忘れ去られたもう一柱の神   作:酒蒸

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今回若干内容暗いです。自分なりに頑張って胸糞悪くしましてございます。


番外編 細部音近の人生

二年前まで、俺の人生はつまらないことだらけだった。当然だ。十年間、稲妻に潜り込んだスネージナヤのスパイとしての活動を完璧にこなすだけの人生に彩りなどあるはずもない。俺は裏の顔として暗殺者でもあったが、性格上、その活動が芳しくないこともわかっている。

 

三年前、母国と稲妻が戦争状態に突入した。俺は自分の腕に自信があったが、決して戦場には出ず、裏方に徹した。稲妻を内部から崩壊させる工作、そしてファデュイの部隊を稲妻城まで手引する手筈、その全てを整えた。

 

「わかってるよなぁ?何年経とうが、お前には俺を倒すことなんて出来やしねぇんだよ」

 

稲妻には、俺が体よく『調教』した男がいる。その男が眼前で蹲り、震えていた。

 

「だから、お前の目的のために俺もちょっとだけ、協力してやるって言ってんだぜ?これ以上、お前も…」

 

俺は男の頭を軽く踏みつける。男の震えが幾分か増した。

 

「…痛いのは嫌だろ?」

 

「は、はいっ!せ、精一杯務めを果たすと此処に誓います!誓いますのでどうか…どうかお許しを!」

 

突如、男が堰を切ったように怒涛の勢いで声を上げるので、思わず不快感に眉を顰めるながら言う。

 

「おい、誰が口を開いていいと言った?」

 

「ヒッ!?」

 

俺は部下に合図を出すと、男を連行させた。男は何やらぎゃあぎゃあと喚いていたが興味がないので聞き流した。あの男は稲妻でもそれなりの良家である只野家の長男だ。夜一人で歩いていた所を捕獲し、ファデュイにとって都合が良いように『調教』したのだ。とはいえ、全てあの御方の指示だが。

 

「こういう回りくどいのはやっぱり気持ち悪ぃな。腕っぷしで黙らせちまえばいいのによ」 

 

 

 

稲妻城を襲わせる当日にも、只野への『調教』は必要だったようで、仕方なく洗脳という手段まで使用した。そこまでしたというのに、味方のファデュイも、アイツも稲妻城を攻め落とすことは出来なかった。

 

「ああ、使えねえ…あー糞が。使えねぇな。使えねぇ使えねぇ使えねぇ使えねぇ使えねぇ使えねぇ使えねぇ使えねぇ使えねぇ使えねぇ!!」

 

苛立ちが込み上げてくる。どいつもこいつも役立たずだ。使えない。使えない。俺がやってれば、俺が前線に立てばもっと上手くやれた。稲妻城だって落とせたし、あの雷電将軍だって俺にかかれば殺せるはずなのだ。

 

あー糞が。腹立つ腹立つ腹立つ腹立つ腹立つ腹立つ腹立つ腹立つ腹立つ腹立つ腹立つ腹立つ!!

 

「巫山戯るなよ糞が。あー糞、まーじで糞。使えもしねえ味方なんか信じるほうが馬鹿だったわ。ま、ゴミが消えて俺も清々するわァ!」

 

そうだ、俺は何も悪くないんだから俺一人で稲妻を滅ぼしちまえばいいんだ。そのためには協力者も必要だしよぉ。

 

俺は協力者を探しに稲妻城郊外へとやってきていた。

 

「あ?あ〜…あの女、使えそうだな」

 

泣きながら稲妻城から離れていく女を見て、俺は思わず舌舐めずりをした。

 

 

 

「───おい、どうしたんだよ?」

 

「…何よ、アンタには関係ないでしょ」

 

俺はまず、その女に優しく接触した。これで落とせれば楽出来たんだが、女は俺を突き放した。

 

「いや、だって泣いてんだろ?何があったんだよ」

 

懲りずにそう言ってやると、女は一層言葉をキツくしていった。

 

「だから、アンタには関係ない!」

 

「ッチ」

 

俺は頭を掻き毟った。女は俺の行動を見て引いているようだがどうでもいい。

 

「あ、あああああああ!糞、糞が!なんでこんなに上手く行かねぇんだよ!優しく近付けばいけると思ったのによぉ!」

 

だが、俺は天啓を得た。

 

「そうだ…そうだったなぁ…手に入らないもんは力で奪えばいいだけだ。お前の心も、同じようにしてやんよ!!」

 

「き、キャッ…こ、来ないで…!」

 

女が逃げようとした。だが、俺は強い。最強だ。こんな女を逃がすわけがない。案の定、俺に女は捕まり、地面に叩きつけられて意識を失った。

 

「ククク…コイツの顔、見たことあんぜ…こいつは使える…ククク…はははははははははは!!」

 

俺は女の首根っこを掴み、引き摺って移動するのだった。

 

 

 

俺の潜伏している稲妻城の下で岩に縄で縛り付けた女───黒川を、現在『調教』していた。

 

「お前、黒川って名前だよなァ?確か、奥之院ってヤツと仲良かったんだっけ?」

 

「ッ!!」

 

「俺さ、ファデュイと縁があんのよ?奥之院ってヤツ、目障りだったし、消してもいいと思ってるんだが…」

 

「鋼樹に何をするつもり!!」

 

黒川の言葉に、俺はわざとらしく首を横に振った。

 

「俺は何もしねぇよ。ま、俺の仲間が何するかわかったもんじゃねぇがな?」

 

ギリッと黒川が歯噛みをした。

 

「私にどうしてほしいのよ」

 

思わず、俺は大声で笑った。あ〜、おもしろ。

 

「お前さ、女だよな?んで、俺は男。好きな男のために自分の身を捧げるのって最高だと思わねぇか!?最ッ高に滑稽でよォ!!」

 

俺は黒川の顔を一発蹴った。口の中を切ったようで、口から血を流している。

 

「んまぁ、お前も、わかるよな?あの小僧を助けたかったらどうすりゃいいのか」

 

俺は黒川の顎を乱雑に掴み、俺と視線を合わせさせた。

 

「言っとくがお前がここで拒否しても、死んでも、小僧は殺す。お前の選択肢は俺に協力することだけだ。わかったな?」

 

黒川は諦めたように首肯いた。

 

さぁて、っと。こっからは、『調教』と洗脳の時間だな。俺はこれからすることを想像して舌舐めずりをせずにはいられないのだった。

 

 

 

黒川を協力者にする手間はかなりかかったが、それに見合うだけの働きはしている。俺の野望を叶えられるのも、もうすぐだ。そんな時だった。俺がスパイ活動をしていた際に所属していた天領奉行に暇を出され、別の部署、それも前線への配属となった。

 

「ッ糞が!!後少しのところで…フザケやがって!!」

 

頭を掻き毟り、壁を何度も殴る。拳から血が出るのも気にせずに気が済むまで殴り続けた。

 

「いや…逆に考えろ…前線を崩壊させることによって使えねぇがファデュイの連中も稲妻城へ攻め込ませることが出来るよな…クククッ…やっぱ俺は天才だなァ!!」

 

俺は水を得た魚のように喜び勇んで前線へと向かうことを決め、すぐに支度をして前線へと到着した。遊撃隊への加入によって戦場の何処へでも行けるという条件までついている。やはり俺を中心にして世界は回ってやがる。

 

だが、と俺は隊長だ、という人物へ視線を向ける。第一印象はこうだ。

 

───いけ好かねぇ。

 

飄々とした雰囲気、服装からしても稲妻国内の人間じゃねぇな。ってことは情報通り他国からの援軍か。俺は更に深く観察していると、

 

「お前は…体格からして恵まれているようだが、なるほど、剣の腕はさほど、といったところか…加えて、性格も横暴…問題児か」

 

突然、そんなことを言われた。頭に血が上るのを感じるが、俺は最強であるため余裕を見せつつ、

 

「…ッチ。俺はお前のことを上司として認めた覚えはねぇぞ」

 

そう言ってやった。只野という名の男が俺を諌めるような声を出す。その一言で流石の俺も堪忍袋の緒が切れた。

 

「うるせえ!外野は黙ってやがれ!お前らも本当は不愉快だろ?こんなスカした野郎が上司やっててよ!」

 

俺は援護をするように黒川へと視線を投げかけた。黒川は震えつつ首肯く。どうやら、洗脳が解け掛けてんな。チッ、面倒臭え。

 

「…ふむ、なら実力があればいいのか?」

 

「…あ゛?」

 

あー糞。糞!!コイツの話を聞いていると腹が立ってきやがる。

 

コイツは俺の事を煽りに煽り、模擬戦まですることになった。だが、俺は雷電将軍にも勝てるほどの実力を持っているのだ。俺が負けるわけがない。だが、俺も寛容な人間だ。泣いて懇願してきたら笑顔で許してから殺してやろうと考える。ついでに、俺が相手をしてやる価値があるのかどうかを確かめるために黒川に行かせた。

 

勝負は、一瞬で決まった。気が付けば黒川は負けていた。だが、あの程度、俺でも出来るのだ。

 

「次はお前だな。あんな大口を叩いておいて期待外れとか、面白すぎるからやめてくれよ?」

 

コイツ…ッ!ってかよ。

 

「ッチ…使えねぇな…おい黒川ァ!負けるってのぁどういう了見だ!また痛い目見てぇのか?あぁ!?」

 

黒川、コイツもやっぱり使えねぇ。だが、この男の強さは多少評価できるな。俺が勝った暁には殺さずに『調教』して使ってやろう。その前に、黒川を一発殴っておかねぇとな。

 

俺は黒川へ手を伸ばした。だが、その手は軽く止められた。

 

「細部、お前の番だと言ったはずだが?」

 

静かに、そう言われる。謎の悪寒を感じつつも、腕から離れようと藻掻くが、全くと言っていいほど身動きは取れなかった

 

「俺に勝てないとわかって自分よりも弱い相手を甚振るわけか。とことんクズだなお前は」

 

「あ゛?」

 

何を言ってやがるコイツは?

 

「弱い者いじめでしか自信の存在価値を定義出来ないような奴をクズと呼んで何が悪い?」

 

糞、糞糞糞糞糞糞糞糞!!こうなったらまずは黒川を処理する!!

 

俺はデットエージェントの姿になると、黒川へ向けて刀を振るった。だが、ヤツは俺の刀を軽々と防ぐと、お互いに距離を取った。

 

と、突然俺の体が自動で動き始めた。自分の中で元素力が高まっていくのが感じられた。

 

そう言えば、ファデュイに加入した時、謎の薬を飲まされた。どうやら、この時のためのものだったらしい。

 

俺が今から死ぬ、ということを認識した瞬間、怒りが一瞬で冷め、何も感じなくなった。視界は灰色一色で色などなかった。今までの人生が、俺の頭の中に浮かんでは消えていく。これが、走馬灯というものなのだろうか。

 

次の瞬間、俺は自らの肉体が膨張するのを感じ、以降何も感じなくなった。

 

〜〜〜〜

 

思えば、つまらねぇ人生だった。自分の実力を勘違いしたまま増長しきってしまった結果がコレか。そう言えば、俺がファデュイに加入した時、母親が事故で死んで身寄りが無くなったところを拾ってもらったんだったか。今にして思えば、ファデュイに『処理』されたのだろう。そしてそれは、俺も同様だ。

 

ったく、本当にゴミみてえな人生だったな。人が不幸になるようなことしか俺はやってこれなかった。

 

もし、万が一…俺に二度目の人生が与えられるのなら…そんときゃ、真っ当に生きて…真っ当に死んでやる。

 

やがて俺の意識は、本当に闇の中へと沈んだ。




思ったより暗くないかも。というか、ただただコイツがクズかも。
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