対魔忍世界へ転移したが、私は一般人枠で人生を謳歌したい+ 作:槍刀拳
時刻は夕方。
今日も1人っきりのでの帰宅……ではなく。久方ぶりに友達と2人で共に帰路についている。その友人とは以前、学校から一緒に帰る約束をした
空はどんよりと鉛色で、傘をさす必要があるぐらいには雨が降っていたが、不思議と彼女のそばにいるとカラッと乾燥したような空気と不思議な雨であった。
「それでね、その時
「なるほど、その方が 陽葵ちゃんに私が『入学1週間で突然 頭にカバンを被って廊下で地獄デスメタルをゲリラライブ放送した印象派ファンキーフレンズ』と…… “現場を見た上で” 教えてくれたんですね?」
「そそっ! 今度、日葵ちゃんも私のクラスに遊びに来てよ! その話を教えてくれた時に
「ほうほうほう……。そうですか、そうですか……。いやぁー……奇遇ですね? 今のお話を聞かせてもらって、私もその
そして判明する私の魔改造された噂の発生源。
現在、帰宅路の道に二つの笑顔が通り過ぎていく。
1つは言わずもがな、陽葵ちゃんの私と楽しくお喋りをしながら、自分の友達を紹介して心の底から自然と沸き上がった溢れる感情を見せている楽しそうな笑顔。
もう1つは、どういう経緯で噂を流そうと思い立ったかは知らないが、日に日に悪化していく魔改造した噂を垂れ流していた本人に対し、怒りの衝動に駆られ 張り付いたような口角を上に吊り上げた私の威嚇的な笑顔だ。
なるほどぉ……。その
入学から約2週間後のふうま君に連れられて図書館へと向かう
そうかそうか、つまりきみはそんなやつなんだな?
「日葵ちゃん! すごい良い笑顔だねっ!
「えぇ、きっと飽きさせることのない巧みな話術で彼女も笑顔にして見せますよ。見せてやりますとも……今から既に凄まじく……実に次お会いできる日が楽しみです」
ニコニコとした笑顔でお互いの顔を見合わせる。彼女の顔は一切の陰りも見られなかった。それどころか自身が濡れるのも気にする様子もなく、傘を閉じたかと思えば爽快に飛び跳ねて、心の奥底から嬉しそうに大きく万歳の姿勢を取る様子が見受けられる。彼女の髪に当たった雨のしずくは、吸収されるわけでもなく撥水性のレインコートのように弾け跳ねのけていた。まるで太陽の化身のようだ。
だが、こちらの笑顔だけなら負けてはいない。一切の曇りのないジトジトとした闇の籠った笑顔で、傘を差したまま彼女の後を追いかける。
「ほんとに!? それじゃあ、日葵ちゃんのことを
「いえ、陽葵ちゃん。その必要はありません」
「? どうして?」
「なぁに……ちょっとしたサプライズですよ……。考えてもみてください。陽葵ちゃんの気になる人が、中々会いにくい学校中の人気者で、そんな人気者が突然目の前に現れて、自身に会いに来たことがわかったら……その時、陽葵ちゃんはどんな気持ちになりますか?」
「……! そっか! すっごく嬉しいよねっ!」
「そうでしょう。そうでしょう……? きっと……ッ!
「わかったよ! 日葵ちゃんってさ! 人を喜ばせる天才って言われたことない? 私は全然思いつかなかったよー」
「わぁはっはっは。そんなことはございませんよ。姑息で狡猾、小賢しい
その純粋な笑顔を向ける彼女の肩に手を置いて、
……純粋・素直な彼女を見ていると心なしか、将来が心配になってくる。私はどちらかと言えば、これまでの会話の殆どは殺意と悪意が籠められた発言であるのに対し、彼女はそんな様子を気づく様子もなく前向きにとらえて私と言葉を交わしていたからだ。
……忠告すべきだろうか? でも。彼女とはこの前の授業の合間の出来事で仲良くなったとはいえ、出会ったばかり相手だ。まだそんなに交友関係も深いわけじゃない。そんなことを言うのは野暮か……。でも、それでも心配だ。……悩む。
……彼女は出会ってから早数日で性格が大体理解できてしまうほどの元気っ娘で、素直なその性格と仕草の1つ1つや言動が男好みな可愛さを持ち合わせ、私と同じ高校1年生にも関わらずスタイルが良く胸が大きい。……
「こ、姑息で狡猾!? 今こうして話した感じだと日葵ちゃんにそんな感じはないよ!?」
「そうですか? ふふっ、ありがとうございます」
「あ、今の! そんなふうにも笑うんだね! 照れて笑う日葵ちゃんも素敵だと思うな!」
とまぁ、ごらんのとおり、私の言うこと話すこと。今の握りこぶしを作ってクスリと本心からの笑い方から仕草まで、ずっと全肯定である。
私なんかより、お前の方が何十倍もかわいいぞ。
勿論。すべて好意的な意味合いでの可愛さのことだ。
……そんな彼女がモテないわけがない。仮に彼女の魅力に気が付けない男がいるのであれば、そいつは確実に女を見るセンスがない。はっきり言ってカスだ。
この底抜けのポジティブ思考を伴侶にすることができた場合、自分が辛いときや苦難に直面したとき、一緒に絶望的な現状を打破する案をくれるような素晴らしい女神のような存在にもなり得るだろう。
「そういう陽葵ちゃんは
「うん! クラスメイトからよく言われるよ!」
「ですよねー。その性格、すごく……いえ、『すごく』なんて単語で語ることができるようなものではないですね。類稀なる良き個性ですので、これからもその性格を大切にしてくださいね」
「ありがとうっ! 日葵ちゃんも、その色々と機転が利く性格を大切にしてほしいな。日葵ちゃんなら、学校を卒業した後ももっと多くの人を笑顔にできるに違いないと思うからねっ」
お互いに顔を見合わせながら、ケラケラと笑い合う。いま私が今見せている笑顔には他意は含まれておらず、心の底から晴れ晴れとした談笑の笑みだった。
……でも、『もっと多くの人を笑顔にできるに違いない』か……。
だが、そんなことを私は成し遂げられるのだろうか? 私は学校を卒業した後は大学に通って、医師か、エンジニアか、作家か、司書になるつもりだ。株の資金繰りがうまく行ったら、仕事を趣味活動にして、鹿之助くんの正義の
人の身体を奪ってまで転生した私が……? もっと…多くの人を……? 笑顔に……?
「……あれ……? ……日葵ちゃん? 日葵ちゃん?」
「え。あ。ん、ごめん。ぼーっとしてた……ごめんね、何?」
「すごく難しい顔していたけど、大丈夫?」
気が付けば、陽葵ちゃんが眉を八の字にしながら、不安そうに こちらの顔を覗き込んでいた。
……いけない。悪いスイッチが入った。自分を咎めるのなんて、これは自宅に帰って布団の中でもできるはずだ。
「……うん。……雨がね。これで傘をささないで楽しくおしゃべり出来たらなぁーって思っちゃって」
傘を少しずらして、曇天を見上げる。天より降り注ぐ水滴のいくつかを眼球にわざと直撃させて、ずぶ濡れになった犬のように頭を振りながら目をこすって、落ち込む気持ちを整える。
「あうっ」
「あはは! 日葵ちゃんってば、おっちょこちょいだね! こんな雨なのにお空なんか見上げたらそうなっちゃうよ! だけど今度日葵ちゃんと帰るときには、確実に良いお天気の時に帰れるように晴れ乞いしといてあげるねっ。私の晴れ乞いは効果てきめんなんだから!」
「うん……ありがとね」
「気にしないで! 私達、友達でしょ?」
彼女は私の隣で童話の『あめふり』のような歌を口ずさみ始める。ここで『あめふり』のような歌と称したのは、途中で口に出していた歌詞の内容が雨が降ることを願うような内容物ではなく、それどころか晴天を願うような歌詞であったためだ。これがこの世界の特有のものなのか、それともただの替え歌なのか、私には分かりかねる内容ではあったが それでも楽しそうに歌う彼女を見ていると、どこか心が落ち着いていき……それに先ほどまで降っていた雨の強さも、小雨に変わっていっているようなそんな気がした。