忘れ去られたもう一柱の神   作:酒蒸

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第98話 眞奪還作戦…?

モンド、救民団本部。

 

「そういうわけで、バルバトス。こいつらを此処に置くから身分の偽造宜しくな」

 

「ぐわぁ、またアガレスが僕に無理難題を押し付けてくるぅ〜」

 

どんなノリだよ、と内心でツッコミつつ、俺はルフィアンとヴィクトルを見た。昨日、俺が此処に置いていったのにも関わらずしっかり部屋の中にいたようだ。色々話したからなのか、昨日よりも仲が良さそうに見える。

 

「それよりアガレス、ノエル達に会わなくてもいいのかい?」

 

「しっかり帰ってきた時にそれはとっておこうと思っている」

 

「ふ〜ん、ま、いいけどさ」

 

俺は救民団本部から出るべく、ドアを開く。

 

「そういうわけで、バルバトス。万事任せる。あ、そう言えば…ルフィアン」

 

「ん、なーに?」

 

ヴィクトルと談笑していたルフィアンがこちらを向く。俺は彼女に向き直った。

 

「名前を聞いていなかった。ルフィアンはあくまでコードネームだろ?」

 

「あー…そうだった。でも、ごめん、私本当の名前覚えてなくって…良ければつけてくれない?」

 

ルフィアンがそう言ったので、俺は何かしら名前を考えることにした。う〜ん、と頭を捻って考えていたのだが…。

 

「え、君、アガレスのネーミングセンスが絶望的にないのを知らないのかい?」

 

「お前ちょっと黙れ」

 

などと小うるさいバルバトスにアイアンクローをかましつつ、思いついた名前を告げる。

 

「そうだな…まぁルフィアンからとって、普通にアンとかでいいだろ」

 

「アン…まぁ、悪くはないかな。無難だけど」

 

「うん、そうだね、無難だね」

 

「ああ、無難だな」

 

「なんだお前ら揃いも揃って!!」

 

思わずツッコまずにはいられなかったが、俺は若干気恥ずかしくなり、逃げるように救民団本部を出て稲妻へ戻るのだった。

 

 

 

稲妻へ戻ってきた俺は影の下を尋ね、次に八重神子を尋ねた。

 

「アガレスではないか、そろそろ来る頃と思っておったぞ」

 

なんだろう、やっぱり心の中を見透かされてる感が否めない。

 

それはそれとして。

 

「神子、待たせてすまなかったな。戦争が終結したからようやく眞を救うことが出来る」

 

「そうじゃのう。妾もそろそろじゃと思っておったから、準備は出来ておるぞ。早速稲妻城に向かうのかの?」

 

俺と影は首肯く。八重神子はニィ、と意味深な笑みを浮かべ、

 

「では、行くとしようぞ」

 

と告げた。

 

 

 

稲妻城天守閣。

 

そこには、横たえられた眞がいる。生命活動の一切が停止している。一種の仮死状態だそうだ。

 

「それではアガレス、汝を眞の精神世界に送り込む。影が構想していた『夢想』の要領に似たようなものじゃからな」

 

俺は目を閉じるように言われたので、目を閉じる。

 

「それでは、始めるぞ?」

 

八重神子の声が聞こえ、そして何も聞こえなくなる。次に目を覚ました時には、なにもない荒野に佇んでいた。いや、なにもない、というのは語弊がある。四角いコンクリートで出来た部屋があった。

 

「…眞、そこにいるのか」

 

俺はなんとなくそこに眞がいることを察した。箱に出口は存在せず、恐らく、中には人一人分が入れる空間しか無いだろう。ついでに言うなら外からの攻撃で壊すことなど出来やしないだろう。この壁は心の壁。無理に壊そうとして仮にも壊してしまえばそれは眞の精神が崩壊することを意味する。

 

全く、神が、それも明るかった眞がこんな風になるなんてな。俺は箱に背を預けるようにして座った。

 

「眞、聞こえるだろ?」

 

聞こえていても、聞こえていなくても別に構わない。俺は独り言を話すつもりで口を開いた。

 

「…まぁ、俺がこの精神世界に入ってきたのは、眞はわかってるだろうしいいんだが…そうだな…俺の独り言でも聞いてくれよ」

 

俺はふぅ、と息を吐いてから話し始めた。

 

「俺、三年?四年?まぁ兎に角そのくらい前に復活したんだけどさ、聞いてくれよ。知ってるかもしれないけど俺の記録とかな〜んにもなくなっててさ。正直めっちゃ堪えた…ほんとに、まじでめっちゃ摩耗したわ───」

 

俺はそのまま、復活してからの話しを、聞こえているかどうかもわからない眞にし続けた。時間にして大体4時間はかかっただろうか。いよいよ話のネタが尽きてきたので、多少は心境の変化があっただろうか、と思って話しかける。

 

「…スネージナヤで何を見た?」

 

箱の中からの返答はなかった。俺は仕方なく再び話そうとすると、小さい声で、『世界の終焉』と聞こえてきた。

 

世界の終焉、か。

 

「そうか…安心しろ、世界の終焉ごとき、もう一回防げばいいだけだろ?」

 

今度は犠牲にせずに済む方法を…などと考えていたのだが、眞は更に続けた。

 

「…今回の終焉は、500年前とは異なるものよ…このままいけば、世界は破滅すると…」

 

「彼女にそう言われたのか?」

 

返ってきたのは、沈黙という名前の、肯定だった。

 

「…言葉を鵜呑みにするだなんて、お前らしくもない。まぁ、気持ちはわかるが」

 

500年前、俺の代わりに死ねなかったのだ。自分のせいだと考えたのかもしれない。500年間、罪の意識に苛まれ続けたというわけか。だから、再び世界の終焉が迫っていると言われて心が壊れてしまったのかもな。

 

「…眞、500年前のこと、後悔してるのか?」

 

少しだけ、振動が俺の背中に伝わってくる。図星らしい。

 

「…自分が犠牲になればよかったのに、とか思ってるのか…?」

 

またも沈黙だが、小さく「うん」と聞こえたような気がした。

 

「俺はさ、500年前に犠牲になって、復活したら自分の存在が忘れられてて…でも、そんな俺を見てくれる人もいて、何より覚えていてくれるお前達がいた。最初こそなんで俺が、なんて思ったが…」

 

見えていないだろうが、俺は眞の方を見て、にっこり笑った。

 

「案外、一回死ぬのも悪くない。今の俺は、誰よりも自由だしな」

 

まぁ、しがらみは割とあるけど。なんて付け足して少し笑ってみせた。ミシッ、と音が聞こえた。

 

「だから、そう後悔する必要はない。俺は今生きている。そして幸せだ。なら、それでいいじゃないか」

 

先程よりも大きく、ミシッと音が鳴った。

 

「世界の終焉?それがどうした。こちとら、一回世界救ってんだよ。今更何が来ようと怖くないね」

 

ミシミシッ、と音が鳴り響いた。

 

「眞、お前が何に怖がっていようが、関係ない。後悔していようが、関係ない。お前が不安に思っているもの全ては、俺が取り除く。安心しろ、今度は犠牲になったりしないし、置いていかないから」

 

箱に罅が入り、やがて砕け散った。中から落ち込んだ様子の眞が出てきた。

 

「…アガレス」

 

俺は眞が口を開く前に、抱き締める。

 

「こうして欲しいんだろ?同じ精神世界にいるんだ、わかってる」

 

「ごめんなさい…ごめんなさい、アガレス…貴方を、止められなくって…」

 

眞は、俺の腕の中でただ、泣いた。俺は何も声を掛けず、黙って抱き締めた。

 

それから数分ほど経って眞は泣き止んだ。

 

「…500年前、貴方を手助けするような事を言っておきながら、私は貴方に言って欲しくはなかったの…けれど、私が行ったところでどうしようもないのはわかっていたわ…」

 

「…ああ」

 

「だから私は貴方を行かせた。けれど…今でも思うわ。行くなら私だった。絶対に、貴方は世界に必要な存在だった」

 

「…そうか」

 

「私には、影がいたわ。だから…」

 

「彼女に重荷を背負わせる、と?何も言わずに稲妻を出て、今回のようになるとしたら、影がどれほど悲しむだろうな」

 

眞は少しだけ俯き、そして声を発した。

 

「…わかっているわ。今回の件で、影には色々な物を背負わせすぎちゃったもの」

 

「…外の様子はわかっていたのか」

 

それは意外だ。文字通り殻に閉じこもっていたからわからないと思っていたが。眞は首肯いた。

 

「ええ、なんとなくだけれど、あの子が苦労しているのは、わかったの。それでも、私は罪の意識と、彼女に告げられた未来が怖くて、戻ることが出来なかったわ」

 

でも、と眞は俺から離れ、少し距離を取ってくるりと振り返って笑う。

 

「今は貴方がいるわ。理不尽は、なんとかしてくれるんでしょう?」

 

精神世界から段々と色が失われていく。どうやら、時間らしい。

 

俺はフッと笑うと、眞に告げた。

 

「ああ、無論だ。俺は元『八神』が内の一柱にして…そして、人々に忘れ去られた一柱の神。『元神』アガレス。友のため、あらゆる理不尽を祓うとここに誓おう」

 

俺と眞は少し笑い合った。流石に、芝居が過ぎたようだ。

 

「それじゃあ眞、待ってる」

 

「ええ、アガレス…その、また後で」

 

眞の笑顔を最後に、俺の視界は暗転し、後頭部に柔らかな感触を覚える。ふむ、この感触は前にもあったな。

 

俺は目を開くと、案の定、影が俺の顔を覗き込んでいた。

 

「おや、戻ってきたか。それで、進捗はどうじゃったかのう?」

 

影の顔が引っ込みつつ、俺は上体を起こし、部屋の入口に立っている八重神子を見る。

 

「それは、本人の口から聞けよ。俺は疲れた」

 

俺はそれだけ言って立ち上がり、部屋の隅に移動した。少しして、眞の規則正しい息遣いが聞こえ、やがて目を開けた。

 

「眞…っ!」

 

影が眞の顔を覗き込んでいる。眞は腕を動かし、影の頬に手を添えた。

 

「影…長い間一人にして…ごめんなさいね」

 

「ッ…眞!!」

 

影は目に涙を浮かべながら眞に抱き着いた。眞は影を受け止めると、彼女も目に涙を浮かべた。俺は、というと八重神子と共にその様子を少し離れた位置から見守っていた。

 

「…それで、神子。代償というのはなんだったんだ?」

 

「む…?ああ、そのことじゃが、アガレス。別に代償なんぞ必要ないぞ?」

 

ほう。

 

「なるほど、代償があると思わせることによってただの一度も失敗できない、という気概を俺に植え付けたわけか。成長したな全く」

 

呆れつつそう言うと、八重神子はくつくつと喉を鳴らした。

 

「アガレスにそう言ってもらえるのは、少し嬉しいものじゃ」

 

そう言う八重神子の視線は眞と影の二人に固定されていた。余り表には出していないようだが、結構嬉しいようだ。

 

なにはともあれ、眞奪還作戦は、成功だな。




次回、稲妻編終了します。次はまぁ層岩巨淵ですね。また幕間は挟みますが。

そこ、テコ入れとか言わない。
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