対魔忍世界へ転移したが、私は一般人枠で人生を謳歌したい+   作:槍刀拳

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Episode-Inside4-5+ 『意識不明の重体』

 乱暴に駐車場へと到着したため、縁石に乗り上げるがその振動によって放心状態だった蛇子も正気を取り戻す。

 俺はその後も、電話越しで甲子園のサイレンのような怒声と絶叫を上げていた青空さんへ電話を掛けなおしていたが……それでも彼女に繋がることはなかった。

 

「駄目だ! また切れた! 青空さんのお父さん! あと、どれくらいで着きそうですか!」

「5分あれば……チッ! こっちは急いでいるってのによ! 人が多すぎる! 15分は掛かる! 緊急事態だっていうのに!」

 

『えー緊急車両、緊急車両が通ります。道を空けてください。

 緊急事態、緊急車両です。立ち止まってください。至急、道を空けて下さい』

 

 フロントガラスからは休日を謳歌しショッピングモールでの事件を眺めに訪れた野次馬のの姿が見える。

 今、覆面警察車両(クラウン)に備え付けられた警察用拡張期とサイレン音、反転灯、クラクション……すべてを併用して退くように人々を促しているが、彼等はこちらを少し尻目に確認するばかりで、『きっと誰かが止まるだろう(・・・・・・・・・)から、自分達は別に立ち止まらなくても大丈夫だ』と言いたげに、その蛇のような列を途切らせることはなかった。それどころか、ポケットからスマホを取り出して、今度 速度違反で捕まらないようにと車種とナンバープレートを写真に収める通行人すら現れる。

 おそらく公務員の警察官が、自分たちを轢き殺してまで押し通ったり、通行の邪魔をしたからと言ってそんな些細な事(・・・・・・・)で自分たちを逮捕すると思ってはいないのだ。それどころか緊急車両が目前にいたとしても、集団心理が働いて歩行者優先ぐらいに思っている可能性すら考えられる。

 

「こんな状態なら蛇子達は走った方が早いかも……!」

「ああ! 青空さん! 俺達とは、あとで合流しましょう! 先に家具販売店『ニトロ』と食料スーパー『ナガト』を繋ぐ通路に向かいます!」

「分かった! 俺達もすぐに到着はするが、無茶はするなよ!」

 

 後部座席の扉を開け、俺達は途切れない人々の波を掻き分けながら最短ルートを通って一直線に現地へ走り抜ける。更に走りながら上着のボタンを外して、いつでも対魔忍スーツへと着替えられるように準備を済ませて、だ。

 ショッピングモール内に潜伏するテロリストと対峙し、青空さんや鹿之助を助けられるようにとお互いに武器を抜刀できるよう最大限の準備を整えた状態で——

 

………

……

 

ふうまぁ!蛇子ぉ! 青空さんが!青空さんがっ!!!」 

——う……そ。……日葵……ちゃん?」

「俺を助けて!どうしよう!止血しているのに……!血が!血が止まらないんだ!!!」

「あおぞら、さん?」

「——————」

 

 ——俺達が現場に辿り着いたときには、全てが終わったあとだった。

 

 ……間に合わなかった。

 

 家具販売店『ニトロ』と食料スーパー『ナガト』を繋ぐ全体的に白い通路のお客様用トイレ付近の壁に2人は固まっていた。

 通路の最深部(突き当り)にあたる従業員専用通路へ続く扉付近の通路は、倉庫での惨状を連想するかのような……壁や床……。いたるところに、生ひき肉片入りのペイントボールをぶつけてそのまま放置したかのような赤黒い塗料が視点をどこに持っていったとしても写っている。

 ……今。この通路の床には、仰向けで寝転がり首だけが鹿之助の方を向いて口と目が半開いたまま口端からトクトクと流血させている青空さんと、その傍らには茶色のケモミミフードだけを羽織い、青空さんが愛用していた赤いヘッドホンを首にかけた泣きじゃくる鹿之助がいた。タグのついたままの清潔な洋服で止血しようと号泣しながら奮闘していたが……それでも血が止まらず、洋服と白い床には不気味なほどの赤黒い水溜まりがじわりじわりとその範囲を広げていて……。

 

「日葵ちゃん! 日葵ちゃんっ! ッ!酷い……!これ、胸から背中にかけて一突きされて——」

「青空さんっ!」

 

 俺達も駆け寄って彼女の容態を確認する。

 近づいても濁った瞳が動くことや、まばたきをすることはなく意識は完全に消失しているようだった。俺は彼女の首元に指を当て脈があるかどうか確認を取る。

 

「……!」

 

——彼女は辛うじて生きている! まだ生きていた!

 

 彼女が息絶えていないことに対して安堵の感情が沸き上がるが、彼女の容態は極めて悪い状態にある。今もなお生死の狭間を綱渡りしているような状態……いいや、これは死の沼へと完全に沈みかけているような状態だ。このまま何もしなければ死んでしまうことには間違いはなかった。

 即座に蛇子に彼女が生きていることを告げると蛇子は完全な獣化……と言っても上半身は人のままで下半身が完全なタコ化する程度ものだが変身を済ませる。

 それから両手を真っ赤に染め上げた鹿之助と入れ替わり、青空さんの傷口に対して口から真っ黒で生魚臭のする墨を吹きかけた。

 この行為にも、当然意味は存在する。蛇子のタコ墨には、相手の視界を遮断する目晦ましという役割の他にもタコの再生能力や治癒力を含んだ効果を墨に織り交ぜて、他人に吹きかけ治療するという効果があるのだ。

 

「俺……おれ……っ。 対魔忍なのに……拉致された時も……脱出の時も何もできなくて……。でも、青空さん……ひまり……。日葵だけが……! 俺を……っ!

 

 蛇子と入れ替わった鹿之助は、その場にへたり込み真っ赤な両手を見つめながら後悔の念を泣きながらぶつぶつと小声で事情の説明をしていた。恐らく鹿之助の心情(なか)で自身の将来の夢と、目の前で起きてしまった現実、それによって生じた自責の念によって混乱してしまっているのだろう。

 

「鹿之助! しっかりしろ! 彼女は “まだ” 生きている!

 

 だが俺はそれをぴしゃりと混乱する鹿之助を正気に戻すために宥める言葉を発する。

 鹿之助も肩をビクリと震わせながら俺の顔を見つめてきた。

 

「お前がここで取り乱しても何も変わらない! それどころか助かるかもしれない青空さんが本当に死ぬぞ! ……“対魔忍”として彼女を助けるんだろう!? だから今は懺悔は後にして彼女の救命活動を手伝ってくれ! お前はここで俺の携帯を使って、救急車と着信履歴にある青空さんの父親を急いで呼べ! 俺は隣の施設で緊急治療キットやAEDを借りてくる!」

「わ、わ……わかった!」

 

 俺の言葉に鹿之助は泣くのを止めた。八の字にしていた眉と下がった目尻を持ち上げて、抜けていた魂が戻ったかのように俺の指示のもと、蛇子と協力しながら青空さんの救命活動にあたり始める。

 

………

……

 

——対魔忍は常に死別の連続だ。

 

 里の外で任務に就いていた対魔忍が行方不明になり死亡判定されたという話はいつも聞かされていたし、里の誰かが侵入者を排除しようとして死ぬだなんてことは……俺達にとっては、よくある日常的な出来事だ。

 

 俺も身内なら10年以上前にはなるが、親父との死に別れを経験している。

 まぁ、あのクソ親父の死は、古きしがらみに囚われ五車を根城とするアサギ先生より前世代の井河一門に対して反旗を翻した結果、敗死した……今となっては自業自得とも考えられる部類の死に別れではあったのだが……。

 

 ——だからこそ。

 心のどこかで『死別なんて対魔忍である以上、日常茶飯事だ』という諦めがあったし、同じような連絡や一報を受け取っても平常心を保つことができていた。しかし、それは俺の思い込みに過ぎないことを思い知らされる。

 確かに直前の会話内容が楽しい内容ではなかったとはいえ、つい約10分前まで会話をしていた新しい友人が、数時間前まで元気で別れた友人が……。訃報で知るのとは異なる、重なる俺の幼少期における家来の死に別れの記憶。今、仲間が目前で死にそうになっているというのは、過去の記憶が隆起されて動揺するものがあった。

 それに彼女は、いくら2週間前に五車学園へ入学し対魔忍になったとは言えども、対魔忍になった定めだからと言ってこんな場所で死ぬべきじゃないことは はっきりと分かっていた。

 食料スーパー『ナガト』のサービスカウンターでドライアイスがごっそり無くなったとざわつく店員に事情を話して緊急治療キットとAEDを片手に、彼女の元までひた走る。

 そのころには青空さんの父親も到着しており、あの覆面警察車両のトランクには緊急医療用具も詰めているのか、それを用いて止血をしているところだった。俺が持ってきたキットも受け渡し、更に頑丈で強固な止血治療を開始する。

 現在、彼女の唇や指先は紫色に染まってチアノーゼを引き起こしていた。血中酸素飽和濃度が低下しているのは明らかだ。青空さんの父親と捜査員が協力しながら止血を続け、四肢を高い位置へと挙上し血を心臓の方へと更に送り込む。鹿之助が青空さんが意識を戻せるように声掛けを、蛇子は癒しのタコ墨を傷口に投与しながらも鹿之助と一緒に意識が戻るよう声掛けをする。俺は外に出て救急隊員の案内役を務める。

 やがて担架を持った救急隊が到着し、俺が誘導して彼女に酸素マスクを取り付けられた。

 そのころには浅い呼吸であったものの彼女の呼吸は復活していた。更に機械から酸素が吹き込まれたことで、容態は先ほどよりは幾分かマシな状況にあるように見えた。事前に準備されていたんじゃないかと思ってしまうほどに素早く一時的な入院と手術が行える病院が決まって……。

 青空さんの父親は俺達と別れ際、心肺蘇生と捜査の協力をしたことの労いと感謝の言葉を送ってから、救急車に乗り込み青空さんと共に最寄りの病院へ搬送されて行った。悠長な状況でもないのに彼は俺達に一言告げてから消えた。

 

 現場に取り残された俺達は——

 

………

……

 

 青空さんの父親と一緒についてきた捜査員に、まえさき市と五車町を繋ぐ市町村境まで送迎される形で五車町に帰ってきたのだった。

 ひとまず事情をアサギ先生に報告をして、時子に迎えに来てもらって……。

 

 ——その日は、俺達は何も言葉を交わすこともできず波乱の休日を経て解散となった。

 

………

……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日、鹿之助に対して当時の状況を改めて聴いたときは俺達は驚くほかなかった。

 青空さんが “1人で” 17人のテロリストと “巨大な怪物” を相手に大立ち回りしたと話したからだ。

 鹿之助も彼女が“怪物”との対峙を除いて、テロリストとの対峙した実際の状況を見ていたわけではないそうだが……。

 青空さんが鹿之助に祭壇の後ろへ隠れるように叫び、指示通りに転がり落ちたあと、強烈な破裂音が響いて、3分もしないうちに鹿之助の元へ消火器片手に食料スーパー『ナガト』の制服を纏った対魔忍に相応しい(ヒーローのような)彼女が現れたと。

 またその時、鹿之助が拉致監禁された部屋の天井には “強大な黒い花弁の怪物” がいたと話していたが……。鹿之助を診てくれた五車町で医者をしている対魔忍の話では、極度のストレスに晒されて錯乱したことによる一時的な幻覚を見た可能性が高いと先生達には説明していたそうだ。

 調査第三部(セクション スリー)としても鹿之助の話が何処まで本当のことなのか協議しているそうだが、やはり何者かに突然有無を言わさず拉致監禁されたことによってストレスで幻覚を見たのではないかと結論付けられそうになっているらしい。

 俺も鹿之助に、どんな外見だったとか、特徴的な鳴き声とか、攻撃方法などを一通り聞いてはみたが……やはり災禍の管理する蔵書庫にあったどの古書にも鹿之助が話した特徴一致する魔族・魔獣・獣人は存在しなかった。

 

 ……でも本当に鹿之助の話した出来事は“ストレス”として処理してもよいものなのだろうか?

 

 ……鹿之助が怪物と対面したというならば、その場に駆け付けた青空さんも当然、その怪物を見ているはずだ。この件に関しては、今度時間のある時に彼女に聞いてみることにする。

 

 更に、その鹿之助が拉致された現場に他の対魔忍……上原(うえはら) (りん)先生(鹿之助の従姉)が調査を向かったそうだ。事件のあった問題の場所には空になった消火器と綺麗な千枚通し、破裂した形跡の残る4ℓペットボトルの一部、横転したカートと買い物かご、空になった消火器とは別の破裂した消火器、燃え尽きた蝋燭使用のランタン、鹿之助の話にあった祭壇と天井にはダクトまで伸びる巨大な亀裂しかなかったそうだ。

 いくつかの奇妙な引っ掛かりはあったが、それでも心のどこかでは調査第三部や医師達の話も誤った診断判断ではないのではないだろうか?と思うところはあった。

 

 そもそもの話として……。

 

 ……どこの世界に17人のテロリスト相手に、たった1人で 3分以内にテロリストを殲滅できる “女子高校生” がいる? どこの世界に俺達が到着する約10分間のあいだに、17人のテロリストを薙ぎ払い。鹿之助を救出し。怪物を出し抜き。逃走の最中で生命に関わるような致命的な負傷したにも関わらず、あの通路まで鹿之助を抱えて逃げ出せる……つい最近まで一般人だった、対魔忍の任務にも就いたことのない五車学園1年生がいる?

 ……そんな芸当を成し遂げられるのは、空想世界のゲームやアニメだけの存在にしかでき得ないことだ。

 ……確かに対魔忍なら、不可能ではない芸当なのかもしれない……。

 だが俺はアサギ先生から聞かされた今回の事件に一枚噛んでいるテロリストが引き起こした事件(ビル立てこもり事件)での出来事や、追加の情報でアサギ先生から “特別機密情報” を聞いた上で『青空さんは、対魔忍では “ない” 』と認識を改めている。

 

 これは別談ではあるが、今回のまえさき市郊外の倉庫の地下で隠し部屋の大発見や、鹿之助や青空さんの救助に対する的確な指示や判断による功績、凜子先輩と協力した書物の捜索判断により、アサギ先生の指示のもと独立遊撃隊が結成となった。隊長は俺だ。

 ……隠し部屋の発見は蛇子の手柄なのだが、いつの間にかに俺の手柄になっていた。こっちは、どうやら蛇子の仕業らしい。

 また俺の数少ないお小遣いが減ってしまうな……。

 

 さて。現在、確定している独立遊撃隊のメンバーは『俺』と『蛇子』、『鹿之助』の3人だが……。

 鹿之助は青空さんが無事に目が覚めたら、独立遊撃隊に組み入れたいと俺に相談をしてきた。気持ちはわかるが……。その “刻” が来た時……。

 ……俺は、アイツにはなんて説明するべきだろうか……。

 

 ——未だに悩んでいる。

 

 




~あとがき~
 最近。マイページの中に、活動報告なる執筆欄を見つけまして…。
 今回、この機能を使用しての
 本編でふうま君が『~後日談~』で話していた

 >>そもそもの話として…。……どこの世界に17人のテロリスト相手に、たった1人で 3分以内にテロリストを殲滅できる女子高校生がいる? どこの世界に俺達が到着する約10分間のあいだに、17人のテロリストを薙ぎ払い。鹿之助を救出し。怪物を出し抜き。逃走の最中で生命に関わるような致命的な負傷したにも関わらず、あの通路まで鹿之助を抱えて逃げ出せる…。つい最近まで一般人だった、対魔忍の任務にも就いたことのない五車学園1年生がいる?

 という内容の解説編を過去の『活動報告』にて公開しております。
 こちらは、閲覧者兄貴姉貴達によって、ここら辺の裏事情の設定の公開に好き嫌いが分かれると思いますので、任意での閲覧をお願いします。

~追加~
 しばらく、やる気が出ない状況だったのですが 今回から流れる登校時間ペースが確立します。
 3日ごと+1時間を目安にお待ちください。

 あと最近、ちょっとイイコトが起きました!
 オリジナル版でのご報告は間に合いそうにないのでこっちでお知らせします!

 よろしくお願いします。

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