対魔忍世界へ転移したが、私は一般人枠で人生を謳歌したい+ 作:槍刀拳
吉報【昨日のような一切の筋肉痛が発生してない件について】
昨日はかなりの無茶をし過ぎたはずだったのに……翌朝ベッドから起き上がれない……なんてことはなく、普通に起き上がり、今、母親の作った朝食を食べている。
若ェっていいな!!!(2度目)
今日の朝食のメニューは、ごはんと半熟の目玉焼きに焦げめ付きのベーコン、レタスとオニオンの混合サラダ、わかめと豆腐入りの味噌汁だった。
なんというか……人にご飯を作ってもらえて、それを食べる、しかも美味しいというのはなんと幸せなのだろうか。昨日、今日とて頑張ってもらう筋肉たちも喜んでいるに違いないし、私の脳と舌は確実に悦んでいるのは確かだ。かつての記憶である母親の味とは、大きくかけ離れているものの……肉体のほうは日葵の母親の味を覚えているのだろう。五臓六腑にじんわりと染み渡るような奥深い……涙が出てしまいそうになるような味をしている。
「う~ん!!! 今日も美味しい!」
「……! ……」
「いつも美味しいご飯を作ってくれてありがとう! お母さん!」
「……え、えぇ……」
幸いにも今日は休日で、学校の授業はない。
学校自体は部活動も管轄しているため、開校しているようだが私には関係のないことだった。
母親は専業主婦の為、今もこうして家事を生業として私たちの日常生活を支えるために動いている。
父親は、今日は休日出勤で家をあけていた。プライベートと仕事はきっちり分けるタイプなのだが、出勤していることを鑑みるに余程重大な事件なのだろう。詳細はわからないが、何でも隣のまえさき市で事件が起こったみたいだった。
五車町での仕事……というよりも、隣町に出張していろいろ資料の管理や対策本部の指揮、ハンコを押すだけの簡単だが面倒な仕事があるらしい。……対魔忍達と同じ分類である国家公務員の警察官というのも大変そうだ。
私も父親と同じように仕事とプライベートはきっちり分けて、プライベートをメインに充実できるような職業に就きたいと思っている。……今回はどんな職業に就こうかまだ決めあぐねているような状態であるが……ひとまず、最初の目標は現状の財力から大学へは進学することだろう。その後は可能な限り、対魔忍なんかと関わらないような職種につきたい。となると、該当する職業は、医者、エンジニア、司書、作家、ミュージシャンぐらいだろうか。あー……でもミュージシャンはやっぱなし。デビューするために、スポンサーのおちんぽをしゃぶるのとかヤりたくないし。
もうちょっと学校に慣れてきたらアルバイトも始めてみようと思うが……。そもそも五車町という片田舎に、そんな賃金の高い働き口があるとは思えないし……。やるとしたら手軽に趣味の範疇で稼げる株とかFXかな。株式や積立NISAなどの必勝法は、前世で〈経理〉部門に触れることで経験を培ってきたわけだし、資産に関しては過剰に持っていたとしても困ることと言えば、納税と変な奴に絡まれることが多くなるぐらいだ。あー。でも、学校の友達とも遊ぶ時間も確保したい。とにかくやりたいことが多すぎて困る。今はそんな状況だ。
「……日葵。ちょっといい?」
そんな将来の事やアルバイトの事を考えながら、食べ終わった食器を流し台で洗い、砂糖とお湯を1:5の分量で制作した紅茶を片手に、父親が忘れて行った新聞紙を手に取って、株価を確認している私に母親が話しかけてくる。
「ん? どうしたのお母さん」
「今日はよく楽しそうにお話してくれる鹿之助ちゃんとか、ふうま君とか、蛇子ちゃんとかと……どこかお出かけする予定とかあるのかしら?」
「ん、ないよ。今日の日程は筋トレをしたら、グンマーの僻地ニュータウン(笑) クソしょぼホームセンター五車店へ、DIY用の工具と材料を買い物しに行こうと思っていたぐらい」
「……そっか。それじゃあ、先にちょっと手伝ってほしいことがあるのだけどお願いしてもいいかしら?」
目の前の母親から、どこかよそよそしい態度に引っ掛かりを覚えるが、無理もない。
『青空 日葵』の中身は『釘貫 神葬』という別人で、母親の実娘である『青空 日葵』ではないのだから。……それでも私はなるべく正面の女を実の母親と思って接してはいる。
退院直後こそは『青空 日葵』の趣味・嗜好に合わせようとは努力をしたが、根本から無理な話だった。個人的には前世で顕著に見られていた摩訶不思議なオカルト系の道具とか、それがレプリカや偽物だとしても魔術的な書物は最低限・必要以上に見たくはないものだったし。『青空 日葵』の私物は処分こそしていないが、大方はダンボールの中に詰め込んで屋根裏部屋に収納、一部は庭の地中に埋めて保管している。
結局、『青空 日葵』というよりは『釘貫 神葬』の要素があまりにも多すぎるのだろう。だから『日葵』の母親はどこか、以前の“日葵”と“私”との違いに戸惑い、娘に遠慮しているようなよそよそしさなのだ。
「もちろん!」
「……そ。それじゃあ、準備が出来たらガレージに来てくれる? お母さんも準備しておくから、できるだけ動きやすい服装でね」
「うん!」
出来る限り威嚇な意味を持たない笑顔を母親に向ける。だが、彼女の母親の表情はどこか曇ったままだった。
………
……
…
動きやすい服装の指定があったため、学校の冬用ジャージに着替え、いくつかの髪留めを手にして、ガレージに赴く。
我が家のガレージは半分地下に埋まっているのだが、この五車町には氾濫を起こしてしまうような増水する川もなければ、土砂災害を引き起こすような山もない。内陸部ということもあり、当然 津波の心配もない。地盤も非常に安定しており、震災大国の日本では珍しい安全な居住スペースとなっている。
防災オタクには、のどから手が出るほどに魅力的な立地だ。
ただ……問題として挙げるならば、ニュータウンを謳っている割には魅力的なものが学校しかないのはどうかと思う。入院していた病院でこの五車町について検索しても簡易的なホームページしか出て来ないし、その肝心なホームページも全く見つからないような場所に隠れて……ほぼ隠されているような状態で見つかったし。深夜にテレビはやってないし、田舎だから虫の存在やカエルの鳴き声、自然の環境音が都会と比べて騒々しい。……緑が豊かであることの象徴でもあるが……慣れるまでが辛かった。
小中高の学生の憩いの場も
……それにしても。入学初日の下校の際に立ち寄った稲毛屋のソフトクリームを食べられなかったのは すこし心残りであり、良き思い出である。
蛇子ちゃんが私に1つ奢ってくれようとしたのだが、財布から小銭を取り出そうとしたとき、手が滑って地面に落ちて転がった小銭はそのまま道路の排水溝の中に吸い込まれてしまったのだ。そんな不運な出来事のあとに、全員が財布からそれぞれ小銭を出して私にソフトクリームを奢ってくれようとしたときには、流石に悪いと思って断ったのだが……。あの光景を思い出すと、全員の慌てっぷりと捕まえようとするも逃げていく小銭が器用に避けて行った様子が面白くって思い出し笑いがこみあげてしまう。
それにしても、聞くところによると稲毛屋のソフトクリームは五車学園内で賭け事に用いられるほど、あらゆる学生達をメロメロにするほど魅了してるものという話を小耳に挟んだ。……たかがソフトクリームで そんな賭け事に用いられるソフトクリームにはより興味が湧いた半面、恐怖も覚える。稲毛屋の店主である稲毛婆さんにはこんな思考を張り巡らせていることについて悪いとは思うけど……そのソフトクリーム。中毒性の強いコカインとか混じってるヤベー食べ物じゃないよね?
とまぁ、五車町と稲毛屋での事件のことはさておき、準備を整えガレージに入った。ガレージには職人用のズボンを履き、タンクトップ姿の母親が立っていた。おっさん的思考だが、将来 私の胸は大きくなる確率が高いと母親を見て思う。よい巨乳だ。祖母達には会ったことは無いが、写真からの情報として彼女等も巨乳なので隔世遺伝的な心配はいらないだろう。
そして、そんな巨乳なんかよりも私の好奇心と探求心を刺激されるものが母親の背後に駐車されている。それは、恐らくアメリカ……この世界では
「日葵には、ちょっと整備の手伝いをしてもらいたいのだけど……」
「もちろん! そのために来たんだから!」
「そ、それじゃ……取ってほしい工具とかいうから、それを取って……」
「もちろん!!! 何なら整備も手伝うよ!」
「え、えぇ……あと機材も——」
「もっちろん!!!!! 必要なものがあったら言ってね! 『初心者でもわかる自動車整備に使用される工具・機材の名称の書』のおかげで大体わかるから!!!」
あぁ^~たまらねぇぜ。
母親に指定された機材を、自分でもわかるほどに顔を蕩けさせた笑顔で渡していく。時には車体の下に潜り込んで一緒に整備したり……。こうして平和的に機械を弄ってるだけでも、幸せ過ぎてオーガズムに達せる。——アッアッアッ♡♡♡ もう、顔中幸せまみれや。こんな幸せが一生続けば私の人生はバラ色で間違いはない。
んはァーッ! いいじゃない! いいじゃない! こういうのでいいんだよ。こういう日常で!
世間の影では対魔忍が世界を護っているらしいけど、そんな荒事から離れて私は何気ない日常を謳歌したいんだ! 世界の危機なんて解決できる奴が介入すればいい。神話生物なんて存在しない世界で、一般人に転生した私がやるようなことじゃない。
前世で私は “すごく” 頑張った。それはもう本当にすごく。だから人生の最後は散々だったけど、この人生では好きなだけ羽休めをして一般人として生活したいのだ。
だけど、腐っても対魔忍の世界線。いざというときに火の粉が降りかかってきたとき、自分や周囲の人を護れるだけの力は必要だとは思っている。
だから、ある程度訓練はするが、『絶対、対魔忍なんかになったりはしない!(キッ』
ま、こんなクソザコ田舎に身を潜められている間は、対魔忍の誘いなんか来ないだろう! 私の一般人として生活するという未来は最高に輝いている! ガハハ!