因みに、執筆が終わり次第、久し振りに閑話を投稿するんで、お楽しみに。
九条陣屋での一件から一週間後。あれ以来、離島付近を除くほとんどの場所からファデュイの痕跡が消失したため、稲妻城付近の哨戒任務に加え、潜伏していたファデュイの残党との戦闘などをこなし、後顧の憂いを完全に断った。鳴神島、そして九条陣屋付近のファデュイはあらかた掃討し終えたため、遂に離島を奪還する作戦が発動された。今日はその準備のため、稲妻内の戦力がかなり集まっている。とはいえ、勿論全てではなく、三割程度だろう。
まぁ言ってしまえば、この作戦に参加するのは全体の五割程度の戦力だ。うち、九条陣屋での功績を認められた俺は一割ほどの指揮を執ることになっている。本来なら、他国からの応援にこのような待遇はあり得ないが、それこそ人手不足なのだ。三年という期間は、やはり長い。その間に古くから功績を上げた者から色々な理由で死んでいったのだろう。実際、最近の武士達は皆若いのだ。まぁ、最終的に決定したのは影だと元上司(現部下)が言っていたので、俺に一任してくれたのだろうか。
時間はもう夜だ。周囲の哨戒任務をしっかりと行った結果、夜襲の心配もないので、俺は安心して作戦を確認しているように見せてサボることができるのだ。
「たいちょ…司令官、別働隊の隊長が、是非お会いしたい、と…如何なされますか?」
離島にほど近い平原の天幕内で、俺は机の上に置かれた離島の地図を見ていたのだが、これまたなし崩し的に副司令になった只野がそう俺に言ってきた。因みに、副司令とは名ばかりで完全に俺の補助的な存在である。どちらかと言えば秘書、と言ったほうが正しいだろう。
「別働隊…と言えば、海祇島の部隊の内の一つか…なんていう隊だ?」
「はい…先に言っておきますと、旅人殿のおられるメカジキ二番隊ではありません」
「そうか…まぁ、司令官として会っておくべきなんだろうな…いい、取り敢えず通してくれ」
「そう仰られると思って、既に呼んであります」
只野…お前、まだ俺の部下やって数週間なのになんでそんなに俺のことわかってるんだよ。ちょっと怖いぞ…と思いつつ、只野が天幕の外へ出て行った。
「久し振りでござるな、アガレス殿」
「その声と話し方…ってことは、万葉じゃないか。何処に行ったのかと思っていたが、海祇島の軍に所属していたのか」
入ってきたのは白髪で、一部が紅葉色の頭髪を持つ少年だった。その彼が、少し申し訳無さそうに目尻を下げながら言った。
「すまぬ。旅人殿には伝えていたのだが、アガレス殿に伝える手段がなかったでござるよ」
「まぁ、謝る必要はない。別にお前が悪いわけじゃないからな」
適当に挨拶を済ませ、俺と万葉は本題に入った。
「それで、話ってのは?」
「拙者は風の噂で耳にしたアガレス殿と同じ遊撃隊をやっていたのでござるよ。それで、それなりに情報も多く入ってくる故、少しファデュイの動きを探ってみたのでござる」
ふむふむ、と俺は首肯く。万葉は更に続けた。
「念の為聞くのだが、アガレス殿はファデュイの指揮官が不在、との見方をどう思う?」
万葉の言葉に、少しだけ俺は考える素振りを見せる。万葉がここでその質問をする意図としては、まぁそれに関係する話であるのは確かなのだが…これでその辺の人間と同じような見方をしてしまうわけにはいかないだろう。万葉は、そのような答えは恐らく求めていないだろうからな。
さて、どう答えたものか。俺は更に深く考えてから、
「まぁ見解に関しては、人それぞれだろう。だが、俺の見解としては、『現状は』という注釈がつくだろう」
「…ふむ」
「だってそうだろう?」
俺は人差し指を立てて一応説明をした。
「なんたってあいつら、腐ってもファデュイだ。指揮官、こと最高司令官がいないとはいえ、奴らの根底にある命令は確実にこなそうとしてくるだろう。つまり、代理で最高司令官を立てる可能性は十分にある。加えて言うなら、この戦争は三年も行われている。三年という年数は、かなり長い。この年数をかけて尚、稲妻は落とせなかった。だから司令官が逃げた、とそう考えられる」
万葉は少しだけ困ったように笑った。俺はニヤリ、と笑う。
「普通なら、そこまでだろうが、俺は違うぞ、万葉。だからそんな困ったように笑うな」
じゃ、最後まで説明するぞ、と俺は驚いて目を見開いている万葉に告げる。
「いいか、ファデュイの中でも選りすぐりの執行官が氷の女皇の命令を遂行せずに諦める、なんてことは絶対にありえない。つまり、作戦を再び練り直し、稲妻に再び攻めてくるだろう。だから代理の司令官はあくまで時間稼ぎの要員なんだろう。加えて言うなら、ファデュイを全軍撤退させなかったのもそういうことだ」
これは完全な憶測だが、元々離島には僅かな数のファデュイと、最低限の物資しか存在していないのだろう。相手の司令官───執行官が誰かは不明だが、かなりやり手であるのなら、俺が来たことで自らが作り上げてきた盤面が狂うことがわかったのだろう。そして数多の戦場に俺が出張ることを見越して離島の守りは最小限にして鎮守の森で陽動を行い、九条陣屋を今まで通り一日でも長く精力的に攻めさせ、最後は離島でなるべく長く足止めする。
全ては、一日でも長く稲妻を戦争状態に置かせるため、と考えれば…鎮守の森での無意味な作戦や無意味な九条陣屋の攻略、そして現状に説明がつく。そもそも夜襲をしないのは可怪しいのだ。敵部隊を休ませないためには、少数で、かつ犠牲を覚悟で襲撃すべきなのだ。だが、それをしない。とどのつまり、少なくとも明日の朝までは俺達も離島を攻める気がない、ということがわかっているので夜襲をする必要が皆無なのだ。
残党軍の目的は、時間稼ぎなのだから。
「まぁ早い話、ファデュイは統制が取れていないフリをしていたのだろうな。見事に俺も騙され、結果的に勝っては来たが、此処まで頭脳戦で手玉に取られたのは初めて…いや、アレ以来だが…」
コホン、と俺は咳払いをして誤魔化すと、万葉へ向けて告げる。
「ってことで、俺達は戦争には勝てるが、勝負には負けるのさ。もう、この路線しか残ってない。俺達に出来ることはどれだけ早く離島を奪還し、戦争に一時的だが終止符を打てるか、だ」
「なるほど…お主の考えはよく理解できたでござる。して、どうやってその答えに辿り着いたのでござるか?」
万葉は、不思議そうな表情で俺を見た。
しかし、どうやって、か。改めて聞かれると難しいな。
「こればっかりは昔からのクセ、としか言いようがないだろうな。昔からこういう役回りばっかりだったんでね。まぁ、だからといってこの推測が合っているのかどうかはわからないし、今までの参加した戦いから導き出したものでしかない。それっぽく纏められてはいるが、ね」
「…やはり、アガレス殿は我が家系の口伝にあった御方なのでござるな…」
ボソッと万葉が何かを呟いたが、俺には聞こえなかった。まぁ、聞かせる必要のない言葉だと思うので、聞き流すことにした。
「それではアガレス殿、拙者はここらで失礼するでござる。明日の作戦、できるだけ頑張るつもりでござる」
「ああ、お互いにな。今日はゆっくり休んでおけよ」
万葉はコクッと首肯くと、天幕を出て行った。入れ違うようにして、只野が戻ってきた。黒川と奥之院も連れているようだ。
「た…司令、ちょっとお話が…」
「ぼ、僕からも…いいでしょうか?」
二人はおずおずしながらそう言ってきた。思えば、二人とはあまり話をしていなかったな。
「ああ、どうした?」
「改めて…その、謝りたくて。出会った当初、私、凄く司令官に失礼なことを…」
「僕からも謝らせて下さい。司令官、許して欲しいなんていいません。ですが、謝罪の気持ちがある、ということだけはわかってほしくて…」
あ〜…なるほどね。あまり話してこなかったからわからなかったが、彼、彼女達なりに罪の意識があったのだろう。奥之院に関して言えば関係はないが、彼女───黒川の…まぁ言ってしまえば恋人的な存在だろうし、ある程度責任があると感じたんだろうな。ま、それなら素直に謝罪を受け取った方が彼、彼女達のためになるか。
俺はフッと微笑むと、
「そんなことくらい、とっくにわかってるさ。奥之院に関してはまぁともかくとして、黒川。お前、知ってるか?」
「…え?」
黒川はなんのことかわからない、という風に首を傾げた。
「ファデュイが本気で誰かを自身の、ひいてはファデュイの手下にする時の常套手段として洗脳がある。黒川、お前が洗脳されていたのはよくわかる。元凶である細部音近が死んでからの変貌具合、そして混乱具合から察するに、洗脳を受けていた、と断定できた。だから、お前は何も悪くはないし、洗脳されていた中でも若干の反抗の意思を見せていたのだから勝算に値するほどだ。長くなってしまったが…まあ、つまり…」
俺は黒川と奥之院を見て告げる。
「別に謝る必要なんてない。俺は気にしていないし、許しが欲しいならとっくに許している。はい、これで後顧の憂いなし、今日は休めよ」
「え、あ、はい…じゃあ、隊長…また明日」
黒川は恥ずかしそうにしつつ、しかし少し嬉しそうにしながら天幕を去って行った。呼び方が隊長に戻っているが、まぁそれを追求するのは野暮だろう。
「え、ち、ちょっと、菫!」
奥之院も少し慌てながら黒川についていき天幕を出る───直前に一礼してから去って行った。俺は只野にジトッとした視線を向けた。
「…黙っていただろう」
「さあ、なんのことでしょうか。私はただ、悩みは本人間でしか解決できない、ということを知っているだけです。それより、司令官、いえアガレス様、気が付いていないようですのでいい加減にお教え致しますが…」
「ん?」
俺はそう言われたので、只野を注視する。気付いていない?なんのことなのだろうか。先程の二人がいない辺り、彼に関する話であることは確かなのだろうが…というか名前で呼ばれたのは初めてだな。様付けされるのは…ああ、ノエルっていう前例があったな。彼女は元気だろうか?
などと考えながら、観察していると、何故か彼にジト目で睨まれる。と同時に呆れられてもいるようだ。
「アガレス様、ちょっと向こう向いてて下さい。ってかほんとに気付いてないんですね」
「え?ん?まぁわかった」
俺は言われた通りに彼から視線を外し、なにもない天幕の壁を見つめた。鎧を取り外す音と衣擦れの音が響き、シュルシュルとなにかを外す音が聞こえてきたかと思うと、再び衣擦れの音が聞こえ、
「はい、もういいですよ」
「まったく、俺が何に気が付いてない、って…………?」
思わず、彼…いや、彼女の姿を見て首を傾げてしまう。
「お前、いつの間に只野と入れ替わった?いや、待て、顔立ちが似てるな。さては兄妹なんだろ?」
「もうっ!私です!只野清です!!」
「な…ん…だと…ッ!?」
思わず動揺を禁じえない。え?いや、なんでだ?只野が女だと?俺はまじまじと彼、改め彼女を見た。地面には白くて長い布が落ちており、また、鎧も机の上に置かれているため体のラインがわかるのだが…うん、普通に女性らしい体つきだ。ということは…本当なのか。
じっくり見られたのが恥ずかしかったのか、只野は頬を赤らめていた。俺はなんだか気が抜けてふぅ、と溜息をついた。
「まぁ、詳しくは聞かないが、聞かせられる範囲で聞こう。なんで男装を?」
「それは…その、ですね。私の実家、只野家は、元々結構名家だったんです。でも、長男が素行不良だったために、私を男にして跡取りとして育てたんです。三年前の開戦当初に家は潰れましたが…それでも私は跡取りとして、ずっとこのままだったんです」
なるほどな…恐らく、彼女の親族は皆、三年前に死んでいるのだろう。だが、彼女は跡取りとして育てられたためにそれ以外の生き方を知らない。だから、ずっと男装し続けてきた、と考えられるが…それ以外にも理由がありそうだ。
「じゃあどうして俺には明かす気になったんだ?その秘密、人によってはかなりショックに感じると思うんだが」
「アガレス様は、将軍様の御友人だと、私は理解しています。なので、この程度のことは受け入れて貰えるかな、と…」
いや、まぁ別に女性が男性の格好をしていたところで特に思うところはないけど、無条件の信頼が凄いな。
「まぁ、否定はしない。お前がそれを俺に明かしたところで俺がどうこうするつもりはないからな。そういうものだと受け入れるだけだ」
そう言うと、只野は嬉しそうにはにかみ、俯いた。不思議に思って聞き耳を立ててみる。
「ふ、ふふ…やっぱり受け入れてくれた…この人なら…この方なら私の全てを…」
聞かなきゃよかったかも知れない。と、いうかそこまで入れ込まれる理由がないんだが。
「取り敢えず事情はわかった。で、それを明かして俺にどうしてほしいんだ?」
「お嫁に「却下」え〜!!」
え〜!!じゃねえよ。お前、随分遠慮が無くなったものだな?俺は只野の残念さ加減に嘆息する。
「はぁ…取り敢えず今日はもう遅いから自分たちの天幕に戻って休んでおけ。俺はまだ…やることがあってな」
只野は少し残念そうな表情をこちらへ向けたが、俺に一礼し、天幕を出て行った。
さて、やること、というのはそんなに重要なことではない。只野の気持ちは、まぁ理解は出来たが、彼女と婚約することは出来ないだろう。
「何せ、俺と彼女では寿命が違うしな…」
そんなもの関係ない、と思っていた魔神や仙人もいるが、俺はそうそう簡単に割り切れるわけではない。
「まぁ、それはそれとして…」
俺は立案された作戦が書いてある書類を手に取る。
「ファデュイの戦力がないであろうことを見越した正面突破か…随分と余裕ぶっているな、この作戦立案者は…」
普通にあり得ない。三年も経っているのだから、ファデュイが離島を要塞に仕立て上げ、難攻不落になっている可能性も捨てきれないのだ。だというのに、作戦も何もあったものではない正面突破。
「全く以て、愚かなものだ。まぁ俺の部下は遊撃隊だからいいんだが…それでも他の人間が犠牲になるのは…少し、いやかなり嫌だな」
しかし、現状俺にその作戦を止める権利は存在しない。成り上がり的な感じで今の地位にいる俺を快く思わない人間も少なからず存在しているのだからな。
「それにしても、社奉行の神里家も今回は出張ってくるのか…いや、それはそうか。何せ、稲妻の戦争が一時的とはいえ終局を迎えるんだからな…」
俺は別の隊の名簿から自分の隊の名簿に視線を移した。ズラーッと並べられているので、一人一人の情報はわからないが、写真機で撮られたであろう顔写真つきなのでわかりやすくて若干助かった。
さて、俺の目は一瞬、額から二本の角を生やしている男の写っている写真で止まっていた。写真の男は豪快な笑みを浮かべている。気になったので備考を見てみると、興味深いことが書いてあった。
「鬼族の末裔…?これまた興味深いな…昔、確かに鬼の一族はいたが…人間の戦争に介入するとは。人間に嫌われていた彼等らしくないな…」
まぁ、俺が稲妻にいたのは他の国に比べると長い、という程度でその実そこまで長くはない。俺のいない間に何かがあった可能性は高いだろうな。
「…終末番も参戦…?あれ、俺の部下ってことになってるな…ま、まぁそれはいいか。参戦できるとしても一人か二人だろうし」
…まぁ、彼、彼女達はあくまでも伝令役としての役割だろうし、あまり気にしないようにしよう、と心に決めつつ、他の人員にも目を通していく。
「長野原…って、長野原家の…?花火職人だったと思うんだが戦場に出るのか…うん、気にかけておくようにしよう」
「偵察隊に、探偵事務所の名前があるんだが…まぁ、痕跡とかを見つけたり、それの連想とかで役に立つ…のか?」
俺は次の行に行こうとして、次がないことに気が付く。どうやら、偵察隊で最後だったらしい。
「人員はこれくらい、か…後は隊ごとに指令を出すために全体の作戦に沿った形での作戦を立案して細かい動きを確認して…」
いや、待て、やること多くないか。
「くそっ、只野帰さなきゃよかった」
「お呼びですか?」
「…なんでいる?俺は休んでおけ、と言ったはずだが」
内心めちゃくちゃ驚きつつも、天幕の外から顔を出した彼女に向けてそう言った。只野ははぁ、と溜息をついた。
「司令官が休んでいないのに部下が休むわけないじゃないですか。仕事が終わったらそこはそれ、私自慢の膝枕を───」
「本格的にお前のキャラがブレブレになってきたな。まぁそれはいい」
俺は安堵の溜息をつくと、微笑みながら言った。
「すまない、手伝ってくれ」
「仰せのままに、司令官」
この後めちゃくちゃ仕事した。
長くなったな…長くなっちゃったな!!
はい、それはおいといて。
もうすぐアガレスの誕生日です。と、いうことで彼の誕生日の裏話を少し…。
思いつかなさすぎて私の誕生日と全く同じです。はっはっは!!
アガレス「適当な日にちにしておけばよかったものを。何なら1月1日とかでよかっただろうに。巻き込まれる俺の身にもなってくれ」
彼はそう言ってますが、そこはそれ、私と同じ誕生日にすると、いいこともあるんですよ。
合法的に小説内で皆に誕生日を祝ってもらえます。勝ち申した。
という、小話でした。とっても下らなくて草、と思った方、貴方は正しい!