対魔忍世界へ転移したが、私は一般人枠で人生を謳歌したい+ 作:槍刀拳
Episode6+ 『入学初日から、不運と踊っちまった話』
こんにちは!
私『
いま私は五車学園の学園長(校長)室で、軍帽を被った全体的に美味しそうなブルーベリー色をした服装を纏うSM系一本鞭所持の女教師に拉致されたうえ、さらに校長と全身純白色の粉と泡に染まった鬼教師、それと誰か(多分前から校長室に待機していた他の教師)の4人に囲まれる形で集団圧迫生徒指導を受けています!
私を取っ捕まえた軍帽を被った全体的に美味しそうなブルーベリー色をした服装を纏うSM系一本鞭所持の女教師が途中で退席したことは、現在発生している圧迫生徒指導の空気を緩和するかと思いましたが、決して! 断じて! そんなことはなかったです!
……私が引き起こしたことを考えるならば、妥当な状況なのかもしれませんが……入学初日にやらかした経緯は、不可抗力な案件だと思うのです。
結論から話します! もう私に『わくわく! 五車学園ライフ!』はきっと訪れません! 修羅学園覇道ライフとなります!
………
……
…
「それで……どうして先ほどから瞼を開けないのかしら?」
「薬液が目に入ったせいかもしれません! 病院を受診したいので、このまま救急車を呼んでもらって……もう帰っても良いですか!?」
「……どう見ても足元にしか かかっていないように見えるが???」
「……」
「……ごめんなさい。……正直なことを言うと、お三方からの圧が強烈で、このまま目を開いたら恐怖で《心臓発作》をしかねなくて……怖くて目が開けないです……」
……ことの顛末は、私が病院から早めの自主退院を済ませ、
………
……
…
「今日は新入生を紹介します。今日から『五車学園 高等部』へ入学することになった『
「初めまして『青空 日葵』です。特技は工、工作。趣味はゆるキャンとカラオケ。まだ引っ越してきたばかりで右も左も分からない新参者ですが、どうぞ仲良くしてください。これからよろしくお願いします」
「はい、よろしくね。それじゃあ、青空さん、そこの空いている席を使って」
「はい!」
黒髪染を済ませた髪をポニーテールで束ね、好印象を得られる にこやかな笑顔で挨拶する。
そう。これが私。五車学園の制服を纏った『青空 日葵』もとい『釘貫 神葬』である。
相変わらず髪は癖っ気でボサボサ感は否めず……五車町に引っ越してくる前に『青空 日葵』の地元でストレートパーマをかけたが、それでもこの髪質が直ることはなかったので、頭頂部を髪留めリボンで抑えつつ、仕方ないとあきらめることにしたのだ。
それだけでも、以前の自分よりはかなりマシな状態ではあると思える。アレだ。詐欺広告にある別人なレベル程度にはイメチェンしている。
まばらな拍手を背中に受け指定された席へ移動する。それから、ついに他の高校と変わらないような授業が始まるのだった。そう……。ここまでは完璧なスタートラインを切って、休み時間に女子学生と軽いトークを交わす完璧な日常だったのに……。
………
……
…
「あ、青空……さん、だっけ? 次は体育だぜ。更衣室の場所とかわかるか?」
4限目も終わり、母親が作ってくれた美味しいお弁当を芝生で食べて教室へ戻る。
クラスメイトである他の女子生徒が食堂から、なかなか帰って来ないことに気が付き周囲を見渡していると背後から声が掛かった。そちらに視線を向けると五車学園男子生徒の制服を纏っているものの、艶やかな栗色の腰まで伸びる長髪に羽の髪飾りを付け、緋色に紫色が混じった瞳をした少女のように見える身長約140㎝ぐらいの少年が視界に映る。
一瞬、小中学生かと思ったが……。制服が高校の制服であること、男子用制服の着用から彼が男子高校生であることがわかった。
その言葉遣いは、ぶっきらぼうではあったけど、どこか優しい彼なりの気遣いを感じる。
「あ、いえ……まだこちらには来たばかりで……わかりかねます。もしご存じでよろしければ教えて頂いてもよろしいでしょうか?」
「おう! もちろんだぜ! そうだ、俺は
彼は『
学内地図を見させてもらうが、ここは一度では把握しきれないほどに広大過ぎた。更衣室に移動する間にも10代未満の子供たちともすれ違う。それにしても、小中高一貫の学園というのもなかなかに珍しい。
………
……
…
私は案内中のつなぎの話として、彼と前の学校について(『釘貫 神葬』が経験した高校生活ではあるが……)を話していた。
「——とまぁ、前の学校ではそんな感じでした」
「へぇー……。青空さんって、勉強できる感じなのか?」
「そんなことはないですよ。平均的、ですかね。……どうしてそんなことを?」
「いや、さ。俺は工学とか物理学って内容は習ってないから、ちょっとよくわからないんだけど……青空さん、座学の時間のとき。いきなり余裕そうに授業中サボって、その本を読んでいるとき凄く楽しそうにしているし、授業をサボっているのに先生から問題を投げられたのにアッサリと解いていたからさ、どうなのかなーと思っただけ」
「……。工夫してたんですけど、見られちゃってましたか……。実はあの授業の内容は中学生時代にもう“習った”内容でして……あの本は好きなので読んでいただけです。〈工学〉と〈物理学〉の話なら、大人と比べれば齧った程度です。……それでも勉強は“平均的”ですよ。そういう、上原さんは?」
「俺か? 俺はなぁー……人よりできない感じ……だな。でも、いつかは周りのやつを見返せるだけの点数を取ってギャフンと言わせてやるんだ!」
「そうなんですか……。でも向上心があるのは、とてもいいことだと思います。……もしよかったら、ですけど……勉強のことでわからないことがあれば、お手伝いしましょうか……?」
「……いいのか?」
「はい。代わりに……この町に来たばっかりなので、五車町のことや怖い先生などいたら教えてくれると嬉しいです」
「おう! ギブアンドテイクってやつだな! もちろんだぜ! そうだ。次の授業自体はハードだけど、今日はさくら先生が担当していて、さくら先生は優しいから青空さんでも多分大丈夫だと思う! あ、ここが女子更衣室だ! 着替え終わったら、今日は基礎体力作りの日だから校庭に集合な!」
「ありがとうございます。またあとでお会いしましょうね」
気が付けば、いつの間にかに更衣室の前に辿り着いている。
上原君に頭を下げながらお礼を言って、私は更衣室に入り着替えを済ませる。室内には数人のクラスメイトが既に着替えており、なかなか来ない私を心配して待っていたと話してくれる。どうやら中々来ないことに気づいて呼びに行こうとも考えたらしいが、誰かが一緒に連れてきてくれるだろうと考えて待っていたらしい。……なるほど?
設備から考察するに多分、私立学園(?)ということもあってか、その授業の時間帯に貸し出されるロッカーに制服を入れ、貸し出されている体操着に着替えて部屋を後にした。
……この私立学園、かなり学費高そう。両親から学費に関する支払いは問題なさそうな話は聞いていたけど……。
……そりゃあ、『青空 日葵』は学校側から推薦入学できるような学生じゃないが『ぜひ来てください』なんて言ってくれるよな。長期入院によって、受験勉強にも間に合わない落ちこぼれから金を搾り取れる絶好のカモだもん。
………
……
…
外に出ると、グラウンドでは既にほとんどの生徒が集まりウォーミングアップをしている。
その中に混じって、明らかに青い顔をして脂汗ダラダラの状態でうつむいている上原さんが居た。
「……上原さん? その……大丈夫ですか……?」
「……! 青空さん、ごめん! 俺、いきなり青空さんに嘘ついた! 本当にごめんな!」
心配になって体調が優れないのかと声をかけると、突然頭を下げて謝り始める。
「え?」
「今日、さくら先生。用事があったみたいで不在で……! 代わりに
「……もしかして?」
「うん。……怖い」
『まじかぁぁぁー』と、思わず心の中で晴天を見上げる。
でもこの時の私は『ここの教師ならいずれ顔を合わせることもあるだろうし、ある程度の把握は大事だろう。頑張れ、私。今日は家に帰って、ホームセンター 五車店に遊びに行くんだろ!』と自分自身を励ましていた。
「だ、大丈夫だって! 先生も今日入ったやつに厳しくしないとは思うし、運動が苦手なら俺も一緒に居てやるからさ! な! 一緒に頑張ろうぜ! な!?」
「ありがとう……。頑張りましょうね……」
おしとやかなキャラ作りをしつつ、自分を鼓舞しながら開始のチャイムを待つ。チャイムが鳴った直後に明らかにクラスメイトたちの雰囲気が一変した。……よほど怖い先生のようだ。
……そして。この鬼教師こそが、私が作り上げたかった学園生活を粉砕しに来た悪魔だったのだ……。
………
……
…
現れたのは藍色の髪を後頭部で束ね、地面についてしまうほどに長髪の女性だった。虹彩はLED信号機のような輝かしい赤色をしている。彼女が怖い教師という様子も表情の雰囲気から察することができる。彼女の顔は眉尻が吊り上がっており、口元はきつく引き締まっている。彼女を一言で表すならクール系な美女と言えば一番伝わりやすいかもしれない。
「全員そろっているようだな。……お前が『青空 日葵』……か。話は聞いている。去年、ビルを占拠した東雲革命派、もといテロリストを4名、生身で返り討ちにしたそうじゃないか。まずは、その実力と基礎能力を見させてもらう。全力でかかってこい。他の生徒は見学! 各自、彼女から学べる技術があるならば、それを習得することを目指すように!」
……。……!? ……今、なんつった……? ハァン?! 今!なんつった!?この女教師?!
なんで! アァアッイ!ナンデ!?なんでそんなことを知ってるの!? その件は、隠し通したかったのに! ナンデナンデみんなの前でそれ言っちゃうの!?
周りの生徒たちの反応を見ても、「え。マジで?」って反応になってんじゃん!!! バカじゃないの!?
……そう。終わった。終わったのだ。私の『わくわく五車学園ライフ()!』は初日で終焉を迎えました。
クソ! せっかくアヘアヘ対魔忍ライフ!から離れて、学園生活を謳歌しようと思ったのに初日でこれだよ!!! クッソ、本当に人生はクソだ! いや、これは人生がクソなのではない。
そんな悪態を内心で吐きながらも笑顔のまま凍り付く私を他所に、紫先生は羽織っていた上着であるジャージを脱ぎ丁寧に折りたたむと、クラスの学級委員長に持たせる。ジャージの下は、動きやすそうな深いスリットの入った白のチャイナドレスであり、巨乳を強調したソレは非常に扇情的だ。
それから自分の背丈以上の巨大な机を背負いあげ、私の目の前に置き、更にその上に武器を乱雑に並べる。……はい?
いろいろツッコミたいところはあるが、どこから突っ込めばいいかわからない。というより、ツッコミが絶対に追いつかない。
「選べ」
「え?」
「この中から、好きな武器を選べと言っている」
え、何? 私なにを試されているの? 他の生徒を見ても、無言で私をガン見するだけだし、上原さんに至っては目を大きく開いて細かく頷いているし。……なんだろう。ボブルヘッドみたいで可愛い。
紫先生は木製の戦斧を持ち始めるし……え。待って。私の知っている普通の学校はこんな武器を持たせるようなことをしないんですけど? え? これはこの世界の常識だったりします……? こっちは対魔忍世界に来てから、まだ約1年しか経っていないし。病院では基本的な座学しか学んでこなかったから、ここら辺の事情は判断に困るような案件なのですが……?
それはともかくとして、思春期の生徒の前でそんな痴女みたいな恰好をする教師もどうかと思いますよ? 性癖が歪んじゃう!
「あの……質問をしても——」
「…………」
あ、これ駄目だ。目が『これからお前を殺す、だが公平に戦うためにまずは体力を全回復してやろう』とか言っちゃうような、そんなカルティストの目をしている。……相手がカルティストならやるべきことがあるが、目の前にいるのは学校の先生だ。
自分でもわかる嫌そうな顔をしながら、机に並べられた武器を見る。刀、槍、鎖鎌、斧、杖、弓、拳銃……。うん。全部、私の知る限りでは高校の授業で使うようなものじゃないな。
前述した通り病院にいる間、ほぼ座学しかしていなかったために、そこまで武器に関して扱えるものはない。一応、『釘貫 神葬』の方で格闘術や数点の武器の扱い方はいくらか習得はしているが。あくまでもテロリストに私の格闘術が通じたのは、相手が油断していたことや、完全な戦闘のプロではなかったことが大きい。ゆえに、体育の授業で戦闘訓練を始めちゃうような教師に対して私の格闘術が役に立つとは思えないし、それこそ素手で挑もうものなら……その手に持った戦斧で
『新クトゥルフ神話TRPG』選択ルール:121頁“ノックアウト打撃”?
……ムリムリ。攻撃が当たらないことも1つの要因だが、このタイプは、手斧ならぬ戦斧という重量と癖のある得物を武器として使用するという観点から、それなりに持久力や体力にも長けているのが予測できる。ほぼ確定的に学生のノックアウト打撃なんかで気絶なんかしたりしない。
「ハァァアァアア↑↑(明らかに地の利が悪すぎる)」
今まで出したこともないような裏声の奇声を発しながら、震えた手で武器に触れ始める。もうこの授業だけで、アヘンをキメたようなア変ア変顔を2連続で行ったが、誰も笑わないのが逆につらい。
てか、誰か止めて。上原さん、助けて。ちょっと一緒に頑張って。
「……せ……。……せ、せんせぇ……」
やった。何度か上原さんを見たことが功を成して……1人、クラスの中でたった1人。静まり返り緊張した赴きでこちらをただ見ているだけの生徒達の中から手を上げてくれる。
「なんだ。上原」
「あ、青空さんは…………その……」
「その? …… な ん だ?」
「ぅ……。……ぅぅ……」
……否、やっぱいい。
ひと呼吸を置いて、私は大きく息を吸い込む。
「ヒャァッハァーーーッ!!!」
『!?』
「せっかくだから、私は黒の
甲高い奇声を発し、全員の意識を上原さんからこちらに集中させる。
手に持った拳銃を映画のような手さばきでコッキングを済ませ、ズボンの背中部に挟み込む。
……上原さんは震えていた。彼も本当は紫先生が怖いのだ。
だが、それでも誰も止めてくれないこの状況で、ただ1人……勇気を振り絞って挙手をし、先ほど顔合わせしたばかりの私を助けようとしてくれている。もう……。もう、その気持ちだけで十分だった。
……可愛い者は下がっていろ。この場は、やはり私が1人で何とかする。
……何とかするから、今の乙女をかなぐり捨てた世紀末覇者的な奇声は忘れてくれ……。
選んだ武器は、拳銃(と言っても電動ガンだったが)、六尺棒、そして先生が脱ぎ 学級委員長に託した“長そでのジャージ”だった。
「ほぅ……」
紫先生は眉をひそめる。それからウォーミングアップのようにその模擬戦斧を目前でぶんぶん振って見せた。あんなので殴られたら、昏倒では済まされないだろう。すなわち死である。死。
学園長ー! 教育委員会ー! PTAー! それから児童相談所ーッ!! 仕事してぇーッ!!!
「よし、では……」
「何を勘違いしている? まだ私の
「……なら早くしろ」
そのまま先ほど学級委員長から受け取った紫先生のジャージの両腕袖先を弄り、結び目を作って、五車学園の小学生が遊ぶ砂場まで持っていき……おもむろに地中へ埋め始める。
おそらく、この場に居る誰も予測していなかったのだろう。見学席にいた全クラスメイトの目が私に釘付け。上原君は、小刻みに震えながら利き手の指先を口の中に入れ、信じられないと言った様子。マナーモードバイブかよ。チクショウ!!! 仕草が可愛いなぁっ! あの子!
……紫先生は…………あっ。怒っている様子……けどなぁ————
「……」
間違いなく今先生に効果音を付けるなら、ゴゴゴゴゴ……と付けるのが妥当だろう。顎が上に突き上げ見下すような目つきで私を睨みつけている。
だが、これは私の戦術の一環にしか過ぎない。相手を怒らせることは予定にはなかったが、この際有意義にその感情を弄んでやる。この行為……、本来の目的としては武器をつくることだ。これで私の武器は5つになった。即席にしては上等だ。怒らせるつもりはなかったのは本当だ。目的は別にあった。
「よくも……アサギ様から頂いた……私の大切な……大切なジャージを……」
ゆっくりと腕に馴染むよう近接武器を素振りする私に、紫先生は何かをボソボソとつぶやいている。
なるほど、誰かからもらったものだったようだ。遠くてよく聞こえなかったが……それはもう大切な人からもらったジャージだったらしい。結構なことだ。
……家に帰ったらあのジャージをクリーニングに出そう。
……生きて帰れたら、だけど。