忘れ去られたもう一柱の神   作:酒蒸

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珍しく即日投稿…やるじゃん、私!


閑話 ホワイトデーの贈り物

「さて…どうしたものかな…」

 

俺は救民団本部の自室内をうろうろ歩き回っていた。

 

勿論、悩みに関してはずっと一つの事柄で悩んでおり、いい案を見つけて飛び立ったは良いものの、俺の案は確実に壁にぶち当たって同じところに不時着し、というのを思考の中で繰り返している。

 

我ながらよくわからないがそのままの意味だ。良い案を思い浮かべて窓から飛び出したはいいものの、何らかの問題が生じることに思い当たってしまう俺はそのまま自室に帰ってきてしまうのだ。

 

完全に脳内と現実の行動が一緒に行われているため説明が難しいのである。まぁとにかく、俺が一つのことで悩んでいることがわかればいいだろう。

 

では何に悩んでいるのか、それは単純明快ホワイトデーである。

 

以前バレンタインデーの日(閑話 バレンタインデーの贈り物を参照)に料理のできない影が俺のために作ってくれた菓子に勝るとも劣らないお返しが思い付かないのである。

 

「いや、だってさ…凄い頑張ってくれたのにただの手作りで返すわけにはいかんじゃん…どうしよう」

 

思わず独り言を呟くくらいには悩みに悩んでいた。

 

と、まぁ俺一人で悩んでかれこれ一週間…いよいよ何も思いつかないのでここは指示を仰ごうと思う。

 

 

 

まずは一人目、我等が自由の神にしてモンドの風神、バルバトス大先生に救民団本部までお越し頂きましたーパチパチパチ。

 

的なノリでいたらバルバトスにドン引きされたので二度とやらないことを俺は誓う。

 

「こほんっ…で、どうしたの?僕をわざわざ呼び立てるなんてさ」

 

折角貢ぎ物のりんご酒をこれから楽しむ予定だったのになー、と席に着きながらも不満そうに俺を見るバルバトスだったが、

 

「いや、今すぐ相談できるのがお前くらいだったからな…」

 

俺のその言葉を聞くと心底驚いたらしく目を剥いて口をあんぐりと開けながら大きく仰け反った。

 

「あ、あのアガレスが…僕に相談事を…!?」

 

「お前は俺のことなんだと思ってるんだ?」

 

はぁ、と俺は溜息を吐くと腕を組んで席を立った。

 

「…お前以外のやつに相談する」

 

「わーっ!ごめんっ!冗談だからっ!」

 

閑話休題。

 

現在、救民団本部には俺とバルバトスしかいないので、珍しく自分で紅茶を淹れて落ち着く。

 

少しの間そうして俺達は落ち着いていたのだが、不意にバルバトスが真面目な表情を浮かべて口を開いた。

 

「で、ほんとにどうしたの?」

 

バルバトスは昔から俺が他人に相談するときは、大抵重たい話であることを知っている。そのためかなり身構えている様子だった。

 

俺は生唾を飲み込むと紅茶を少し喉に流し込んで潤わせてから口を開いた。

 

「…いや、バレンタインデーに影から手作りのクッキーを貰ったんだ」

 

「ふむふむ」

 

「で、お前も知っての通り影は料理ができないのに俺のために頑張ってくれたわけなんだが…それに見合うお返しが思いつかなくて…」

 

バルバトスは俺の口から紡がれる言葉を聞いてどんどん無表情になっていった。そして、

 

「…どうすればいいと思う?」

 

そんな俺の質問に対して、バルバトスは大きく溜息を吐くとにっこり笑って、

 

「自分で考えなよ」

 

と言った。俺は少し呆けてすぐに席を立って退室しようとした。

 

「わーっ!ごめんっ!冗談…ではないけどまぁ落ち着いて!!」

 

「落ち着いてられるか!!やっぱ別のやつに聞くべきだった!!」

 

再び閑話休題。

 

「───こほんっ!全く、妙に今日は落ち着きないねアガレス」

 

バルバトスの呆れたような言葉に俺は精一杯の小さい抗議をした。

 

「いや…別に落ち着きなくないが」

 

「普段の君なら、とっくに冷静な頭で最適解を見つけてるはずだよ」

 

だが勿論バルバトスには俺の精一杯の抗議の裏にある混乱や焦燥、そして影を喜ばせたいという気持ちをしっかり見抜かれているだろう。

 

だからこそ、バルバトスは苦笑いを浮かべつつ、

 

「君は君なりの答えを見つければ…それできっと大丈夫。あとは風が導いてくれるはずだから」

 

そう言ってくれた。俺は少しだけ冷静に戻った頭で考え、そしてバルバトスに告げた。

 

「前半はともかく…後半は適当だろ」

 

俺の言葉にバルバトスは肩をビクッと震わせるとウィンクをしながら舌をちょろっと出して笑う。

 

「……えへっ」

 

「えへってなんだよ」

 

 

 

バルバトスはアドバイスをなんだかんだして帰って行った。曰く、「あとは自分でわかるでしょ?」とのことだ。なんだかんだでニコニコしながら帰って行ったので、自分で言うのも何だが俺に頼られて嬉しかったのかもな。

 

俺にとっては重要だがバルバトスにとっては日常の些細なことで頼られたようなものだろうし。

 

「…にしても、俺なりの答えか…」

 

バレンタインデーに影は凄く頑張ってくれた。俺も頑張らなければならない、見合うものを用意しなければならない、と躍起になりすぎていたのかもしれないな。

 

影は自分なりに考えて俺に手作りのクッキーをくれたはずだ。だったら俺がどうするかなど…自明の理だろう。

 

そういえば前に凝光から面白い商売話を教えてもらったことを思い出した俺は、それを参考にさせてもらうことにして行動を開始するのだった。

 

〜〜〜〜

 

3月14日の夜、稲妻城天守閣にて。

 

通常通り執務を行っている眞は、隣でそわそわしている影を見て少し微笑むと、

 

「アガレス、遅いわね…影」

 

そう言った。言われた影は、というとビクッと肩を震わせて顔を真っ赤にして眞から顔を隠した。

 

勿論、体全体の落ち着きがないので顔を隠したところでバレバレである。

 

そんな可愛らしい自らの片割れとも言える影のことを見守る眞だったが、不意に部屋の入り口に視線を向ける。

 

部屋の外から誰かが走ってくる音が聞こえてきたかと思うと、珍しくノックもせずに扉が開いた。

 

息を切らして入ってきた人物を見た眞は微笑みを浮かべる。

 

「あら、随分と遅かったわね」

 

その言葉に対して入ってきた人物───アガレスは額の汗を拭いながら、

 

「……すまん、遅れた」

 

と恥ずかしそうに言った。影はその声を聞いて凄く嬉しそうな顔をしたが、赤面したままだったので相変わらず顔を背けている。

 

アガレスはそんな影に視線を向け首を傾げたが、すぐに何を思ったのか、

 

「影、遅れて本当にすまない…怒っているなら叱ってくれて構わない…」

 

とそう言った。眞は勿論影の状況が手に取るようにわかるのでアガレスの勘違いも見当がついている。そのまま眞は部屋の隅っこに移動して見守りの態勢を整えていた。

 

影はアガレスの言葉に焦ったようでバッと顔を上げて───

 

「「ッ!?」」

 

───思ったより顔が近かったようでお互いに赤面していた。

 

少し間を置いて、アガレスが遂に懐から璃月の意匠が施された小包を取り出して影に手渡した。呆けている様子の影に、少し恥ずかしそうなアガレスは一言、「ホワイトデーのお返し…今開けてくれ」とだけ告げた。

 

影は赤面したまま首を傾げて小包の封を開ける。

 

「ッ!!これは…?」

 

小包の中には小さい箱が入っていて、その中には紫色の綺麗な宝石が中央に嵌め込まれた指輪が入っていた。

 

「俺からのプレゼント…用意するのに少し時間がかかってしまってな」

 

アガレスはいい加減落ち着いてきたらしく指輪を影から貸してもらうと、蝋燭の火に宝石を照らした。

 

すると、今まで紫色だった宝石がアガレスの瞳の色と同じ紅に染まった。影は驚いて目を見開きつつアガレスを見た。アガレスは少し笑うと、

 

「プレゼントの用意に時間がかかった理由はこれだよ…変色性を持つ宝石を探していたんだ」

 

と言ってもアガレスが宝石を見つけることができたのは凝光やモラクスの協力があってこそである。

 

変色性を持つ石は自然光と白色光の下でその色を変える性質がある。中でもアガレスが探していたのは前者で紫色、後者で赤色に変化するものだった。

 

勿論かなり貴重なもので値は張ったがそこは奮発したわけである。

 

「その…つけてみても?」

 

影は暫くその指輪の様子を見た後アガレスにそう問い掛けた。アガレスはああ、と一つ返事をすると指輪を影に返さずに影の左手の薬指に嵌めた。

 

流石に眞や八重神子から色々教わっているため影も左手の薬指に指輪をすることの意味がわかっている。

 

「あ、アガレス…?」

 

「…俺は悩んでたんだ」

 

影が驚いてアガレスを見る中、アガレスはぼそっと呟いた。

 

「影の焼いてくれたクッキーは…本当に幸せな味がした。あのクッキーの味は『永遠』に俺の記憶から消えることはないだろう」

 

だったら、とアガレスは少し目を瞑って続けた。

 

「俺も影の記憶に『永遠』に残ることをしてやりたかったんだ」

 

「だからこの指輪を…?」

 

アガレスは首肯いた。

 

「丁度、伝手でこういう石があるって聞かされていてね」

 

言いつつ、アガレスは愛おしそうに影を見るとその頬に手を添える。影は無抵抗だった。

 

「お前の綺麗な紫色の瞳や頭髪に、きっと似合うと思ったんだ。やっぱり案の定だったな」

 

アガレスはそのままニッと笑うと惚けている影に告げた。

 

「どうだ?『永遠』に記憶に残る贈り物になったか?」

 

影はその言葉に、赤面しながらもしっかり首肯いて返すのだった。

 

…余談だが、眞が後から部屋にいるのを思い出した二人は羞恥心で爆散したのは…言うまでもないだろう。




アガレスさんは他の子には手作りクッキーやらをあげました。

ハッピー…ホワイトデー(血涙)
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