対魔忍世界へ転移したが、私は一般人枠で人生を謳歌したい+ 作:槍刀拳
彼がお見舞いに来てから早数時間。
何気ない楽しい時間は、綿あめが水中で溶けるように消えていく。ふと時計を見上げれば時刻は昼間の14時過ぎを指していた。
ずっと喋りっぱなしではあったものの、お見舞い品のフルーツバスケットの中の果物を二人で分け合って食べていたこともあってか、別段小腹が空いたり喉が渇くと言ったことは無かった。
「……ところで鹿之助くん、嫌な記憶を呼び起こさせてしまうかもしれませんが……。あれから体調の方はいかがですか? 悪夢を見るとか、何処か身体が痛むということはありませんか?」
ここでふと、彼の様子を聞くために適度なタイミング、ふうまくんや蛇子ちゃん達がまだお見舞いに来ない段階で『あれからの事』を尋ねる。デリケートで、彼のトラウマを刺激しかねてしまうかもしれない出来事のため、ゆっくりとした口調で彼に何か異変や怯えが無いか観察をする。
冷静に考えれば前世に腕の立つ精神科医がこの世界にもいるとは限らないが、それでも
「あれから……? あっ! おう! 別に特になんともないから、もう安心しろよな!」
こちらが心配する必要がないほどに、鹿之助くんは笑いながら気にしてない様子で笑う。彼のその笑顔が私のために無理して笑った作り笑いだったのか、それとも本当に自然な笑顔だったのか……これまで私が事件や探索で培ってきた〈心理学〉で推し量ることはできなかったが……それでも私の目には、現状は問題なさそうに見えた。
「そうですか。それならよかったです」
「ああ! ……そうだ。忘れちゃいけないことを言い忘れていたんだけどさ。……笑わずに聞いてくれるか?」
「……? もちろんですよ。どうかしましたか?」
「日葵。……あの時、危険を顧みず俺を助けに来てくれてありがとうな。俺、きっと日葵が来てくれなかったら今頃——」
彼は、私に泣きそうだが嬉しそうな照れるような顔で礼を告げてきた。
『今頃』と呟いたところで幼子が初めて激辛のキツめのメンソールガム(黒色)を噛んだような表情をしてしまったが……きっと今、鹿之助くんの中では私が助けに来なかったときの最悪な想定を連想しているのだろう。
あの邪悪なカルティストに
「気にしないでください。私達、友達じゃないですか。それにあれは私の入学初日の紫先生との仲裁に入ってくれた私からのお礼も含んでいるんですよ。鹿之助くんは、なーんにも気にすることなんかありません」
「でもよ。あの時は結局止められなかったし……。今回の事は、俺がドジ踏まなきゃ……こんなことには……」
鹿之助くんは更に辛そうな顔をする。今にも泣きだしてしまいそうな顔だ。……この話題を振ったのは彼だが、こうまで辛そうな顔をされるとこちらまで辛くなってくる。
「見捨てないで、私を助けようとする——その気持ちだけで充分救われましたよ。……何をそんなに物悲しそうな顔をしているんですか! べつに私が死んだ訳じゃないでしょう? その顔は私の葬儀まで取っておいてください。死ななきゃ、こんな傷はすべて “かすり傷” です。この傷は、今回を期にとある意味での戒めにもなりましたし……良い経験ができたと思っています。だから気にしないでください。私は大丈夫ですから」
「…………」
「今はベッドの上でくすぶっていますけど、実は即退院できるほどには超元気なんですよ? 外すと忌々しいサイレンが鳴り響く警報装置さえ付けられていなければ、今にもベッドから飛び出して登校できるぐらいなんです」
それゆえ数秒ごとに気分が落ち込む様子が目に見てわかる彼を明るい声色と笑顔で励ました。励まし続ける私に上目遣いでこっちの様子を見て、少しだけ彼もその申し訳なさそうな辛そうな表情を緩和させて上目遣いでこちらを見つめてくる。
「とにかく私としては、鹿之助くんが無事ならそれで満足です。別に今回は身体の一部が欠損してしまったわけじゃないですし! たかが肺に穴が開いた程度で、日常生活には一切の支障をきたすこともないですしね!」
「…………肺に穴が開いているのに
「いえいえ、こちらこそ。無事でいて下さってありがとうございます」
よし、数時間前は鹿之ニュウムの枯渇と過剰摂取現象よって取り乱して、ポーカーフェイスから蒼き閃光がマンハッタン計画の臨界突破事故してしまったが今回はなんとか感情の制御がうまく行きそうだ。私のデーモン・コアは正常作動している。
「まぁ、それはそれとして、他にも少しお伺いしたいこともあるのですが……」
「ん?」
「“あの時の出来事” って誰かに話したりしました?」
鹿之助くんの情緒が安定したところを見計らって、ふうまくんと蛇子ちゃん、他の誰かが病室に来る前に尋ねたかった話題を振ってみる。
それは割と私の今後の日常生活に関係してくる大切な話題であり、鹿之助くんにとっても今後の人生を左右するかもしれない内容でもあるからだ。
「えーっと……話したな」
鹿之助くんは、利き手を胸元に当てて、顔を正面より少し上側に持ち上げて、その視線は天井に向ける。そんな彼には分からないように、私は口端の内側の肉を軽く嚙んだ。
……そうか。…………話してしまったか。
「誰に? 誰に話しましたか?」
「事情を聴いてきた警察の人と、学校の先生と……校長先生と……
指を折って、誰に話してしまったのか数えていく。
……つらつらと話していく様子から、結構な人数にあの時の事を話してしまっているようだ。これには私も漢方薬を水なしで口に含んだような何とも言えない苦い顔になる。
……これは……まずいかもしれない。私の計画的な日常生活が脅かされることもそうだが、今この状況で一番、危ないのは鹿之助くん自身だ。
「ふうま。ふうまにも話したな!」
ン゙ッン゙ー゙ッ゙!゙
相当、結構な人数に話している。結構な人数に話してしまっていた。
これはどうするべきか。彼が何処まで話したのかにもよるが、事件の被害者である彼が事件を鮮明に語っていた場合、今回は健忘症や記憶障害のフリはできないぞ。
まぁいい。対策は今日のお見舞い客が帰った後で練るものとして、今は鹿之助くんに迫る危機を片付ける必要がある。厄介な問題を目前に頭を抱えたくもなったが……彼に余計な心配をさせるわけにもいかないため、片目を瞑って後頭部を掻きながら彼と話を続ける。
「えっと……。その人たちに、一体どんなことを話しました?」
「どんなことって……あの時、あったこと全てだな」
「もうちょっと具体的に話してもらっても良いでしょうか?」
「……日葵も、ねーちゃんや先生達みたいなこと言うなぁ……」
「別に。私の場合は、先生方のように特別な事情はないんですよ? ……ただ、あの時の出来事を鹿之助くんに事情を聴いた……ということは、つまり私にも事情聴取をしてくるでしょうから。どんなことを聞かれて、どんなことを話せばいいのか……事前に知っておきたいのです。事前情報収集ってやつですよ」
「そういうことなら……さぁ」
メモは取らずに、傾聴するように彼が多数の人間に何を話してしまったのか確認を取る。
結論から。彼が見た本当に “全て” を話してしまったようだ。
テロリストとの対決。怪物の存在。怪物とのチェイス。私が血溜まりに沈む瞬間。その後の救護活動に至るまで。すべてだ。
不幸中の幸いとも呼べるのは、彼は祭壇の反対側に隠れていたため。私がカルティストに行ったペットボトル爆弾による直接的な爆殺の瞬間と、爆殺し損ねたゴミ共への
でも、まずいな……。
まずい。
まずいことには変わりない。
よりによって『大喰いの泥濘』のことを他者や彼の身内に話したことが一番まずい。
今後、私に対して行われるであろう事情聴取で話さなければならないカルティストが消化されて存在が無くなった件についても、どんな言い訳をするべきか悩む案件ではあるが……。
それよりも今は彼が話してしまった『大喰いの泥濘』の存在についての隠蔽が最重要だ。
本当に鹿之助くんが今一番、危ない。
「……なるほど、なるほど。ありがとうございます」
「今の話で日葵の役に立ったのなら何よりだよ」
「……その上で、鹿之助くん……。私からも少……かなり重要なお話があるのですが、ちょっと顔を近づけてもらっても良いですか? あまり大きな声では話せないような内容なんです……」
「ん、ん?」
彼は異性とあまり顔を近づけ合って話すような機会はあまりないのだろう。私が背中に付けられた警報装置が引っこ抜けないように細心の注意を払いながら、鹿之助くんのいる方に顔を近づけると、彼もまた顔を少し赤らめながら恥ずかしそうにガチ恋距離へとその顔を持ってくる。
それは
「……えっとですね……。これは他の人には秘密にしてほしいこと……今後、鹿之助くんが再び事情聴取されたときに思い出して欲しいことになるのですが……」
「な、なんだよ……」
「私達が共にあの場所で見た “天井の
「え……? えっ?」
困惑する鹿之助くんに私は声のトーンを抑えながら、ガチ恋距離で周囲を警戒しつつ万が一に部屋に盗聴器を取り付けられていたとしても、扉の外側からの集音機でも聞き取れない声で彼に忠告を続ける。
「考えてもみてください。見たこともない魔族・魔獣が天井に居て……仮にそれらが未発見の存在だった場合、他の一般の人はどんな反応をすると思いますか?」
「え、えっと……」
「——大体はその証言を真面目に聴いているような様子を見せながらも、嘘だと思うか……または幻覚を見たのだと結論付けるでしょう。では、その幻覚を見続けているような発言をする人物に対して、
「——!」
やけに神妙な顔で想定できる事態について話す私に、鹿之助くんの表情が恐怖で強張る。
これは怖がらせることは目的ではないが、周囲の人間に “アレ” について言及し続けるということは、そういう危険性を秘めているということを理解・認識して欲しかったからだ。
もしこれが魔を払う対魔忍ならば……。少しは別の見解を示すかもしれないが……。それでも対魔忍がいままで遭遇してきた、どの魔族や魔獣とも一致しない存在だとしたら? その存在の確認が今回が初めてだとしたら……? 私、個人の……推測にしか過ぎないが、初回こそ彼等も同じ判断をするに違いない。これが何度も目撃情報を得られれば話は変わってくるのだろうが……。彼等も少し特殊能力を持っただけの人間だ。本質的にはヒトと変わらない。
「ですから……。あの時に見た天井のシミは、他の人には話さないようにしてください。一度、精神疾患を患ったことになってしまった場合、現代日本では今後就職活動に難が出る可能性だって考えられます。将来のためにも……わかりますね?」
そう。
彼は未来ある若者なのだ。
そんな彼が “真の真実” を語り続けた結果、精神疾患診断をされて社会に出られなくなってしまうのはあまりにもお粗末で、残酷だ。
世間は個性のある若者を……なんて耳の良い言葉を使ってはいるが、本心としては機械化された一般テンプレと化した愚かで無知なこれまでに異常のなかった若者を欲しがる雇用主の方が多い。だからこそ、ここで “ズレ” のレッテルを張られて欲しくはないのだ。
「ぅ、ぉぅ……」
鹿之助くんは納得していないような顔で視線を逸らしながらではあったものの、返事は返してくれる。
……彼の気持ちは痛いほどに、よくわかる。
……かつて私も同じ経験をしたから。
……真実を知りながら死んでいった友達や、同じような事件に巻き込まれたことのある知人たちにしか、その
……私と彼とで違うことは、私には
「……。……今、他の人には話してはいけないとは言いましたが。私には話しても大丈夫ですよ。私もアレを見ました。鹿之助くんが嘘をついていないことは、私は知っています。だから辛くなったら、いつでも私を頼ってくださいね」
だから、それでも、少しでも……あの時や、今後
アレを……一人で抱え込むのはあまりにも辛いから。
……発散できず、
そうならないようにこっち側の先輩として、できる限りの事はするつもりだ。
それに
「……」
彼は何も言わなかったが、視線を戻して小さく頷いてくれた。……私も少しやるせない顔だったかもしれないが、微笑んでは頷き返してみせた。
「ごめんね。重い話で」
顔を離して小声で話すことを止める。
彼は大丈夫というジェスチャーを送ってくれた。
コンコンコン——
そんな時、病室の出入り口の扉がノックされる。
いいタイミングだ。病室に掛けられた時計を見れば、時間は6限目が終了した15時を回っていた。……となると、この場所に来てくれる相手は大体想像がつく。
「はぁーい?」
「だれだー?」
先ほどまでの真面目な口調から一変した、爽快で軽快な声色で扉の向こう側の相手に返事を返す。鹿之助くんにはウィンクで合図を送った。彼もまた頷くと出入り口である扉に首だけを振振り返らせる。
「日葵ちゃん! お見舞いに来たよ!」
「よ。鹿之助、今日は一日中。青空さんと一緒にいたのか?」
扉が開かれ、見慣れた友人二人が入ってくる。
今日も今日とて、まえさき市で3時間もウンコしていた2人組は幸せそうで能天気な顔をしている。
だが、非日常を知らない彼等がいるからこそ、私は日常を謳歌できていると実感を得ることができるのだ。これはこれで1つの幸せなのかもしれない…。不謹慎だが、あんな話の後ではそんなことを思ってしまった。
それから面会終了時間の17時になるまでの間。今度は “4人で” 雑談を楽しむのだった。
〜あとがき〜
ひさびさにオリ主(
-夢の内容-
対魔忍の五車学園卒業生同窓会、会場は壁や内装が木製のような部屋の飲み会に誘われる。そこでふうまくんに連れられて井河アサギと鉢合わせるオリ主とオリ主視点の作者。
オリ主としてのアサギを見た感想は「なんかどっかで見た顔だな…」ぐらいの記憶で、作者は「その人、対魔忍のリーダー!その人は対魔忍のリーダー!テロリストに占拠されたビルの出来事を思い出して!」とかオリ主に対して内心で語りかけてました。心が
ひとまずビールをガブガブ飲みながら、酔いが回ったところで井河アサギ先生から「お前も対魔忍にならないか?」と言われて労働賃金条件契約書と就労規則書を見せられるという…。上弦の鬼の勧誘じゃねえんだからよ。もっとマシな言い方あっただろ。害悪
大学在学中に面接と試験なしで内定を貰ったけど、同窓会と飲み会の席でやることじゃねぇことを夢で見ました。
ビールを片手に、差し出された資料を膝立てながら見てそこで就労条件にオリ主と作者が色々ツッコミと質問責めと待遇改善を入れまくって、左隣に座っていたふうまくん笑顔を引きつらせてドン引き、正面のアサギ先生がしどろもどろに、影から見ていた
オリ主としての結論は決まっているのに、オリ主がここだけは心の作者と相談、連携して労働賃金条件契約書を引っ掻き回すの楽しかったです。こっちも害悪
ちなみに真っ先にオリ主は夢中で上原鹿之助くんを探してましたが会えなかったです。
オリ主は落胆してましたけど、作者はトキメキの衝動がはちきれんばかりでした。
みんな大学生ぐらいの顔つきになってました。