遊撃隊の初仕事から二日後。
「───次の戦場は九条陣屋だ。鳴神島の次に激戦区らしい」
「はい、情報に拠ればファデュイは九条陣屋を第二の拠点にしようとしているため、全身全霊を以て攻略しようとしている模様です。ですが、海祇島からの援軍と九条裟羅の指揮によって一ヶ月ほど保たせていますが…」
これ以上は、か。九条裟羅…影によれば忠誠心が高く、武芸にも秀でているとか。影もかなりの信頼を置いているようだし、信用できる人物だろうな。
「只野、悪いが俺は九条陣屋について詳しく知らなくてな。ああ、神無塚にあることは知っているが」
只野は首肯くと、知っている範囲で説明してくれた。その説明によれば、数百年前、戦場だった地域にたった一晩で建てられた砦らしい。それと、ファデュイが何処に潜んでいるかわからないため、最悪の場合ファデュイの包囲網を突破して中へ入らねばならないらしい。
「それはまぁ…なんとかなる」
「え?」
「───た、高い…高い!!死にますよ!!隊長!!下ろして下さい!!」
「今下ろしたら死ぬだろう。ってか、もう見えたから。だから暴れるな只野」
今、俺は只野を横抱きに抱えて空中を飛んでいた。まぁ一番抱えやすい体制なので仕方がないのだが、何が悲しくて男に俗に言うお姫様抱っこをせねばならんのか。
それはさておき、九条陣屋に到着したので砦の門前に降り立った。当然、見張り台の上には武士が立っているので、何者かを問われた。
「鳴神島からの援軍ですー!開けてくれませんかねー!」
冗談めかしてそう言うと物凄い形相で見られた。仕方ないか。俺は懐から一枚の紙を取り出した。
「あのー!援軍の話は聞いてますかー?一応、書類持ってきたんですけどー!!」
そう、俺の取り出した紙は上から渡された書類だ。念の為、持ってきておいたのだ。その書類を、見張り兵に見せつけるようにしてひらひらと振った。すると、見張り兵は「少し待て」と言い、姿を消した。その間暇だったが我慢して…。
「確認が取れた。昨日、命がけで一人、使者が来ていてな。その使者は怪我で療養中だが、お前の容姿を伝えた所間違いないだろうとのことだった。だが、一応その書類をこちらに渡せ」
当然の措置だろうが…。
「一人はこちらに来ないと渡せないぞ?それに、ここは一応戦場だ。辺りにはファデュイの連中も潜んでいるんだろう?そんなところで放っておかれるのは、あまり好ましい状況であるとは言えないな」
まぁ、信用を得られなければ元も子もないけどな…と内心では思いつつ肩を竦めた。見張り兵は再び姿を消すと、降りてきていたようで、俺の下までやってきた。
「では、書類を渡してもらおう」
見張り兵がそう言ったので、言われた通りにしようとすると、
「───待て」
彼の後ろから凛とした声が上がった。その声を聞いた途端、見張り兵が恐縮したように硬直した。
「部下が失礼をした。書類の確認は私が行おう」
「そうか、ではそのように頼む」
俺は後ろから歩いてきた背の高い女性に書類を渡した。女性は軽く目を通した後、書類をこちらへ見せながら押された判に関しての確認を取った。
「この書類に押してある判は…」
「ん?ああ、え…コホン、雷電将軍直々に書かれた書状でこれを九条裟羅に渡してほしい、と」
まぁちなみに、上司から書状だ、と言って渡されただけで影が書いたかどうかはわからない。内容も見ていないため、なんとも言えない。だが、上司はこうも言っていた。『書状の中身は絶対に見ないで欲しい』と。俺に見られて困るものなど、国家機密程度だ。書類を書けるのは影くらいしかいないだろう。
九条裟羅は心做しか嬉しそうな顔をしたかと思うと、すぐに表情が引き締まり、
「書類は確認した。今より、君の部隊を正式にこちらの部隊編成に加える。これからよろしく───」
「その前に…ちょっといいか?まだ部下を一人しか連れてきていなくてな。残りも連れてきたいんだが…問題ないか?」
九条裟羅は少し驚いたような表情をして俺の後ろを見る。今回連れてきたのは只野だけだ。だが、九条裟羅は只野のことを見ていたわけではなかったようだ。
「船が見当たらないが…一体どうやって此処へ来た?」
責めている口調のように聞こえるが、そういうわけではないのだろう。多分だけどな。
さて、それより…バカ正直に『空飛んできました』なんて答えるわけにも行かないだろう…いや、でも後で奥之院、黒川コンビを連れてくる時にどちらにせよバレるのか。バレるのを警戒して九条陣屋郊外に降りる選択肢も存在はしているが、それでファデュイと遭遇し戦闘になってしまったら目も当てられない。
ここは素直に明かそうか。
「風元素で空を飛んできた。神の目を持っていてな」
只野達にも俺の正体は言っていないし、全元素を扱えることも言っていない。そして幸いにして九条裟羅も俺のことを今の今まで知らなかったようで、俺が使えるのは風元素だけ、という嘘をしっかりと信じてくれたようである。細部の攻撃を防いだ時に岩元素を使ってはいるが、アレは爆炎でギリギリ見えていないはずだからセーフだろう。
「そうか。それなら戦術の幅が広がるだろう。一先ず、労いの言葉は取っておくことにしよう。こちらに到着した際は再び此処へ降り立ってくれると助かる」
九条裟羅は若干だが申し訳無さそうに言った。まぁ、突然九条陣屋の中央に降り立ったらそりゃビビるよな。当然の配慮だろう。
「了解した。只野、九条陣屋の現状と戦力、周囲のファデュイのおおまかな数など基本的情報は欠かさずに聞いておけ」
「了解です、隊長」
俺は満足気に首肯くと、風元素を使って浮き上がった。只野は九条裟羅と共にこちらを見上げている。軽く手を振った「頼むぞ」と呟くと、俺は鳴神島へ向けて飛んでいくのだった。
〜〜〜〜
一方、海祇島へ配属された旅人は『メカジキ二番隊』の隊長に就任していた。とはいえ、海祇島は、戦略的にはあまり価値のない場所であるため、ファデュイの襲撃も稀である。それでも、数回ほど旅人は戦の経験を積んでいた。
そんな時に、海祇島軍の大将であるゴローから、旅人は直接命令を受けた。
「九条陣屋の救援?」
「ああ、俺達海祇島も補給物資を届けたり、援軍を出したりしているが、九条陣屋付近のファデュイが多く、梃子摺っているようなんだ。あそこには俺の部下も沢山いる。だから俺が行きたいのは山々だが、大将という立場上、そう安々と戦場には出られないんだ」
ゴローは俯きつつそう言った。旅人とパイモンは顔を見合わせつつ言う。
「どうしてオイラ達に任せるんだよ?援軍だったら、もっと適任がいるんじゃないか?」
パイモンの言葉に、旅人も首肯く。ゴローは俯きながらも事情を説明した。
「稲妻は長年の戦争で疲弊し、人材不足も顕著だ。そしてそれは、海祇島も例外ではない。だから、海祇島の守りが手薄にならず、かつ動けて強い、となると旅人の『メカジキ二番隊』しかいなかったんだ」
「う〜ん…旅人、どうするんだ?」
パイモンの言葉に、旅人はう〜んと首を捻る。だが、やがて決心したように顔を上げ、首肯いた。ゴローの尻尾がぶんぶんと揺れた。
「おお、行ってくれるのか!ありがとう!」
「いや、まぁ命令されたらどっちにしろ行くしかないからね…」
ゴローのところを離れた旅人はすぐに隊員と共に船で九条陣屋まで向かった。勿論、船旅は順調には行かないものだ。九条陣屋まで後少し、というところでファデュイの船が接近し、戦闘に移行した。だが、稲妻は海が多い。そのため、ファデュイよりも稲妻軍の方が船の扱いが上なのである。
旅人達はなんとか九条陣屋からやってきた援軍の船と共にファデュイの船を撃退し、九条陣屋に辿り着いた。
「そうか…海祇島から遥々此処まで…大変だっただろう。まずは援軍の件、誠に感謝の念に絶えない」
旅人は九条裟羅を見て、静謐な雰囲気を感じ取り、萎縮していたが、当の本人から差し出された手を無碍にする訳にも行かず、その手を握り、握手をした。
「つい先刻にも、稲妻本土からの援軍が到着してな。どちらの部隊も一緒に行動するはずだし、紹介しておこう」
旅人は九条裟羅に連れられ、九条陣屋にある建物の中に入った。
「───よくこれでこの期間持ったな?九条裟羅の指揮によるところも大きいが、この砦自体の防御力も中々のものだ。特に物見櫓の配置が良いな…」
「はい。加えて、やはり海祇島の援軍が大きいかと。元々の指揮系統が違うとは言え、しっかりと指示に従っているようですし。加えて、海祇島の兵士達と稲妻幕府の武士達では戦術が異なります。ですから、同じ稲妻幕府軍の中に差異が生まれ、対応にも差が出ます。ファデュイはさぞかしやきもきしていることでしょう」
「アガレス殿、海祇島から新たな援軍だ。一隊、戦力に加えて戦略を練ってくれ」
「ああ、了解した」
旅人とパイモンは未だに入り口に立っているため中の会話などは聞こえておらず、普通に二人で談笑していた。
「うううっ…退屈だぞ…」
「暇だし、モノマネでもしない?」
「えぇっ…それって、なんか失礼だったりしないのか…?」
「はははっ、騎士の『謙虚さ』も兼ね備えてるとはな」
「おいっ!?もう始まってるのか!?」
「何を騒いでいるんだ?」
と、九条裟羅がひょっこり顔を出した。旅人とパイモンは恥ずかしそうに顔を逸らす。九条裟羅は首を傾げたが、まぁいい、と呟き、
「中へ入れ。準備が整ったぞ」
九条裟羅に連れられ、部屋の奥へと入ると、中には大きめの机があり、旅人にとっては物凄く見覚えのある顔があった。
「あれ、アガレスさん?」
「ん?援軍って旅人のことだったのか」
今回はあんまり苦労しなくて済むかも…と感じどこか安堵してしまう旅人だった。
昨日はやっぱり無理でしたね。まぁ…テスト頑張ったんで許して下さい