対魔忍世界へ転移したが、私は一般人枠で人生を謳歌したい+   作:槍刀拳

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Episode-Inside4-3+ 『深淵の監視者』

 地上の倉庫ではどんな存在があの場で暴れ回ったのか、少なくとも『蛇子がこの場から逃げ出したくなるような危険な悪臭を放つ魔族』ということ以外で何も進展を得られないまま、俺達は地下室に足を踏み込み拷問された魔族についての調査を始める。

 こちらもこちらで酷い有様だ。天井からは首を吊るためのような輪っかがつけられたワイヤー製のロープがいくつも垂れ下がっており、ロープには拷問された魔族の血液が染み込んで、ロープの一定の位置から先が元の色よりも変色していた。床はボールを転がさなければ、分からないほどの緩やかな斜面が形成されており、一番低い位置には排水溝が常に沼っぽい臭気をただよわせている。おまけに部屋の中央の床には全長1ⅿ50㎝もの巨大な亀裂が走っており、その深さは光源の少ない地下ではその穴がどこまで続いているのかわからないほどの闇が広がっていた。人が落下してしまうほどの幅ではないが、捜査員が躓かないようにロードコーンと警告色のコーンバーで注意喚起はされている。

 俺がその深淵を覗き込むと、目の錯覚からか深淵もまたこちらを覗き込んでいるような視覚的歪みがみられた。

 ここでの蛇子は、完全に表情を曇らせて亀裂には近寄ろうともしなかった。他にも、意を決したような表情になると、青空さんの父親から3枚目のエチケット袋を受け取って準備を整え、またスカートがわずかに持ち上がった。再びわずかに獣化して状況の把握を始めたのだろう。露出している足が人のままであること、2回もエチケット袋を使用したこともあって足首の毛がぞわぞわと逆立ち、表情は曇り、青いままだが3枚目のエチケット袋を使用することはなかった。

 

「……ここで死んでいた魔族はオークっぽい……ですね。それも、1体や2体じゃない……えっと……少なくとも7、8体? 資料だと拷問されて死んでいたんですよね?」

「その通りだ。こちらから詳細を伝えずとも現場の状況からそこまで判断できるとは……流石は対魔忍というべきか。……発見された遺骨や肉片を採取してDNA鑑定にかけた結果。8体のオークがこの場で亡くなったことがわかっている。いずれも顔面の器官や指、表皮がそぎ落とされたあとに白骨化されたような状態でね。だがいずれの遺体も、1週間前には存命して 町中の監視カメラの映像記録にその姿が残されていた」

「ありがとうございます。……ふうまちゃん。上では嗅いだことのない酷いにおいだったけど……こっちは別のにおいがする……。この匂いは色々混じっているけど……多分、蛙っぽい? ……でも……ちょっと油がすえたような……栗の花とラズベリーも混じった甘いのに憂鬱なにおい……かな。ふうまちゃんの知識で思い当たることはない?」

「……そうだな。残虐的なのは魔族全般に言えることだが……4種類のにおいが混じるような魔族……」

 

 再び考え込む俺の顔を青空さんの父親が緊迫した表情で見つめてくるが……。これだけの情報では1種しか思い当たらない。だが仮に俺の推測が当たっているとするならば、それは厄介な状況でもあった。……油っぽい臭気と言えば、蛇の魔族……。それも栗の花ということから両性具有者のナーガ族が連想できるが……。そんな都合の良い、骨だけ残すような毒を投与できるものだろうか? そもそも、拷問には何かしらの見せしめや情報の入手などの意図があったのではないかと推測できるが……。役目の終えた相手の骨だけ残す意図が掴めない。出来ることなら、遺体が見つからない方がその魔族にとって足が付くこともなく好都合だった筈だ。

 

「考え得るのは、高位魔族のナーガ族がやったのではないかと俺は睨んでいます」

「ナーガ族?」

「はい。高位魔族の一種で『妖魔』とも呼ばれる存在です。消してしまえば足は付かなかったのに、遺骨を敢えて残すなどのいくつか不審な点は残りますが——」

 

 自信の疑問点を織り交ぜながら、青空さんの父親に説明を行う。

 他の捜査員が俺達のことを場違いな存在としての目を向けていたが、彼だけは話を真剣な目で見据えて頷き聞いていた。事前に対魔忍であることを伝えてあるから……という前提もあるだろうが、それだけが理由ではなく俺達が日葵の友人で、自宅で常日頃から聞かされていた俺達の話題から信用するに値すると思われているようである。

 

「さらなる詳しいことや今後の事は一旦、学校に戻って上席に報告して指示を仰がなければなりません。ですが、ここまで詳細に警察の皆様が調べて頂いて対魔忍との共同捜査を始めたのですから即座に。とはいきませんが……足早には事件が収束するとは思います。……そういえば先ほど『1週間前には彼等は存命しており町中の監視カメラの映像記録にその姿が残されていた』とおっしゃられていましたが、具体的にどこの監視カメラに記録されていたのか? などは判明していますでしょうか?」

「あぁ。それなら、君達を拾ったまえさき駅の近辺のショッピングモール内であったことがわかっている。……近頃の出来事だと魔族が経営する新店舗がオープンしていたはずだ。被害者たちは、その店の従業員だったことも判別はついているが、現状は差し当たりのない事情聴取のみを行っている。あの店が一枚噛んでいた場合、下手に勘ぐらせて対策を練られても厄介だからな」

 

 彼の言葉に一筋の汗が俺のこめかみを通って頬を撫で首下に流れて行ったが……心配する必要はない。と自分に言い聞かせる。

 青空さんは現在、鹿之助と行動を共にしているはずなのだ。学園内でたまに……。いいや、ときどき。時々、突発的に始める突拍子もない行動をしない限り、鹿之助の方から危険を遠ざけてくれるはずだ。

 いくら何でも、嬉々として魔族の店に入ろうとはしないはずだ。それは鹿之助が止めるだろうし、青空さんもそこまで魔族に関する知識がないわけじゃない。魔族が危険だということは、義務教育の段階で学んで知っているはずなんだ。君子危うきに近寄らず……彼女が、そんなことをするはずがない。

 

「そ、そうですか……ではそのショッピングモールの『魔族の店』についても少し対魔忍側でも調査するようにと伝達させて頂きますね」

「……先ほどから、油汗がにじんでいるが大丈夫かい? 相州さんも倉庫に入ったとたんにお……お体調を崩してしまったようだし……君たちはまだ日葵と変わらない学生なんだ。無理は禁物だぞ。調査は早めに切り上げて、あとで君達の気づいたことを私に教えくれたってかまわないんだからな。君達の内容を纏めて、こちらも君達の上層部に情報を上げることだってできるから——」

「心配おかけしまして、申し訳ございません。ですが、大丈夫です」

「蛇子も、だいじょーぶ。……です」

 

 ……でも青空さんならやりかねない。そんな言葉が脳裏を()ぎる。

 オークを発見し『抹茶アイスクリームだ!』と叫んで、オークのハゲ頭に齧りついたり……。オークに絡まれたからと言って、頭部を緑色のボールと見間違えたと棒読み発言して、死んだ目を向けながら消火器をバットの代わりにオークの後頭部へフルスイングするような光景が思い浮かぶ。

 でもそういった行動を予め抑制するためにも、鹿之助がいるのだから、そんなことが起こり得るはずがないんだ……と、何度も自分に言い聞かせる。蛇子も『日葵ちゃんは鹿之助ちゃんと一緒なら大丈夫。蛇子と一緒にいるより安心』だと後押し推薦するほどの組み合わせなのだから……。

 

「あの……それよりも、日葵ちゃんのお父さん」

 

 そんなオークの姿が確認されたショッピングモールで、暴れまわる 息抜きをしている青空さんと振り回される鹿之助を思い浮かべていた時だった。

 蛇子が何か疑問や不審点に気が付いた顔で、身体をぺったりと一辺の壁に押し付けながら声を上げた。

 

「どうかしたか?」

「ここのトタン板の向こう側に通路があるようなのですが、この先は調べられましたか?」

「……! いや。調べたのはこの部屋だけだ。先に通路があるのか? 今、別の捜査員を呼んでここをこじ開けさせるから少しここで待っててくれ」

 

 それだけ告げると青空さんの父親は、駆け足で階段を昇って行ってしまう。

 地下に取り残された俺と蛇子だったが、蛇子は手で口元を隠しながら少し意地悪そうな半目と笑みを浮かべて近づいてきた。

 

「蛇子が吐いちゃったこともあるのかもしれないけど……。日葵ちゃんのお父さん以外、ここの警察の人たちって蛇子達のこと邪魔者か完全な部外者を見るような目だったよね。でもこれでこの先に何か重大な情報を見つけられた場合、私達も立派な捜査員として見てもらえるに違いないね!」

「それに違いないな。でかしたぞ、蛇子」

「えっ、へへー……♪ でしょ? それじゃあ、稲毛屋でソフトクリームもおごってね?」

「はいはい……」

 

 にへらぁ~とだらしなく笑う蛇子を見ているうちに、先ほどまでの膨れ上がっていく不安に押しつぶされそうになっていた気持ちがほぐれていく。そうだ鹿之助と青空さんなら大丈夫だ。こんな要らぬ心配などしなくても、今ごろ何も気が付くことなく2人で仲良くおやつを食べているに違いない。

 そんな会話をしているうちにバールのようなものを手にした捜査員を引き連れて青空さんの父親が戻ってくる。彼の指示の下、トタンの隙間にバールの先端を突き入れてバリバリと音を響かせながら俺たちの目前で剥がしていった。

 その先には蛇子が感知した通路があり、その最深部には焦げ茶色の木製の扉が一枚つけられていた。

 捜査員が緊張した赴きで索敵の為、拳銃を取り出すも……。蛇子が真っ先に捜査員たちをすり抜けて、彼等には分からないように配慮をしながら先頭で吸盤によるセンサーで索敵を済ませる。それから最深部の部屋に罠が仕掛けられていないことや、誰かが潜んですらも居ないことを告げてみせた。

 ……捜査員達は已然俺達を信用していない様子ではあったが、青空さんの父親が彼女がこの隠し部屋を見つけたことを他の捜査員に告げ、堂々と無防備に先陣を切って歩いて行ったことにより、他の捜査員たちも黙って続いた。

 

………

……

 

 隠されていた奥の小部屋は、こじんまりとした作戦会議室のような一室だった。両サイドには未使用の銃火器が飾られ保管されており、正面の壁には紙媒体の資料が詰まった資料棚が並べられている。部屋の隅には大型のプリンターとプリンターに接続されたスリープ中のノートパソコンが備えられていた。中央には1m四方の机が置かれ、その上にはテロリストが関わったであろう様々な作戦資料が乗せられていた。捜査員たちは現場の様子を写真へと収めると、ジップロックの袋に証拠品として資料を詰め込んでいく。

 どうやら俺達の出る幕は終わったようだ。忙しなく出入りする彼等を邪魔しないようにと、蛇子と相談をして先ほどの拷問があった地下室で、指示を出している青空さんの父親を待とうとした時だった。

 

「青空警視長! これを!」

 

 不意に1人の捜査員が直接資料を渡して、渡された彼は唇を固く閉ざし顔色が悪くなり始めた。俺はこの場から去るつもりだったが、青空さんの父親と打ち解けていた蛇子は俺から離れ青空さんの父親と一緒に、背伸びをしながらその資料を覗き込む。

 

「ふうまちゃん!!!」

 

 資料に釘付けとなった蛇子が悲鳴のような声と、素早い手招きで俺を呼び寄せてくる。他の捜査員が蛇子や青空さんの父親を凝視している場所には近づきたくはなかった。しかし、彼女のスカートの下で動いている触手が見る見るうちに大きくなりスカートのすそからはみ出しつつある。俺が接近しなくても、その触肢で巻き付いてでも引き寄せるほどの情報かもしれないと思い俺も覗き込みに向かう。

 

「なんだ?」

「こ、これ……——」

 

 俺が近づくと青空さんの父親も、俺に対して資料を見やすいように少しだけ資料を俺側にズラして見せてくれる。

 資料には紙に印刷された2枚の写真と『作戦事項』について記述されているようだった。だがその資料に添付されている写真を見たとき、俺も目を釘付けにせざる負えなかった。

 1枚目の写真には、俺も初任務のサポートとして任務に就いた事件。アサギ先生とさくら先生、ゆきかぜが事件を解決した……例の殲滅されたテロリストと思わしい男性が2人ほど地面に転がり、その転がる中心で 1人の少女が、装備を剥ぎ取りながら そのテロリスト1人の禿げた後頭部を叩きながら笑っている様子だった。俺達は彼女についてよく知っている。……俺達の友人『青空 日葵』その人だった。

 2枚目の写真には、休憩所のような場所で、巨大なリュックサックを椅子に預け、今朝別れる直前まで着用していたものと同じ衣服を纏った青空さんと、五車学園の制服やアイツの対魔忍スーツとは異なる新品の男物の服を着た鹿之助が椅子に座って何か……真剣な様子で机上の紙を見て、熱心に青空さんと鹿之助が勉強のようなことをしている様子が盗撮されていた。

 

「……君達、この子は知っているかい?」

「はい。こいつは、俺達の友人の鹿之助です……。でもどうしてこんな写真の印刷物がここに……?」

「ん? 彼……いや、これは彼女が、鹿之助くん……ちゃん? か?」

「あ、えっと。日葵ちゃんのお父さん。鹿之助ちゃんは男の子です」

「ん? ん。ん? ん? ……ん? 男の娘……? つまり、これは彼の……しゅ……み?」

「……鹿之助ちゃん()には特定の年齢まで女の子として育てる風習があって……その名残で鹿之助ちゃんは普段から女の子の姿をしているんです。ほら、でもこの写真での服装は男の子の服ですよ!」

「あ、ぉ、あ、あぁ……そ、そ、そうなのか……」

 

 俺達でもわかりやすいほどの動揺を見せながらも、写真の確認を終えると彼は付属している作戦資料を俺達にも見やすいように机上に広げてくれる。俺達は鹿之助も撮影された写真もあってか食い入るようにその資料を見つめた。

 

 

『作戦資料:土星の主様への生贄選定』

 諸君等は1年前のあの日。祈願を達成できなかったことに憤りを覚えているだろう。

 我々の祝福された聖槍で、256人の高潔かつ純情な乙女の処女を散らし処女の鮮血を我が主へと捧げるのに失敗したのは、すべて1枚目の写真に写る悪魔の女による企てだったのだ。

 この女があの時、黙って我らに犯されてさえいれば我らの神は大いに満足し、我等に更なる祝福を与えたであろう。だが、この女が姑息な手で抵抗した結果。我々の祈願は叶うことなく、空から落ちてきた3人の汚らわしい痴女どもによって仲間の大多数を失い。今日。今、この日まで日陰者のまま裏でコソコソと這いまわるドブネズミのように過ごさなければならなくなった。だが思い出して欲しい、その環境を作り出したのは、誰か! そう、この女なのだと! この女こそが元凶であり、我々を破滅に導いた悪魔の女。我々の宿敵なのだ!

 本来であれば、いつものよう居場所の特定後、拉致を行い 嬲る手筈ではあったのだが……私は神託を受けた。こいつに神の裁きを受けさせるには、決して一筋縄ではいかないと。

 そこで、2枚目の写真に添付された悪魔の女と行動を共にするメスガキをエサとして使用する。このメスガキはどうやら、この女のそれは、それは、とても大切な情婦らしい。こちらが観察した上では、常に自身の視界から外そうとしない様子を確認することができた。

 そのような存在を奪われれば、奴もきっと我々が奪われた痛みを知り、冷静に判断できぬまま取り戻そうと躍起になり、こちらの罠であることも察知できず獣のように向かってくるだろう、そこがチャンスだ。女子高生がどのようにして加護を受けし29人の結束した我らに勝てる道理などあるのだろうか? 最終的に奴の処女と臓物を供物として捧げることが出来るであろう。さすれば我々への祝福と土星の主様の招来は目前だ。

 現在、こちらの隠れ家で待機中の神の子等は私を含め17名。分隊のお前たちさえ、この拠点に隠している銃器の回収……及び、土星の主の使者を君達の分隊長が扱うことがさえ叶えば、我等29人と使者2体でこの悪魔の女を嬲り葬り去ることができるのだ。人質を取られた女の処女を奪うことなど、容易な蹂躙であることは神託を受けし私が保証しよう。

 

 

「……私はこれから本部に連絡を入れる。しばらくの間は娘と鹿之助くんには警護を付けさせるが……娘は大丈夫なはずだ。ひとまずは今朝の段階で、まえさき市に遊びに行かないようメールを打っているし、返信は来ないが……あの子のことだ。きっと今日も家で筋トレをしているはずだからな。……2人とも鹿之助くんには連絡を取れるかい? もし彼もこの場に来ているようであれば、今すぐ人通りの多いところで待機するように告げて欲しい。居場所も分かれば、現地の警察官に保護するように今から連絡を入れ…………2人ともどうした?」

 

 彼の言葉に俺達は氷漬けになるかのように固まるほかなかった。冷汗がポタポタと衣服に染み込んでいく。

 ……数時間まで俺達は青空さんと鹿之助と例のショッピングモールで別れているのだ。でも、この最新の写真が添付されているということは……既に青空さんと鹿之助は、既に奴等から補足されているわけであって……。

 

 

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