対魔忍世界へ転移したが、私は一般人枠で人生を謳歌したい+ 作:槍刀拳
『CALL of CTHULHU クトゥルフ神話TRPG』を読み始めて、ざっくりと2時間が経過した。
途中、休憩終了とのアナウンス放送が入ったが、私はまだトイレ内で籠城中だ。但し、もうショーツとスカートは履いている。『あまりトイレ内の円座に尻を出したまま座りっぱなしになるのは止した方がいい。脱肛の危険性がある』——とウォシュレットで死んだ友人が話していたことがあるからだ。そしてこれは不要な新情報かもしれないが、ショーツ内に生理用ナプキンが存在していないことから、この肉体は初潮はまだのようだった。
『CALL of CTHULHU クトゥルフ神話TRPG』を読んだ感想としては、魔導書を読んでいる気分であった。付箋を購入することを考えるほどに1つの情報が様々なページに散乱しており、1つの項目について理解するにしても、索引には載っていない情報を1度読み進めた記憶の中や、自分の薬指から人差し指に掛けた左右の手の指、合計6本を器用に使って内容を確認しなければ、情報の把握に困難を極めた。
最初こそ、これが“私に関する説明書”であるというのは信じがたいものであったが、『CALL of CTHULHU クトゥルフ神話TRPG』のカバー裏に前世での私の通称名である『
(あれから結構時間が経ったし、そろそろ研修に戻らないとまずいかな……)
そんなことを思いながら、本を閉じた時。突然、視界が暗転した。
「!?」
別段、意識が飛んだわけではなく、文字通り室内の電気が消灯音もなく消えたのだ。
(あぁ……なるほど。もしかして、体動反応がないと自動的に電気が消えるタイプのトイレだったのかな? ……やはりトイレでは油断するべきではないな)
この時までの私は、そんな呑気なことを考えながら、1人で
だが結果的には、照明はそんなことでは電気を点けないと証明するように点灯する事はなく、代わりにそんな私をあざ笑うかのような……先ほどの女性とは異なった館内放送が鳴り響く。
「ハァッ、ハァッハァッハー!!! この建物は
数時間前まで、この近辺では日本語という言語が主流に扱われていることに喜んでいた自分を殴りたい衝動に駆られている。
魔獣語といい、中学生が授業中に考えるような【もし学校にテロリストが現れたら編】のような、ナチュラルにこちらの常識をぶち抜いてくるような世界に困惑と驚愕、自身に降りかかった転生直後の〈幸運〉の
館内放送からは悲鳴と威嚇射撃と思わしい連射火器のような銃声が続けざまに響いており、明らかに穏やかな展開ではなかった。……穏やかじゃないわ。穏やかじゃないわね。
「…………」
私が取った行動は、便座に座り元の肉体が所持していたパソコンを開いてCドライブの中身を閲覧することだった。そう、元の肉体に対する当て付け恥辱の墓暴きである。
この場合、現れたテロリストに大人しく従うのが賢い選択のようにも思えるが、正直ここまでナチュラルにBADな展開が起こってしまうような世界だ。仮に彼らの言う通り動いたとして、最良の結果で開放。最悪の展開は死を迎える予想はこれまでの経験から察することが出来る。
————カルティストはみんな、自己中心的な我儘で、基本キチガイだ————
……それは身に染みて、よく知っている。
それに一度拘束されれば、パソコンやスマホを使って悠長にこの世界について情報収集しているだけの余裕もないだろう。しかも、聞き間違いじゃなかったら今『肉便器』って言わなかった?
今は、捕縛されて無駄な『くっ殺女騎士タイム』を味わうよりも、少しでもこのトンデモ世界について情報を集めるのが先決。それが転移して数時間経過した私が導き出した結論であった。
………
……
…
——8時間後————
こんばんは、皆さん! 『釘貫 神葬』ですっ!
東雲革命派というテロリストらしき集団が、私のいるビルを占拠し始めてから早8時間が経過しました。
夜も更けてまいりましたが、現在も私は家に帰ることはできておらず……。『おべんじょぐらし!』を強いられております。つまるところ、まだテロリストからは見つかっていません。やはりトイレは、私の友人が3人死ぬほどの危険地帯ではありますが……同時に優秀な籠城地点として。非常に優秀なセーフハウスであると改めて痛感しております。
トイレの個室は最強です。粗相しても困らないですし、緊急時の飲料水もあります。そして何より、銃撃で便器が破壊されても床で胎児のように丸く伏せていれば大体何とか助かりますし、ついでにクソみたいな粋な匠の手によって、現在 私は好きな時に便所から漏れた汚水を飲めます。はい。
追加の情報収集結果としまして、『新クトゥルフ神話TRPG』が『CALL of CTHULHU クトゥルフ神話TRPG』に比べ読みやすいこと。パソコンを探るうちにこちらが把握したこととしまして……。
この世界のある程度の世界観っぽいものをあっさりと入手しました!
はい、拍手! パチパチー。
1.まずこの世界では"魑魅魍魎"…つまるところ妖怪、魔物、魔獣なる怪物が蔓延っており、
それらは私たちの目に見える存在としてすぐ近くにいること。
2.それらは"人類に不干渉"という契約が存在していたものの…
一部の悪人によって破棄され、その妖魔と結託した組織的犯罪が横行している世界であること。
3.この世界に生まれた我々、一般人はその怪物におびえながらも
騙されず喰われず、必死に生き抜かなければならない過酷な世界であることを把握致しました。
……おそらく屋上で出会った少女が話していた“小学生で習う内容”とは、この世界にはそのような危険生物が存在しているという基礎的なことだったのでしょうね。
そして前世とそこまで変わらない世界観に草が生えてますよ。クソが。
「ツゥー……フゥー……」
前世ではパソコンを触る際に眼鏡を付けていたからか、思わずため息とともに眼鏡を持ち上げるしぐさをするもその手は空を切る。
「……」
実は……私、この世界を知っています……。
前の肉体では、この世界に来たこともありました。かつて『目が覚めたらヨミハラの高級娼館で性奴隷として調教されかけた事件』についても、最近の出来事で巻き込まれた記憶も鮮明です。
……この世界は『対魔忍』という世界ですね? 正確には前世で、私たちの世界での一般的な知識として、LILITHソフトが販売しているハードリョナアダルトゲームにそういったシリーズの作品があったことは認知していました。
そんな世界で、私が一般人として異世界転生したと……。
「Hey. 尻。凌辱確定の抜きゲーの世界に住まうことになった一般人(わたし)はどうすりゃいいですか?」
『Webでこちらが見つかりました。~抜きゲーみたいな島に住んでる貧乳(わたし)はどうすりゃいいですか?~』
違う。そうじゃない。
私が出来ることは、対魔忍が到着するまでの間……。銃撃で粉砕したトイレの便座と汚水と一緒に、泣きたくなるような世界で懐中電灯を片手に私の説明書を読み込むことだけだった。