忘れ去られたもう一柱の神   作:酒蒸

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第90話 九条陣屋にて③

翌日、遂に作戦を決行する運びとなった。今になってようやく、俺は若干の不安を感じているが、ファデュイの最高司令官、こと執行官がいないのなら、この戦法も通るはずだ。

 

現在の時刻は午前四時、時期的に秋頃なのでまだ夜明け前である。若干東の空が赤らみ、周囲が見やすくなってくる頃合いである。昨日は俺が到着する前に小規模なファデュイの襲撃があった程度で双方共に死者はなく、少数の負傷者のみだったそうだ。

 

連日、このような行動にファデュイが出ているのは間違いなく一大侵攻作戦に転じるためだろう。そう考えた俺は、相手の意表を突く作戦を立案したのだ。今日はその成果を見る時である。

 

「さて…いよいよだな…」

 

九条陣屋で最も高い位置で俺と九条裟羅は粛々と準備を進めている兵士達を見やる。九条陣屋の中央部が、昨日よりも少しだけ凹んでいる。

 

さて、準備するものは調理用の油、篝火、弓兵、それと人の頭ほどの大きさの石礫。後は陽動作戦をしてくれる兵士達。これは任意参加だが、只野と黒川、奥之院がやってくれるようだったので問題はない。今頃、九条陣屋の外でファデュイを見つけては煽りまくって西側にファデュイを集結させていることだろう。

 

さて、準備は完了した。いつもよりずっと人の少ない九条陣屋内を見回し、俺は九条陣屋の西側の平地を見る。かなりの数───ざっと二百名程度───ファデュイの大群がいた。

 

「隊長、大方集められたはずです」

 

息を切らして戻ってきた只野達を労いつつ、そう報告を受けたため、俺は首肯く。

 

「準備は整ったな。号令を頼む」

 

俺は九条裟羅を見つつ、そう言った。九条裟羅は首肯くと、伝令役の兵士に向け、

 

「では、作戦開始だ」

 

と告げた。淡々とした口調だが、いつもより声質が硬いので恐らく緊張しているのだろう。まぁここを制圧されれば稲妻城は二方面からの攻撃を警戒せねばならなくなるからな。そりゃあ緊張するだろうさ。

 

さて、九条陣屋の門を命令してまずは開け放つ。その音でファデュイ達は更に警戒を強めつつ、しかし撤退するようなことはしなかった。最高司令官がいない、とはいえ相手にも一応指揮官らしき人物はいるだろう。そうなれば少人数でこちらを偵察隊として差し向けてくるはずだ。

 

俺の読み通り、まず十名程度のファデュイが歩いてきて九条陣屋内部にクリアリングをしながら入ってきた。やがて危険がないことを悟ったのか、ファデュイが進軍を開始した。俺は隣で怒りに身を震わせる九条裟羅を見る。まぁ、忠誠心が限界突破してる彼女からすれば九条陣屋内に敵を引き入れるこの作戦は余り乗り気ではなかっただろう。それでも許可したのは、現状を変えたいと望んでいるからだ。

 

「なら、俺はそれに答えねばな」

 

「…?」

 

さて、ファデュイの半分くらいは中央に集まってくれたかな。刈り入れ時だろう。これ以上は別のところに行かれかねないからな。

 

「では、作戦開始だ」

 

俺がそう言うと九条裟羅は雷元素で合図を出した。それに驚いたファデュイが撤退を開始しようとするが、もう遅い。思ったより多めに片付けられそうだな。

 

颯爽と現れた武士達が大きな桶に入った液体をファデュイに向けて掛けてすぐに離脱していった。ファデュイはすぐに逃げようとするも、坂になっているため液体で足が滑り、上手く登れず中央に留まっている。さて、中央が若干凹んでいたのはこれをやるためである。結構大変だったが、それに見合う成果は得られるだろう。

 

液体は油だ。潤滑油も混ぜているのでこういうことになっている。潤滑油が何故あるのかは知らん。あったから使ったのだ。まぁ使用用途は色々あるだろう。俺が知らないだけで。

 

さて、油、一箇所に留まる敵軍、とくればやることは一つだ。火の燃え盛る篝火付近に立つ一人の弓兵が矢を番え、その鏃に火を点け、九条陣屋中央部へ向けて放った。

 

直後、中央にいたファデュイ諸共、中央部で勢いよく炎が燃えあがった。坂、とは言っても割と緩やかな傾斜なので空気の面でも問題はない。彼等が酸素不足で死ぬか、焼け焦げて死ぬか、自ら死を選ぶかで全滅するまで燃え続けるだろう。

 

「さて、これでファデュイの五分の三は片付いたな」

 

俺は撤退を始めたファデュイの残党を見て呟く。俺は炎元素の球体を上空へ放った直後、水元素を放ち、蒸発反応を起こして合図を放った。

 

撤退しようとしていたファデュイの周囲に、稲妻の兵士が包囲するように現れる。俺も折角なので前線へ降り立った。

 

「ファデュイの指揮官は?」

 

「アレかと」

 

側にいた武士に問い掛けると、一人のファデュイ前鋒軍・雷ハンマーを指差した。アレか。んじゃあ取り敢えずあの雷ハンマーは生かして捕らえて色々と聞き出す要員にしよう。

 

「一応、決まりだからな…えー、ファデュイの諸君に告ぐ。これは降伏勧告である。素直に従わない場合、それ相応の苦痛を以て返すことを伝えてお───「断る!!」はっや…まじかよ」

 

それなりに俺は大きい声で言ったのだが、ファデュイ前鋒軍・雷ハンマーはそれを大幅に上回る声量で告げた。まぁ、ここまで来て降伏とか、普通にできないよな。わかってはいたことだが、嘆かわしいものだな。

 

「よし、じゃあ指揮官と思しきファデュイは生かして捕らえること。それ遵守で頼むぞ」

 

具体的な作戦については事前に伝えてあるので何も問題はない。割と一点に固まっているので、乱戦となることは避けつつ、武士達は場馴れしているようで上手い具合にちょっとした連携を取って一人一人討ち取っている。割と時間の問題かな、と思ったその時だった。

 

「あー、まぁ攻城兵器の一つや二つ持ってるよな。アレは俺が処理しておくか」

 

俺達の戦場から更に西側から二機、遺跡守衛…いや、遺跡重機が姿を現した。いや、でかいな。何処に残ってたんだ?との疑問は心の底に仕舞い込み、俺は九条陣屋の物見櫓の上に立っている九条裟羅をチラッと見る。彼女はこちらの視線に気が付いたらしく、しかし戦闘に集中しろ、というニュアンスの視線を向けてきているのがよくわかった。どうやら、気が付いていないらしい。まぁ仕方がない、と言えば仕方がないんだが。伝令とか、偵察の兵士よりも早く増援に気が付いたからな。

 

俺は溜息を吐きつつ、風元素で上昇し、九条裟羅の下へ行く。

 

「後の指揮は任せる。少々急用ができた」

 

「何?なにがあったんだ?」

 

九条裟羅は怪訝そうな表情で俺を見る。が、直後にその理由を、彼女は思い知ることとなった。

 

物見櫓の梯子を登る音が聞こえたかと思うと、伝令役の兵士がそこにいた。

 

「報告!遺跡重機二機が戦場へ向かっているそうです!!」

 

九条裟羅は驚愕の余り目を見開いたが、すぐにこちらを向いた。俺は首肯くと、

 

「そういうわけだから、ちょっと行ってくる。本当はお前達だけでやらせてもいいが、無駄な犠牲が出るだけだろう。今回は出血大サービスってやつだな。出血はしないが」

 

「それで指揮は私に任せるというわけか…了解した」

 

俺は九条裟羅に笑いかけると、最初よりもずっと少なくなったファデュイと戦っている旅人の下へ向かう。旅人には最初から後方に陣取ってもらい、退路を絶ってもらっていたのだ。旅人は結構強いから、一人いるだけでも戦場全体の士気向上に繋がるようになるだろう。これからは引っ張りだこだろうな。

 

現在も律儀に守ってくれている旅人の下へ到着し、降り立つ。そんな俺を見て驚いたような表情を浮かべ───ていなかった。普通に見てたのか。暇してたのか、或いは戦場全体を見渡していたのか。

 

「アガレスさん、何か用?」

 

チラッと旅人は俺を見たかと思うと、すぐに戦場へ視線を戻した。どうやら、後者だったようだな。

 

それはそれとして。

 

「敵部隊の増援だ。どうやら、少し取り逃してたのがいたか、元からいなかったのかはわからないが、遺跡重機が二機、向かってきてる。迎撃に当たれ」

 

「え、でも此処の持ち場は…って、あ」

 

旅人が何かに気が付いたように固まる。俺は、ニヤリと笑った。

 

「指揮執るの疲れたからって…」

 

「な、ナンノコトカナ…」

 

コホンッ!と俺は咳払いをして、旅人に改めて命令をした。

 

「『メカジキ二番隊』に命令だ。北西側から進軍してくる敵部隊の増援を撃破しろ」

 

「了解、司令官」

 

若干芝居がかったことをしてから、旅人は『メカジキ二番隊』の面々を呼び寄せ、討伐へ向かうようだ。が、一人デットエージェントに梃子摺っている。う〜ん、『メカジキ二番隊』全員揃って死なないくらいだから一人欠けられると困るな。

 

よし。

 

「くっ!このっ!」

 

「変わるぞ」

 

「えっ!うわっ!?」

 

俺はすぐに最後の一人の下まで駆けつけると、ぶんぶんと刀を振り回していた彼の首根っこを掴んで後ろに放り投げる。ついでに、横から斬り掛かってきたデットエージェントの攻撃を体をよじって躱し、よじった勢いのまま抜刀、デットエージェントの首を刎ねた。

 

結構無理な姿勢だったので、腰を痛めたがまぁすぐに治るだろう。

 

「旅人、行って来い」

 

「うんっ!」

 

旅人は首肯くと、『メカジキ二番隊』を率いて遺跡重機討伐へ向かった。これで向こうは被害を最小限にして突破できるだろう。

 

 

 

程なくして、ファデュイもあらかた殲滅し終わり、指揮官であるファデュイ前鋒軍・雷ハンマーはしっかりと捕縛された。旅人達も多少負傷者はいたが、全員無事に戻ってきた。俺の作戦を今後に活かして九条裟羅はかなり柔軟な発想をすることが出来るようになっただろう。これで問題はないな。

 

で、俺はというと。

 

「腰が…」

 

腰を完全に痛めていた。腰を抑えて前傾姿勢、気分はおじいちゃんである。そんな俺を見て心配そうな表情をする旅人と九条裟羅。だが一人だけ呆れてこちらを見ている奴がいる。

 

パイモンである。

 

「アガレス、お前、あんな無茶なことするからだぞ…」

 

「仕方ないだろ…一番効率が良かったんだよ。それに、すぐ治ると思ってたし…」

 

それはさておき、と九条裟羅は場を締めくくり、俺に頭を下げた。思わず、俺は慌てる。

 

「此度のこと、誠に感謝の念に絶えない。本当に、なんと礼を言っていいか…」

 

そうは言われてもなぁ…とばかりに、俺は後頭部を掻く。

 

「俺は別に、お前達のためだけに助けたんじゃない。というか、8割ほどは友人のためだ。友人が困っていたら助ける、これは当然のことだろう?」

 

「だが、その行動が結果として我々の助けになったことも確かだ。だから、感謝の念を抱かずにはいられない」

 

是が非でも俺に感謝せねば気が済まなさそうなので、大人しく感謝の念を受け取ることにした。すると、九条裟羅は微笑みながら、

 

「改めてありがとう。私に出来ることがあれば、出来得る限りで力になろう」

 

胸に手を当てながらそう言ってくれた。なので、俺はニッと笑って、

 

「そりゃお互いに、な」

 

と告げるのだった。

 

〜〜〜〜

 

九条陣屋付近のファデュイが一掃されたことにより、形勢は一気に稲妻側に傾くこととなった。稲妻に護送された捕虜は一日中の尋問でようやく口を割り、指揮官である執行官がスネージナヤへと帰っていることを告げた。それにより、稲妻では最終作戦として、離島を奪還する作戦を立案、決行する運びとなるのだった。




なんとか纏まった…まじで終わらないかと思いました…ぐへぇ…。

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