対魔忍世界へ転移したが、私は一般人枠で人生を謳歌したい+ 作:槍刀拳
今回から本格的に時間軸が前回とは異なってきます。
「日葵ちゃんっ!」
そんな時、廊下で善意の元。見張りをしてくれていた陽葵ちゃんが教室に飛び込んでくる。
あともう少しだったんだが……残念、時間切れのようだ。だが、問題はない。まだ別日に時間はある。
しかし、ここである違和感にも気が付いた。普段から笑顔の陽葵ちゃんが、その笑顔を今まで見たことのない迫真の慌ただしい表情に変化させながら両掌をこちらに突き出して抱き着かんばかりの勢いで走り寄ってきたからだ。
「ありがとうございます。陽葵ちゃん、そんなに慌てなくても大丈夫ですよ。来たのはどっちですか? 紫先生ですか? 蓮魔先生ですか?」
「両方! でもね!でもねっ! 蓮魔先生が大好きな
「えっ!? 両方+αぁ!?」
ちょ。陽葵ちゃんの言葉にこのクラスの学生たちが騒めきだした。
え、ちょっと、待ってくださいよ……。皆さん、何なんですか? なんなんですか!? そのどよめきは……!? 成り行きとはいえ、他のクラスの窓ガラスを1枚、叩き割ったぐらいじゃないですか。な、な、なん、なんでそんな総動員なんですか!? たかが窓ガラスを1枚、割ったぐらいですよ?! 成り行きで!!!?
「でも、氷室先輩は紫先生に野次馬を近づけないように指示されていて、直接はこの教室には来ないみたい!」
陽葵ちゃんの発言で、凄まじい速度で我先へと教室から外へ逃げ出していく生徒たち。生徒の中には、そのまま帰宅するようなノリで鞄を抱えて出ていく生徒の姿すら見える。
なんだろう!? その氷室先輩という方が、こっちに向かうのを止めたっていう報告は喜んでも良いものなのかな!?! でも素直に喜んでいる場合でもないんだろうな! だって、みんな蜘蛛の子を散らすように脱兎のごとく散っていくじゃん!!!
……私の手が震えはじめた。
非常ベルを作動させて消火栓をバラ撒き、校長室に呼び出されただけでもあんな恐ろしい殺気だったのだ。前回の2.5倍の数の殺気に当てられたら、私がどうなってしまうかわかったものではない。ひとまず、震える手でチョークを手に持って黒板に、謝罪の一文『窓ガラスを割って、ごめんなさい』と大きく文字を書き残す。
それから、出口に向けてダッシュ——
「また貴様か……青空 日葵」
「ヒァッ……」
扉が開く音共に、ドスの効いた地獄デスメタル以上の恐ろしい女性の声と、ベルトを二つに折り畳んで勢いよく引き延ばしたかのような強烈な彼女が手にする鞭のしなる音。
……緊張で身体が強張っていくのを感じる。
振り向いた先には軍帽を被って、全身が美味しそうなブルーベリー色の服を纏い、眼鏡を掛けた一本鞭を手にした……女教論
……その背後に、
そしてこれは余談だが……彼女、私の前世での友人『
「貴様はどうして……こうも、問題ばかり引き起こすのか……」
「いえ、待ってください! 私はまだこの学校では1回しか問題を起こしてないですよ!?」
「
「待って! なんだか、私が主原因みたいな言いぐさですけど! あれは紫先生が——」
教室、前方側の出入り口を封鎖する蓮魔先生。
そして蓮魔先生を潜り抜け、鍔に手を掛けたまま居合の要領でにじり寄ってくる黒田先輩。
片手にチョークを持ったまま窓際に追い詰められる私。
その時。教室後方側の扉からインテリっぽいメガネを掛けた紫先生と、赤を基調とした私服に金属の槍を持った完全な
……姿は見えないけど廊下には氷室先輩も居るんでしょう? 既に完全な包囲網を敷かれている。
「青空……」
「あぁ! 噂をすれば紫先生! どうもお世話になっています! その眼鏡似合ってますね! それと先生のおかげで、鹿之助くんを持ち上げられるだけの筋力が身に付きました! ありがとうございます!」
「ふむ、ありがとう。そして、上原を抱えられるようになったこともとてもいいことだな。いいことだ、が……。……そうだな。お前以外に居ないよな……他のクラスで頭にカバンを被りながら、その頭で窓を叩き割って絶叫LIVEを開く女子生徒だなんて」
「ちょ、ちょっと? む、紫先生……? その失望の仕方は私の心へナチュラルにダメージが入るのでやめてもらっていいですか?」
じわりじわりと近づいてくる黒田先輩を視野内に収めながら、紫先生には明るい挨拶をしておく。先生の筋トレのおかげで(翌日で筋力が付くとは思えないが……)まえさき市での事件では、鹿之助くんを護ることができたのだ。本当であれば、授業の際に伝えるつもりだったのだが……まぁ、こんな形で会えたのも何かの縁に違いない。それにお礼は早いことに限る。
……でも、そんなに大きなため息をつきながら、残念そうな声色で目を伏せられると私だって心に傷がつく。
「それで、そちらの女性が眞田先輩ぃー……ですか、ね! お初にお目にかかります。『青空 日葵』です。だからっ……その……眞田先輩も黒田先輩のようににじり寄ってくるのをやめてもらっていいですか!?」
「ああ、紫から話は聞いてるぜ?
「ま、負けたら……?」
「お前を殺す」
「……ぁぁはっはっはっははぁ……ほんとにすみません。この前、胸ってか、肺に穴が開いて退院したばかりなんですよ……。まだちょっと本調子じゃないっていうか……肺活量もやばいっていうか、激しい運動をしちゃうと穴が開いちゃうってか……。ノーマルなぁ方の……生徒指導でお願いしたいのですが……」
両手を前に突き出して、ジュラシック・ワールドに登場する
「何言ってやがる……?」
「…………」
「これがお前用のノーマルな生徒指導だぜ!!!」
「ッ!」
「……ッ!」
眞田先輩が、血に飢えた獣のように大きく目と口を開いて、頭上で槍を大旋回させる。その大きな動きに私が釣られた瞬間に、黒田先輩の抜刀術による一閃がこちらの右上腕に飛んでくる。
彼女の居合術の有効範囲がどれだけ広いか何も情報を握っていない。この攻撃はノックバックして逃げるよりも屈む形で一撃を〈回避〉した。
バァン!!!! ————ガシャン!
ま、窓枠ぅうううううっ!?
嘘だろ!?今の一撃で、私がダクトテープで補強した窓枠が拉げて吹き飛んで外に落ちたぞ!?
クソッ! なんだあの抜刀術! 刃先がまったく見えないどころの話じゃなかった!!! そもそも人に振るって良い技じゃない! クソッ! クソッ! 身体で完全に刀身と鞘を隠してやがる! あれじゃあ、
「オラオラァ! よそ見してる場合じゃねーぞ!!!」
今度は槍撃が飛んでくる。彼女は階段を駆け上がるように軽やかに容赦なく机の上に登ると、高台から槍を振り下ろしてこちらの腹部を突き刺すかのように突っ込んでくる。すかさずこちらも着弾地点から走る形で〈回避〉する。〈応戦〉なんて余裕はない! あの攻撃は、槍+腕力だけの攻撃じゃない。槍+彼女の全身の重量の乗った攻撃だ。捨て身の技だが開幕からそんな技を放ってくるということは、よほど腕に自信があるのだろう。こちらがカウンターとして〈応戦〉に成功すれば会心の一撃を叩き込めるかもしれないが、失敗したときを考えて〈受け流し〉て〈応戦〉するだなんてリスクは冒せない!
ちょっとまって!? 確かにこれは私が撒いた種だけど、私は窓ガラス割っただけなのになんでこんな目に遭わなきゃいけないの!? おかしくない!?ねぇ、おかしくない?!
「あー! わかりました! わかりましたよ! 今回の私の生徒指導が暴力で解決されることはよくわかりました! ですけどね! 他の一般生徒を巻き込むのは間違っていると私は思うんですよ!? 私にだってそれくらいの良識はありますぅ!!! そこで、この場で一番まともそうな紫先生ェ! せめて心寧ちゃんが退避してから生徒指導の方をですねぇ——」
気合と自分に喝を入れるため、首を上に向けて声を張り上げる。わずかな隙を作るためだけに速水 心寧ちゃんを出汁にするのは忍びないとは思うが、これも私の作戦のためだ。陽葵ちゃんに噂を吹き込んだツケとして付き合って……——
「青空。速水なら既にここにいるぞ?」
「……」
「えっ……?」
……この企みは早急に瓦解を告げることになる。
彼女は何食わぬ顔で紫先生よりも奥の廊下で佇んでいた。こちらにあの表情の変わらないタレ目で悲しげな目を向けている。そのまましばらくの間はこちらの様子を眺めていたが……黒田先輩と眞田先輩の初撃の攻撃を避けた私を、紫先生の隣であしらう紫先生に対して健気に話しかけながら褒めちぎっている陽葵ちゃんの手を引っ張って連れていく形で見えなくなっていく。
え? つい
「オラァッ!!!!!」
こちらの僅かな思考停止を読んで、付け込むかのような激しい槍による怒涛の連続突き。
即座に紫先生のときと同じように、私も机の立ち並ぶ長物を振り回しにくい地形に逃げ込み防御姿勢を取る。私の注意力を目の前の眞田先輩ばかりに向けていてはいけないことは理解していた。背後を取られないように黒田先輩からも逃げ回る。
「そんなもので私の槍撃が止められるとでも? 随分ナメた真似してくれるじゃねぇか!」
「ぐ……っ」
しかし、私の読みは甘かった。彼女の槍は容赦なく。教科書が詰め込まれ、それなりに重量があるはずの机をまるでホウキで埃を撒き散らすかのように薙ぎ払って、こちらに対する砲撃の玉として飛ばしてくる。ぶつかればそれなりのダメージは確実。飛んでくる机の軌道を読んで直撃を避けるが……それでも机の中に入っていた教科書などが私と衝突し、僅かに痛みでひるんでしまう。
鍵のかかった防火扉を蹴り飛ばして抉じ開ける紫先生といい、完璧な〈隠密〉にも関わらず 正確にこちらの居場所を突き止めてくる蓮魔先生といい、机を羽毛のように跳ね飛ばす眞田先輩といい、窓枠を吹き飛ばす黒田先輩といい……なんなんだ!? 一体なんなんだ! この国立学園は!? 登場人物、全員バケモノか!!!
もう、お前等が対魔忍に勧誘されて対魔忍になればいいと思うよ!
神話生物どもの方がまだかわいく見えてきた! あいつ等はカルティストに招来されるか、闘技場にでも現れない限りこうやって事前情報も無しに真正面から殴り合う必要なんてほとんどないからな!!
「……私から視線を外すなんて、“噂通り”度胸はありますね————ですが、蓮魔先生の手を煩わせる必要もありません」
「——あ゙ぐッ!」
眞田先輩と眞田先輩の槍撃へ気を取られている間に、黒田先輩による刀による突きが背中に刺さる。彼女なりの手心として、こちらが背骨を損傷して下半身不随にはならないようには骨の無い内臓を突いてはくれているものの……それでも身体が弓なりに仰け反って、耐えがたい痛みと共にその場でチョークを握りしめ粉にしながら転がった。
「蓮魔先生に鍛えられたこの剣技——素晴らしいでしょう?」
背後から真剣であれば付着していた血液を振り払うかのような風を切る音と、凛とした勝ち誇ったかのような声が聞こえてはくるが……。残念ながら、彼女の言葉は私の右耳を通ってそのまま左耳に抜けていく。
……どうやら、大喰らいの泥濘の時のように貫通していないことから 彼女の鞘の中身は鉄の棒か何からしい。それでも痛い……激痛であることには変わりはない。先端が鋭利な槍のようになっていなかったから、貫通はしなかっただけで……。
……これが生徒指導で良かった。
~あとがき~
Episode37の感想にてsnodra兄貴姉貴にこの小説でどれぐらいクリティカル、ファンブルしているの? という質問があったので回数を数えました。
・episode38時点
クリティカル(通常時)…0回
クリティカル(戦闘時)…2回
ファンブル(通常時)……4回
ファンブル(戦闘時)……3回
前世のノリで突っ込んできた
狂人の洞察力…1回
完全に記録しているわけではないのですが、
ダイスの女神「3倍に勝てるわけないだろ!」
※ファンブル処理について、クトゥルフ神話TRPGの6版、7版のダブル処理をしているので、通常時のファンブルの値が100のみから、釘貫 神葬の所有技能%の成功率によってファンブル率が96~100へと増えたりしています。
※狂人の洞察力とは:発狂した際に特定の技能に失敗することで、特定の原因や状況、存在を見抜けるという技能です。『6版-91頁(選択ルール)、7版-165頁(選択ルール)』