対魔忍世界へ転移したが、私は一般人枠で人生を謳歌したい+ 作:槍刀拳
現在、
彼を救出するために電話の先から聞こえてきた内容を頼りに探索を開始するのだった。
…ちなみに、3時間前にトイレへ行ったまま帰ってこない友達の相州蛇子ちゃんとふうま小太郎くんには、情報共有を行ったがまだ合流はできていない。
そろそろ
血眼になってこちらを探し出し、“
上原君の最後の電話からは、人の声や外気の環境音が聞こえないうえで、ニトロの定員呼び出しのアナウンスだけが微かに聞こえてきていた。恐らく、その通話を行っていた場所がここではないかと推測を立てながら全体的に白く塗装された通路の奥へと進んでいく。
上原くんを拉致した人物は、最後に力強くスマホを踏みつぶしていた。〈物理学〉の観点から、あの時に聞こえてきた音、踏み下ろされた角度、威力から状況を整理すると、スマホに使用されているガラスが通常よりも多量に飛散したはずである。そのため現在、床を舐めるようにして踏みつけたであろう箇所を探してはいるものの、それらしい飛散物は残念ながら見つかってはいない。
途中、お客様用トイレがあるのを発見し、念のため男女関係なく内部を確認したが上原くんの姿は見当たらなかった。ふうま君も蛇子ちゃんの姿もなかった。
代わりに、洗面台に備え付けられた鏡の中にはひどい姿の女がいた。顔面に鮮血が流れていき、髪に麺やら鳴門巻きやら、嘔吐物がまとわりついている。白かったインナーは茶色の醤油味と赤色に染まって、ズボンの股下では、大腿部にナメクジが這ったあとのような粘液が乾燥して鈍い光を放っている。ブーツの中には大量の黄色の透明な液体が注がれていた。
目糞鼻くそみたいな状態にしかならなかったが、様々な己の体液によって汚染したショーツを脱ぎ捨てるなり、ラーメンの汁色に染まった服を簡易的に洗うなどすることで、洗面台の鏡に向き合って凄惨な自分自身の姿を少しはマシな状態へと持ってくる。少なくとも髪の毛に付着したラーメンのカスや顔にこびりついていた流血の痕を洗い流すことはできた。
今、思い返しても、あの
「今に見てやがれ……。今度は私の完全勝利で、テメーのもっと情けねェ姿をオークどもに見せつけてやる……」
こちらが首を絞められて意識が落ちかけていた時。たしか、あの女は『カオス・アリーナ』とかいう場所で続きを楽しもうと話していた。これはつまり、逆にあの魔族が出入りしているであろう活動拠点の1つの情報を抜くことが出来たことにもなる。上原くんを連れて帰ることができたら、そちら方面の情報を調べるのも 今後何か自分自身にとって有益に働くかもしれない。
悪態を付きながら、苛立ちの衝動に振り回されるような形で、傍に置かれているゴミ箱を蹴り飛ばす。転がった内容物がある種の生物の内臓が飛び出たかのような光景で、鬱憤も晴れていく。
だが通路の先の調査に向かおうとした時。転がったゴミ箱の中から見覚えのあるスマホが姿を現わしたのを見逃さなかった。
「——ッ! こ、このスマホっ……!」
飛びつくように掴み、スマホを拾い上げる。
ゴミ箱の中身を洗面台の上でひっくり返し、他に入っているものも確認する。
踏み壊されたときに飛散したであろうガラス片もこの中にまとめて破棄されている。道理で通路で
これは休憩所で見たスマホカバーや機種からみて、上原くんのもので間違いないだろう。踏みつけられたあのときに破損して、画面は蜘蛛の巣状にひび割れ、粉砕した画面の一部は欠けてなくなっている。ゴミ箱内にある破片と照らし合わせるが、おおよそ当てはまる。
……これがここにあるということはこの近くに彼は居るはずだ。
あたりを忙しなく見回して掃除用具入れまで念入りに調査する。……ここに彼が居ないことは理解していたが、誰かにこのゴミ箱から他人の携帯を拾い上げるという行為を見られるのは避けたかった。
誰も居ないことを確認し、ここで遭ったことを想像しながら、上原くんを連れ去った彼等が最終的にどこへ逃げて行ったのか思考を張り巡らせる。
………
……
…
——彼の身長は約140㎝、体重は38㎏前後。
彼をどのような用途で連れ去ったかは皆目見当も付かないが……拉致犯がじっくり監禁してえっちなことをすると仮定して、別の場所に連れていく場合。
……簀巻き……それよりも体育座り状態で縛り上げれば、チェーンソーで四肢切断しなくともスーツケースに詰め込めるだけのサイズにはなる。しかし、いくら数人がかりで彼を取り押さえようとしたとしても、本気で抵抗する高校生をコンパクトにたたむことはできないだろうし、四肢切断などしようものなら後始末を事前に考えておく必要がある。そもそもこの手法は監禁後にやるべき手法であって、こんな人気の多い場所でやるべきではない。騒音問題や手間暇がかかり過ぎる。切断した時点で失血性ショックで死にかねない。焼きゴテで傷口を焼いてしまう素晴らしい方法を取れば1度で2度美味しい
ちなみに私は上原くんを拉致するのに四肢切断だなんて、新しい反応を得られなくなった時の最後の手段であり、最高の楽しみを不意にするようなマネはしない。シンプルに
仮に私が犯人として彼を監禁できたら、どんなことをするだろうか……。
まず四肢は残すだろう。それから何度も生え変わる爪を気まぐれに剥がしたり、力強く握りしめられないよう“悪いこと”をするたびに両手小指を各関節ごとと脚の指を計16回に分けて切断する。目隠しした状態で椅子に縛り付け、開口器で口をこじ開けさせて、下剤を服薬させて尊厳を打ち砕く。辱めを受けて俯いた瞬間に閉じることの出来ない口から、よだれがダラダラと滴り落ちる姿を眺めながらゆっくりとペンチで抜歯をして……。……何故そんなことをするか? かわいい反応を見たいからに違いない。なるほど。
でも彼は、この世界での初めての友人であり、かけがえのない存在だから私が実際に彼に対してそんなえっちなことをしたりはしない。私は今、彼を助けるために動いているのであって、この想像は犯人が彼に何をするかイメージを更に膨らませるための一環にしか過ぎないと自分に言い聞かせる。
……私はまだ理性を保った人間だ。
……話を戻そう。私は早く彼を助け出さなければならない。
上原くんは共に紫先生の戦闘訓練指導を受けている学生だ。生半可な抵抗ではなかったことは想定ができる。
……まぁ、相手に電話が行えるだけの余裕と暴れるだけの猶予を与えている時点でそこまで拉致のプロの仕業と考えにくいだろう。プロの犯行なら善人だった頃の“蛇子ちゃん”のように音もなく近づいてきて自分のテリトリーに引き込むか……。あるいは抵抗が激化する前、姿を見られる前に……私なら頭に巾着袋をかぶせて、紐で首を絞め背中にナイフを突きつけて抵抗も悲鳴も出せないようにしてしまう。
……彼は可愛らしい悲鳴を上げる前、“茶色のケモミミ”と言っていた。ほぼ確定的に私達がファミレスに向かう前に見たアイツ等のことだろう。そんな恰好をしたやつが駅前とはいえ周囲に空港もない場所で、休日の真昼間に物音のするスーツケーツを引きずっているのを見られれば、外にいる警察官や警備員の目を引いてしまう。だからと言って、外に駐車している自動車のトランクに重量のあるものを投げ込むには大きすぎる。……他人の目を不用意に引きかねない。
以上の点から、彼はまだ建物内にいる確率が高いことが予想できる。
そういえば……あの時。電話の向こう側から奥の方の扉が開く音が聞こえたような……。
…
……
………
私の方針は定まった。
トイレから出て通路の更に奥。突き当たりに『従業員以外立ち入り禁止』と書かれた両開きの搬入口に辿り着く。
音が出ないようにそっと、室内に入って 周囲を見渡す。
通路は非常に薄暗く電気は付けられていない。それどころか、この通路に存在する すべての通路の蛍光灯が取り外されていた。通路に留まっている台車には潰された大量の段ボールが山のように積み重なり、わずかな光源と言えば ぼんやりと照らし出された非常口を指し示す非常灯がバチバチと点滅している。
………
……
…
気配と足音を殺し、慎重に周囲の探索を始める。
現在いる通路は従業員専用通路のような場所であり、手前に倉庫のような部屋。更にその奥には従業員専用の休憩所があるようだった。
こういう探索は手前側から無人そうな部屋に〈目星〉を付けてしらみつぶしに調査するに限る。今、私は情報を何も持っていないような状態だ。最低限であっても、この施設で何が起こっているか、何が行われているのか調査する必要がある。
従業員専用通路には、ざっくりと〈目星〉を付けて調査を済ませたが……特に気になるようなものはなかった。潰されたダンボールの詰まれた荷台は長年使い込まれているようで、移動させようとすると1つキャスターが地面に面しながらくるくると回転してしまい非常に取り回しづらい。ダンボールも一通り組み立ててみるが、このぐらいの大きさでは人を隠せるほどの大きさのものは僅かではあり、一時的に隠せたとしてどう使うか用途不明のものばかりだ。
……それ以外に気になるものと言えば、一定の間隔で消火器がいくつか並べられていること、非常ベルの配線が何者かによって切断されていることぐらいか。
………
……
…
ひとまず、倉庫のような部屋に入り捜索を始める。懐中電灯のような光を発して、こちらの位置情報を発信するようなものは使用せず〈聞き耳〉と雑多な道具が立ち並んでいる工具置き場に〈目星〉を付けて、上原君の姿や目撃されたら面倒な存在の索敵を行う。
………
……
…
……事態は常に悪化している。業務用ダストシュート付近のゴミ箱から、上原くんが私と別れたときに着用していた新品のメンズ服を発見する。それだけではない。ダストシュートを開けた瞬間、生ごみが密封されて腐っていくような甘くも胸糞悪くなるような悪臭。手で薙ぎ払えるほどのハエが噴出してきた。近場に置かれていた殺虫剤で即殺するも、私がある程度の免疫のある光景でなければ、今頃 顔面に20ゲージショットガンの散弾のようにぶつかってきたハエの集合体に対し、悲鳴を上げていたに違いない。
……彼の衣服は鋭利な刃物で断裁されていた。この断切り方は、本人の目の前で『お前は逃げることはできない』あるいは『家畜に服など要らない』と見せつけた意図があったようにも捉えられる。パンツも丁寧に……おほっ! ……こ、これはパンツではない。ショーツだ。ショーツ!しかも女児もののショーツだァ!!! 女児もののショーツであるが、鹿之助くんのあ……におい においがすることから、彼のもので間違いはないことは、私の五感に通ずる〈聞き耳(6版判定,77頁)〉と〈目星(7版判定,198頁“知覚ロール”)〉で今、証明、確定された。正気度が回復する。ひゃっほぃ!
高鳴る鼓動を抑えつつ、倉庫のような部屋の調査を終える。
他に見つかった〈目星〉いものと言えば、食料スーパー『ナガト』の従業員用作業服。その隣に、私達がこのショッピングモールへ入るときに見た、あのケモミミフード付きのローブだった。ひとまず、バラバラで着用には使い道のない上原くんのショーツと衣服は、口惜しいが誰の手にも渡らぬようにゴミ箱の中に放り込みつつ、他の2種の衣服を手にして部屋を後にした。
………
……
…
~A.Hの弁明 記者会見編~
H(S)「えー… この時、私はみ…いいえ、嗅覚。あの時は嗅覚のみで彼のにおいを感じ取っていますが、これは決して、やややましい気持ちがあったわけではなく、彼である裏付けとして行ったことであって…決して、決っして…! そんな 説明できないようなことではありません。皆さまだってあるでしょう? 学生時代に同級生の物品を嗅覚で判断して、持ち主を言い当てる技。私はアレを行っただけであって、べつに持ち帰ったりしてませんし。必要最低限の情報収集をしたまでです。えぇ。あれは情報収集でした。はい。そう、あの行為はあの