対魔忍世界へ転移したが、私は一般人枠で人生を謳歌したい+   作:槍刀拳

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Episode30+ 『正義のヒーロー』

 しばらくの間、室内が沈黙で包まれる。

 二車は私のベッドリモコン操作によって高く持ち上げられたベット上の私を見上げながら睨みつけ、一方私は内心あくどい顔の……外面状はニタリとした不敵な笑みで彼を見下ろしながら開戦のゴングが鳴り響く瞬間を待つ。

 

「お、お前等!あ、青空に何してんだよぉ!!!

 

 まさに一触即発な空気が漂い始めてはいたものの、その僅か十数秒後。その沈黙は1人の男の乱入で終結を迎えることになった。

 

 一週間と3日ぶりの声。

 

 もう二度と彼から会いに来ることはないと思っていたはずの女の子のように甲高い声。

 

 視線が自然と出口に向けられる。

 

「……お前は、目抜けとよくつるんでいる……」

「『正義の(たいm)——』あっ。『正義の対魔忍(ヒーロー)』の上原 鹿之助だ!」

 

 間違いない。上原くんだった。

 彼はどこか泣きそうで、へっぴり腰ではあったが……ファイティングポーズを取りながら、たった1人でこの正面の二車(にしゃ)と呼ばれた男と取り巻きの5人に対峙している。

 ……うーん。なんかいろいろ言葉がいろいろ出てくるけど……。ひとまずその容姿、仕草、巨悪に立ち向かう姿勢……全てが かわいい。猛獣の群れの中に迷い込んだウサギみたい。食べちゃいたい。うーん、私の正気度が回復する。

 よーし、今うかつにも私に背中を向けたこの男に私の身体から引き抜く予定の点滴の針をテメーの喉仏と鼻頭に二度突き刺すのは止めてやる。あくまでも今の私は乙女で居なければ。

 テメー等、(きみたち、)上原くんに(上原くんに)感謝しやがれッ!(感謝してよねっ!)

 ついでに最大限の高さまで持ち上がるようにリモコンで調節したベッドを、上原くんがベッド傍へと来たときに私を見下ろせるような最低床状態までへと持ってくる。

 

「正義の対魔忍(ヒーロー)ォ? バッカじゃねーの?」

 

 上原くんの言葉に二車(にしゃ)周囲の腰巾着どもがゲラゲラと笑い始める。さっき二車から『黙れ』って言われたこともう忘れたのか。

 よし、前言撤回。

 お前等は上原くんが気絶しようものなら刺していいな? 青空 日葵がどんな病気を持っているか知らないけど、睾丸と陰茎の損傷。子作りファーム終了のお知らせ。血液感染から発症まで検査室でガタガタ震える準備は良いか?

 

「……。……ほら、彼女に次のお見舞い客が来たようですよ。二車(にしゃ)くん達は もう出なさい。これ以上の滞在は校医として認めることはできません。君達。……主に青空さん、ここは病室なのですから大声は控えてくださいね」

 

 病室の出入口でファイティングポーズを取る上原くん。私のベッドの隣で上原くんを睨みつける二車(にしゃ)。ベッドの周りで嗤う腰巾着。そして点滴針を皮膚からいつでも抜去して突き刺せる準備を整えた私という一触即発なこの現場で、先ほどまで空気を決め込んでいた室井先生が静止の一手を打ってくれる。

 流血沙汰になる前に止めるなんて流石、先生! よっ! ナイスミドル! ……でも、それは(にしゃ)が私に脅迫している時点で止めて欲しかったですね。……若干ストップのタイミングが遅いと思いました。

 それに外で見張っている2人は何をしているんですかね……? 今から完全な大乱闘が始まる雰囲気にも関わらず、存在感を一切感じられなかったのですが。やはり、私を取り押さえるだけの要員だってハッキリわかんだね?

 

「チッ……。お前ら行くぞ」

「えっ。あ、はい!」

 

 素直に部屋から退室する二車(にしゃ)に、腰巾着どもはぶつくさ文句を言いながらも二車(にしゃ)と室井先生に連れていかれる形で部屋を去っていく。

 途中、出入り口で構えたままの上原くんと小競り合いが発生しそうではあったものの、流石 校医である。上原くんの正面に立ち、病室外にいる2人に指示して速やかに二車のグループを追い出す。私もベッドから飛び降りて参戦しかねない大乱闘に発展してしまうような本格的な喧嘩にならないよう事前制御に務めていた。

 

「それでは青空さん、私もこれで失礼します。それと……あなたがそんなにも退院したいというのであれば、4日後に再検査して異常がなければ退院と致しましょう。これ以上の談判は受け付けません。私も他の生徒たちの手当てがありますのでわかって頂けますね?」

「……はい」

 

 それから退室間際に絶対に退院を認めない趣旨を告げてから先生はそのまま扉を閉めて出て行ってしまう。あの糸目の瞼が若干、開いてこちらを見つめていたことから“本気”の発言だったのだろう。

 やはり無茶を言い過ぎたかなと思いつつ、上原くんしか居なくなった室内で諦めの返事を返しておく。

 

………

……

 

「「……」」

 

 しばらくの沈黙。

 部屋には2人いるはずなのだが、私一人だけになってしまったようだ。

 

「……もう “二度と会いたくない” んじゃなかったの?」

 

 お見舞いに来てくれたのは嬉しかった。でも口から出たのは意地悪な言葉だった。

 せっかく、彼は“私”を知らないのだから 来てくれたことを喜べばいいのに。素直に喜べない自分が恨めしい。

 

「……! ……違う! 違うんだ! あれはそういった意味で蛇子に伝えたわけじゃなくて!」

「……」

「あの“会いたくない”って伝えたのは、蛇子の伝言で聞いた“二度と会いたくない”って意味じゃないんだ! おれ……俺っ! 正義の対魔忍(ヒーロー)を目指しているのに……。あの天井の見たこともない生き物を見た時、身体が石みたいになって。動けなくって……! それなのに日葵は、俺をあのローブ連中から1人で助けてくれただけじゃなくて、あの天井に張り付いていた見たこともない怪物を直視しても余裕そうに笑って、あの怪物からも俺を守ってくれて……っ! だから、俺……正義の対魔忍(ヒーロー)を目指しているのに何もできなかった自分が情けなくってっ……! 日葵が目覚めたって聞いた時、どんな顔で会えばいいかわからなかっただけなんだ……!!!」

 

 彼は走り寄ってきて、私のベッドのそばでそっぽを向く私の顔側へ回り込んで“会いたくない”と言った裏事情を赤裸々に話してくれる。

 その顔は……ア゚ッ! その今にも泣きだしそうな、子供が母親にご機嫌を取ろうとする顔はずるい。そんな涙目で庇護欲をそそる、そのえっちな顔はずるい。いろんな意味で私のハートに突き刺さる。Twinterなら今頃、リプ欄に『てぇてぇ』の画像が大量に貼られているに違いない。私の天使が悪魔とハイタッチしながら助けて良かったろ?ってそそのかしてくる。このクソ天使め! ありがとう!

 耐えろ……ッ! 私のポーカーフェイスと心臓! 尊死(てぇてぇ)を迎えるのは《/b》心《/b》だけで十分だ!

 

「だから……! だから……っ! “二度と会わないようにする”だなんて言わないでくれよぉ……」

「……。……ふっ」

 

 ——アッ。

 

 むり。まぢむり。

 

 反射的にポーカーフェイスを決めたけど決壊しそう。

 

 不意打ちによる急激な鹿之ニュウム(シカノニュウム)の過剰摂取で尊死感情オーバーフローからデーモン・コアが臨界突破。蒼き閃光マンハッタン計画……ごまかさねば。

 

ふふっ……くっくっくっ……。見事に私の話術に見事かかりましたね? 上原くん……」

「……え?」

ハァッ!!!……あ。大声は、まずい(蘇る現実の悪夢(仏の顔も三度まで))……コホン。……ハァッハッッハッハッハッハーッ! そう。蛇子ちゃんに伝えたあの最後のフレーズは君をおびき寄せるためのだったのですよ! いやー、ここまで素早く効果が表れるとは、迫真な様子で蛇子ちゃんも伝えてくれたんでしょうねぇ! ……。……でも、意地悪言ってごめんね。こうでもしないと上原くんの真意が読めませんでしたから」

 

 彼はキョトンとしている。いまいち状況を飲み込むことが出来ていないと言った様子だ。

 こちらも嬉しさのあまりこみ上げてくる感情を押し殺そうと片手を口に、もう片腕を腹に当てながら笑って、どうあがいても喜びの感情で崩壊するポーカーフェイスをごまかす。

 

「あ、あぁ……もし、かしてぇ……?」

「そうですよぉ? やっと気が付きましたか? なるほど、なるほど。上原くんの将来の夢は『正義の味方(ヒーロー)』ですか。いいですねぇ……。でしたらイザって時の為に、もっとTRPGで遊んで(をキメて)カッコイイ決め台詞や立ち振る舞いを勉強しなくてはいけませんねぇ?」

 

 こちらがお腹を押さえながらケラケラと笑っていると向こうも次第に私が何を言っているのか理解した様子で、袖で涙目をぬぐったかと思えば 見る見るうちに怒った形相へと変わっていく。

 

「青空さん!」

「別に鹿之助くんなら『青空』と呼び捨てにしてもいいですよ。もちろん『日葵』でもOKです。……土壇場で、何度か呼び捨てにしていたのを私はしっかりと覚えていますからぬぇぇぇ? それと病院ではお静かに。既に3回 悪夢のせいで咆哮を放って怒らせましたけど、室井先生は怖いですからね」

……。『病院では静かにしろ』なんて、それだけは日葵には言われたくなかったぜ」

「……ヌッフッフ。ヌフフッフフフフゥ」

 

 腹を抱えて笑っている私がそんなに不服なのか、頬を膨らませてふてくされた様子でそっぽを向きながら、隅に置かれた面会用の椅子に座って私と視線を合わせてくれる。あぁ……嬉しいなぁ。

 

「なんだよ。気色悪い笑い声なんか上げてさ」

「……いえ、ね。正義の味方(ヒーロー)になりたい——ですか」

「ひ、日葵まで俺の夢をバカにするのか!?」

「違いますよ。……蛇子ちゃんの伝言で聞きませんでしたか? 鹿之助くんは私の中では、最初から十分に正義の味方(ヒーロー)だったんですよ」

「…………」

「……ですがヒーローにだって、できないことぐらい1つや2つはあります。でも、それでいいんです。“1人 1人に足りないところがあっても、みんなで補い合えればよい” のですからね。それに……1人でなんでもできてしまうようになると、最後に残るのは “虚しさ” や “寂しさ” だけですし……。時として、それが自惚れや高慢にもつながることすらあります。鹿之助くんはまだ学生なんですから、じっくりと……できることを増やしていけばいいんです」

「……ボソボソ」

「え? 何か言いました?」

「……なんでも! それよりも、日葵ってさ。……周りから大人びてるって言われたことない?」

「そんなことないですよー。至って普遍的な何処にでもいる女子高生です。うぇーい。お稲荷様ウィッシュ」( ‘ω’ 乂)

 

 両手の指先を狐状にして彼に見せつけるように、胸の前で腕をクロスしておどけた様子でふざける私に対し。彼は半目状態で『どうしようもない』と言った顔つきで見つめてくる。でも、しばらく顔を見合っているうちにクスクス、ケラケラと互いに笑い合ってしまい始めた。

 ……あぁ、良かった。二車と呼ばれた男に囲まれたときには、また波乱の一日が始まりそうな予感がしていたが……上原くんが仲裁とお見舞いと誤解を解きに来てくれた。

 これだけで私は十分、幸せものに違いなかった。

 

 




~閑話(小話)-『鹿之助、お見舞いの経緯』~
――朝の登校時間―――

上原 鹿之助「二度と……会わないようにするって……どういうことだよ……。俺……おれ……っ! そんなつもりで言ったんじゃなかったのに……! ……今日、青空さんのところにお見舞いに行ってくる。……今からでも行って誤解を解いてくる!」

ふうま小太郎「…… 待て! 鹿之助!」

上原 鹿之助「なんだよ! 俺は青空さんにどうしても言わないといけないことがあるんだ!」

ふうま小太郎「それは構わないが、青空さんには『正義の“対魔忍(たいまにん)”』を目指していることだけはいうなよ!」

上原 鹿之助「将来の目標を言っちゃいけないって……またどうして?! なんでだ!?

ふうま小太郎「……。……それは……」

上原 鹿之助「『それは』……なんだよ?!」

ふうま小太郎「実は…。青空さんは……『一般人』なんだ……!」

相州 蛇子 「エッ?!」
上原 鹿之助「えっ!?」

ふうま 小太郎「……俺も一時期は、五車学園に入学してきたってことは、何かしらの対魔忍の素質があるから入学してきたんだと思ったんだが…。アサギ先生から、直接『本当のところ彼女は対魔忍ではないからその話題は伏せるよう』に話されてだな……」

相州 蛇子 「日葵ちゃん 対魔忍じゃないの!?」
上原 鹿之助「 青空さん 対魔忍じゃないのか!?」

ふうま小太郎「まぁそんな反応になるよな。……俺達がまえさき市から帰ってきたあと。アサギ校長先生から独立遊撃隊結成の知らせがあったよな? その時、鹿之助からの推薦で青空さんも組み込みたいって話を隊長である俺が話したんだが『彼女は一般人。一般人である以上、対魔忍は秘密組織だから知られてはいけないし、一般人を巻き込むことは許可できない』って説明されてさ……」

上原 鹿之助「え、えぇ……マジか? 嘘だろ……? 一般人? 一般人なのか……? 青空さん……」

相州 蛇子「鹿之助ちゃん、それは私も同じ気持ちだよ……」

ふうま小太郎「……それは、あんな一般人が居てたまるかって意味だよな?」

上原 鹿之助「……それなのに……青空さんは……。じゃ、じゃあ。誤解を解くのに俺の夢のことはなんていえばいいんだよ!」

ふうま小太郎「そうだな……。『正義の対魔忍(ヒーロー)』とでもいえばいいんじゃないか?」

上原 鹿之助「『正義の対魔忍(ヒーロー)』『正義の対魔忍(ヒーロー)』『正義の対魔忍(ヒーロー)』……よし、行ってくる!」

………
……


相州 蛇子「……行っちゃったね」

ふうま小太郎「あぁ。それにしても……蛇子。一昨日、青空さんが“二度と”会わないようにするって言った時、どうして修正しなかったんだ?」

相州 蛇子「ふふっ♪ それは、蛇子のおかげで結果的に鹿之助ちゃんを病院へお見舞いに向かわせてあげられたでしょ?」

ふうま小太郎「それは確かに……そうだが……」

相州 蛇子「ふうまちゃんだって、口が上手いじゃない。日葵ちゃんが“対魔忍じゃない”って言って、力を持たない一般人を護る正義の対魔忍に憧れる鹿之助ちゃんを焚きつけちゃうなんて♪」

ふうま小太郎「……いや……それは……

相州 蛇子「……えっ?」

ふうま 小太郎「……」

相州 蛇子「え? 本当に一般人……?」

ふうま 小太郎「……他言無用で頼む」

相州 蛇子「えぇえぇえええええええっ!?!?」



~あとがき~
・生還報酬
 正気度報酬 1D10+2
 新クトゥルフ神話TRPG 選択ルール:幸運ポイントの回復(95頁)
 成功した技能の成長ロール

・特記
 上原 鹿之助くんに、《クトゥルフ神話》技能を+5% 贈呈。

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