忘れ去られたもう一柱の神   作:酒蒸

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というわけで本編行きます


第87話 遊撃隊の初仕事

「───なるほど…斥候部隊の偵察と撃破が任務、ですか」

 

一日経って細部の起こした騒動に一段落ついたので、それとなく俺達の任務について聞いてみたところ、そう言われた。詳しく教えてもらったのは今日だが。只野は一応、俺なりに考えて適任だと考えたので、遊撃隊の副隊長に任命してある。

 

そう言えば、だが元々四人でやるはずだった任務なので、多少弊害は出るだろう、と考えて上に人員の補充を掛け合ってみたが、どこもかしこも人手不足なので回せる人員はないらしい。まぁ、俺の立場的には優先的に回してもらえるそうだが、いつになるかはわからないそうだ。

 

そういうわけで、暫くは俺を含めた四人でやっていくことになる。元々、伝令役として一人使うはずだったのが無くなったため、俺が同行する必要が出てしまったのだ。

 

「それもこれも、稲妻側の落ち度ではあるが…一端を担った身としてはちょっと複雑だな」

 

「いえ、隊長は何も悪くないと思いますが…同じ稲妻人として恥ずべき行為であったと思いますので…私からも謝罪させていただきます」

 

只野は俺に軽く頭を下げた。取り敢えずそれはいい、と俺は彼の行動を諌め、上からの書類に目を通した。

 

「それにしても、ファデュイの斥候部隊にしては、妙な動きだと思わないか?」

 

「…いえ、私は今回が初陣であるため、同意しかねます」

 

おっと、それは確かにそうだったか。少し配慮に欠けていたようだ。

 

さて、どう妙なのかと言うと、報告書によればファデュイのものと思われる足跡が鎮守の森で主に確認されているらしい。浪人のものとは明らかに足型も異なるらしいので、確たる情報らしい。足跡から推測されるファデュイの総数は百余名程度らしい。結構な数だ。

 

で、俺達の役目は、というと簡単に言えば陽動作戦への参加だ。斥候部隊の偵察と撃破が任務、とは言ったが、俺達はその任務をしない。

 

そのことを只野に説明し、黒川と奥之院にも伝えてもらいに下がらせた。只野が去り、一人になった空間で溜息を吐く。

 

「なんというか、まだ少しの時間しか経ってないが、人の上に立つことの難しさを感じるなぁ…俺以外の『七神』は凄いな…」

 

毎日色々気にしながらやっているのだとしたら、本当に凄いと言わざるを得ない。俺には、到底出来ないことだろうから。

 

ん?救民団?アレはほら…俺別に上に立って色々指示したわけじゃないし…栄誉騎士だった時も別に部下とかいなかったからな。

 

「後は俺にも考えて欲しいっちゅーことで渡された書類だが…」

 

俺は内容に軽く目を通すと、少しだけ目を見開いた。

 

「これは…」

 

報告書には、虚言妄言の類だと思われても仕方のないようなことが書かれていた。数日前から、ファデュイの動きに統制が無くなり、無闇矢鱈にファデュイが攻め立てて来ているため、援軍を求めている趣旨が記してあった。

 

兎に角、ファデュイに限って統制が取れなくなる、なんてことはほぼほぼあり得ない。それこそ、指揮官が突然いなくならない限りは。

 

だが、その唯一の可能性もかなり低い。ほぼゼロに近いと言っていい。ファデュイ、そして彼等の行動原理の至上命令である女皇の願いが何かはわからないが、目的として『神の心』の奪取がある。それとなく影に神の心について聞いてみたが、眞も影も持っていないらしい。だからといってスネージナヤに神の心が渡っている可能性は皆無だ。そうでなければこんな馬鹿げた戦争などとうの昔に終わらせているはずだからな。

 

いや、眞はああ見えて用心深いところもある。そう考えると…ああ、そういうことか。眞はスネージナヤに赴く際に誰かに神の心を預けていたんだ。信頼できる存在に。だがそれは影じゃない。影は近すぎて自分が持っていないとなると次の標的になることが目に見えているだろうからな。で、あれば…まぁ、今回戦争への不干渉を貫いているのも、そういうことだったわけだ。

 

まぁそれはさておき。

 

「そろそろ時間だな…鎮守の森に向かうか」

 

俺は報告書を天幕内にある机の中に仕舞い、天幕の外へ出るのだった。

 

 

 

数刻後、作戦が開始され、ファデュイと稲妻の武士達との乱戦に突入していた。ファデュイの数はそれなりに多いが数十名程度だろう。対するこちらも同程度。前線とは違ってこちらはある意味では安全な後方。だから割ける兵力もそれなりである。そのため、ファデュイの数の割に苦戦を強いられていた。

 

最初は奇襲によって討ち取っていたが、ファデュイの連中も騒ぎに気が付き始め、対応が早くなり、結果乱戦に突入していった。鎮守の森の中で激しい戦いが繰り広げられる中、俺は少し高めの位置から戦場全体を俯瞰して見ていた。

 

「黒川、奥之院、只野、右翼がやや押され気味だ。加勢して来い。ファデュイの数は少ないとはいえ、こちらもそれは同じだ。いいか、油断だけはしてくれるなよ」

 

「「「了解」」」

 

黒川達はそれなりに強い。三人程度加わったところで変わらない、と思うかも知れないが、これが結構大きかったりする。少なくとも、左翼、中央は押しているので時間稼ぎさえできれば余裕のできた中央或いは左翼から人員を回せる。だから黒川達には時間稼ぎの戦いをするよう、厳命してあった。

 

そうそう、黒川だが細部の一件以来大人しくなり、素直に命令に従ってくれている。奥之院がしっかりやってくれたようだ。

 

さて、と俺は振り返る。直後、足音が多数聞こえたかと思うと、数名のファデュイが姿を現した。本隊から離れて行動する、まぁ俺達の部隊と同じタイプの部隊だと思われる。

黒川と奥之院、只野がそれに気が付き、こちらを一瞬振り返ったが、ファデュイがその隙を見逃してはくれない。加えて、俺は他の隊の隊長がいる場所から少し離れており、孤立している。

 

まぁ、当然こいつらを誘い出すための罠なんだがな。まず、ファデュイの総数は百余名、当然本隊にいるファデュイだけでは数が足らない。それに、こういう状況を見越せず行動していたのなら、相手は相当馬鹿だ。こういう時に影から指揮官を狙い、討ち取り、統制を失った軍を各個撃破する寸法だったのだろう。見事に俺に読まれていたわけだけどな。

 

ファデュイは俺が自分達の方向を向いていることに驚いている様子だったが、代表してか、ファデュイ遊撃兵・炎銃が俺へ銃を向けながら尋ねてきた。

 

「お前がこの部隊の指揮官だな?」

 

バカ正直に答える奴がいると思うか?と思ったが、他の奴にヘイトが行ってしまうと面倒なので、取り敢えず首肯いておく。ファデュイ遊撃兵・炎銃は水を得た魚のように流れるような動作で銃口を改めて突きつけると、

 

「その命、貰い受ける」

 

そう宣いつつ、ファデュイ遊撃兵・炎銃が俺へ向けて発砲した。俺は横目でチラリと黒川達を見る。全員、特に只野が心配そうな表情でチラチラと戦闘の合間にこちらの様子を伺っていた。うん、後で説教ね君たち。ま、それはそうと、安心させてやるか。

 

跳弾の可能性とか諸々考えると避けるのは得策じゃないな。俺は刀を抜きつつ、銃弾に刃を当てて両断した。と、目の前に既にファデュイ前鋒軍・雷ハンマーが迫っていた。

 

「よっ」

 

俺は横薙ぎに振るわれたハンマーをバックステップで避けると、着地した瞬間前に飛んでファデュイ前鋒軍・雷ハンマーを蹴り飛ばした。ついでにファデュイ遊撃兵・炎銃へ向けて炎球を飛ばしたのだが、ファデュイ遊撃兵・岩使いによって貼られたシールドによって防がれてしまった。その隙に乗じて雷蛍術士が雷蛍を三体召喚し終えており、敵が少し増えた。

 

よし、落とすなら雷蛍からだな。俺は飛んでくる銃弾を刀で両断しながら雷蛍術士へ一直線に走る。雷蛍術士は慌てたように雷蛍を俺へけしかけてくるが、風元素を使って少しだけ宙に浮き上がり、一刀のもと斬り伏せる。そのまま───

 

「───ッハハ!やるな…!」

 

先程蹴り飛ばしたファデュイ前鋒軍・雷ハンマーがその巨大なハンマーを俺へ向けて振りかぶってきていたので、動作を中断せざるを得ず、風元素でファデュイ前鋒軍・雷ハンマーの腹へ向けて風の槍を放つ。その反動で背後に下がりつつ、ファデュイ前鋒軍・雷ハンマーを殺すことに成功した。

 

「まず、一人…」

 

俺はキッと雷蛍術士に視線を向けると、自らの持つ刀を投擲した。投げられた刀は雷蛍術士の手前に突き刺さったが、俺の接近に気が付いていない様子の雷蛍術士は気付かぬ間に意識を刈り取られた。

 

「二人目」

 

残りは三人、一人はずっと姿を消しているデットエージェントだ。何処から来るかは不明だが、問題はない。その前にずっと銃弾を放ってくるファデュイ遊撃兵・炎銃を片付けねばな。

 

俺は地面に突き刺さっていた刀を引き抜きつつ銃弾を打ち払ったタイミングで一気に跳躍した。空中に浮かんでいるため、一見すれば無防備に見えることだろう。案の定、銃弾が多量に飛んでくるが、全てを最小限体を動かすだけで躱し、接近することに成功した。勿論、デットエージェントがいなければ普通に地面から行っても問題なかったんだが、銃弾を避けながら何処から現れるかもわからない奴を相手にするのは骨が折れるからな。

 

接近したため、ファデュイ遊撃兵・岩使いのシールドは無意味となった。俺は水の槍を生成しつつ、再び跳躍した。まぁ人間、相手が予想外の行動をすると、注意深く観察してしまうので、俺が太陽を背にして放った水の槍はどちらにせよ見えなかったのか、頭を貫かれ絶命した。

 

ふぅ、と一息ついたのも束の間、俺は横から振るわれた刀を刀の刃で受け、鍔迫り会う。

 

「少しだけ驚いたぞ…」

 

俺は無理矢理押し返すと、そのままの勢いでデットエージェントを袈裟斬りにした。刀に付着した血液を払い、仕舞う。

 

「隊長、ご無事で!」

 

只野がいの一番に俺の下へやってくる。どうやら、向こうの戦いも上手く行ったようで、勝鬨の声が聞こえてきていた。一泊遅れて黒川も奥之院も戻ってくる。初陣だったためか細かな傷はついているようだが、命に別状はなさそうだ。

 

さて、と俺は三人に近付き、軽く額にデコピンをした。一様に額を抑える三人に俺は告げる。

 

「生きて帰ってきてくれたことはいい。だが、俺の方を気にしすぎだ。初陣なら尚更、自分のことを考えておけ。戦場では自分7割、味方3割くらい気にしておけ」

 

「「「了解」」」

 

まぁそれはそうと…と俺はサムズアップをした。

 

「お疲れ、初陣にしてはよくやっていた方だ。及第点をやろう。次の戦いまで、ゆっくり体を休めるようにな」

 

そう言ってやると、三人は心做しか嬉しそうな表情を浮かべるのだった。

 

 

 

さて、結局ファデュイがあそこで何をしようとしていたのか、それはわからなかった。稲妻城郊外にある天幕内で、俺は他の部隊と情報のすり合わせを行い、このような結論に至ったのだ。ただ、今回、一人捕虜がいる。俺が気絶させた雷蛍術士である。拷問なり尋問なりで上手くやれば情報を引き出せるだろう。

 

俺は一先ず、誰も死なせずに帰ってこれたことに安堵の溜息をつくのだった。




明日、テストなので恐らく更新はありません(n回目)

とか言ってあったりして…ははは。
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