忘れ去られたもう一柱の神   作:酒蒸

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せっせとタイピングしております。平均キータイプ数は一秒に6.7くらいらしいです。どっかの寿司で確かめました。


第95話 離島奪還作戦②

一方その頃離島では。

 

「よし、別働隊を動かせ。いいな、雷電将軍は戦争への参加が条約により出来ない。案ずることはない。稲妻の連中はその戦力のほとんどをここへ集結させている。今なら楽に攻略できるだろう」

 

離島の、元柊家の屋敷の内部でファデュイの指揮官らしき男が指示を飛ばしていた。そんな中、伝令のファデュイの兵士が去って行く。直後、男の背後にデットエージェントが現れ、

 

「司令官、鼠が潜り込みました」

 

そう耳打ちをした。指揮官らしき男は少し笑う。

 

「流石、『売女』様の作戦は完璧だな。一時的に璃月で捕虜になっていたと聞いていたが…よし、では起爆しろ」

 

「潜伏中の同胞は如何なさいますか?」

 

ふむ、と男は一つ唸ると、

 

「捨て置け。どうせ時間稼ぎと相手を消耗させることが目的だ。我々の運命は既に確定している。捕虜になる意味は存在しない」

 

「心得ました」

 

デットエージェントが去って僅か数秒後、大きい爆発音と衝撃が屋敷にまで届いた。司令官の男はニィ、と笑った。

 

「全く、稲妻の連中も馬鹿ばかりだな。馬鹿正直に突っ込んでくるとは。まさか工作の一つや二つ予想できないわけじゃなかろうに…全く以て愚かしい。それにしても、このような馬鹿共相手にあの御方が三年間も苦戦するとは…」

 

「───まーまー、仕方ないよっ。彼はすんごーく回りくどいから」

 

突如響いた声にビクッと司令官が反応したかと思うと、敬礼をして固まった。

 

「あー、あー、そんなに畏まんなくていいよ。私は此処で死ねって言われてるんだからさ?」

 

部屋の暗闇から、女が姿を現した。女は苦笑気味だったが、男は違う。

 

「はっ…ですが、上官ですので。それに、我々も運命を共にさせて頂く身ですので」

 

「あー、じゃ、もうそれでいいよ…取り敢えず、戦況はいい感じでしょ?」

 

女は男にそう問いかけた。男はコクリと首肯いた。女は少し寂しそうに、しかし満足気に笑った。

 

「そっか。でもまぁ、多分ここらが限界かな。これ以上は多分稲妻の兵士を減らすのは難しいだろうね。まぁ、それこそ数十人は減らせると思うんだけど」

 

「…それは、どういう意味でしょうか…?」

 

男は女の言っている意味がわからず、首を傾げた。女は若干だが懐かしそうに言った。

 

「稲妻には、彼がついてる。その時点で、私達ファデュイにも、スネージナヤという国にも…どうせ死んじゃうから言うけど、氷の女皇にも勝ち目はないよ」

 

「…何故、わかるのですか?」

 

女は戦場である南東方向を見つめながら少し笑う。

 

「わかるさ。私は、大昔に彼に助けられたからね。遥かな昔に。かつて『七神』が『八神』で、『元神』なんて呼ばれていた彼が、向こうにはついているのだから…それを知らずに彼に襲いかかった私は、やっぱり大馬鹿者なんだろうね」

 

女はやや、自嘲気味に笑ってそう呟いた。男はただ、平伏した。

 

〜〜〜〜

 

「さて、わざわざ集まってもらって申し訳ないな」

 

只野に案内された俺は大きめの天幕内の中に入りつつ、そう告げる。中にいた二人は軽く俺に挨拶をしてから、

 

「別に気にすることはない。元々、忠告は受け取っていたのだからな」

 

「ここに私達を集めたということは、アガレス殿、奇策があるということなのでしょう」

 

俺は話の早い二人の言葉に首肯く。俺は置いてあった長机を見る。上には、離島付近の地形が掻いてある地図が置いてあった。

 

「よし、それじゃあ早速、作戦会議を始めようか」

 

俺はまず、前提を述べねばならないだろう。

 

「最初に言っておくが、ファデュイの連中の目的は、恐らく我々を出来る限り疲弊させることだ。今までの無意味な作戦の数々やここに来ての組織だった行動から推測しても、そうとしか考えられん」

 

あのファデュイがそもそも、指揮系統を失った程度で瓦解するはずがないのだ。前提からして可怪しいのだ。それを鵜呑みにしてしまった無能な指揮官は、こちらに二人もいたわけだが。

 

「そういうわけで、俺達が考えるべき作戦は、如何に相手の戦力を早く減らし、如何にこちらの損耗を抑えるか、だ」

 

「なるほど、普段の戦とさして変わりはありませんね」

 

神里綾人が俺の言葉に微笑を浮かべながらそう告げる。九条裟羅も、首肯きそれに同調した。

 

さて、前置きはいいだろう。俺は早速本題に入る。事前に、ファデュイの戦いを見て色々と考えていたのだ。

 

「裟羅、旅人の部隊を受け持っているのはお前だったか?」

 

「ああ」

 

「彼女を兎に角、馬車馬のように働かせろ。完全なる遊撃隊だ。戦場を兎にも角にも掻き乱してもらう」

 

俺は旅人の部隊を遊撃部隊へと添えた。決して、旅人が救民団の名前をイジったことを怒っているわけではない。戦術面で考えた結果である…断じて、ないからな。

 

次に。

 

「ファデュイは恐らく、ここからは兵を出してくる。別働隊がいる可能性も高いので、裟羅の部隊は一旦バラけて周囲の哨戒任務に当たって欲しい」

 

「了解した。部下にそのように伝えよう」

 

よし、一先ず、九条裟羅の部隊はいいだろう。次は綾人だ。

 

「綾人、お前の部隊は先程言ったようにファデュイの兵を真正面から相手取ってもらう。お前の指揮能力ならば、そこまで苦戦はしないはずだ」

 

「おや、それでも我々一人一人と彼等の戦力差は大きいと思いますが」

 

俺は綾人の言葉に、ニヤリと笑ってみせた。

 

「そうだ。だからこそ、『戦いは数だよ兄貴』って感じでいく。先程のクソみたいな作戦のお陰で、我々は戦力の五分の二を失ったわけだが、彼等はある意味では陽動をしてくれたのさ」

 

「陽動、ですか?」

 

神里綾人は少し首を傾げる。九条裟羅も、それは同様だった。

 

「割と戦術としては型破りだ、と言われるかも知れないが、穴を突く。相手の指揮官は間違いなく優秀だ。慎重で、それでいて村一つを一つの大きな爆弾にする、なんていう大胆さもある。だが、優秀なことを逆に利用してしまえばいい」

 

話の途中から、神里綾人と九条裟羅は俺の言いたいことがわかったらしい。二人共、少し笑っていた。

 

「なるほど、力押しで失敗したから相手が慎重になるだろう、との読みをしていることを見越して敢えて真正面から数で押し潰すわけか」

 

九条裟羅の言葉に、俺は首肯いた。

 

「そういうことだ。ファデュイは勿論、途中から慣れてくるだろう。だから10分ほど戦闘したら一度退け」

 

「一度退く?それでは…」

 

九条裟羅が若干不満そうな顔をしたので、俺は慌てて訂正する。

 

「いや、別に撤退するわけじゃない。ほら、戦略的撤退っていうやつだよ、知らないのか?」

 

「む…ではその意図はなんだ?」

 

意図…それなら勿論ある。九条裟羅の部隊に哨戒任務を頼んで、神里綾人の部隊には真正面を頼んだ。

 

では、俺の部隊は?となるわけだが。

 

「簡単な話、裟羅の部隊には哨戒任務を任せたわけだが、その実、警戒するのは北東側からの攻撃だけで問題ない。既に副司令官に命令して、とある工作をしていてね」

 

準備をしているのは終末番の忍者達だ。まぁバレることはないだろう。

 

「まぁそれはいいとして…俺の部隊を真っ二つに分ける。一つを戦場の北東側に、一つを戦場の南西側に配置する」

 

ルート的にはかなり迂回するが、鎮守の森方面から迂回して北東側に回り込む部隊を第一分隊、南西側の崖下を迂回して進んでいく部隊を第二分隊として扱うことにして。神の目を持っている人々を半分に分けるとして、その作業はまぁ只野が黒川、奥之院と共にやってくれているはずだ。

 

「作戦を開始してから、恐らく丁度10分ほどでこっち側の準備が完了できるはずだ。まぁそういうわけで、本当の所綾人の役割はファデュイを引っ張り出してその場に留めておくこと、となるな。まぁつまりそこまで躍起になってファデュイを叩く必要はない、ということだ。後は俺の分隊で挟み討ちにする。それで大体のファデュイは片付けられるだろう」

 

俺の言葉に、神里綾人と九条裟羅の二人は感心したようにふむ、と唸った。が、九条裟羅が何かに気が付いたように首を傾げた。

 

「む…この布陣だと、離島を攻める頃には兵達は疲弊しきっている。離島を攻略するのには、少なくとも一日の休息は必要だと思うのだが…」

 

うん、尤もな疑問だな。

 

「それに関しては、綾人と俺、そして裟羅の三人で行う」

 

「なっ!?」

 

「…ふむ」

 

俺の言葉に、九条裟羅は驚き、神里綾人は少し唸るだけだった。一応理由は説明しておこうと思う。

 

「まずそもそも、作戦の流れはほとんど決まっている。想定外のことが起きたとしても、俺達がいる必要はない。出来ることなど、高が知れているからな。副官に任せておけば問題はない」

 

ついでに言うと。

 

「俺一人でも駄目だ。離島に万が一にでも人質が残っていた場合、俺の行動は大幅に制限されるだろう。お前達に、人質の捜索と救助を頼みたいんだ」

 

「…単独行動は危険だと思うがな」

 

九条裟羅の若干疑うような視線を俺は真正面から受け止めた。

 

「少なくとも、綾人とは一緒に行動してくれ。恐らく、ファデュイの守り自体は手薄だが、それでも多少の数はいる。二人なら問題ないとは思うが…」

 

「そうではない。お前の単独行動が危険だ、と言っているのだ」

 

俺は驚いたように目を見開く。

 

「まぁ、単身ファデュイの司令官を討ち取りに行こうと思ってな」

 

「だから言っているのだ、馬鹿者め」

 

なるほど、そういうことか。それを言うのなら一応、こちらにも言い分はある。

 

「ファデュイの司令官だが、恐らく執行官クラスだろう。そしてそれは今まで稲妻を攻めてきた執行官ではない。因みに、その執行官には心当たりもあってね。少し…話もしてみたかったんだよ。それに、俺の心当たりが正しければお前達では少し身の危険があるんだ。だから俺が行く」

 

相手が彼女であるのなら、負けることはない。勝てなかったとしても、だ。俺がそう言うと、九条裟羅は物凄く大きい溜息を吐いて俺をジト目で見た。

 

「わかった…一軍の将としてはあるまじき行為だが、今回ばかりは許可しよう。此処までの作戦を立案してくれたからな…まぁ、特例だが」

 

「感謝しよう。それにしても、綾人は最初からこうなることがわかっていたかのような感じを出してるが、実際どうなんだ?」

 

九条裟羅に感謝しつつ、何も言ってこなかった神里綾人を見ると、意味深な笑みを返された。う〜ん、顔が良いな。

 

じゃ、なかった。

 

「そういうわけで早速作戦を発動しようと思う。開始自体は30分後だ。それまでに自分の準備を済ませておいてくれ。集合場所は第五部隊が分かれた後の第二分隊付近だ。それでは、解散だ」

 

俺はそう言うと会議を終了させるのだった。神里綾人が一礼をしてから天幕を去って行ったので俺も天幕から出て行こうとしたのだが…。

 

「アガレス殿」

 

九条裟羅に呼び止められた。俺は振り返り、彼女を見る。

 

「その…将軍様から、君について聞かされた。大昔から、稲妻、そして世界のために動いて来た、と…」

 

九条裟羅は俺を真っ直ぐ見据えて頭を下げた。思わず、慌てる俺に対し、九条裟羅は口を開いた。

 

「本当に、ありがとう。そして、すまない。不躾な願いだとは承知しているが…もう一度、今一度だけ…稲妻に力を貸して欲しい」

 

彼女は真面目だ。だからこそ、俺の正体に関しても影に聞いたのだろう。

 

俺はふぅ、と溜息を吐くと、「顔を上げてくれ」と言って彼女の頭を上げさせた。俺は、彼女へ向けて微笑んだ。

 

「…昔は、世界に住まう民のため、この力を振るい、理不尽を防いだ。だが、今は違う」

 

俺は天幕から出るべく、踵を返した。

 

「お前や、綾人…他の稲妻人…そして、雷電将軍。彼、彼女ら友人のために、俺はこの力を振るうのさ。だから、別に畏まる必要なんて無い。何も言わずとも、友が困っているのなら、手を貸す。当然だろ?」

 

それだけ言って、俺は彼女の表情を確認せずに天幕を出る。なんとなく、それをしない方がいい気がしたのだ。

 

 

 

三十分後。先程の丘にて一応ファデュイに動きがないかを確認していた俺は、背後から誰かが来る気配を感じていた。

 

「司令官、お待ちしておりました。第五部隊を第一分隊と第二分隊へ分けて編成し直しました。出陣の準備は、いつでも出来ております」

 

やって来たのは只野だった。俺はよし、と喝を入れて立ち上がると、先に立っていた九条裟羅、神里綾人両名と合流し、第一、第三、第五部隊へ向けて大声で叫んだ。

 

「これより、我々は離島奪還作戦、第一段階へ突入する!!これが最後の戦いになるだろう!!三年間、お前達を苦しませてきた戦争が、今日終わる!!いや、終わらせるんだ!お前達の手で!!」

 

自身の武器を握る音が、至る所から響いた。俺は満足気に首肯く。

 

「いいか!!死ぬなとは言わない!無理をするなとも言わない!だが、死ぬなら意味を持たせろ!!無意味な犬死だけは俺が許さない!!いいな!!」

 

『応ッ!!』

 

よし、と俺は九条裟羅、神里綾人と顔を見合わせると、

 

「では作戦を開始する!!客員は部隊長の指示に従い、移動を開始せよ!!」

 

斯くして、遂に最終決戦の火蓋は、切って落とされたのである。




長くなったな…ナハハ…。

さて、誤字報告ありがとうございました。やっぱり一杯ありますね。ほんとにもう…頑張って!(鼓舞)
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