対魔忍世界へ転移したが、私は一般人枠で人生を謳歌したい+ 作:槍刀拳
対魔忍RPG 4周年、おめでとうございます。
Episode34+ 『光の陽葵/闇の日葵/Wひまり』
あれから何事もなく無事に
無事にすごくつまらない中間テストをふうま君とササッと適当に終わらせてから、まえさき市での出来事に関する事情聴取も適当に鹿之助くんの証言に合わせる形で説明をしました。あの場には
6月上旬には楽しい日常を鹿之助くん、ふうま君、蛇子ちゃんと過ごそうと考えていたわけですが……現在トラブルが発生してしまいました。
3人が揃いも揃って“課外授業”とやらに出かけてしまっているようで、普段つるんでいる友人が誰も居ない日常を一人寂しく送っています。たまに3人はフラッと数日に1回は帰ってくるのですが、どこかその顔は疲れていて声をかける余裕もないほどに疲れきっていて……いまの私にできることは、3人を余分に疲れさせてしまわないよう疲労に効く紅茶やホットアイマスクを通販で取り寄せて3人に配って回ることぐらいです。
「はぁ……」
時期も梅雨となり、ふと窓の外に視線を移せば雲は鉛空で、雨のにおいを充満させながらしとしととまるで私の心の中のように泣いています。
……なんて、ポエムを刻んでみたものの、要はすることが無くて暇だった。……家に帰ってからであれば、
また、私があの魔術師から回収した魔導書は『クトゥルフ2010』『クトゥルフコデックス』という『クトゥルフ神話TRPGのサプリメント』だったようだが、一介の魔術師が、TRPGのサプリを魔導書として運用しているとは到底考えにくく、つまるところ。これ等は私の説明書の拡張セットではないかと仮定している。どういう経緯でこれが、あのカルティストの手に渡ったのか。これ等の魔導書を入手する規則性については掴めていないが、現状としては使えるものは使っていく。そのつもりだった。
ひとまずはコデックスから読書を始めていく予定だ。
『クトゥルフ2010』と『クトゥルフ コデックス』は160頁からなる小冊子であり、『コデックス』から読み進めることを決めたのはこっちの方が面白そうなゾンビに関するシナリオが同封されていたことが大きな要因であった。
「ねぇ! キミが『青空 日葵』ちゃん?!」
「っうぉあッ!?」
窓を眺めて、暇な日常をどう過ごすか考えていたところだったが、バンッと音が響き渡るほどの勢いで自分の机を叩かれ、名前を呼ばれたことによって微睡んでいた意識が現実に引き戻される。
窓の外から叩かれた机の方向へと視線を戻すと、1人の一目で元気っ娘系女子とわかるような少女が目をキラキラと輝かせているのが視界に入ってきた。その姿は暖かな太陽のようなオレンジ色の光彩に、二つの豊満な乳。その髪型は梅雨のシーズンであるというにも拘らず私以上の癖っ気で、彼女の髪型を一言で簡潔に言えば、モンハンライズに登場するベリオロス女性頭装備のような髪型と言えばいいだろう。その肌はこんがりと小麦色に焼けていたが、私が前世で唯一知っている対魔忍の片割れ『水城 ゆきかぜ』よりは薄い……鮮やかな小麦色をしていた。
「ごめんね! びっくりさせちゃったかな?」
「えぇ、まぁ……少しだけ。確かに私は『青空 日葵』ですが……。……えっとあなたは?」
「私も“ひまり”!
ニコニコと笑う彼女は、その名にふさわしく後光が差すかのような太陽のように輝かしいオーラが放たれていた。御馴染みの3人が“課外授業”に出かけてしまい気力が喪失し、ジメっとした梅雨に気が滅入っている私とは対となる存在のように感じられる。
「あー……そうでしたか。えっと日ノ出さんは……」
「
「ひまり、ちゃん……?」
「うん! いいね! すっごくいい! 私ね、日葵ちゃんのこと噂で聞いていて、どんな子なんだろうって思っていたんだけど、会いに来た感じだとすっごい普通の子だね!」
思わずこれには苦い顔をする。
自分がやらかした行いとは言え、やはりやらかし案件を面と向かって言われるものは若干堪えるものがある。
……いえね? 私は普通にニコニコ五車学園ライフを送りたかったんですけどね? あまりにも命の危機に瀕したから、消火栓という得物に手に出ただけであって私は悪くないんですよ。紫先生も『全力でかかってこい』って言っていたような気がしますし。私はその言葉に応じただけです。
「いやぁ……。あはは……そういう陽葵ちゃんは、すごい元気っ娘ですね。かなり体力が有り余ってそうで疲れ知らずって感じがします」
「うん! よく友達からそう言われるね! それで日葵ちゃんはさ、音楽は『地獄デスメタル』が好きだって聞いたんだけど、楽器とか弾けるの?」
彼女は私の目の前で、ギターを弾く様なエアギターを始める。
……うん。……うん? また彼女の言葉から、まだ私の噂が非常に錯綜していることをなんとなく察することができる。
それにしても、私の噂は『地獄デスメタル』とはまたコアなヘビィメタルのサブジャンルを突いてきているようで……。私は細かく分類されたサブジャンル系統の話なら、地獄デスメタルはあまり好みではない。ジャンル的にはシンフォニック・パワーメタルやクルーヴメタル、シンプルなヘビィメタル派なのだけど……。
でもきっとここら辺の会話は、初心者には分かってもらえないし……。無益な好みの違いで戦争が始まりかねない話題だから、そっと修正する程度に留めて質問には答えることにした。
「うん……楽器に関しては、大体できますよ。ベース、ギター、ドラム、キーボード……いずれのポジションでも、バンドで欠員が出ても即参戦できるよう一通りは扱えるように練習はしています。陽葵ちゃんはどうですか? 楽器とか嗜みますか?」
「んー。私はどちらかというと身体を動かす方が好きだから、……あまりそういうのはやらないかな? ごめんねっ」
「そうですか……気にすることはありませんよ。でも、1点だけ修正しても良いですかね……?」
これはやはり初心者。ヘビィメタルのサブジャンルというもの自体をわかって無さそうだ。ひとまず 私が地獄デスメタルを好きだという噂を聞いて興味本位で聞いてみたと言った様子であって、この話は膨らみそうにはない。だが、私も修正したいことはある。それだけは告げなければならない。
「どうしたの?」
「私は地獄デスメタル好きというよりも、ヘビィメタル自体が好きな感じです」
「ぅん……? 地獄デスメタルとヘビィメタルは何が違うの?」
こればかりは『聞いてみれば、わかる』と一蹴したような返答になりかけるが……。まぁ、興味本位で聞いている以上、自ら進んで音楽を調べて違いを視聴する……なんてことはしないだろう。だからどういう違い程度の説明だけは行おうと試みる。
「地獄デスメタルというのは、ヘビィメタルに分類されるサブジャンルの事を指していますね。私たち学生の身近なものに例えるなら、そう……。五車学園に所属する各クラスの雰囲気をイメージしてください。ほら、クラスによって、そのクラスごとの特色や雰囲気があるじゃないですか、そのようなジャンル分けとなっている様式です」
「……んぅ?」
いまいち理解していないような顔をしている。まるでこれがアニメなら、吹き出しに黒い竜巻のようなぐじゅぐじゅの線が出ているかのような素振りと表情だ。
私も彼女になんとたとえ話をすればいいか、顎に片手を当てて左側に視線を移した。写した先にはクラスメイトの机があって、次の授業で使用される『数学I』の教科書が私の目に留まった。
「今の説明でピンとこなければ、高校で習う数学で例えてみましょうか。数学と言っても、高校で習う数学には5種類。数学 I、数学 A、数学 II、数学 B、数学 IIIとあるようにヘビィメタルにも様々な種類があるわけです。地獄デスメタルはそんな大きなヘビィメタルというジャンルの1つでしかないわけですよ」
「……」
私のジェスチャー入りの説明に今度は、彼女は目を丸くして聞いている。この様子だと、私の話を真面目に聞いているうえで わからないこともあるけど少しは納得していると言った表情が散見される。
「……すみません。……今の説明で理解していただけましたか?」
「なるほど……ヘビィメタルにも色々種類があって……うん! わかりやすい説明だったよ。ありがとね!」
「だと、いいのですが……」
梅雨の時期かつ、雨が降っており気圧などによって気が滅入っている私に対して彼女は太陽のような態度は変わらない。なんというか、彼女が光の陽葵だとすれば、さながら私は闇の日葵だろう。クラスメイトには私達のことがどのように見えているのか……? 少しばかり気になった。
「あとね! あとね! 今日は私、日葵ちゃんに見て欲しいものがあって、持ってきたものがあるんだ!」
「見て欲しいもの?」
「じゃじゃ、じゃじゃっ~ん!」
そういって彼女が取り出したのは、オレンジ色で前開きのライダースジャケットだった。右肩には太陽の紋章が刻まれており、過度な総丈詰めによって 胸部周囲しか衣服として機能しなさそうだ。まるで子供用の服を着ているかのようなサイズ感の合っていないジャケットにも見える。
「このジャケット、どう思うかな? 私の
「これは……なんというか——」
しかし、広げて彼女がその勝負服とやらを纏った瞬間、そのサイズの合っていない服という第一印象は払拭された。
思わず私の目もキラキラと輝いて、瞼が普段よりも自然と大きく開いていくのを感じることができる。私も着てみたくなるような……。思わず、席を立ちあがって、貴重な芸術品に触れるかのように、そっとライダースジャケットに手を置く。艶やかな触感とほんのりと温かい感触が指先に伝わった。
「カッコいいですね……! その幅の広く立った襟もさることながら、オレンジをベースとしたライダースジャケットに黒のライン。右肩についている太陽の紋章も陽葵ちゃんにマッチしていると思います! 最初こそ総丈が短く子供服のようなイメージでしたが、あえて総丈を詰めることによって自身のくびれとへそを強調し、なおかつライダースジャケットの重量を無視したデザイン。キマってますね……!?」
「でしょー!!? ヘビィメタル好きの日葵ちゃんなら、この感性っ! 絶対にわかってくれると思ったよ! いいでしょ?! いいでしょ!!?」
「え、なんですか?! その勝負服!? なんですか!? 最高にロックだと思います! いいですね! 好きです! 好きッ!!!」
「なんなら、日葵ちゃんも着てみる!? 着て見ちゃう!? 絶対に似合うと思うよ!」
「え、いいんですか!? いいんですかっ?!! 着ていいなら、着ちゃいますよ!? 着ちゃいますよ!?」
クラスメイトがうるさいのが2人に増えたという眼差しをこちらに向けてきているが、そんなことは今の私には知った事ではない。さらば、過去の私。闇の日葵として認識されるよりも……そんなことより今はジャケットだ。
彼女が脱いだライダースジャケットを受け取って袖を通して纏う。短時間にも関わらず彼女の衣服はポカポカと太陽に照らされているような温かさがあった。恐らくこれは、彼女の体温が他の人に比べて高いためだろう。まくり上げられ、袖上げされた袖が上腕の中ほどに来ており手首付近が非常に快適であった。窓に反射した私に対して、ファイティングポーズを取ってみる。ジャブを2~3発放ってみる。彼女がやっていたようにエアギターの動きをしてみる。
……すごい動きやすいし、総丈を詰めているとはいえそれ以上に素材が羽のように軽い!
良い! この服、良い!(語彙力崩壊の音)
「似合ってる! 似合ってるよ!」
背後からの同名の新しい友人のあいの手も入ったことにより、こちらのテンションが梅雨の憂鬱をブチ飛ばすような勢いで跳ね上がってく。『ちょろい』と言われたらそれまでだが、この服でテンションがブチ上がらない方が私にとってはおかしいのだ。
しかもこのファッションは今だからできるし、今じゃないと“できない”ファッションだからいいのだ。考えても見て欲しい。20代までならまだしも、三十路後半を越えた大人の女性が、こんなファッションで街中を闊歩してみたら……周囲から痛い目で見られるのは間違いない。これは学生だからできる、許される年相応のファッションなのだ。
………
……
…
授業開始のチャイムの音が鳴り響き、ここでやっと我に返る。
テンションが振り切ってしまった結果、時間を忘れてまで陽葵ちゃんの あいの手に乗っていたようだ。
少し記憶を振り返ってみるが、途中からあいの手が
「ご、ごめん! 熱中しすぎちゃったみたいで……えっと、返しますね!」
丁寧に脱衣をして、綺麗に服を折り畳む。授業開始のチャイムがなったのにも関わらず、椅子に座りニコニコと満面の笑顔で手を叩き、こちらにあいの手を入れ続ける彼女に謝罪と一緒に勝負服を返却した。
「いいの! いいの! 日葵ちゃんが楽しそうにしてくれていたみたいだし、私はなによりだよ! ねぇ! 今度の放課後は暇? 暇なら一緒に帰ろうよ! 私、もっと日葵ちゃんのことが知りたいな!」
「もちろん空いていますよ……! 放課後ですね! よろしくお願いします!」
「そんな『よろしくお願いします』だなんて、気にしないでいいよ! 日葵ちゃん、最近憂鬱そうだって聞いてたからね! 元気になってくれたのであればよかった! それじゃあまたね! 」
先生と入れ替わるようにして彼女は、大手を振って私のクラスから退室していく。その笑顔は本当に心の底から笑っているようで、星の瞬きとは違う 太陽のようなキラキラとした笑顔で、その温かさでこちらも自然と笑顔になるのだった。