対魔忍世界へ転移したが、私は一般人枠で人生を謳歌したい+ 作:槍刀拳
Episode15+ 『いざ、まえさき!』
時刻は7時40分。私はあらかじめ用意した清潔感のある私服に着替え、3人とまえさき市に遊びに行くため、自転車で五車駅に向かっていた。
お出かけ前夜。
『青空 日葵』が所持している服は、正直に言って私の好みには合わないどころか、まさに夜中にコンビニへ出かけるようなヒッキー THE 私服という類の服装であったためコーディネートにかなり時間が掛かった。まさか、ここまで外行の服がないとは……恐れ入ったものだ。結局、母親の私服からいくつか拝借することで、まぁ……
出発前、汚れが付着していないかどうか くるりとその場でバレエのように横回転して、うっすら笑みを浮かべてみるが特に問題はなさそうだ。
ところどころに前世の衣服傾向が出ているが、今回はグンマーの僻地『五車町』から外に出て、グンマーの中心部。そう都心に向かうのだ。少しばかり、この警戒した衣服の方が有事の際に役立つだろう。
………
……
——五車駅————
……
…
「日葵ちゃん、おはよう!」
「お、やっと来たな! 待ちくたびれちまったぜ!」
五車駅に着くと既に蛇子ちゃんと上原くんが、鉄パイプとトタンと簡素な木材でできた『バイク月ぎめ』『自転車月ぎめ』と書かれている無人の駐輪所前のガードレールに腰を掛ける形で私を待っていた。私の到着に気が付くと大きく手を振ってくれる。
2人は当然のことながら私服を纏っていた。2人とも……実に“かわいい”ことには間違いない。蛇子ちゃんはライトブルーを基調とし、胸元を強調したアダルティな服装のミニスカートにスパッツ衣装だ。そして上原くんは彼なりに男っぽい服をチョイスしてコーディネートしようとした形跡は見て取れるが、うん。それ全部レディース服。外見や容姿が女々しいからか普通に女の子と間違えられても仕方ないと言った様子だ。
そして、私は初めて訪れた五車駅だが……。
こちらは、とてもじゃないがニュータウンと謳われるような近代的な駅ではない。
線路はすれ違い待ち用の待機所として2本しか用意されていなかったし、
これは、とんでもないド田舎である。間違いなくド田舎。何がニュータウンじゃボケェ!
……せめて。せめて、この五車駅が超ド田舎と呼ばせない機能があるとするならば、それは都心部ではよく目にすることのできる無賃乗車を防ぐための扉付きの自動改札機が2台設置されていることだろうか。真の田舎駅ともなると、駅員が居ないどころか、下車時の切符はポストのような箱に投函式だったり電子マネーの機械が1台ぽつんと立っているだけだったりするが、五車駅はそこだけは他所の無人駅よりも一歩だけリードした駅だった。
「おはようございます。お二人とも、早いですねぇ…………まだ集合15分前ですよ?」
「えっへへ~♪ 早めに到着しておかないと8時の電車を乗り過ごしたが最後、次に乗れるのは2時間後ですからね~!」
前言撤回。五車駅は、自分をニュータウンだと思いこんでいるオンボロ・ド田舎だ。
「うわぁ……。流石秘境グンマー……想像をはるかに超えてきますね。……ニュータウンとは何だったのか。ところで、ふうま君は?」
「ふうまなら、もう来てるんだけどよ。丁度、青空さんが来る2、3分前に『ううっ、トイレトイレ~』とか言って多目的トイレに入っていったぜ。ま、すぐ戻ってくると思うけどな!」
「彼は顔がいいですからね。ツナギを着た良いオトk……ナにホイホイ♂ついていってないと良いですが……」
私の言葉に、二人は首をかしげて頭頂部にクエスチョンマークを浮かべる。……おっとぉ? これは10代の2人には伝わりにくいジェネレーションギャップ要素だったようだ。
盛大に滑ったあたりで上原くんのいう通り、ふうま君も5分としないうちにトイレから携帯電話を片手に出てくる。顔の様子からすこし憂鬱そうな顔であったが、私が到着していることにも気が付くと笑顔をつくる様子が伺えた。
「おはようございます、ふうまさん。すっきりしましたか?」
「ああ。青空さん おはよう。無事に終わったよ」
彼の私服は、五車学園の制服に似ている。青いジーンズに、薄い灰色のストライプのTシャツに長そでの黒い上着を羽織っている。
今日も今日とて、彼の右目は閉じたままであるが、私も気にしないように振る舞いつつ、4人で切符を購入し電車を待つ。チラリと一瞬、目だけをふうま君に向けるが、ふうま君が右目を開けない理由はそれとなく突っ込んじゃいけないようなそんな気がしていたのもある。
ほどなくして4両編成の列車が到着し、その電車に私たちは乗った。こんな辺境のグンマーへ訪れる人もおらず、列車は日曜日だというのにも関わらず4人だけの貸し切りのような状態だった。……正確には2人。他の車両に人は乗っているが、1人はノートパソコンに熱中、1人は爆睡している様子が見られる。
「はえー……ほぼ貸し切りだぁ……。いつもこんな感じなのですか?」
「たまにしか乗らないが、だいたいいつもこんな感じだな」
全員で先頭車両に乗り込み、辺りを見渡す私に3人は慣れた様子で4人用の向き合って座ることの出来る座席に座る。窓際にふうま君と上原くん。ふうま君の隣に蛇子ちゃんが並んで座る。
私も座ろう……と思った矢先、ふと視界にあるものが映ったことに気が付き、そっちに近寄る。
「青空さーん。当分まえさき市には着かないから、座っておいた方が着いたとき足が棒のようにならなくて済むぞー」
「はーい。……でも、今どうしても気になることがあって……座席を取っておいてもらってもよろしいですか? すぐに戻ります」
「おーぅ?」
それだけ告げると、3人から離れて、私はその気になったことに近づき眺めに行く。
………
……
…
「……。なぁ、ふうま、蛇子」
「なんだ?」
「ん~?」
「あの……青空さんが気になっていることってさ……」
「……防災意識が高いだけだろ」
「き、きっと非常時のための確認のためであって、深い意味はないと思うな~」
「そっか……。そうだよな……。……あ、青空さん? 見終わったのか?」
「いえ、少しだけ他の車両にも見に行ってきます。5分ぐらいで戻ってきますね」
「お、おぅ……」
…
……
………
全車両の確認を済ませ、最後尾の車両からすべての電車内を覗き見る。
この世界でも建築法がしっかり顕在しているようだ。列車の各車両同士の連結側の壁に消火器が備え付けられている。
私が消火器を眺めていることは そんなに珍しいことなのか……別車両で消火器と非常ベル、非常緊急停止ボタンの場所を確認する私に、パソコンに熱中していたはずの乗客が車両を仕切る扉越しに覗き込んでおり、目が合った。すぐに目を逸らされたが……。あの目は、“何をしているか?”という興味を引いている様子。というよりも、“押すなよ……! 絶対、押すなよ!? いいか、これはフリじゃないからな…?!”という謎の圧を眉間に寄った皺から察する。
……まさかとは思うが、私が非常ベルを連打した件が五車町近辺にも知れ渡っているのだろうか? ……いや、まさかな。そんなはずはない。田舎とはいえ、そこまで情報が知れ渡るわけがない……はずだ。たぶん。……第一、私の情報が洩れているとしても、非常ベルを連打した女として顔までは割れていない筈だ。翌日の地域新聞にも五車学園での出来事はどういうわけか記載されていなかったし。
上原くん達が乗車している車両に戻るため、そのパソコンに熱中している乗客の目の前を通過すると彼の顔自体はパソコンを見ていたが、視線はパソコンから離れ明らかに私を注視していた。お互いに目が合うと、向こう側が慌てた様子で目を逸らす。
……そんな乗客に違和感を覚えながらも、3人の元へ帰ってくることができた。
………
……
…
3人は何をするわけでもなく、ただそれはもう……黙って静かに座っていた。いつもの3人からは想像できないレベルでの落ち着き……否、これは大人しくしていた。
「戻ってきましたー」
「おかえり~」
「ただいまです。楽しくおしゃべりしているかと思ったんですけど、3人ともすごい静かですね」
「でしょ~。でもこれは前回のことがあるからかも…」
「前回の事?」
蛇子ちゃんの言葉に私は首をかしげる。上原くんも、ふうま君も何も言わずにただ窓を魂の抜けたかのような表情で眺めている。一体、前回、彼等の身に何があったのだろうか……?
「ま、ま、ま。日葵ちゃんも座った方がいいよ。先は、すっっっご~ぉぉおおおく長いからね!」
「あ、はい。ありがとうございます……?」
手を引かれ促されるまま彼女と向かい合う形で、いろいろ詰め込んだリュックサックをおなかに抱えて座席に座る。
「……」
「……」
「……」
「……」
『……』
沈黙。ただただ沈黙。誰も何もしゃべらない。思わず神妙な顔になる。なんだこれは。私はまた新しい異変に巻き込まれているのだろうか?
「……あの……蛇子ちゃん。……前回、何があったんですか?」
「……知りたい?」
「……差し支えなければ」
「それじゃ、教えてあげよう! あのね。これは前回と言っても、初めてまえさき市に遊びに行った中学生の時の話なんだけどね?」
「はい」
「その時の蛇子たちは、電車内でまえさき市に行くのがすっごく楽しみで、まえさき市に到着するまでいろんなことを話してたの。それはもう、とにかくいろんなこと。将来の夢とか、好きな忍法とか、まえさき市に遊びに行ったら何をするかとか、学校での出来事とか——」
好きな忍法の話題をする3人に少し驚くも、ここが対魔忍の世界であることを思い出し妙な納得感を得る。あれ? でも、対魔忍の世界と言っても一般的には対魔忍は特殊部隊って扱いになっているっぽいことを1年前、医者が説明していたような……。
となると当時、この世界で忍者の戦隊モノが流行っていたのかな? 私の世界でいうところの『ミュータントタートルズ』や『ニンジャスレイヤー』『シノビガミ』的な。
「——それは、もうっ、すっっっごく盛り上がってね! 大笑いしながら、楽しい道中を過ごしたの!」
「はい」
「でもね……蛇子たちは一つ見落としていたことがあるの……」
蛇子ちゃんの表情が急に神妙な顔になる。
あ、もしかして……これは乗り換える駅を見逃して迷子になった奴かな?
「ここで、日葵ちゃんに問題です! デデン! 蛇子達は何を見落としていたでしょうか! ちなみにヒントはね~。……これでーす!」
突然の問題に目を丸くするが、彼女はお構いなしに私の目の前に指を3本立てて、ニヘラ~と笑う。
3……? 見落とした3……? 一体のことなんだろうか……?
3……。3……。さん……。スリー……。み……? 3番線ホーム?
「わからないかな? ヒント2つ目~。鹿之助ちゃんや、ふうまちゃんを見てみて! 2人はどんな様子かな?」
……2人は窓の外を見て、無言で黄昏れている。
それはもう、何も考えていないような虚無、完全に妄想の世界に入り込んで 現世での出来事をすべて忘れ去ってしまったかのような……真っ白に燃え尽きたような魂の抜けた表情……。
「FXで有り金全部溶かしたかのような顔を……して、いますね……?」
「……ん? ん? ん? んっ? FX??? ……?????」
「あー……初心者でも始めやすい『株』みたいなものです」
「蕪?」
「株」
「蕪」
「株です。……それにしても、3とFX、電車の中での出来事ですか……」
「……難しいかな~? それじゃ三つ目のヒント! これは大ヒントだよ! 今日、蛇子はこんなものを持ってきました! はい! 日葵ちゃんにもあげるね!」
「飴? あ、ありがとうございます」
彼女は飴玉を取り出して私に6つ渡し、2人にも受け渡す。飴玉はリンゴ味だ。封を開けて食べる。さっぱりとした甘さだ。
窓際の2人も飴玉を真っ白な魂が抜けた状態で封を開けて頬張り、やっぱり黄昏れ始める。
それから彼女は3冊の薄い小説を取り出した。薄さから1冊辺り200頁にも満たないノベルズ・コミック文庫の大きさものだ。それを3冊……。
「んんんーー……。……ん゙ん゙ん゙ん゙ん゙ん゙ん゙っ゙」
「の、喉に痰が絡んだみたいな声が出てるよ!」
頭を抱え悩む私に蛇子ちゃんは、わたわたした様子でツッコミを入れる。
「……蛇子。蛇子。あれはヘヴィメタルに使用されるデスボイスの『ガラテル』だ……」
「えっ。ふうまちゃんなんでそんなこと知っているの?」
「お前が言ったんだぞ……相手の好きなものを調べて理解しておくことは、親しい“友人”関係を築く上で重要だって」
「あ、高坂先生が教えてくれた授業の……だね?」
私の目の前でふうま君が蛇子ちゃんに向けて何かヒソヒソ話をしているのが見えるが、残念ながらそっちの話に頭のリソースを割いているような余裕は私にはなかった。首をひねり、腕組みをしながら出題された問題の解答に全力を注ぐ。唸れ! 私の〈アイデア・INTロール〉ッッッ!!!
その時、PON☆ と私の脳裏に一つの答えが浮かび上がってくる。
「……あ」
「わ、わかったかな~?」
「もしかして……到着までにすごく時間が掛かる? ……具体的に……3時間ぐらい?」
「ピンポン!ピンポン! だ~いせいか~い!!!」
彼女の正解の声は嬉しそうだったが、私は凄まじく長い乗車時間に思わず嬉しいような嬉しくないような顔で目をつぶって仰け反る。
3時間の乗車時間。それは千葉県で例えると『柏から館山まで』……もっと距離感に疎い人のために説明するならば、千葉県の『最北部から最南部』……チーバくんで例えると『鼻先から足先へかけて』電車での移動する際に掛かる時間に該当するぐらいの距離である。
しかも、ここで思い出して欲しいのは……五車町はまえさき市に隣接している距離にも関わらず、3時間だ。正気の沙汰とは思えない。
五車町……辺境の田舎ってレベルじゃねーぞ! 未開の秘境の地 THE・グンマーさんだよぉ!
ちなみにこれは補足となるが、西東京に存在する駅の1つ『奥多摩』から都心の『池袋』までの乗車時間ですら、乗り換えを含めても2時間10分ほどで到着ができる。ちなみに直線距離で換算した場合50㎞ぐらいだ。……これで更に五車町がどんな辺境の地か非常にわかりやすくなったかと思う。
「こりゃ、早めに原付か自動車免許を取らないとなぁ……ははは……」
乾いた笑いとか細い独り言をつぶやきながら、後頭部をかきながら片目を瞑る。
五車町が山間部を開拓したニュータウンにも関わらず……外部から人が集まらないことがわかったような気がする。……とにかく交通の便が悪すぎる……! 都心部に出かける私に母親が色々な田舎では手に入らないような物品の購入を依頼してきたのも頷ける。
そりゃ、新しく新設された街だよ! 小中高校一貫の国立学園があるよ! その他に自慢できるような建物はないけど、とにかく学校は国立なのに立派だよ! 機材もすごいよ! 教育に熱心()な優秀な教師がいっぱいいるよ! あ、あと絶滅危惧種の商店街があるよ!
五車町から最寄りで都心部のまえさき市まで、電車で3時間だけどねっ!!!
……もうね、アホか……と。そんなの人なんか集まるわけがない。何がニュータウンだよ。オールドタウンだよ。過疎化の未来しか見えない秘境ですよ。……。はぁ……。道理で通販プライム プレミアムつけているのに商品が翌日に届かないわけで……。海外の本なんか注文した日には、到着は半年後じゃあなかろうね?
日葵の父親もとんでもない場所に転勤命令が出たものだ……。一体、何をしたんだか……。
……でも片道3時間も時間があるのか。これは逆に私としては、好都合だったのかもしれない。
おもむろにリュックサックを開き、中から私が増量版化させた『新クトゥルフ神話TRPG』のルルブを取り出した。その瞬間、正面の蛇子ちゃんはもちろんの事、黄昏ふうま君の目の色も変わり、私が持つルルブにその視線が釘付けになる。
これにはドヤ顔をせざるおえない。Good Job. 私。
「うぉ……マジか……ッ! 持ってきたのか!? 今日も!?」
「はい。このTRPG本、かなり重いので……筋トレのつもりで持ってきたのですが、やはり気になりますかね? 黄昏ふうまさん」
「青空さん!? それって……!」
「上原くん……そうですよ。例のアレです。一発キメたが最後……後戻りが出来なくなる悪魔的快感の坩堝……そう、
「や」
「や……?」
「やりたい! なぁ、やろうぜ! ふうま! 蛇子!」
私のTRPGの声に上原くんも意識を取り戻したようでキラキラと輝いた目で食いつきを見せる。可愛い。眼福。正気度報酬。狂いそうになる。ステイッ ステイッ まだだッ まだだッ! 抑えろ……ッ!
他の2人も、おずおずと頷く。よし……! いろんな意味で、心を抑えたッ! 掴みは良い感じだッ!
「……今回、皆さんTRPGは初めてですもんね。本当は初心者向けの簡単なシステム『ウタカゼ』や『永い後日談のネクロニカ』あたりが遊びやすいのですが……まぁ、何せまだ家にルルブが届いていませんので……。他にも初心者向けのTRPGはありますが、『永い後日談のネクロニカ』は電車でやると大体大変なことになりますし……今回は『新クトゥルフ神話TRPG』になります。各自インターネットで無料配布版『新クトゥルフ神話TRPG(7版) クイックスタート・ルール』を参照してキャラクター……自身の分身となるキャラを作ってみましょうか。わからないことがあれば、いつでも聞いてください。お手伝いします。」
準備してきた白紙のキャラシートを取り出し3人に配り、彼等の分身である“探索者作成”が始まった。
……ここにいる全員、私の実体験を交えた“ガチであった怖い話”を残酷描写のソフト版で恐怖という快感の沼に落してやる。人は過度な恐怖を感じるとストレス緩和のために脳から麻薬分泌液が発生する。
ヤってみな。……飛ぶぞ?