あっ、活動報告で言った通り、ちょっと色々用事が立て込んでるので、誤字報告待ってます。無いわけないんで!!
翌日、早朝。
離島にほど近い紺田村付近の平原に稲妻の兵士が集まっていた。昨日の夜に大部隊の隊長で集まり、俺達の部隊は便宜上、第五部隊と呼ばれることとなった。そんな第五部隊は現在、俺の後方で待機している。遊撃部隊兼補充部隊の意味合いが強いこの部隊は最初、後方で待機なのだ。
「しかし、よくこれだけの戦力が集まったな…」
俺は丘から離島奪還に向け隊列を組み始める稲妻の兵士達を見やる。横に立っていた只野が、書類を見ながら呟く。
「はい。将軍様も、天領奉行の九条鎌治様も、かなり苦労をされたそうですよ」
只野の言葉に、俺は若干ゲッソリした。
「書類にそう書いてあるのか…尚更失敗できないし、若干目に浮かぶ辺りがタチ悪いな…」
「まぁいいではないですか。司令官がいるのですから、万が一もないと思いますし」
笑顔でそう言う只野に対し、俺は首を横に振った。
「嫌な予感がするんだよ。多分、稲妻の作戦立案者が思ってるほどこの作戦、上手くはいかないだろうよ」
実際、嫌な空気だ。勿論、空は快晴だし、吹き抜ける風も心地が良い。だが、嫌な風なのだ。離島はありえない程に静まり返っているし、見張りに出ているファデュイの数があまりにも少ない。明らかに、何らかの工作を練っているだろう。
「或いは…もうもぬけの殻だったりして、な…それは流石にないと思うが」
一応、苦労して手に入れた橋頭堡だ。そう易々と手放すとは思えない。
「まぁそういうわけだから、只野。今から伝令の兵士に頼んで、そのことを伝えさせてくれ。内容に関しては普通に『この作戦では苦戦を強いられる可能性が高い』とでも言っておけばいいだろう」
まぁ、これで他の隊の兵士が死んでしまったとして、俺にまで責任を問われる声が来ても困るのだ。だから、後からそう言われないように今から根回ししておくのである。
「了解致しました。ご随意に」
只野はそう言って恭しく礼をすると、丘を降りていった。最初に言っておくが、勿論、負けるつもりは毛頭ない。だが、何度も言うようにファデュイは稲妻の兵士達にとっては物凄い脅威なのだ。ただの力押しで勝てるのなら、今日まで戦争など続いていなかっただろう。
「さて…それじゃ、先鋒の第二部隊と第四部隊のお手並み拝見と行こうか…ま、どうせ失敗するだろうが」
寧ろ失敗しないわけがない。あのファデュイ相手に力押しなどという戦法が、上手くいくはずがないのだから。
俺は崖のようになっている場所の上に腰掛けると、戦場全体を見渡しつつ、ファデュイの動向に細心の注意を払うべく凝視するのだった。
時刻は午前9時、遂に、稲妻軍による、離島奪還作戦が開始された。先鋒を務めるのは第二、第四部隊と呼称された二百余名程度の兵士達が一気呵成に離島へ向けて攻め立てるのは、かなり凄い絵面だ、なんて思いながらファデュイの出方を伺う。ファデュイは全く、と言っていいほどに動かない。防衛拠点として機能しそうな紺田村は略奪の跡が残るのみで特に砦に改造されていたりはしなさそうだ。
そうこうしている内に第一、第三部隊も前進を開始した。うん、俺はこんな作戦聞いていないぞ。まぁ俺はこの国の人間ではないし───そもそも人間ではないが───俺に手柄を余程立てられたくなかったらしい。もうファデュイに勝てると思ったからこういうことをしたのだろうが…いやはやしかし。
「なんとも愚かしいな。三年もの間ファデュイと戦っていたというのに、奴らのことをなんにもわかっていない」
「…司令官、どういう意味です?」
伝令の兵士に俺の言葉を伝えに行っていた只野は今、俺の後ろで戦場を見守っている。ついでに言っておくと、やはり一蹴されたそうだ。第一、第三部隊はしっかり話を聞いて気をつける、との言質もとったようなのだが、後で伝令の兵士には団子牛乳でもあげよう。
因みに、第一部隊の部隊長は神里綾人だ。知り合い繋がりで言うなら第三部隊は九条裟羅である。二人と俺は面識があったから、聞き入れてくれたのだろう。まぁ、俺が言わずとも彼等なら気が付いただろうが。
まぁそれは置いといて、只野が不思議そうに俺を見ていた。
「このまま進撃すれば勝てそうなものですが…」
しかし、只野、お前わからないのか、とばかりに俺は軽く溜息を吐くと、
「まぁ見ていればわかる。如何に他の部隊の奴らが愚かな選択をしたのか」
只野が視線を紺田村に向けた。第二部隊と第四部隊が生存者や伏兵などの確認を終え、再び進撃を始めようとしたその時だった。
閃光が、紺田村を包み、直後、轟音が俺達の耳を通り抜けていく。只野と第五部隊の兵士達が混乱しながら耳を塞いでいるのがなんとなくわかる。俺は風元素で予め耳を覆い、音の伝わり方を調節していたので、そうでもない。
さて、何が起こったのかを説明すると、ファデュイは紺田村を、一つの大きな爆弾にしたのだ。手法的には俺が九条陣屋で使った、引き入れて一網打尽にする方法に似ている。只野がゴクリ、と生唾を飲むのがわかった。
因みに、爆弾だが、恐らく炎スライムを利用したものだ。ヒルチャールが作るタル爆弾のようなものを民家の中やちょっとした隙間に敷き詰めたのだろう。見つからなかったのは恐らく色々な方法で偽装していたり、或いは爆弾に見せない工夫をしていたのだろう。
さて、勿論、稲妻の兵士達の中にも生き残りは存在する。その兵士達を掃討するべく、ファデュイが村の外から徐々に包囲を縮めている。どうやら、捕虜にするつもりすらないらしい。
「し、司令官、助けないんですか…!」
「俺の忠告を受け止めなかったんだ。自業自得だろう」
「し、しかし…!」
只野は尚も必死の形相で俺にそう申し立ててくる。まぁ、気持ちはわからなくもないんだよな。500年以上前だったら救っていただろう。
「確かに、俺の忠告を聞かなかった、というだけで殺されるのはフェアじゃないよな」
「!では…」
「だが断る」
一瞬明るくなった只野の表情が一気に暗くなった。俺は少し笑いながら告げる。
「だって、そうじゃないか。人生においてフェアだったことなんて片手で数えられるほどしかない。何より、部隊長が生き残っているのならいい薬だ。次に活かせると良いな。ま、次があるかは…ふむ、俺次第だな」
よく見ればしっかり紺田村内部で逃げ回っているようだ。情けないなぁ。
「ま、そういうわけだし…」
俺は立ち上がり、尻をポンポンと払う。只野が驚いたように俺を見ている。戦力損耗率は全体の40%。本来なら撤退すべきだが…。
「只野、早馬を出せ。第一部隊と第三部隊、そして第五部隊で合同作戦を執り行う。至急、第一、第三部隊の部隊長を呼び出せ」
「は…はっ!」
只野が慌ただしく去っていく。俺はそれを見つつ、視線を動かし紺田村を見る。村の建物、そしてその周囲の草原も燃えている。稲妻の兵士達の断末魔も、風に乗って俺には聞こえてくる。そして、まるで機械のようにただ淡々と稲妻の兵士の生き残りを処理するファデュイの様子も見える。
さながら、500年前の『終焉』と、カーンルイアが滅ぼされた時のようだ。
「…地獄だな」
俺は自分でも思っているよりずっと不愉快そうな声音だった。
ああ、まさしく、地獄だ。稲妻、ファデュイ双方にとっても、また、俺のような第三者の視点から見てみても。
「昔の俺なら…って、昔はどうしていたか…思い出せないな」
最近は特に、昔の記憶が薄れ始めている。まぁ、年月と共に記憶やその時の思いが風化してしまうのは仕方のないことだが、最近は如実にそれが現れているように思う。何らかの影響を受けていることは確かだが、まぁ現在言われている最も古き神であるモラクスよりも少しだけ長めに生きているのだ。それはそれは、摩耗も進むだろう。
つまりは摩耗による魂の剥離が、このような記憶障害を引き起こしているのだろう。
「俺もそろそろ、か…散々人を殺してきたんだ。地獄に行けはしても、天国のような場所には行けないのだろうな」
まぁ、覚悟はしている。誰かを、何かを護るということは何かを犠牲にすること。元より、誰もが幸福になるような世界など存在していないのだ。
「だから…ファデュイ。お前達にはすまないが、俺の守護する存在の幸福のため、不幸になってくれ」
そう、思うと同時に、こうも思うのだ。
───誰かを護ることは、別に誰かに頼まれたわけじゃない。ここらで、退場しても良いのではないか、と。
所詮は忘れられた男だ。それなりに復活してから関係を築いたとはいえ…いや、それはまだ早いだろう。せめて旅人の旅くらいは、見届けてから考えるとしよう。
そんな時だった。只野が再び丘へとやって来た。
「司令官、準備が出来ました。こちらへ」
諸々の準備が出来たようだ。俺は首肯くと、只野に先んじて歩き始めた。
さて、差し当たっては離島を、ひいてはファデュイをどうするか…それを考えつつ、俺は用意されたであろう天幕へと向かうのだった。
なんども言いましょう。間違いなく誤字がありますんで、報告待ってます。時間がある時に私も見返しますんで…。