対魔忍世界へ転移したが、私は一般人枠で人生を謳歌したい+ 作:槍刀拳
やってきたのは、食品スーパー『ナガト』だ。ここに私の目的物である爆発物の材料はそろっている。所沢の中学3年生の男子指導でもできたのだ。〈爆破〉知識を有する私が製作できない筈がない。
まず、縁の低いカートをいくつか入手し、その中から新品の……もといキャスターの動作が安定しているものを手にする。
カートを手に入れたら、真っ先に雑貨コーナーで漏斗6つとバンテージテープ、レインコート、ゴム手袋、分量カップ、千枚通しを数本手に入れる。……本来であれば、ホームセンターへ向かってゴムツナギを入手した方がこれから行う作業はスムーズに事が進むのだが……。それはあくまでも準備期間の時間が無限で、急いでいない時の方法だ。今は限られた時間の中でという事を前提に、スーパーにある安価のレインコートで代用するしかない。
そのまま流れるようにサービスカウンターへ従業員を装ってドライアイスを大量に入手。途中、客に捕まりそうになるが、そんなのは無視だ! 無視!
外では私を取り逃がしたオークどもが血眼になって必死に探し回っているが、従業員の制服にマスクまで完全に着用しているこの格好の私を見つけることはできないだろう。それにしても、あのオーク共の慌てっぷり……滑稽であるのと同時に、彼等はえっちなお店を開いている方の蛇子ちゃんに対して相当な畏怖を抱いていることが推察できる。やはり、初対面で感じた“キツめの性格が滲み出ている”と言った感性は過ちではなかったのかもしれない。
そんな彼等に課せられた私とは別のタイムミリット付きの捜索はさておき、そのまま酒売りコーナーへ直行する。4Lペットボトルの焼酎を6個カートに乗せ、従業員専用通路へ向けて走り出す。
これで必要なものはそろった。家具販売店『ニトロ』と食品スーパー『ナガト』を繋ぐ全体的に白く塗装された通路にあった消火器も2本奪う。100%OFFの
♪♪♪~
「……!」
私が準備を整え、上原くんが拉致にあったと思わしい通路でカートを押していた時のこと。私のスマホへ不意に着信が入る。
……相手は、トイレで約3時間もお花を摘んでいた方の蛇子ちゃんだ。
「もしもし……!? 蛇子ちゃん?!」
「日葵ちゃんっ! 今どこにいるの?!!!」
突然の怒声に耳がキーンと耳鳴りを引き起こすが、正直怒鳴りたいのはこっちのセリフだ。3時間もこの終日が近づく世界で、どこのトイレで週日ウンコをしていたのか問いただしたい。
「それはこっちのセリフですよ?!? 蛇子ちゃんこそ、3時間もどこのトイレでうんこしていたんですかっ!!?!?」
「うん……っ!?」
「言わなくていいですから黙って聞いてください! ケツからどんなぶっといデカブツが出たかの話は生きて帰れたら聞きます!!! 柔らかくする下剤や痔の薬もあげます! まえさき市で3時間もうんこしてたって、学校中に言いふらしてやります!!! ふうま君もそこに一緒にいますね!? 群馬県から鳥類が一斉に逃げ出す光景が見えたら、それは合図です! 何も言わずにそのまま群馬県から離れてください! 日本の地形なら越後山脈か関東山地が盾に出来ます! しばらく時間が稼げます! 新潟か山梨へ! 急いで!!! 上原くんはこっちでなんとか助け出します!」
言葉に詰まる蛇子ちゃんに避難指示を送る。指示を送ったところで携帯を切り、カートを押そうとするが今度はふうま君からの連絡だ。
こいつら……人が、世界の命運をかけて決死の準備をしているのに悠長だなぁ!? おい?!
「はい!? ふうま君?! 蛇子ちゃんから、話は聞きましたか!?」
「青空さん! 今 俺達は、お前の父親と共に行動しているんだ! 今、ショッピングモールの何処だ?! そこは危険なんだ! すぐに迎えに行く、場所を教えてくれ!」
「えぇ!? なんで私のお父さんと??? 今は家具販売店『ニトロ』と食料スーパー『ナガト』を繋ぐ通路にいますが、ここが危険なことぐらい知ってますよぉ! こちとら上位だか高位だか知りませんけど、蛇子ちゃんモドキにプロレス技5回ぐらい決められて、おまけの日本滅亡事件に巻き込まれているんですからね!?」
「わかった! そこを動くなよ! 青空のお父さん、青空さんはショッピングモールの家具販売店『ニトロ』と食料スーパー『ナガト』を繋ぐ通路だ!」
「テメェ! 何もわかってねーだろ! この
ここで通話が切れる。私は通話終了ボタンを押してはいない。向こうが切ってしまったようだ。舌打ちをしてスマホをしまう。
理解してもらえてない友人に苛立ちを覚えながらも、その苛立ちを押し殺す。これから大事な奇襲作戦なのだ。奇襲直前に電話を掛けられて、全てが台無しにならないようにとスマホの電源を落とす。私は、こんなことをしている場合ではないのだ。従業員専用の搬入口から内部に侵入し、カートの走行音が聞こえないように注意を払いながら先に進む。
………
……
…
定位置で消火器を下ろし、内部の様子を伺う。
内部ではまだ詠唱が続けられている。静電気も相変わらずだが、弱弱しくなっている。
……少し様子がおかしい。経験上、招来が近づけば近づくほどこう言った超自然的な現象はより強く大きくなるものだが……。何か《呪文》の詠唱に致命的なミスがあったのだろうか……? それとも、この静寂は……嵐の前触れか…………。
いずれにしろ……上原くんは…………まだ生きている。だが泣きつかれた子供のように虚ろな瞳で涙を流しながら、ピクンッ……ピクンッ……と細かく痙攣をしていた。あの姿と表情なら『事後です』と言われても納得してしまうような顔だ。
——チャンスは1度。
私が失敗すれば、私が肉塊になって終わる。カートや上原くんが失敗すれば上原くんが肉塊になる。だが、やらなければ世界が滅ぶ。やるしかない。
まず、この後の爆発物起爆時に身軽に動けるよう通路にリュックサックを置く。
ゴム手袋を付けてから、レインコートを上下とも着用しフードを深く被る。複数存在する千枚通しの全てにバンテージテープを巻き付けて滑り止め加工を施す。6つ用意した全焼酎の中身の破棄分を分量カップで計測しつつ、不要な分は清めの意味を込めて自身の周りに撒く。蓋の開いた焼酎に漏斗を6つ挿入し、それらを全てカートの上にのせて、髪留めのリボンを使い焼酎がカート上で転がって重心の移動や、途中落下しないように縛り上げた。カートの下の荷台にはプラスチック製の
左腕に着けていた4つのブレスレットでキャスターの角度を固定し……準備は整った。
ひと呼吸を置いてから、漏斗の突っ込まれた4L焼酎ペットボトル内にドライアイスを流し込んでいく。
——そう、消防でもYoutubeでも消防庁が注意喚起を行っている絶対に真似をしてはならない〈物理学〉反応を用いた大人の簡易爆薬だ。ドライアイスを注ぎ終えてから、すべての焼酎の蓋を閉める……! 膨れ上がり始める4Lのペットボトル焼酎。
ここまでの所要時間は……36.5秒……!
「鹿之助ちゃん!奥の壁側に飛んで!!!」
上原くんが自分に対して指示しているのだと認識しやすいように。普段 蛇子ちゃんが彼を呼称している呼び方で、出入り口を開け放ちながらマスクを外して大声で怒鳴りつけた。
集中している連中を除いた
——勝手に
……現時間は39秒。カートの上で膨れ上がるドライアイス入りペットボトルを17匹のカルティスト達へ向けて押し出す。
上原くんは、私の声が聞こえた瞬間に眼を見開いて、指示通りに波状のナイフを持っているカルト教祖の方へ転がり落ちた。
私も扉を閉めコンクリートの壁を盾にする。それから消火器とバンテージで滑り止め処置の済ませた千枚通しを手に携える。僅か数秒後、激しい破裂音が室内に轟き、内部から十数人の断末魔が響いた。破裂音と断末魔をスタートダッシュの合図として踵を返し、まるで特殊部隊が突入するかのように。PCゲーム『青鬼』でUターンドアバグをキメるひろしのようにマスクを着け直して突入する。
……従業員休憩室は酷い有様になった。破裂したペットボトルの破片やプラスチック片が、室内のコンクリートを抉り、周囲のカルティストをズタズタに引き裂いている。辛うじて生きているものも、喉から湧き水のようにあふれ出る血を必死に止めようとする形相で止血しようとしているが……ま。無理だろうな。抵抗をされても困る。千枚通しで、気絶している奴も含めて入念にトドメをさしておく。
ピツリ——ブツブツブツ……ギュルングルングルン。ブツッ——ズゾゾゾッ……グリュグリュグリュ……。
タコ焼きをタコ焼き機の上で回転させるような工程を人間の脳に対して行う。
……頭数が多いのだ。時間をかけるわけには行かないし、叫ばれても困る。祭壇を隔てた向こう側に純粋無垢な上原くんもいるのだ。
まずはうつ伏せに転す。無防備になった首の後ろから、頚椎の繋がる大後頭孔に千枚通しを突き刺してクランクを回す要領で柄を回転させ、
……身動きの取れない仲間がうつ伏されにされて、首筋に針のようなものを刺されて殺されているのだ。頭の回転の速いやつはひっくり返されないように踏ん張ってみせるが……殆ど無駄な抵抗に過ぎない。うつ伏せに出来ないのなら、エジプトでミイラを作っていた古代人のように鼻孔から千枚通しを突き刺して白くて皺のあるプルプルとした内臓をかき混ぜる。引き抜くのと同時に赤色と半透明の粘液が私のレインコートにまとわりつく。私と古代人と異なるのは、彼等は熱した棒を鼻から突っ込んでいるが、私は……カルティストどもが己が起こした罪の意識から寒気を感じることができるようにと異質な冷たさを放つ鉄の棒をねじり込んでいることぐらいだろうか。
獣共がうつ伏せにも鼻を隠すようであれば、瞼越しから視神経の穴をねらって、体重を掛けながら千枚通しを深く差し込む。熊に対する防御姿勢を取ってしまった、すべての千枚通しが途中でひしゃげ折れてしまったのであれば、もう片手に携えた消火器の底面を奴等の額に叩きつけ頭蓋骨を陥没させて殺す。とにかく脳に傷害を与えて殺す。抵抗される前に殺す。邪悪な異教徒どもは全員殺す。倒れている次の獲物めがけて、踊るように軽やかなステップを踏みながら。
こちらに掛かった薄汚い体液は、ゴム手袋とレインコートを脱いでしまえば始末が付く。どうせ今着ている制服も私のものではない。ポリエステルはよく燃える。燃やしてしまえ。私がこよなく愛する死体の遺棄方法は海中派だが……代用が利くものとしてマンホールもある。ダストシュートもある。今までのように、これまでのように、すべて破棄してしまおう。人間を運ぶのには、道具と根気、コツさえあればいい。
前世と同じように、どうせ警察は私を捕まえることはできない。
それに……万が一死体の処理が間に合わず、彼等が生きながらえたとしても……私としては問題ない。彼等は脳に障害を負ってしまったのだ。脳に障害を負ってしまった人間が、まともに今後の生活を送れるとは思わない。……逆に生き永らえて罪の清算をしてくれた方が
……どのみち私はもっと彼等から、不幸という名の甘い蜜を啜ることができる。
………
……
…
最深部で倒れている親玉を除く、全ての害獣どもを無力化したのち……不気味な表情を曝け出している死体をうつ伏せに転がして、この部屋を出るとき鼻から脳が飛び出て……こちらとしても思わず鼻で嗤ってしまうような面白い死体が上原くんの視界に入らないように配慮を行う。
私によって邪神への供物返しとなった贄が慈悲を乞うためにしがみつき、血の手形が付着したレインコートを速やかに脱ぎ捨て、血液の付着したマスクとゴム手袋もビニール袋に丸め入れる。それから彼が良く知る『青空 日葵』がやってきたとわかる格好で彼が捧げられた祭壇の裏に回り込み、彼の状態を確認する。
「上原くん!」
「んんっ……!」
……あぁ、よかった。
彼は小柄ということもあってか、祭壇を丁度
「今、ほどくから……! もう大丈夫だからね……っ!」
可愛らしい声で心配する声を放ちながら新品のポケットナイフを取り出し、しゃがみ込んで視線を合わせながら……彼の手足、指先までもをえっちなミトン状で拘束しているガムテープを痛くないように丁寧に優しくゆっくりとはがす。彼は今も震えて、両目から大玉の仄かにしょっぱいが甘そうな蜜を零している。……かわいい。
生唾を飲み込みつつ安心できるように、こちらとしては聖母のように微笑んで安全であることを示す。最後に口についているガムテープも剥がして、裸のままでは寒いだろうからケモミミフードのローブをかけてあげる。胸開きのローブから見える裸体が、全裸の時よりも扇情的だ。
……とにかく無事でよかった。今はそれだけで十分だ。
「……あ、青空さん……て……てて…………」
「?」
手? ……まさか、
では……。彼は、何にそんなに怯えている? 何を見ている? 何が言いたいのだ?
「大丈夫ですよ。危険なあのヒトたちは無力化しました。もう大丈夫。私が居ます。ゆっくり落ち着いてください」
「ち……ちが…………て……て……てて……て……に、にげ……逃げて……」