだろうね? どうして、むっちゃんの特性を知っているのかな?」
「いつも幸せそうなマヌケ
「それぐらいなら私にだって、わぁー!かー!りー!まー!すぅー!」
そう、確かに2人のいう通りだ。……彼女は謎が多すぎる。
だが米連や中華連合、ノマドが用意した対魔忍に対する諜報員や工作員にしては間抜けすぎる振る舞いが目につく。
特に占拠されたビルの屋上で、彼女は私達の姿を見て躊躇なく“対魔忍”であることを看破していた。その情報は闇の住人と共謀していたあのテロリスト達ですら、私達の素性に関して知らなかった様子なのに、だ。それを一瞬にして暴いて口に出してみせた。
普通、私達に対する潜入諜報員・工作員であるというならば、身分や本性を隠して不幸な被害者として近づいてくるものではないだろうか? あえて情報を漏らして、こちらの気を引いたという線も考えられるが……。
このように正体を疑われる危険性を持たれるぐらいならば、主に米連で諜報員として活動している対魔忍:
「——ふむ……」
しかし既に政府関係者の筋から手に入れた情報によると、“それはありえない”という。
また魔族だという線で考えても魔力を一切感じられないし、何かが憑依している様子もない。それでも、何か彼女からは素性と得体のしれない違和感があるのは間違いはない。
「紫。ずいぶんと入学の初日から無茶をした様子だけど……あなたの見立てでは、『青空 日葵』の評価はいかがかしら?」
それから一呼吸を置き、口元が緩んだ紫に向き直って探らせていた情報の整理に移った。
その探らせていた対象とは、もちろん『青空 日葵』についてだ。
「そうですね……。危機的状況でも忍法の発動が見られないことから、ふうまや一部の学生対魔忍のように忍法の覚醒に至っていない可能性が現状極めて高いかと。近接戦闘を試みた観点からでは、彼女の腕力や脚力、体力に関しては一般人の女子高生とさほど変わらないように思えます。ただ……——」
紫は眉をひそめ、怪訝な様子でこぶしを造った右手の人差し指を口元に当てて、考えるようなそぶりを見せる。彼女も『青空 日葵』に違和感を抱いた様子だ。
「ただ?」
「“ただの一般人の女子高校生”にしては、……実戦慣れし過ぎているかと」
まさに、その通りだった。
学内に設置されている監視カメラの映像を振り返っても、最初の武器を紫にはじき飛ばされ、2撃目をまぐれのように避けた後の彼女の逃走の動きには迷いがない。そして瞬時に紫の武器の特性を見極め、どこに逃げ込めば安全地帯か判断しているようにも見える。
それに初撃で武器が弾き飛ばされたとき、彼女は自分の腕を正面に突き出して、手のしびれを確認していたが……同時に紫の得物から片時も目を離していないのも印象的だ。
“ただの一般人の女子高生”がここまで出来るはずがないのだ。本来であれば、武器を弾き飛ばされ衝撃と攻撃に対する恐れで足が思うように動かずに蹲ってそれで“おしまい”だろう。
だが『青空 日葵』は、その2撃目を回避して見せたあと、ジャングルジムでの籠城戦へと移行した。持っていた拳銃が紫を止める手段にならないと判断したあとは、即座にブラックジャックを拾い上げに向かい防御から一転攻勢へ。紫を意図的にサッカーゴールの方へ誘導している。紫もそれを承知の上で誘導に付きあっている様子ではあるが……。
……そもそも、紫を煽る意味があったとしても、どういう発想をしていればあり合わせの道具でブラックジャックを造って振り回そうという思考に至るのかも理解ができない。
「まさか、サッカーゴールを武器としてくるなんて……」
消火栓の薬液まみれになった紫が、バスタオルで薬液を拭い落としながら私の隣に立ち、映像記録に記録されている彼女の立ち振る舞いを苦笑しながら見つめている。
……下級魔族や一般人相手であれば話も変わってきただろうが、紫も対魔忍だ。この程度の不意打ちであれば、彼女は難なく往なすことはできる。だが、映像記録を見る分では『青空 日葵』はあくまでもサッカーゴールでの攻撃は陽動で、本命としては “体育館に逃げ込むまでの時間を稼ぐ” ことだったようにも見える。
「……消火栓についてはどう思うかしら?」
「はい。……そうですね……。大半の人間は、本人の意図しない非常事態の状況下で周囲に助けを求める場合、これが大人であっても 大声で“助けて”と命乞いをするものが殆どです。それは、アサギ様も十分ご存じかと思われます」
紫の言葉にこれまでの経験を振り返って、深くうなずき返す。
……私も校長の座に就き若手を育成する前は、若き対魔忍として様々な任務に就いては魔に加担し外道の道に堕ちた科学者や悪徳会社の社長を闇に葬ってきた。時には目に余る行為が過ぎた高級娼館を営む魔族を全従業員もろとも潰したことすらある。その時、追い詰められた大抵の人間やオーク達は口を揃えて、大声で周囲や私に助けを請いて来た。
「……しかし実際には、そのやり方では効果が薄く……金も絡まない、ましてや自身に対して一切の利益を見い出せないような状態で、助けてくれるものが現れるのは極めて稀な例ではあります。……ですが、彼女はどのようにすれば、 “他人が自分に注目を集め 助けに来てくれるか” 、なおかつ “救助が到着するまでの間 どのように自分を護り切るか” も視野に入れて動いています。……本当に彼女を“ただの一般人”、“普遍的な女子高生”として見てもよいものでしょうか? 大人でも難しいことを命の危機に瀕している状態で、そう実行できるものでしょうか?」
……あの場で彼女は火事という手法を取った。
『火事だ』と叫べは、それ以上の延焼を避けるために当然その周囲の人間は現場へ確実かつ即座に集まってくる。やがて騒ぎを聞きつけた野次馬も続々と現場に集まってくるだろう。そして事態の収拾をつけるため出動した警察や消防といった公的組織すら多数の味方/中立者として呼び寄せられる。
それがのちに法で罰せられるような行為であろうとも、考え方によっては法外な仕打ちに面するよりはよっぽどマシな選択であるようにも思える。
おまけに自身に対する追跡者に、時間稼ぎとして消火栓を起動させ武器にして時間を稼ぐ。別に逃走や相手を打ち倒す必要など不要なのだ。一定時間経てば強制的に勝利の確率は跳ね上がるのだから。
「さすが紫、十分すぎる情報収集をどうもありがとう」
「嗚呼♡ アサギ様☆ ありがとうございます! もっと褒めてくださいませ、紫はアサギ様に褒められればいくらでもこの命を賭して命令を遂行して見せます!」
「それは嬉しいわ。でも自分の身体は大切にしなさい。今回の情報収集のお礼で、私のお古の洋服で良ければいくらでもあげるから、……今回の件で大暴れした『青空 日葵』の事も許してあげてね?」
「アサギ様の新しいお召し物をお譲り頂けるのであれば、当然です!」
はわわわわ……♡ と身をくねらせ歓喜の表情に包まれる紫はさておき。
『青空 日葵』について政府機関に調査させたファイルを私は再び開く。
彼女の正体をこの学園で暴き、敵対勢力に該当しない場合は、引き続き監視し、学園生活で善の立ち振る舞いが見られる場合には能力に応じて、正式な対魔忍への勧誘および教育を施す予定だ。
……早ければ早いほど良いだろう。学園生活 最初の期末試験が終わるまでには、彼女の素質を見極め一般人ではなく対魔忍になってもらうつもりだった。
——知っているか? 対魔忍からは、逃げられない!
そういえば、対魔忍RPGの7月のイベントでは新たに霧原 純子の水着キャラが登場しますね!
SRがリリムと人外のお諒だとして、霧原さんはRがいいなーと思ったり。
――新しい情報が開示されました―――
□『青空 日葵』 New!!!