対魔忍世界へ転移したが、私は一般人枠で人生を謳歌したい+ 作:槍刀拳
お見舞い品として、いつの間にかに置かれていた果物盛り合わせセットを手に取る。その中から無造作に手で掴み上げたもの……。リンゴが手に入った。
添えられたカードによると差出人は……接点のあるクラスメイト一同からだ。裏面を見ても自殺を示唆する内容は書かれてはいない。それどころか、早く元気になって欲しいという励ましの言葉が綴られていた。
……あんなことを入学初日からやらかした私ではあるが、今のところクラスメイト達からは嫌われてはなさそうだとわかる。
「はい、どうぞ」
「お。ありがと……」
ひとまず手に取ったリンゴを食べるためにも、裁縫セットに入っている断切りばさみを〈機械修理〉で分解したのちに、医療用アルコール消毒液で綺麗に消毒する。その分解したハサミでリンゴに切れ込みを入れて適当に半分に割った。ひとまず育ち盛りの鹿之助くんには、リンゴの皮がウサギ耳状になるように剥いてから食べるように差し出す。
残った半分のリンゴは、いつものように私が皮ごとバリムシャとかみ砕こうとするが、皮ごと齧りつこうとする私を目をまんまるにした上原くんがこっちを見ているのに気が付いたので、冗談のように笑ってからきちんと皮を剥いて頬張る。ちょっと面倒だ。
「
「……なんだよ」
「
それから意地悪な口調で口内にいっぱいリンゴを詰め込んで、おそらく学校をサボったであろう彼に病室でたむろしていることについて尋ねた。
「何言ってるかわからねぇよ……そんなことより、食べ終わってから喋れよ。汚いぞ」
「おっほぉ……
「……今日はサボった」
「おやおやぁ? 正義の
「んもう! さっきから正義の
「ハッハッハ。まっさかぁ~。是非とも、そのまま夢を追いかけて正義を貫き通して欲しいですし、私はその夢を応援しますよ!」
リンゴを食べながら学校の休み時間に会話しているような会話をここでも行っている。
まるで、この時だけ学園内の日常生活に戻っているみたいだった。
「本当かぁ~?」
「もちろん本当に決まっています。将来、正義の
「パ、パト……?」
あぁ。パトロンの意味が分からず、彼の困惑する顔がたまらなくかわいい。脳がトロける。
頭わるわる~わ~るわる^~になってしまいそうだ。
「あぁ^~……パトロンというのは『出資者』とか『支援者』って意味合いですよ。何しろ正義の
「わかった……。……ありがとうな!」
はうあ。
その、納得してないような……けど、味方で居てくれるということだけは分かって向けてくれる笑顔は輝いているように見える。
正気度がまるまるもりもり確定で回復していくのがわかる。心に平穏が訪れる。素晴らしい。
「では今度は、学校をサボったこと以外の話で質問したいことがあるのですが……」
「ん? なんだ? 何か困りごとか?」
「さっきの扉から出て行った赤髪で半面を黒の眼帯で覆った三白眼の男……あの人ってどなたかご存知ですか? 随分と上からの物言いで、元気になったら正式な
「アイツ? ……あいつは……。日葵は関わらない方がいいよ」
おや、ここで先ほどまで笑っていた鹿之助くんの顔が曇る。
なんだ? やっぱりなにかと面倒な奴なのだろうか?
五車学園では男女問わず学生はネクタイを着用することが義務付けられている。たまに着用していない生徒もいるが、それは大体制服を着崩しているタイプの生徒だったり、不良や素行の悪い生徒なことが多い。まぁ、ふうま君もその一人だったりするのだが。一旦その話は置いといて、兎に角にも五車学園ではネクタイの色で、1年、2年、3年と判別が可能になっている。おかげで瞬時に相手が何処の学年から私に会いに来ているのかわかるようになっているのだが……。
あの男は私と同じ
まぁ、まだ5月の下旬であることもそうだが……あいつが喧嘩番長であり五車学園で頭を張っているとは思えない。カリカリ梅ばりに殺伐としている彼から滲み出る頭としての器もそうだが……。ここの普遍的な学生たちが “鬼のような”
そうなると、親が名の知れた権力者であるか。金を持っているか…。おおよそはそのどちらかのパターンだと考えていい。
どちらに転んでも私的には美味しい。
なにも物理的にシバいて捏ねくりまわして態度をわきまえさせるよりも、周囲からじわじわと毒沼に突き落とすかのように没落させた方が楽しみは大きいからだ。
鹿之助くんにはこの邪推を察知されないよう、零れ出るほくそ笑みをリンゴを頬に詰め込みながら隠す。
「
「……。そこまで言うなら教えるけど……。あいつは
「えっ????? うっわ。人のこと言えねぇと思うけど、すっげぇキラキラネーム。SNS、特にインヌタとかで実名登録していたら簡単に即特定できそう。炎上祭りとか超楽しい奴じゃん。やっべぇ」
「あ、そっか。日葵は外から来たからな……。……えっと難しいよな! えっとぉ……今から分かりやすく嚙み砕いて説明するからな? うまく説明できるかわかんないけど……」
本音が口から漏れ出ないように努めていただけなのだが、余程まったく理解していないという顔を私がしていたのであろう。クエスチョンマークを大量に浮かべた私に彼なりに嚙み砕いて説明をし始めてくれた。……その気遣いは凄く助かる。
そして、その小さな口に少しずつリンゴウサギを食べる姿は……やはり可愛いな。
………
……
…
……鹿之助くん曰く。
先ほどの『二車骸佐はふうま一門』とは……つまり、一族みたいな、同じ家系のふうま君の親戚みたいな存在で、ふうま君の幼馴染であるらしい? ここでの一門がどのような意味を持っているかによって、意味合いが異なってくるが、ここでの一門は仏教での同じ宗派という意味や、武道・芸能などで、同じ師匠を持つ人である意味では少し考え難い。
彼の話をややこしくしないために、親戚という意味合いで分かったふりをする。
で、そのふうま君の親戚間には『二車家』という苗字の家柄があって、骸佐は
それで……ふうま君は、そのふうま宗家……。本家にあたる人物で、
……まるで武家の習慣のようだ。時は
……私の親友である雷 巴ちゃんが好きそうな話だが、私は言いたいことがあるぞ。
「これでわかったか?」
「うん……。うん……。ここってニュータウンだよね?」
「うん。そう聞いたことがあるけど……?」
「……うん……」
カッっと大きく目を見開き絶叫を上げそうになるが、正面に鹿之助くんがいるのだ。表情を一切変えることなく、心の中で大声を放つ。
なーにが、ニュータウンじゃ! このクソボケ広報ホームページめがぁぁぁぁあああ!!!
ここは古い習慣に囚われ過ぎた江戸時代に鎖国を続けた日本みたいな僻地じゃねーか!!!
理解した。大体を理解した。これまでのバラバラだった情報の
ここは市街地なんかじゃない。市街地になりかけの土地でもない。本当に田舎の僻地の僻地限界集落。もう先が見える、若者は都心部に移住し 地元の有権者以外はこの地に残らない限界集落の未来が見える。恐らく、あのホームページの内容も“人を呼び込む”ための嘘八百だけが並べられたクソホームページだったに過ぎない。まぁ、見つけにくいところにある=ホームページを作ったアホは素人だったということだろう!
……少し気がかりなのは やはりこんな地盤が安定したクソ秘境に国立学園が建てられていることぐらいか。
もっと建てるならいい場所もあったはずだ。かなり備え付けの設備もいいのに……。これでは馬の耳に念仏。豚に真珠、ネコに小判という言葉が否めない。それに……いくら国立とはいえ、資金繰りは一体どうなっているのだろうか? 私のいた日本では超最先端と言われた技術が、この世界の五車学園では至るところで “普通に” 見ることができるし、それを一端の学生……。それも機材の価値を理解できないような子供が触れて扱うことが出来てしまっている。退院したら、“探索”してみるのも学校の面白い裏の顔が何か見えるかもしれない。
私がここにやってきたことで良い出来事は、対魔忍の目を欺けられそうな僻地だということと、辺境の秘境で
だがしかし危なかった。二車 骸佐という男。五者町の権力者のようだが、まさかふうま君の親戚であるとは予測外だった。ヤツを没落させることは、ふうま君を地獄に突き落とすことと同意義だ。
チッ……。
「……心の整理が付きました。なるほど……。なるほど?」
「……さては、何もわかってないだろ」
「分かっていますとも~。……あと、彼は私に対して、メヌケの友人……とも言っていました。たしか鹿之助くんにもメヌケとつるんでいるって……。”メヌケ“ってどういう意味ですか?」
「えっと、それはふうまに対する蔑称で……あ……ぅうん……」
彼は側頭部を掻いて、私から顔ごと目を逸らした。
なるほど、ふうま君に対する蔑称でしたか。
となると、彼の開けない右目に何かしらの関係があるのか……それとも、能天気そうな友人から取られてそう呼ばれているのか……。黙れドン太郎について話してくれた時と違って、彼はとっさに言葉が出て来ない様子だ。
「えっと、この話は他言しません。あくまでも、どういう意味なのかなーと知りたくて……」
「うん……うーん…………」
頭を抱えてじっくりと言葉を選んでいる様子から察するに、説明しづらい内容……というよりも、話しづらい内容なのが〈心理学〉の観点から推測できる。これまでのふうま君と黙れドン太郎の関係性について話すときの彼の喋り出しは非常に流暢であった。これでふうま君の右目が失明しているだとか、能天気だからと言ったような理由であれば……これまで行動を共にし、見てきた彼の性格で言えることとして、鹿之助くんはポロリと言ってしまうような
「能天気なふうま君の事ですし……マヌケって意味だったりします? ほら五車町特有の方言みたいな。丁度、同じマ行ですし、方言で訛ってメヌケになったとか、あるいは右目を失明しているから人の障碍を嘲笑った健常者の愚かで傲慢な蔑称ですか?」
「——! そう! マヌケって方の意味。たぶん、方言だと思う! なんて表現すればいいかわからなくて困ってたんだ! サンキューな! 日葵!」
なるほど。
マヌケという意味ではないらしい。
人の痛みが理解できない愚かな健常者の残酷な蔑称というわけでもなさそうだ。
しかし、今はこれで十分だろう。友人にだって話したくないことの1つや2つぐらいある。追求するのは野暮だ。
……私も、彼に話せない秘密を抱えている。
「そういうことでしたか! なるほど、なるほど。納得しました」
「な、なぁ。わかっていると思うけど——」
「もちろん分かっていますよ。今 聞いたことは他の人には言いませんし、友人のふうま君に “メヌケ” なんて暴言なんか吐く訳ないじゃないですか」
「そっか、だよな……!」
(この前、まえさき市で『この
鹿之助くんの表情が、まるで雲が晴れていくような笑顔を取り戻す。こちらもつられるようにして優しく笑いかける。
「それで話題をまた変えるのですが……」
「今日はとことん付きあうつもりで来てるからな! どんな話でもいいぜ!」
「——では、このあとの授業は?」
「……。……うん。その話題は意地悪だなぁ」
うん、そのコロコロと変化する感情豊かな顔。すごく かわいい。とても弄り甲斐がある。