あれっ、稲妻編、長すぎ!?
というわけですが、もう少々お付き合い下さい。
そう言えば知ってるかい?現在判明しているカーンルイア人の瞳の色って、割と青い色なんだぜ(私の知る限りでは)。
そういうのを踏まえた上で『売女』の瞳の色が碧い色であること、そして大昔に助けられたことがある、という話しを総合すると…うわぁ。
俺は困ったように笑う彼女を見て、思う。
なんだか、少し変わったな、と。前は狂気が垣間見えていたのだが、今はすっかり鳴りを潜めている。加えて、邪眼が見当たらなかった。そして、前にしてあった仮面がない。前はよく見えなかった仮面の中が見える。
そして、首筋から右目にかけて謎の青い痣があり、瞳の形が独特だった。前は仮面の影に隠れて辛うじて碧い瞳、ということしかわからなかったのだが、彼女の瞳の形とあの痣を見て確信した。
「お前、カーンルイア人だったのか」
「まあ、と言っても思い出したのは君にボコスカやられた後だけどね」
若干ジト目でこちらを見てくるので思わず謝る。それはそれとして。
「何故璃月から脱走したんだ?」
そう問うと、ルフィアンは目を逸らしつつ、頬をポリポリと掻いた。
「私は断ったんだけど、無理矢理連れ出されてここに連れてこられたんだよね…まぁ、元同僚とは言え、やっぱり死んでほしくなかったからつい最近になって作戦立案だけしてたんだよね」
なるほど…それでここ最近は組織だった行動を取っていたのか。心の中の疑問が一つ晴れた俺はふぅ、と一息つく。
「それで、俺に何の用だ?」
ルフィアンは目を逸らすのをやめ、キュッと唇を引き絞ってから、脱力し、口を開いた。どうやら、何故か緊張しているらしい。
「…その、500年前、私、カーンルイアで貴方に助けられたんだ。だけど、ギリギリ呪いの影響範囲だったみたいで、こんな風に…不死身の呪いをかけられちゃったんだよね。邪眼で苦しみを抑えてたんだけど、今はないし」
その、だから…と言い淀むルフィアンだったが、恥ずかしそうに目を逸らすと、
「…ありがとう、500年前に、助けてくれて。それと、ごめんなさい。恩を仇で返すようなことをして」
500年前、カーンルイアで、確かに俺は一人の女性を崩れ去る瓦礫の下敷きになろうとしていたところを救った覚えはある。だが、結構数はいるので、どの人かはわからない。その中の一人だったのだろう。
「…だから、せめて…私は貴方に殺されたかった。あのまま璃月にいたとしても、私はファデュイの密偵に口封じのために殺されて終わりだろうから…」
「…ルフィアン、戦争で立てた作戦にはどのようなものがある?それだけ、教えろ」
俺は刀を抜き放ちながら、彼女に問いかけた。彼女は思い出すように首を傾げると、
「確か…『相手を殺さずに時間を稼ぐ』作戦とか…後は大体撤退する時用の作戦だね。言っとくけど、さっきの紺田村の作戦に関しては私も知らなかったんだからね!ヴィクトルは知ってた?」
「ま、まぁ…知ってましたけど、部下が実行するって聞かなくて」
まぁ、リリー…というより、子供に好かれるような奴がたった一年で残虐な事を出来るようにはならないか。ルフィアンが今この場で嘘を付くとも考えにくい。
「そうか…大体理解した」
「殺してくれるんだ…?」
ルフィアンは、若干だがその瞳に恐怖の情を宿した。ヴィクトルも同様である。
俺は本日何度目になるかわからない溜息をついた。
「背を向けろ。ヴィクトルもな」
「わかった」
「あ、ああ…」
ルフィアンは少し笑って、ヴィクトルは恐る恐る、俺に背を向けた。
俺は居合の姿勢で固まり、やがて抜刀した。
「ああ、これで…やっと、皆のところにいける」
ルフィアンに刀が届く直前、そのような呟きが聞こえた。そして俺は刀をそのまま振るい───
パサッ、と何かが落ちる音がした。ルフィアンが驚いたようにこちらを見ている。俺は地面から彼女の切られた頭髪を拾って縛る。
「な、なあまだか───うわっ!?」
ヴィクトルがこちらを向いた瞬間、目元の仮面を真っ二つに斬った。
「ち、ちょっと、どういうこと!?」
「あ、ああ!全くだ!!」
二人がぎゃあぎゃあと騒ぎ立てるので、俺は耳を塞ぐ。
「どういうことも何も、お前らを殺したんだが?」
「何言って…」
「死を覚悟し、一度刀を振るわれた。はい、お前達の命終了!そういうわけだから、これからは心機一転、新しい人間として生きるんだな」
まぁそうは言っても、二人共ファデュイに追われることになるし…うん。俺は人差し指を立てて二人に提案をした。
「人のために働いてみる気は?」
「ッ…」
「…」
二人はあろうことか沈黙を貫いている。意地でも死にたかったのか。だが、そのようなことはさせない。
「どうなんだ?」
「いや、まぁ…あるけど…」
「…ある」
本人達の意思確認も出来たことだし。
「丁度、モンドの業務が手一杯でな。二人共、救民団で保護…ゲフンゲフン、働いてもらう」
「おい、今お前保護って…」
「言ってないが?」
有無を言わさぬ視線でヴィクトルを黙らせた。ルフィアンはルフィアンで何かに気が付いたらしく、
「それで私の頭髪と、ヴィクトルの仮面を斬ったのね」
俺は首肯いた。
「ああ。死体の損傷が酷く、海に流されてしまったため、回収できたのはこれだけだった、とでも言っておく。ヴィクトルに関しては幸いにして身バレも顔バレもしていないからな。モンドでも覚えているのはリリーとその父だけだろう」
なら尚更、都合がいい。俺は二人を抱えると、風元素で浮き上がった。
「ち、ちょっと…!?」
「お、おい…飛んでるぞ…っていうか抱えるなよ」
「仕方がないだろう。これしか方法がないんだから。ここで放っておいたらお前ら稲妻軍に捕まって死刑確定だからな。今すぐモンドに連れて行く」
俺はそう言って飛び上がり、モンドへ向けて飛ぶ。飛んでいる途中で、ヴィクトルに声を掛けられた。
「なぁ…なんで助けてくれたんだよ?助けるメリットなんかないし、何より助けたらお前が不利になるんじゃ…」
「それがどうした?」
いや、どうしたって…というヴィクトルの呟きを無視して、俺は二人を助けた理由を告げる。
「ルフィアンは元々殺すつもりはなかったしな…まぁそれはいいとして、ヴィクトル、お前を助けたのはリリーのためだ」
「リリーの…?」
俺は首肯く。
「あの子は、お前に凄く懐いているのは、お前自身がよくわかっていることだと思うが、そんなお前の言葉を俺が伝えたとしたら、あの子、俺が殺したと言って聞かないぞ?実際事実だから何も言えないし。だから、お前のためじゃなく、あの子のためにお前を助ける。勘違いするなよ」
そう言うと暫くヴィクトルが下を向いていた。俺はヴィクトルの言葉を待ったが、泣いているのだとわかった。少しして、小さな声で、
「…ありがとう」
とだけ聞こえた。俺は少し笑うと、
「その言葉は、リリーに会った時までとっておくんだな」
俺は更に速度を上げてモンドへ向かうのだった。
ヴィクトルとルフィアンを救民団本部の俺の部屋に置き去りにし、絶対に動かないように伝え、稲妻まで戻ってきた。俺の手にはヴィクトルの仮面とルフィアンの頭髪が握られている。
俺を見つけたらしい旅人と九条裟羅、神里綾人、そして元々の遊撃隊の面々が手を振っている。俺は離島から来たように見せかけ着陸した。
「アガレスさん、無事で良かった。作戦終了予定時刻より大幅に遅れてたから…」
「そうだぞアガレス殿。今は軍属なのだから時刻を気にして動いてだな…」
「はいはい、お説教は今は宜しいでしょう。それよりも、彼を労いましょう」
「司令官、よくぞご無事で…!!」
「あー!わかった、わかったから一遍に喋るな!!」
俺が全員を黙らせると、コホン、と咳払いをして、少し笑う。
「敵の司令官を討ち取ったんだが、これしか回収できなくてな。死体は海に流れていったよ」
「そうか…つまり、終わったのだな」
「終わったのですね」
九条裟羅と神里綾人が微笑み合うと、その更に後ろから大きい勝鬨の声が上がった。俺はその様子を見てようやく肩の荷が下りるのを感じた。
なんというか、長いようで短い数週間だった。まぁ俺にとってしてみれば、まだ全て終わっていない。寧ろ、これからの方が重要なのだ。
何しろ、眞を救わねばならないからな。
〜〜〜〜
稲妻幕府による、離島奪還作戦はアガレスの見事な指揮によって成功を収め、ファデュイの主要拠点を完全に制圧することに成功した。稲妻幕府は今回の離島奪還に際し、スネージナヤと終戦協定を結び、三年間にも渡り大きい遺恨と悲劇を生み出した稲妻の戦争は終結した。勿論、戦勝国である稲妻側はスネージナヤに有利な条件で条約を結び、賠償金などが後ほど支払われることになり、またスネージナヤの人間が稲妻へ渡ってくることも禁止された。
アガレスは今回の功績を天領奉行の九条裟羅や社奉行当主の神里綾人のものとしたが、その二人の証言によって昇格。雷電将軍の希望により、雷電将軍の政務の助言役を賜ることになった。今回アガレスの功績に見合う席を、わざわざ影が用意した形になった。
稲妻にようやく、三年ぶりの平和が、訪れようとしていた。
というわけで離島奪還作戦は終わりましたね。稲妻編自体は次回かなぁ…もしかしたら次々回かもですね。
前回のあとがき?人違いですね。