対魔忍世界へ転移したが、私は一般人枠で人生を謳歌したい+ 作:槍刀拳
「青空さん……! 俺達も連れて、今すぐショッピングモールに向かってください……!」
「……何——」
「青空さんは、鹿之助と一緒にまえさき市のショッピングモールに居るんです! 今すぐ、駅前のショッピングモールに車を回してください!」
そこからは事態が目まぐるしく動き始めた。
即座に青空さんの父親が、地上に停めている車両に備え付けられた無線機でショッピングモール付近の警察官に連絡を取る。2人を緊急保護するように連絡を入れている間に、俺と蛇子は鹿之助に連絡を入れようとスマホを取り出して電話を掛けていた。だがしかし、スマホの電波はそもそも圏外を指し示しており繋がることはなかった。
俺達も彼に続くようにして階段を駆け上がり、倉庫を飛び出して少しでも電波が届くようになったブルーシートに囲われた一室で鹿之助へ電話を入れる。
「鹿之助ちゃん……早く出て……ッ!」
『プチ——』
「もしもし、鹿之助ちゃん!?」
『お掛けになった電話番号は現在電波の届かない場所にあるか、電源が入っていないためお繋ぎすることはできませんでした』
俺達の願いを裏切るように、どういうわけか鹿之助には連絡が入らない。
何度、電話を掛け直しても『電源が入っていないか、電波の届かない場所にいる』というアナウンスが入り、鹿之助に繋がることはなかった。
青空さんの父親も同じ状態のようだ。青空さんのスマホに連絡を入れているが、数コールなって電話が取られたかと思えば通話中であるとアナウンスが流れているような状態らしい。5分おきに掛けなおしたとしても同じ状態で繋がらないというのだ。一応、安否確認のメールを4件入れているそうだが……まだ返事は返って来ていないと言っている。
どのようにしても2人と繋がらないことに対して焦り戸惑う俺達だったが、スマホに電波が入ったところで今から約30分前に2人からのメールが入ってきていたことに気が付ける。
内容としては2人とも共通で
更に追い打ちをかけるかの如く、追加の悪い情報までもが入ってくる。
現地の警察官に鹿之助と青空さんの保護を頼んだそうだが、ショッピングモール内で発生した非常ベルが作動したことによる客の避難誘導やパニック対応、魔族が暴れまわっているという事態の収拾のために動ける署員が全出動してしまっていて、2人の保護や捜索に回せるような人員や状況ではないという返答が帰ってきたらしい。
さらに数分遅れて俺達の2人のスマホには、青空さんから『2人ともショッピングモールから離れて! 上原くんを見つけたら、また連絡するからまえさき駅で私達の分の電車の乗車キップを買って待ってて! Ps:あなた達を厠籠城罪と友人放置罪で訴えます! 理由はもちろんお分かりですね? あなた方が私達にお花を摘みに行くと伝え、ショッピングモールの便所を独占したからです! 覚悟の準備をしておいて下さい。ちかいうちに聴取します。快便の秘訣を教えます。消化器科にも問答無用できてもらいます。受診料の準備もしておいて下さい! 貴方達は友人です!
……なんといえばいいか。青空さんの父親のいる手前、下手に口には出せないが……彼女が何を考えているのかわからない……その余裕の長文はどこの知恵から絞り出した長文なのかは俺には予測できない。
すぐさま乗ってきた車両に搭乗し、この現場から俺達は離れることになった。
緊急事態ということもあり、俺たち以外にも倉庫の現場から青空さんの直属の部下である捜査員が1人助手席に座り同伴する。クラウンに予め備え付けられていた反転灯を屋根に付けての出発。なるべく最短ルートでショッピングモールを目指したが……。
………
……
…
「クソッ! なんだこの渋滞は……!」
こればかりは不運としか言いようがなかった。
ショッピングモールへ迅速に消防隊が駆け付けるためのの交通整備による渋滞に巻き込まれ、サイレンを鳴らしているにも関わらず渋滞から抜けられるようなスペースのない致命的な状況に晒される。既に背後には別の自動車が張り付いており、自動車だけを置いて抜け出すわけにもいかない状態で、時間だけが刻々と過ぎ去っていく。
やっと道が開けられ渋滞を抜け出せたときには、時刻は15時を大幅に回っていた。その間、何度も俺達の方で鹿之助や青空さんのスマホに連絡を入れはしたものの、鹿之助は相変わらず電源が入っていないとアナウンスが流れ……青空さんの方は通話中ではないものの電話に出ることはなかった。
「もしもし……!? 蛇子ちゃん?!」
「……! 日葵ちゃんっ! 今どこにいるの?!!!」
もう2人は倉庫を根城としていたテロリストに捕まっているのかもしれない……と半分諦めかけたとき、何度も電話を掛けなおす蛇子のスマホから青空さんの声が聞こえた。即座に蛇子はスピーカーに切り替えて、車内にいる全員に聞こえるように設定を変更させる。
蛇子の隣に座った俺もスマホに聞き耳をそばだてて、聞こえてくる物音から彼女が今どこにいるのか情報収集を行う。
どうやら彼女は人気の少ない場所にいることがわかる。ショッピングモール内で非常ベルが作動したと話を聞いたとき、真っ先に青空さんの顔が浮かんだのだが……今回ばかりはどうやら無関係そうだ。
そうだよな。いくら何でも対魔忍が何度も非常ベルを連打するような事件を引き起こすわけがないよな。普通に考えればわかるよな。そんな目立つことを彼女がするわけがない。
「それはこっちのセリフですよ?!? 蛇子ちゃんこそ、3時間もどこのトイレでうんこしていたんですかっ!!?!?」
「うん……っ!?」
「……」
「オフッ……ゴホッゴホゴホッォォオッ」
「…………」
「……ンンッ」
蛇子にどこにいるのか続けて聞き出そうと促したとき、蛇子の声を大きく上回る怒声が電話越しから響き渡った。俺の鼓膜を震わせ耳鳴りを加え、その声は相当なものだったのだろう。唯一、渋滞を逃れられるバイクが正面の赤信号でこちらを振り返って二度見するほどだ。
まさか自分の娘が開口一番にうんこ宣言をするとは思っていなかったのだろう。
バックミラーに映る青空さんの父親は真顔に近い仏頂面をしていたが、隣の捜査員は一瞬吹き出した。咳で誤魔化すような素振りをしているが、誤魔化せていない。
見る見るうちに隣の蛇子も目が点になったまま、その身を凍りつかせながらも顔を赤く染め上げていく。ついでに捜査員の顔面は、青空さんの父親の真顔を向けられたことで顔が真っ青に染まり、そこでやっと笑うのを止めた。
俺がスマホを受け取り、氷漬けになった蛇子の代わりに話を続けようとするも相当ヒートアップしているようでこちらが話す暇も与えられない。
「言わなくていいですから黙って聞いてください! ケツからどんなぶっといデカブツが出たかの話は生きて帰れたら聞きます!!! 柔らかくする下剤や痔の薬もあげます! まえさき市で3時間もうんこしてたって、学校中に言いふらしてやります!!! ふうま君もそこに一緒にいますね!? 群馬県から鳥類が一斉に逃げ出す光景が見えたら、それは合図です! 何も言わずにそのまま群馬県から離れてください! 日本の地形なら越後山脈か関東山地が盾に出来ます! しばらく時間が稼げます! 新潟か山梨へ! 急いで!!! 上原くんはこっちでなんとか助け出します!」
——ブチッ……ツー……ツー……
彼女は激昂したまま言いたいことを言い終えたのか、そのまま電話を切ってしまった。
蛇子のスマホのスピーカーからは通話が切れた音のみが響いており、言葉の暴力で打ちのめされた蛇子はまだ動けそうにない。だが、今の彼女の言葉から分かったこともある。既に鹿之助は倉庫の資料にあった通り奴等に捕まり、そして青空さんは奴らが計画している術中に何も気づかずに突っ込もうとしているらしい。
だが不可解な言葉に引っ掛かりを覚えていた。彼女の声色は、鹿之助を救助すること以外の発言に関して何かに非常におびえているようだった。
群馬県から鳥類が一斉に逃げ出すのが合図? 越後山脈か関東山地が盾にできる? 新潟か山梨へ向かえとは、彼女は一体何をそんなに怯えているのだろうか?
テロリストと対峙していることに感づいているのだとしても、それは明らかに俺たちに対する大げさな避難指示だ。……いろいろ勘ぐることはできるが、彼女をこれ以上危険地帯に1人で赴かせるわけには行かない。それは、彼女が対魔忍だとしても頭に血が上った状態ではあまりにも無謀な試みだ。少しでもこちらに注意を引いてその歩みを止めさせるために、今度は俺のスマホから彼女に連絡を入れる。
「はい!? ふうま君?! 蛇子ちゃんから、話は聞きましたか!?」
蛇子の連絡の直後だからか、彼女は即座に電話を取ってはくれる。
先ほどの怯えているような発言からはうってかわって強気な口調で怒鳴り散らす。スピーカーモードにしていないのに車内に響き渡る青空さんの声。これはモードを切り替える必要はなさそうだ。だが、このまま普遍的な返事をしたのではまた通話を一方的に言葉をぶつけられた後、即座に切られて先に向かってしまうことだろう。
少しでもいいから、彼女をその気にさせるような言葉かけをしなくてはならない。今、ついに俺達の目前にショッピングモールへの看板が見えてきたのだ。このまま俺が時間を稼いで合流ができれば……。
「青空さん! 今、俺達は、お前の父親と共に行動しているんだ! 今、ショッピングモールの何処だ?! そこは危険なんだ! すぐに迎えに行く、場所を教えてくれ!」
「えぇ!? なんで私のお父さんと??? 今は家具販売店『ニトロ』と食料スーパー『ナガト』を繋ぐ通路にいますが、ここが危険なことぐらい知ってますよぉ! こちとら上位だか高位だか知りませんけど、蛇子ちゃんモドキにプロレス技5回ぐらい決められて、おまけの日本滅亡事件に巻き込まれているんですからね!?」
……? 今、なんて言った? 高位? 高位と言ったのか? 蛇子ちゃんモドキにプロレス技を5回とは? ……まさか……やはり? 魔族と殴り合っ……?
彼女の発言に俺も思わず固まってしまう。
…………いや、いやいやいやいや。
鹿之助がテロリストの残党に捕まる前までは同伴していたはずだ。はずなのだ。
そんな高位魔族だなんて……。危険な奴に目前で突っ込ませて逃げ出すようなことをアイツはするような奴じゃないし……。
鹿之助には、青空さんが五車駅に到着する前の段階で俺が五車駅前のトイレに籠って凜子先輩と今日の打ち合わせを始める以前に、彼女を危険な魔族とかに近づけないようにと釘を刺しておいたんだ。五車学園での彼女の振る舞いから察するに大惨事になるような予感しか感じられないし、俺の神妙なお願いに鹿之助も真面目な趣で話を聞いてくれたし。……接触する前に瘴気を感じ取って避けるはずだ。
あともう少し。あともう少しで、ショッピングモール内の駐車場に入ることができるのだ。ここで彼女にペースを乱されるわけには行かないと頭を振って気持ちを整える。
「わかった! そこを動くなよ! 青空のお父さん、青空さんはショッピングモールの家具販売店『ニトロ』と食料スーパー『ナガト』を繋ぐ通路だ! そ——」
「分かった!」
「ッ……と!」
「テメェ! 何もわかってねーだろ! この昼(ブチッ)」
青空さんの父親も相当焦っているのだろう。俺達を現場まで送迎した時の運転からは考えられないような勢いで、曲がり角をサイドブレーキを使った非常に荒々しい急カーブで乗り切った。
ショッピングモール内の駐車場に入るには、待機列に並ぶ必要があったのだが……それを無視して交差点から反対側車線へと車線を変更して大きく割り込むように駐車場内へと乗り込んだのだ。駐車券を取る際に警備員が慌ただしく近づいてきたが、車両の屋根に付けられた赤い反転灯と警察手帳を見せられると、後方で割り込まれたことに対して怒り狂う客の対応に奔走し始めた。
シートベルトを着けていたこともあってか、荒々しい運転によって俺達が車内の壁に体をぶつけて怪我をすることはなかったが咄嗟の出来事で手から滑り落ちる形でスマホを床に落としてしまう。すぐさま拾い上げ、画面を確認したが……。通話は切断されており、掛けなおしても再び繋がることはなかった。
~あとがき~
今回は裏側のお話と言いつつも、表のお話で何をしていたのかの解決編も兼ねています。
そういえば、携帯会社に依存するみたいですが…着信拒否されると、通話中になるみたいですよ。
次回(2021/09/01)は表編-4章 最終話 Episode26を投稿します。
よろしくお願いします。