対魔忍世界へ転移したが、私は一般人枠で人生を謳歌したい+   作:槍刀拳

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Episode36+ 『五車学園の森の怖い話』

「あっ! そういえばっ! ねぇ! 日葵ちゃんは怖い話って好き? こんな雨の日にぴったりな怖い話を知ってるんだけど、1つどうかな?!」

 

 ハミングを口ずさみながら私の隣を歩いていた陽葵ちゃんが、唐突に何かを思い出したかのような閃いた顔でこちらの顔を覗き込んできた。しかし……とてもじゃないが、彼女の顔は面白い話をするときの顔つきで怖い話をするようには見えない。

 だが、怖い話と聞いた瞬間、私の中でふと興味が湧きあがる。これは、前世でもよく見られた感情だ。怖い話には常に裏の歴史や隠された真実に絡んだ気になる事情が1枚か2枚絡んでいる。私はある時を境に、この裏の事情や謎を解き明かしたいという好奇心があふれるようになっていた。

 それに今回は裏の事情を探ることや謎の解明のみならず、もしも彼女の話がシナリオフックとして流用できそうなものであれば、クトゥルフ神話TRPGのネタにして鹿之助くんや、ふうま君、蛇子ちゃんにTRPGシナリオとして回したって良い。

 陽葵ちゃんから告げられた“怖い話”という単語に今回も片眉がスッと持ち上がり、自然に顎へと手の親指と人差し指が張り付く。

 

おぉ~っ!? 興味があるって顔だね!」

「えぇ、かなり気になります。是非とも聞かせてもらっても良いですか?」

「もっちろん! そのためにも話題を振ってみたんだから!」

 

 先ほどの、少し落ち込んだような状態から一変して、わかりやすい興味のある仕草に対して彼女も気が付いたのだろう。傘を差し直して、ゆっくりと歩幅を小さくして私の横に並んできた。

 

「これは卒業した先輩が、先輩の友達の友達の恋人から聞いた話なんだけどねっ? 五車学園の北に位置する深い森の中に雨の日の夜になると、洋館が浮かび上がるそうだよ!」

「ふむふむ……。少しメモを取りながら話を聞きますね」

「いいよ! それでね。そこには、本来その場所には草木も一本も生えない朽ちた瓦礫の山が転がるばかりで何もないはずなんだけど、学校の先生達は口を揃えてその場所には行ってはいけないっていうの。日葵ちゃんはまだ学校集会には出たことないから分からないとは思うけど、生徒指導部の蓮魔(はすま)先生がお話する時にそのことはしてくれるから、今度注意深く聞いてみるといいよ! それでねっ! 理由は分からないけど、とにかくその場所は行っちゃいけない場所で、夏休みに入ると学校側がアルバイトとして卒業生を何人か呼んで森に入ろうとする生徒を捕まえる程でね! 私も実際には行ったことはないんだけど……。確かに私が物心ついたときあたりから、その場所には近づいちゃ駄目ってお母さんやご近所さんから聞いたことがあるんだ」

「その雨の降る日だけに現れる洋館なんだけどね! その先輩の話では名前の通り雨が降ったその日だけは完全に復元されていて、正面には木製の大きな両開き扉があって建物内に入ることが出来たんだって! 外は視界が悪くなっちゃうほどの雨で、晴れた日には何もないはずなのに建物内は雨漏りをするどころか完璧な洋館って作りだったんだって! それで、その先輩が友達と洋館を探索していたら、突然首のない赤と黒、白を基調とした中世のドレスを纏った首のない女の亡霊が出て、洋館に入った侵入者を地獄に導きに襲い掛かって来てね!!! もうブワーって!ブワーって!!! こうやってヒグマが立ち上がって襲い掛かるみたいにブワーって!脚も動かさないで、足がないのにその先輩たちが洋館から出ていくまでずっと休む暇がないぐらいに散々ブワーって!追いかけまわしてね! こうやって腕を振り上げて、抱きしめるように捕まえて動けなくなった無防備な先輩をガブーっ! って噛みついてね!

 

 彼女の発言を忘れてしまわないように、スマホを取り出してメモ帳機能を使ってメモを取る。更地に雨の日の夜だけに現れる突然の洋館。襲い来る首のない赤と黒、白を基調としたドレスを纏った首のない女の亡霊。先生方も入るな。遊びに行くなというほどの禁足地……。

 陽葵ちゃんの話し方も少しはあるだろうが、怖い話としてはインパクトとして欠けていた。というよりも、そんなニッコニコの笑顔で怖い話をされても……。こちらを怖がらせようとヒグマの下りから、傘を放り投げて威嚇するレッサーパンダの姿勢を取りながら私に抱き付かれても……傍から見れば面白い話をしている女子高生が感極まってじゃれついているようにしか見えない。

 ……あっ♥ 威嚇するレッサーパンダの姿勢から、メモを取る私に抱き着いてきた陽葵ちゃんから良い匂いがする。まるで、快晴の日に干した布団のような……お日様のにおい……。怖いどころか和んでしまう。

 

 一旦、陽葵ちゃんから和やかな香りがすることは置いといて、TRPGのシナリオフックとしての情報としては十分だった。

 舞台は雨の日の夜だけ姿を現わす洋館。なぜ亡霊は洋館と共に姿を現わすのか……謎を解き明かすための重要NPC……首のない女の亡霊。シナリオ傾向としては、シティ、クローズド……どちらでも行けそうだ。シティなら、どうやって雨の日の夜だけに姿を現わす洋館を見つけるか調査をしての洋館への調査、暴れる亡霊の鎮魂。クローズドなら、ハイキングに遊びに来ていた探索者が突然の雷雨に見舞われ追われるように向かった先が、雨の日の夜にしか現れない洋館、しかしそこはシリアルキラーの屠殺場だった。

 ……どちらの線でも面白いシナリオが書けそうだ。

 

「でね!? なんとかその先輩の恋人は逃げられたんだけど、他の人はみんな首のない亡霊に捕まって……行方不明になっちゃったんだって! この話、怖かった!?」

「そうですね、その先輩の恋人を除いた全員が行方不明になってしまった下りは怖かったです」

「ほんと!? やったぁ! 怖がってもらえた! この話で怖がってくれたのは日葵ちゃんで2人目だよー! クラスのみんなにも一通り、今と同じように話してみたんだけど、みんな『怖くない』って言いうんだよ!? 私はすっごく怖かったのに!」

「……同じように話したんですか? ……男子生徒にも、今のように?」

「うん!」

 

 うん。……うんじゃないが。そりゃ、怖くないだろうよ。話の最後で、こんな女から見ても顔つきがかわいい。仕草もかわいい。スタイルは羨ましくなるぐらいにムッチリとした……お日様の香りのする異性からハグしてもらえるとか、その男子生徒共は最初どんなご褒美かと思っただろうよ。

 話の題材としてはTRPGの素材として用いれるぐらいには良い題材だとは思うのですがね。語り手がね……。語り手の口調とボディランゲージと、ボディタッチと満面の笑顔がね……うん。どう見ても怖い話をするソレじゃないんだ。抱き着かれて、陽葵ちゃんからお日様のにおいがしてきたときは、私も抱きしめ返したくなるぐらいにかなり和んだ。

 

「ちなみに他に誰が、その話を怖がったのですか?」

「それがさっきお話した日葵ちゃんに会いたがっている人……心寧ちゃんだよっ!」

 

 うん。……これは友達として怖がってあげたのだろうな。私には分かる。

 

「そうですか……。……でも、首が無いのにどうやって亡霊は噛みついたのでしょうか? 疑問が残りますね」

「あ、やっぱり日葵ちゃんも気になるでしょ!? でしょっ?! それでね! 今度、話をしてみて興味を持ってくれた3年生の先輩2人と、私と、心寧ちゃんと、同じ学年の神村ちゃんと一緒に週末の大雨の日。その洋館へ行って首なし亡霊の正体と、本当に洋館が出現するのか真相を掴んでみようと思うんだけど……。日葵ちゃんもどうかなっ!?」

 

 いつもの私なら、現地調査。……ということであれば喜んで食いついていただろう。

 しかし、でも……そんな視界の通らないような雨の降る夜に人工的な光が1つもない森の中に入っていくのは……。少……いや、かなりリスクが高すぎやしないだろうか?

 

「あー……。そのお誘いは嬉しいけど……陽葵ちゃん?」

「ん?」

「その調査は……やめておいた方がいいと思いますよ? いえ、盛り上がっているところ恐縮かつ白けてしまう発言ではありますが……。いったん一緒に調査へ向かう人たちと話し合って、今すぐその調査を取りやめた方がいいです。雨の日の夜に森の中に入るだなんて、急な段差からの滑落の危険性があるかもしれないですし……。遭難した日には、いくら初夏とはいえ雨風に晒されて低体温症で凍死の危険性だってあります。危ないですよ」

 

 ニコニコとして、どこか危機感が足りていない彼女を咎めるぐらいの強い口調で静止を入れる。

 流石にそんな場所に学生だけで行くというのは、危険だと少し考えればわかることだ。私も先ほどのメモを取っていた時のような笑顔を止めて、危機感のない彼女をしっかりと見つめた。

 森の中は、空や地上共に障害物が多く、捜索ヘリや携帯会社によっては電波が届かない可能性だって出てくる。特にここは秘境の町、グンマーなのだ。関東なのに他県より警戒するに越したことはない。

 

「あれー? 日葵ちゃんなら神村ちゃんと同じように『幽霊なんて、私がぶっ飛ばしてやるぜー!』ぐらいの勢いで『首がないのに噛みつける亡霊の構造を解明してみせます!』って乗ってくれると思ったのに……。もしかして、日葵ちゃんって噂で聞くよりも幽霊とかは苦手な感じ?」

違います。私が危険で恐ろしいと言いたいのは、そんな視界の悪い雨の日に視界の悪い森の中で、雨の日の夜にしか現れない洋館を探しに行くこと自体が危険だって言っているんです。陽葵ちゃんその調査……考え直していただけませんか?」

「あはは! 大丈夫だよー! そのために光源役の私と神村ちゃんがいるんだし! いっぱいライトをもっていく予定だから道中は昼間みたいに明るいよ! それに舗装はされていないけど、ちゃんとした道は通るし! 道中に関しては何も恐いことなんてないよ!」

 

 あ、駄目だ。彼女は自分たちが、まさか遭難するなんて思っていないような……ちょっとした近所にピクニックしに行くぐらいの遠足に行く前の小学生のような顔をしている。私が真面目な顔をして話をしているけど、危険性をまったく理解していない。

 彼女はまず異性や魔族に襲われてしまうような心配をするよりも、その底抜けのポジティブ思考で危険な場所に自ら突っ込んでいってしまうような習性を心配すべきだったか……。くっ……前世で大体、事件を持ち込んでくる数多くの友人達の顔と重なって、ちょっと頭が痛くなってきた。

 

「……わかりました。ですが、私が一緒に付いて行くかどうかは ひとまず保留でもいいですか? 私も色々事前の“情報収集(事前準備)”をしたいので……」

「もちろん! その洋館調査は来週の土曜日の18時30分に五車学園裏門に集まって向かう予定だから、それまでには気持ちと準備を整えておいてねっ!」

「かしこまりました。来週の土曜日、18時30分に学校の裏門に集合ですね? ……予定を予め空けておきます」

 

 この場で押し問答しても仕方ないだろう。彼女には聞こえないような小さな溜息を吐いて、先ほどまで彼女の怖い話をメモしていたスマホを弄りスケジュールに洋館探検の項目と、その前日までの期間に事前準備期間の設定を加える。

 どうやら、彼女は彼女を含めた5人でその洋館に向かう予定だったようだし、彼女がダメなら 主催者を見つけ出して全体解散を促すか、陽葵ちゃん以外に直談判をしていって 多数決で諦めさせるほかない。

 流石に1人になれば、そんな危険な場所に向かったりしないだろう。……向かわないよな?

 

 




~閑話~
青空 日葵「それと、陽葵ちゃん?」

日ノ出 陽葵「なにかな?」

青空 日葵「これは持論ですが……幽霊は悪霊を覗いてそこまで恐ろしいものではないですよ。真に恐れるべきは禁忌に触れたカルティストです」

日ノ出 陽葵「??? そうなの?」

青空 日葵「そうなんですよ。いいですか? カルティストを見つけたら、どんなにいい人でも近づいちゃだめ! ですからね!」

日ノ出 陽葵「んぁ……わかったよ」


~あとがき~
 日葵(神葬)は、五車学園の生徒を対魔忍の世界線だから戦える系の一般人認識していますが、五車学園の生徒は自身対魔忍だと自覚し。なおかつ日葵のことも一部の対魔忍を除いて対魔忍だと認識しているので……執筆の際、発言の温度差で笑っちゃうんですよねぇ……。

・日葵(神葬)の認識
 雨で視界が悪い森に足を踏み込み、噂と言えど失踪者が出ているような場所に向かうだなんて危ない。止めないと。こういう場所の調査は、晴れた日とか、もっと他の安全な場所を探検するべきだ。そもそも対魔忍でもない一般人が不用意に近づくべき場所じゃない。
 …ところでちゃんと事前の情報収集は済んでいるのだろうか? 探索者としての経験論として、情報不足は死を招くぞ。

・日ノ出 陽葵の認識
 噂話で聞いたことのある突拍子もない行動とか聞いている話よりも、日葵ちゃんって意外と真面目で心配性なんだなぁ……。(日葵ちゃんも含め)私達、全員対魔忍だし、3年生が2人も居て仮に魔族と遭遇とかあってもそれくらいへっちゃらだ(怖くない)し、何か突然のハプニングが起きても自分たちで対処できる年頃だと思うのに……。
 ……この前まで入院してたらしいし、まだ対魔忍として色々な経験回数が少ないのかな?

 今回の話は、ここら辺のすれ違いにも着眼点を置いて閲覧すると物語を一層深く楽しめるかもしれません。

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