皆さんは『魔神戦争』を知っているだろうか?『魔神戦争』とは数千年前に始まったとされていて、どのような理由で、どのようにして始まったのかは不明。いつ、誰が始めたのかもわからない戦争に、俺や他の神々も巻き込まれていき、戦争前までは神々の仲は比較的良かったのにも関わらずある日突然、テイワット中を戦火が包み込んだのだ。
「…本当に攻めてくるとはな、渦の魔神オセルとその妻、渦の余威跋掣…」
「ああ。彼等もまた、『魔神戦争』の被害者なのだろう。我々と同じように、利用されているに過ぎないのかもしれない」
天衡山の頂上で荒れ狂う波を見ながら俺と、隣にいるモラクスは呟いた。モラクスは岩の力を司る神で、数多くいる神の中でもトップクラスの実力を持っている。だが、その強さを、俺が発揮させなかった。斯く言う俺は全元素を扱えるので、俺がやったほうが効率がいい、というのが理由の一つである。無論、本当の理由は別にあるが。
「バルバトスはデカラビアンの死によって風神となった。その怨恨は俺が一身に受け止めておいた。案ずることはないだろ?バアルとバアルゼブルに関しては…バアルゼブルなら怨嗟ごと断ち切りそうだからな。助けに行く必要はないだろう」
「だが…」
「お前達には俺より長く生きてほしいんだ。この世界に住まう存在だからな」
だが、と俺は続けた。
「オセルと跋掣のやり方は認められない。ヘウリアに関しては…止めようがなかったが、今度は止めるさ。罪のない民の命を奪わせるわけにもいかないからな」
「また、怨嗟を全て背負うつもりか?」
「悪いか?」
暫しの沈黙の後、モラクスははぁ、と溜息を吐いた。
「お前も、この世界に生まれ落ちたうちの一人だろうに」
「悪いな。性分だ」
「止めても行くのだろう?」
俺は首肯いた。はぁ、とモラクスは再び大きな溜息を吐いた。
「臥薪嘗胆、魔神の怨嗟はお前を蝕み、いつか身を滅ぼすことになるぞ」
「構わないさ。それで俺が殺してきた魔神達の恨みが晴れるのならな」
「…もう止めはしない」
「感謝しよう」
俺は風元素を使って浮き上がった。これからもきっと沢山の魔神を殺すことになるのだろう。そしてそれによってまた魔神が戦争に巻き込まれていく。
「死ぬなよ、アガレス」
「俺の実力知ってるだろ?大丈夫だ」
俺、アガレスも、そのうちの一柱だった。
〜〜〜〜
璃月港の東の海から水でできた多頭龍の姿をした魔神が姿を表し、咆哮した。その風圧で水が舞い上がり、璃月港を巨大な波が襲った。
「こりゃあまた、派手にやってくれてんな」
『グルルルゥ…』
渦の魔神オセルと渦の余威跋掣が空中のある方向を見て喉を鳴らした。
「オセル、跋掣、お前達は直接モラクスに戦いを挑めばよかったのにな」
視線の先には、人。銀髪は暴風に靡き、漆黒の衣服をはためかせ、赤い2つの瞳がオセルと跋掣を見下ろしていた。彼は刀を生み出し、手に握った。
「民を狙う必要はなかったのにも関わらず、今璃月港を滅ぼそうとしている。これは命を無駄に散らす行為であり、到底許される行動ではない」
跋掣が彼へ向かって噛み付いてくる。それを彼は軽く避けると、右手を突き出して強大な炎元素の力で跋掣の首の一つを吹き飛ばした。元が水なので凍らせるか、蒸発させつくせば殺すことができるためである。
「よって、世界に住まう民のため、貴様等を殺す」
『『ガァァァァ!!』』
オセル、跋掣の咆哮と共に彼、アガレスは戦闘に入った。
オセルは多頭龍の強みである手数の多さを活かし、噛みつきによる波状攻撃を仕掛けている。跋掣はオセルを水のブレスで援護していた。
「炎斬」
アガレスは軽くブレスを細かく斬り刻み蒸発させると、オセルの噛みつきを回避しつつその頭の一つに踵落としをかけ海面に叩きつけた。しかしすぐに次が来る。オセルはブレスを吐き、更に跋掣も便乗してブレスを吐いた。
複数のブレスが複数の方向からタイミングをずらして飛来する中、アガレスは至って冷静に、タイミングを合わせて避け、2つを対消滅させ、璃月港にもしれっと向かっているブレスは、
「炎波」
それをいとも容易く他のブレスごと消し飛ばした。オセルの残りの首は5本、跋掣は2本である。合計七本、そして時間をかけ過ぎればオセルも跋掣も首を再生させる。アガレスは若干の焦燥感に駆られながらも至って冷静に、急がずにじっくりと追い詰めることを選んだ。
本気で殲滅すればすぐに終わる。だが、アガレスは討伐した後のことも考えている。例えば炎元素でオセルも跋掣も一度に蒸発させることは可能だが、それでは蒸発した水蒸気が多くなり、三日三晩、あるいはそれ以上の期間大量の雨が璃月港に降り注ぐだろう。
では凍らせた場合はどうなるか、それは蒸発よりも被害が少ないが、海の魚も凍らせてしまうため生態系に影響が出る。何より氷元素は気温も下げるため海だけでなく地上の生態系にも影響を与える可能性があった。
アガレスはそれらをせずに、尚且時間をかけずに二体の魔神を倒さねばならないのである。
「流石に少し厳しいか?まぁ、やらねばならないんだから仕方ないんだろうがなぁ…」
少しムスッとしながらオセルと跋掣の攻撃を捌きつつ、踵落としで海面に叩きつけたオセルの頭が突如下から奇襲を仕掛けてきた。これには堪らず、アガレスは風元素での後退を余儀なくされる。
「っ…不味いな。いや、やるしかないか」
そのタイミングで全ての頭がブレスを放つ態勢に入ったのである。つまり、大技が来るのである。オセルと跋掣はタイミングを合わせて極大のブレス攻撃を放った。
無論、アガレスの後方には璃月港がある。アガレスは真正面からブレスを捻じ伏せるつもりである。
「仕方がない…多少の影響は黙認してくれ、モラクス。勿論だが全力ではやらないからな」
アガレスはブレスが直撃する直前、一言だけ呟いた。
「…元素爆発、終焉之神」
次の瞬間、ブレスが最初から何もなかったかのように消滅した。オセルや跋掣は何が起こったかすらわからず、ブレスを乱打した。が、全てアガレスの手前で掻き消えていった。
「何が起きたか、わからないだろう。俺も使うのは初めてだしな」
アガレス自身、この元素爆発を全力で使うことは忌避している。軽く使っただけでこの有様なのだ。全力で展開すれば世界の法則が乱れてしまう可能性が高いのは自ずとわかることだった。
アガレスの元素爆発のメカニズムは、『全ての元素の展開』である。元素同士が様々な反応を呼び起こし、アガレスの周囲では常に超電導、過負荷、蒸発、溶解、燃焼、結晶、拡散、凍結、感電、激化、開花などのあらゆる元素反応が起き、そして互いを打ち消し合っている。つまり。
「俺の周囲に元素が存在することは許されない。物理攻撃にしても元素の反応でどんな武器も破壊される」
低温から高温、或いは高温から低温に何度も何度も一瞬の内に何百回も変化させられる。加えて過負荷などの爆発も起こるため応力が働く。そのため脆くなった金属が応力によって破壊されてしまう。つまり、完全なる防御であり、また攻撃でもあるのである。
アガレスはゆっくりオセルと跋掣に近付いていく。オセルと跋掣は必死になってブレスを打ち込むが全てが無効化されていた。やがて耐え兼ねた跋掣の首の一つが噛みつきを仕掛けた。
「愚劣極まりない」
パァンッとキレイな音を響かせて跋掣の頭の一つが吹き飛んだ。オセルも見兼ねてブレスを吐きながらの突貫に出るが、どちらも消滅した。
「全く以て嘆かわしい。お前達も等しくこの世界に生きる一つの存在だと言うのに…」
少ない犠牲で多くを救う。これが正しいのか、アガレスは自問自答をせずにはいられなかった。
「悪いが、ここでお別れだ。オセル、跋掣、お前達の怨恨は全て俺が背負ってやる。だから…今は休むといい」
アガレスはオセルと跋掣に向かって突進していった。
魔神戦争はしばらく経ってからようやく収束し、『八神』のメンツが変わることはなかった。この戦争により世界のパワーバランスは大きく崩れ、アガレスも魔神たちの怨恨により、魂に深い傷を負った。それでも彼は皆が無事だったことを大層喜んだという。だが誰の眼にも明らかであった。アガレスの摩耗が、他の神々より早く進んでいることが。
テイワットには誰もがよく知る7つの国のみが残り、敗戦した他の魔神達はアガレス以外の八神の支配を逃れ、離島に逃げ込み邪神と化した。そうして、アガレスが復活する500年前まで『八神』として世界の秩序を保っていくのである。
と、いうわけで実はこの弊ワット…弧雲閣が存在しないんですね。モラクスは魔神を少ししか封印しておらず、現弧雲閣にはちょっとした小さい島しかないので誰もいないんです。
現在その島々は北斗姐さんのアジト的なものになってます。イメージ的には規模のかなり小さい金リンゴ群島ですね。
知らない方向けに説明すると、金リンゴ群島は原神の夏イベントであった別マップなんです。知ってる方はあれをイメージしてくれればいいかと思います。
魔神戦争でバルバトスと雷電将軍は正規の歴史を歩んでいますがモラクスは全く別と言っても過言ではないんですね。モラクスに関しては敵が多く、勿論彼単体でも正規の流れ通りににはなるんですがアガレスがいることによってある程度の敵をアガレスが引き受けてモラクスへの怨恨をも一身に背負っています。なので夜叉の皆も魔神戦争の際に魔物が沢山溢れなかったので死んでません。彼等が死んだのは500年前ということになります。
さて、次回は遂に…かもしれません。